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ガン・ブレイズ-ARMS・ONLINE-  作者: いつみ
第十三章  【revision:2】
326/665

ep.10 『木材を集めて』

お待たせしました。今週の更新です。


 このゲームに登場する木を模したモンスターは数あれど、中でも一般的な雑魚モンスターに区分されているのは二つ。

 一つはさっきキョウコさんとリントに話したように『ツリーウォーク』種、もう一つが『トレント』種だ。これらのモンスターは静止画で見たのならば双方とも殆ど変らない外見をしている。が、実際にゲームの中で出会ったときこの二種には誰の目からも明らかな違いがあった。

 それは動くか動かないか。

 モンスターなのだから動いて当然と言えるだろうが、この二種について言うならばその得意とする分野が違うのだろう。ツリーウォークは自ら動き戦い、トレントはその場に留まり戦う。繰り出す攻撃もツリーウォークが物理、簡単に言えば蓄えている葉を刃のように飛ばしてきたり、その枝や根を鞭のように打ち付けてくる。反対にトレントは魔法を使ってくる。この魔法が葉っぱを縦横無尽に飛ばして来るものだからツリーウォークと同様の攻撃を繰り出してくると勘違いするプレイヤーも多いらしいが、実際にはただ枝から落ちた葉を念力のようなモノを使い操っているのだから違う。

 そしてこれらのモンスターと戦うときに最もプレイヤーを苦しめるのは相手の表情を推し量る術がないことだろうか。

 木だから痛覚がなく、ダメージを与えてもHPを減らすことは出来てもそのダメージで動きを阻害することは困難。

 終始、戦闘直後と変らぬ状態のモンスターを倒しきるまでずっと相手取ることになるのだ。

 慣れていなければこちらの精神が疲弊してしまう。


「ユウくん。これでいいの?」


 現に幾度となく矢を放っているキョウコさんも変らない戦闘に僅かな焦りを感じているようだ。


「大丈夫です。ツリーウォークは仰け反ったりしないから分かり難いだけでちゃんとダメージは与えられていますから」


 背後からしたキョウコさんの呟きにはっきりと答える。

 戦闘に不慣れなキョウコさんはまだ相手のHPゲージを確認しながら弓の狙いを付けるということが出来ていない。普通のモンスターが相手ならば攻撃を受けてよろめいた瞬間や、仲間の攻撃によって距離を作った隙に確認することができるのだろうが、ツリーウォークが相手では他に気を配る余裕がないのだろう。他のモンスターが戦闘に介入していくる危険もこの森のエリアならば考えなくても良い。そういう意味でも初心者エリアなのだが、キョウコさんには周囲の警戒の仕方をこれから先、レベルが上がり先に進む前に教えた方が良いのかも知れない。

 そんなことを考えている俺の目の前でツリーウォークの幹の胴体に矢が突き刺さった。


「HPが大分減ったな。それなら……<インパクト・スラスト>!」


 一撃のダメージが多いのはキョウコさんの弓による狙撃よりも俺の武器、ガン・ブレイズの剣形態による攻撃の方だ。

 さらに言えば威力特化のアーツを使うこと出来るのも大きい。

 赤い軌跡を描き放たれた一撃を受け目の前のツリーウォークはそのHPをゼロにし、砕け霧散していた。


「っと、近くに他のツリーウォークは見当たらないよな」

「大丈夫よ-。私がちゃんと上から見てきたんだからねー」

「そうだったな。リリィ」


 ツリーウォークが倒されたことで戦闘が終わり平穏が戻って来た俺の前にどこかに隠れていた水色の羽に小さな光のような鱗粉を纏わせ、どこかの貴族の令嬢が着るような清楚な水色のワンピースを来た小さな妖精が現れた。

 この妖精は俺が一年前のさるイベントから縁を結んでいるリリィ。

 普段は俺が装備しているアクセサリ『妖精の指輪』が繋げているとある場所に居るとのことだが、それが何処なのか俺は知らない。過去に見た『里』と呼ばれている場所なのかも知れないが、実態は不明のまま。加えて言えば俺がこのゲームを休止していたこの一年の間に疎遠になってしまっていた存在でもある。

 俺が休止すると決めたとき、リリィと繋がっている『妖精の指輪』ごと仲間に託すことも考えたがそれはリリィ自身の意思によって俺が所持したまま一年という時間を経過したというわけだった。

 斯くして今日。一年ぶりにリリィを呼び出したわけだが、その時は俺の想像以上に騒がしくなったものだ。

 その場にいたキョウコさんが本物の妖精を見たことに興奮し、また久しぶりに会ったリリィからは一年ぶりだと大量のお菓子をねだられた。残念ながら今の俺がそのようなモノを所持しているはずもなく、後でリリィが納得するまで作ることを約束させられた。

 お菓子の材料を買い揃えなければならなくなったのだが、≪調理≫スキルの確認と練習を兼ねてと考えればそう悪い話ではない。時期を見て、と考えていた時期が今来たということらしい。


「お疲れ様、ユウくん。どうだった?」

「そうですね。この戦闘で二つ目って感じです」

「私も似たようなものかな。もっと必要なんでしょ?」

「そうですね。この『ツリーウォークの木材』の大きさがさっき確認した通りなのだとしても、少なくとも合計二十個は確保したいですね」


 俺たちがツリーウォークを倒して得ることの出来る木材の大きさは最初の一つ目を手に入れた時に確認済みだ。その大きさは縦幅180の横幅90。厚さにすれば約三センチといった感じだろうか。この長方形の木材は切り分けることで自由に使うことができ、モンスターの素材だから耐久性も悪くない。

 色合いは普通の木と変らず、加工もそう難しくない。リントが言っていたようにもっと強い種のツリーウォークから採れる木材ならばより耐久性が高く、下手な石材や土材なんかとは比べものにもならないような性能を誇っているはず。

 とはいえその場合、加工にも多少のスキルは必要となり、それなりの人材が必要となるのだが。


「うーん、私と合わせてもまだ五つかー。先は長いね-」


 困ったように笑い呟いたキョウコさんに俺は苦笑と首肯を返す。


「一体から取れる数が平均一個で、俺たちは二人。運が良ければあと八体ってところですかね」


 尤もドロップしないこともあるのだからあくまでも順調に事が運んだ場合の話だ。


「それで、次はどの辺りにいるんだ? 教えてくれ、リリィ」

「んーと、確かあの辺!」


 空を飛べるリリィには最初のツリーウォークとの戦闘が始まる前に近くの索敵を行ってもらっていた。その対価が後に俺が作ることになるお菓子の種類をリリィが好きなモノにすること。

 木に擬態するツリーウォークは探しづらいモンスターの代名詞。自分の目と足で探すのならばそれ自体が苦労することとなるが、プレイヤーではない妖精であるリリィには普通の木とモンスターを見分けることができるらしい。

 実際俺たちが戦った二体のツリーウォークはリリィが見つけたものだ。


「行きましょう」


 ガン・ブレイズを銃形態に戻し腰のホルダーへと収めると、俺はリリィが指し示した方向へと歩き出した。

 俺の勘違いではなければより森の奥、深い場所へと向かっている気がするが、木に擬態するツリーウォークの特性を考えれば何もおかしなことではない。

 地面から顔を覗かせる木々の根を避け歩くこと数分。

 俺たちは一際大きく育った木が覗く場所で立ち止まった。


「リリィあそこか?」

「そうだよー」

「了解。それじゃあキョウコさん、先制攻撃お願いします」

「わかったわ」


 リリィに確認して確証を得た俺はすかさずキョウコさんに指示を出した。

 初心者エリアの特徴とも言えるプレイヤーが行う先制攻撃のほぼ百パーセントの成功。そして動きが鈍重なツリーウォークというモンスターが相手。

 俺が銃形態で撃っても先制攻撃は成功してダメージを与えることは出来るだろう。しかし、それでは二人いる利点を生かせない。片方に射撃を任せ、片方が近接戦闘を仕掛けるという風にするべきなのだ。


「そろそろいい?」

「はい」

「それじゃ、早速」


 立ち止まり矢を放つ弓道ばりの綺麗な姿勢で放たれた矢の後を追い駆け出した。

 当然、俺が走る速度と矢が飛ぶスピードでは差が生じる。普通なら俺が走る速度が矢に追いつくはずもなく、実際問題俺よりも遙かに早くキョウコさんが撃ち出した矢はツリーウォークに命中していた。


「はあっ」


 矢を受けたその後に数泊の間を置いて斬りかかる。

 木の表面を抉り、切り裂く一撃はツリーウォークのHPを大きく削っていく。

 俺が大振りの攻撃を繰り出したのは単純に攻撃の後に生じる隙を埋めてくれる存在があるから。これがパーティ戦の強みだと言わんばかりに放たれる矢がツリーウォークの攻撃を妨害している。

 そうは言っても痛覚がなくどんなに攻撃を受けてもよろめいたりしない植物系のモンスター。HPを減らしてもなお攻撃が緩やかになるわけではない。

 ならば何故、隙を打ち消すことが出来ているのかと言えば、それは戦闘に熟れてきたキョウコさんが撃ち出す矢が的確にツリーウォークの攻撃の初動を潰してくれているからだ。


「このまま押し切ります!」

「私は?」

「引き続き後方から狙撃をお願いします」

「任せて」


 降り注ぐ矢の雨、とまではいかないものの繰り返し撃ち出される矢は一つとして外れることなくツリーウォークを捉え、俺のガン・ブレイズの刃が切り裂いていく。

 一体の雑魚モンスターとの戦闘に掛かる時間は思っているよりも短い。

 そのことを証明するかのようにツリーウォークは俺の攻撃とキョウコさんの狙撃を同時に受け、砕けて消滅したのだった。


「さ、この調子でドンドンいこー」


 やけに明るいリリィの声が響き渡る。

 そして俺たちはリリィの案内のもと別のツリーウォークを探し森の奥へと進むのだった。




はい。というわけで今年も本作を読んで頂きありがとうございました。

今回の更新にて本年中の次話更新は終わります。

次は年が明けて最初の金曜日になるかと思いますが、正月と言うこともあって更新できるかどうかは怪しいです。その場合は次の金曜日である1月11日になってしまうかもですが、4日に更新できるように頑張りますので、その際はまた読んで頂ければ幸いです。

では、この辺で。皆さん良いお年を!!


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