ep.03 『ランク2』★
お待たせしました。今週の更新です。
再び足を踏み入れた世界はあまり変わっていないように見える。
窓から差し込む日の光がもたらす暖かな空気が漂う昼の時間。
大勢の人が行き交う声が聞こえてくるこの町はいまも活気に溢れているようだ。
「さて、俺もやることやっておかないとな」
独り言を呟きながら白一色に染められている神殿の一室の中心部に立つ。
俺が居る場所は神殿内部においてある種個人個人に与えられたプライベートスペースとも言える部屋だ。勿論個人で所有出来る類いの施設ではないから借り与えられているという意味だが、誰にも見られない場所で秘密にしておくべきことを確認するのには適しているために大勢のプレイヤーがよく利用している場所となっているはずだ。以前と変わってなければの話だが。
そんな部屋があるこの神殿という施設はこの世界に足を踏み入れたプレイヤーが必ず最初に立ち寄る場所であり、今ではノービスと呼ばれている人たちも同じはず。
『プレイヤー』と『ノービス』いうのはこの世界における異邦人の呼び名である。しかし、それは同時に現実に存在する本物の人間であることを表わした言葉でもあった。
神殿に訪れるのは基本的にプレイヤーだけである。それはとある目的を果たすための施設として神殿が作られているからだ。故にそれ以外、NPCは神殿では無く教会に訪れるばかりで、彼らにとっては神殿は今や歴史的建造物の側面しか残されていない場所とされ、二度目以降のログインをしてきたノービスにとってはNPC以上に無用の長物と化しているのだ。
大事なのはそのとある目的、それはプレイヤーのランクの上昇。神殿は唯一プレイヤーのランクを上昇させることの出来る場所なのだ。
「確か、こうだったよな」
部屋の中心部にある専用のコンソールとなっている水晶玉には触れず、俺は自分の記憶を呼び起こすように手を動かす。
「お、ちゃんと覚えてるもんなんだな」
浮かぶ自身のコンソールは以前と同じホログラムのモニターの様相を呈している。
若干だが前よりも文字が見やすい感じがするのはこの一年以上の空白の間に幾度もあったアップデートの効果なのだろう。
徐々に思い出してきたことで手早くコンソールを操作していく。
「とりあえず、ステータスの確認だな」
所持アイテム等は後回しにして自身のステータス画面を呼び出す。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
プレイヤーネーム 『ユウ』
種族 『人族』
所属ギルド 『黒い梟』
レベル【1】 ランク【2】
【総合計値】[基礎能力値](装備加算値)《スキル加算値》
HP 【7500/7500】 [500] (+2000) 《+5000》
MP 【2750/2750】 [250] (+500) 《+2000》
ATK 【640】 [80] (+360) 《+200》
DEF 【610】 [70] (+330) 《+200》
INT 【550】 [60] (+290) 《+200》
MIND 【370】 [60] (+110) 《+200》
SPEED 【560】 [80] (+280) 《+200》
LUK 【84】 [80] (+2) 《+2》
AGI 【480】 [70] (+210) 《+200》
DEX 【320】 [60] (+60) 《+200》
『装備・武器』
専用武器・1 【ガン・ブレイズ】 精霊器(契約精霊・黒竜フラッフ)
――(装弾数×4)(魔力銃)(ATK+300)(INT+200)(MP+300)(不壊特性)
専用武器・2 【魔道手甲】
――(ATK+50)(DEF+100)(INT+50)
『装備・防具』
頭・【シルバーカフス】
――(INT+30)(MIND+30)
首・【シルバータグネックレス】
――(耐毒・小)(耐麻痺・小)
外着・【ディーブルー・ショートコート】
――(HP+1500)(DEF+120)(耐火属性)(耐水属性)
内着・【ディーブルー・インナー】
――(DEF+50)(MIND+50)(耐雷属性)
腕・【ブラックレザーグローブ(右腕)】
――(DEX+60)(AGI+40)
腰・【ディーブルー・ロングベルト】
――(HP+500)(MP+200)(MIND+10)
脚・【ディーブルー・ミドルパンツ】
――(DEF+50)(SPEED+70)(AGI+70)(耐風属性)
靴・【ディーブルー・ショートブーツ】
――(SPEED+200)(AGI+100)(耐土属性)
『装備・アクセサリ』 装備重量【3/10】
【証の小刀】(装備重量・2)
――守り刀として作られた小刀。武器としては使えないが繰り返し付与された効果により強力な小刀になった。(ATK+10)(DEF+10)(INT+10)(MIND+10)(SPEED+10)
【妖精の指輪】(装備重量・1)
――妖精との絆を表わした指輪。(契約妖精・リリィ)(LUK+2)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「う、うん? 何というかレベル1にしては明らかに高すぎる気がするんだけど……」
おもわず戸惑いの声を上げるのも仕方の無いことだと思う。
俺はゲームを休止する直前に無理矢理レベルを規定のラインまで上げてランクを1から2に上げていた。その目的としては再開したときレベル1から出来るように、謂わば心機一転、新しい冒険を始めようと思ったからなのだが。ぼんやりと記憶に残っているその時に見た自分のステータスと現在のステータスに明らかな差異が見られるのだ。
当然ランクを上げる直前の『ランク1、レベル80』の時よりは明確に数値が下がっているとはいえ、同じレベル1として考えるならば最初にゲームを始めた頃は当たり前としてもランク2になった直後の数値を大きく凌駕してしまっているのだ。
その大半がスキルによる恩恵と装備している防具や武器の補正であるのは間違いないが、そのスキルの上昇値も以前とは違う。
だとしてもだ。今の自分のステータスが自分の能力値に基盤が出来ているからこその数値だとすれば、この先レベルが上がった時の上昇値にも期待が持てる。
「と、とりあえずスキルの確認だな」
自分に言い聞かすように呟き俺は再びコンソールを操作し始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『所持スキル一覧』 スキルポイント【0】
≪ガン・ブレイズ≫ レベル・10
――武器種・ガン・ブレイズの専用スキル。
≪ガントレット≫ レベル・10
――武器種・魔道手甲の専用スキル。
≪マルチ・スタイル≫ レベル・10
――戦闘時に任意のパラメータを強化できるスキル。
≪HP強化・Ⅲ≫ レベル・10(MAX)
――HPの基礎パラメータを上昇させるスキル。《HP+5000》
≪MP強化・Ⅲ≫ レベル・10(MAX)
――MPの基礎パラメータを上昇させるスキル。《MP+2000》
≪ATK強化・Ⅲ≫ レベル・10(MAX)
――ATKの基礎パラメータを上昇させるスキル。《ATK+200》
≪DEF強化・Ⅲ≫ レベル・10(MAX)
――DEFの基礎パラメータを上昇させるスキル。《DEF+200》
≪INT強化・Ⅲ≫ レベル・10(MAX)
――INTの基礎パラメータを上昇させるスキル。《INT+200》
≪MIND強化・Ⅲ≫ レベル・10(MAX)
――MINDの基礎パラメータを上昇させるスキル。《MIND+200》
≪SPEED強化・Ⅲ≫ レベル・10(MAX)
――SPEEDの基礎パラメータを上昇させるスキル。《SPEED+200》
≪AGI強化・Ⅲ≫ レベル・10(MAX)
――AGIの基礎パラメータを上昇させるスキル。《AGI+200》
≪DEX強化・Ⅲ≫ レベル・10(MAX)
――DEXの基礎パラメータを上昇させるスキル。《DEX+200》
≪鍛冶・武器≫ レベル・10
――武器の制作、修理、強化が行えるようになるスキル。
≪調薬≫ レベル・10
――薬品系アイテムの制作が出来るようになるスキル。
≪細工・アクセサリ≫ レベル・10
――アクセサリの制作、修理が出来るようになるスキル。
≪調理≫ レベル・7
――食材アイテムを消費することで料理アイテムの制作が出来るようになるスキル。
≪採取≫ レベル・5
――採取成功率が上昇するスキル。《LUK+1》
≪採掘≫ レベル・5
――採掘成功率が上昇するスキル。《LUK+1》
≪状態異常耐性≫ レベル・10
――状態異常に掛かりにくくなるスキル。対応状態異常耐性(毒)(麻痺)(睡眠)(火傷)(氷結)(沈黙)(気絶)(石化)(魅了)(遅延)
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「どうやらスキルレベルの上限が上がったのもあるみたいだな。それにいくつか仕様が変わってるのもあるか。見た感じだとあまり出来ることに違いがあるとは思えないけど、どうなんだろうな」
スキルの説明や名称に追加されている一年前には無かった部分が気になり確認してみる。すると≪鍛冶≫スキルに追加されていた『武器』という一文は文言通り武器に対して“のみ”≪鍛冶≫のスキル効果が発揮されるとなっており、それは≪細工≫の隣にある『アクセサリ』も同じみたいだ。
以前は一纏めに鍛冶や細工という行為に対して効果が発揮されていたのに対し、今はそれらを行う対象物に対してスキルの効果が発揮されているということなのだろう。この変化によってスキルの種類が増える反面、それぞれがより専門職の色合いが濃くなったという感じだろうか。
「んん? ってことはなんだ。≪細工≫を武器に使おうとするなら≪細工・武器≫が必要になるってことなのか?」
自分の懸念を確かめるべく『習得可能スキル一覧』を見る。そこには現在の俺が覚えることの出来るスキルがずらっと並んでいる。その中には誰でも習得が出来そうな≪釣り≫とか≪掃除≫のようなスキルの他にも専門色の強い≪農業≫や≪操舵≫などと言うスキルもあった。
加えて≪HP強化・Ⅲ≫スキルの上位版≪HP強化・Ⅳ≫もある。これを習得することによりスキルレベルが1に戻っても再び最大スキルレベルにまで上げることが出来ればその最大値が前よりも増えていることは間違いない。とはいえ明らかに後回しにすることになりそうだ。
これらのスキルの大半は習得条件を満たしたことでこの一覧に出現し、それからスキルポイントを消費することで習得可能だ。スキルの習得方法としては他にもゲーム中に条件を満たすことでスキルポイントを消費せずに覚えることも可能だが、それらはある意味例外として捉えるべきだ。
一覧を目で追っていく最中俺は自分が探していたスキルを見つけた。≪鍛冶・アクセサリ≫と≪細工・武器≫だ。前者は金属を使った大型アクセサリの制作に用い、後者は武器に自分の思い描く意匠を加えるためのものでもあるが俺が行っていたのは武器の精密部品の調整だ。一応武器に意匠を加えることも出来るのだが、それは以前の俺が稀に行っていた作業の一つでしかない。
あくまでも大事なのは細部の調整の方だった。
「スキルポイントが無いから仕方ないけど、この≪細工・武器≫は必要だよな。あった方が武器の細部の調整に補正が掛かるはずだし」
念のためと≪細工・武器≫スキルの詳細を確認すると案の定、細かな武器の調整に対する補正という効果があった。
「はあ、やっぱりか。スキルレベルは度外視しても覚えないわけにはいかないな」
スキルレベルが1だとしても覚えていないよりはマシだと割り切り、早々に次のレベルアップ時に獲得できるスキルポイントの使い道を決めた。
スキル一覧の確認はこれでいいとコンソールのページを送り、次いでアーツ一覧を見た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『使用可能アーツ一覧』
<インパクト・スラスト>
――威力特化の斬撃アーツ。対応スキル≪ガン・ブレイズ≫
<アクセル・スラスト>
――速度特化の斬撃アーツ。対応スキル≪ガン・ブレイズ≫
<サークル・スラスト>
――範囲攻撃の斬撃アーツ。対応スキル≪ガン・ブレイズ≫
<インパクト・ブラスト>
――威力特化の射撃アーツ。対応スキル≪ガン・ブレイズ≫
<アクセル・ブラスト>
――速度特化の射撃アーツ。対応スキル≪ガン・ブレイズ≫
<オート・リロード>
――残弾数が【×0】になった時に自動的に弾丸を装填する。対応スキル≪ガン・ブレイズ≫
<チャージ・リロード>
――MPを消費することで次の攻撃の威力を増加させる。重複可能。最大十回まで。対応スキル≪ガン・ブレイズ≫
<シールド>
――自身の前面に魔力の盾を出現させる。対応スキル≪ガントレット≫
<ブロウ>
――素手での攻撃時自動発動。威力上昇の拳打アーツ。対応スキル≪ガントレット≫
<パリィ>
――自動発動。防御時一定の確率で相手の攻撃を受け流しダメージを減少する。対応スキル≪ガントレット≫
<クイック・スタイル>
――戦闘開始時選択した強化を自動発動させる。対応スキル≪マルチ・スタイル≫
<ブースト・ブレイバー>【選択中】
――ATK、INT、SPEED、AGIを上昇させる。対応スキル≪マルチ・スタイル≫
<ブースト・フォートレス>
――DEF、MIMD、DEXを上昇させる。発動時(HP自動回復・中)(MP自動回復・中)対応スキル≪マルチ・スタイル≫
<ブースト・ハート>
――竜化することが出来る。最大回数・3。三回全て使用していなくとも一度目の発動後から二十四時間経てば自動的に最大回数に戻る。対応スキル≪マルチ・スタイル≫&≪ガン・ブレイズ≫
<インパクト・スラスト・バースト>
――竜化時のみ発動可能。威力超特化の斬撃アーツ。対応スキル≪ガン・ブレイズ≫&≪マルチ・スタイル≫
<アクセル・スラスト・バースト>
――竜化時のみ発動可能。速度超特化の斬撃アーツ。対応スキル≪ガン・ブレイズ≫&≪マルチ・スタイル≫
<サークル・スラスト・バースト>
――竜化時のみ発動可能。広範囲攻撃の斬撃アーツ。対応スキル≪ガン・ブレイズ≫&≪マルチ・スタイル≫
<インパクト・ブラスト・バースト>
――竜化時のみ発動可能。威力超特化の射撃アーツ。対応スキル≪ガン・ブレイズ≫&≪マルチ・スタイル≫
<アクセル・ブラスト・バースト>
――竜化時のみ発動可能。速度超特化の射撃アーツ。対応スキル≪ガン・ブレイズ≫&≪マルチ・スタイル≫
『必殺技』
<シフト・ブレイク>
――威力超特化の斬撃必殺技。剣形態時にトリガーを引くことで発動前にMPを消費して威力を蓄積することが可能。対応スキル≪ガン・ブレイズ≫
<ブレイキング・バースト>
――竜化時のみ発動可能。威力超強特化の射撃必殺技。竜化中に消費したMPの総量に応じて威力が上昇する。対応スキル≪ガン・ブレイズ≫&≪マルチ・スタイル≫
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「こんなものかな」
一通りの確認を終えてステータス画面を消す。
色々と想定外のこともあったが概ね問題はない。足りないものは後に補えば良いし、各種スキルに関しては実際に試してみないと何も言えない。
とはいえ自分に出来ることと出来ないことの確認は十分だ。パラメータに関しても他のプレイヤーや相対するモンスターのパラメータと比較しなければ自分の数値がどの程度なのか分からないし、このゲームにおいてパラメータの数値は大事だがそれだけが戦闘の全てを決定付けるかと言われれば違う。
力が強くとも当てられなければ無意味だし、逆に力が弱くとも同じ時間内で数多く攻撃を命中させればより大きなダメージを与えることも出来る。
大事なのは自分の装備や戦い方と自身のパラメータがどの程度一致しているかだ。
ステータスの他にも確認すべきことは未だに多くあることは理解しているが、今はとりあえずと神殿の一室から出ることにした。
部屋の中で確認作業を行っている間に時間は十分に経過していた。
「そろそろかな」
手元のコンソールのトップページにある時計を確認してからコンソールを消す。
重い石造りの扉を押して廊下に出ると、それまで声だけだった他のプレイヤーたちの姿が見えてきた。
流れに沿って神殿の一階広場へ向かう。
そこに居るのはゲームを始めたばかりの初心者プレイヤーやログインしてきたばかりのノービスたち。他にもランクアップを果たした中級者以上のプレイヤー。
これらの人々が向かう先は大きく分けて三つ。
一つは町の中心部となる【セントラル】。
もう一つはプレイヤーとNPCだけが活動できる町の外周部【リング】。
そして最後は神殿最奥にある初心者プレイヤー向けのチュートリアル空間。通称【鍛錬場】。
俺は神殿の門の近くの壁にもたれ掛かって人が作る流れの一つをぼんやりと眺めていた。
それから暫くした後。向かう人の流れに逆らい現れた人物が俺に向かって手を振り駆け寄ってきた。
「お待たせ! 悠斗くん」
「ここでの俺の名前はユウですよ。夏音さん」
目の前で立ち止まり声を掛けてきた初心者装備丸出しの女性――夏音さんに向かい微笑みを返す。すると夏音さんは、
「そっか。それなら私はキョウコだね」
と現実のそれとは違う自分の名前を告げたのだった。
今回よりゲーム描写を再開しました。
サブタイトルにある「★」は作中に主人公のステータスが含まれることの目印です。
今後作中でステータスに変化があった場合、作中でステータスの内容に触れない限りはこの後書きの欄に載せようと思います。
その際、変わっていない各種スキルとアーツの説明の項目やルビ振り等は省略すると思いますので、もう少し見やすくなるかと。