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秘鍵が封じるモノ ♯.18『砕き、破り、届いた光』

お待たせしました。今週分の更新です。

 王が繰り出す攻撃は凄まじい轟音と閃光が伴う。

 絶えず俺たちとパペットモンスターたちとの戦闘音が響いている湖の上、迷宮の中とはいえど空のあるこの場所でその音と閃光は一瞬にして俺たちの視線を集めていた。


「おいおい、巻き添えも気にしないってのか」


 竜の頭部の奥で表情を歪める俺のすぐ近くに落ちた閃光の正体は雷。

 その先に王冠を浮かべる杖を掲げたパペット・キングが放った攻撃がこの雷撃だったのだが、その着弾点はランダムになっているようで俺たちを的確に狙うこともなく適当に辺りに落ち複数の焦げ跡を残し白煙を上げている。

 この焦げ跡だがその中に残る僅かな残骸を見るに何らかのパペットモンスターだったのだろう。

 俺たちの攻撃を受けてHPを全損させた場合は砕けて消えるだけだったパペットモンスターもパペット・キングの放った雷を受けるとその身を一瞬で溶かし、その残骸が少しの時間の後に砕けて消えるという消滅に至るまでの演出が一つ増えるみたいだ。

 演出が増えるだけならまた手の込んだことを、の一言で済む話だが、実際にこの雷を受けたのが自分たちだったらと考えると冷や汗が流れる。


 同じように溶けるのだろうか、それとも普通にダメージを受けるだけなのか。

 勿論わざわざダメージを受けてまで試す気にはなれず、パペット・キングが放った雷の威力に警戒心を強めるだけに留めた。


「だが、これでかなりパペットモンスターの数は減ったみたいだ」


 雷を回避したわけではなく雷が見当違いの場所に落ちただけのようで目立ったダメージを受けた様子の無いハルが呟く、


「けど、ここで復活させられると意味が無いよな」

「その通り。元より攻撃の手を緩めるつもりはないさ」


 戦斧を掲げ前へと出るハルを追うように俺もまた前へと出る。

 マントを失い防御力が下がったことでこちら側の攻撃を受けるようになったパペット・キングに今もなお攻撃を仕掛けているのはアラド一人。しかし単体としての存在の違いだろう。プレイヤーであるアラドと特殊ボスモンスターであるパペット・キングでは個体としての能力差が歴然としていた。

 それでも自分に雷を落とすことは無いのだろうと判断したアラドはパペット・キングから離れること無く繰り返し攻撃を続けていた。


 その間、俺たち、延いてはパペット・キングの周囲には絶えず雷が落ち続けていた。

 地面を焦がし他のパペットモンスターをも巻き添えにする雷は落雷する度に凄まじい轟音と衝撃を生み、その影響はパペットモンスターと対峙しているムラマサたちの方が受けていそうだ。


「……回復、する! <エリア・ヒール>」


 全身を優しく暖かい光が包む。

 雷の直撃を受けてはいないにしてもこれまでの戦闘で微妙なダメージは蓄積していた。それを癒やすためのアーツの発動は俺たちのHPの現状を伺っていたセッカが任されていた回復役としての役割を果たした形だ。

 思えばムラマサたちの方にも回復役はいる。直撃は避けているにしても発生する衝撃までは回避しきれない。それでも誰一人として脱落者が出ないのは彼女たちが的確な回復を施しているからに他ならない。


「助かる」


 パペット・キングが動くことでその杖や体に当たり小さなダメージを繰り返し受けていたことで減らした自身のHPは全体の三割にも満たない。それでも回復してくれるのはありがたい。振り返ること無くセッカに手振りだけで礼を述べると俺はもう一歩前へと出た。


 セッカによってHPが回復されるのを視界の端のHPバーで確認しながらもぼんやりと考える。

 以前の竜化では回復することは叶わなかった。それはアイテム使用不可という制限と共にアイテム以外の回復手段を持たなかったからだ。

 その時、自分以外の仲間に回復して貰えば良いということも分かっていたが、生憎とその時は回復魔法を使う仲間はいなかった。当然自分で回復魔法に関連するスキルを習得することも考えないわけではなかったもののスキルを育てる時間も使える余分なスキルポイントもあまり残されていないことからも断念していた。


 そういうこともあって竜化した後に回復魔法を受ける機会も殆ど無かったから僅かな懸念は残されていた。

 竜化が変化したとしてもアイテムが使えない現状は変わらない。そのために回復魔法が正しく作用するかどうかの不安があったのだ。


「杞憂だったか。それなら――」


 回復出来るとなれば今まで以上に攻勢に出ることができる。

 剣形態のガン・ブレイズを構え連続して威力特化の斬撃アーツ<インパクト・スラスト・バースト>を発動させる。

 目に見えて減っていくMPと比例してパペット・キングの頭上に浮かぶHPバーにもダメージが蓄積されていく。


 結晶のような体にも無数の切り傷が付けられその半分以上がアラドが繰り出した攻撃であることは明白な剣で斬り付けたのとは違う形をした傷が付いている。

 等間隔の四つの傷跡。それは竜の手を用い傷つけた正に爪痕とでも言うべき傷だ。

 そして、俺やアラドとは少し離れた所で繰り返す断続的な爆発。ハルが振るう戦斧が引き起こすそれもまた何度も何度もパペット・キングのHPを削っていく。


 三人が攻撃に集中出来ている理由は言うまでも無い。セッカという回復役を担ってくれる仲間がいるからこそ。

 一撃で自分のHPを全損してしまうような一撃を受けさえしなければ多少減った程度ならばHPを即時回復してくれるものと信じ防御よりも攻撃に重点を置けているのだ。


「このまま押し込む! 行くぞォ」


 穂先が繰り返し使われた爆発のアーツの熱によって赤くなっている戦斧を旗のように掲げるハルが叫ぶ。

 先程俺たち全員を鼓舞したムラマサとは違う激励だ。


「ああ!」


 ムラマサたちがパペットモンスターを抑え、その間に俺たちがパペット・キングを討つ。

 単純にして的確な作戦が功を奏している。

 繰り返しの攻撃の最中、パペット・キングがまたしても杖を天高く掲げた。

 使うのはどっちだ。

 雷か、パペットモンスターたちの蘇生か。


「発動する前に押し切るっ」


 無防備を晒すパペット・キングに俺は一段と攻撃の速度を速めた。

 アーツのリキャストタイムがあるのならば別のアーツを使う。

 威力特化、速度特化、そして範囲攻撃を順々に発動させる。

 赤、青、黄色と刀身に宿る光の色が次々切り替わる中、ハルが繰り出す爆発もまた連続して起こったのだ。


「オマエラァ! 退けェ!!」


 杖を掲げるパペット・キングのさらに上。太陽を遮るように跳ぶ竜が叫ぶ。


「――っ、ハル!」

「分かってる」


 重力に従い落下してくるアラドを見て、俺とハルは攻撃の手を止め逃げた。

 それはもう一目散に。

 次の瞬間、アラドはパペット・キングの顔に両手、そして大剣を備える尾を突き立てた。


「<デモリッシュ・オーバー>!!!」


 パペット・キングの頭に突き立てた両手と尻尾。三つを起点に広がるのは破壊をもたらす衝撃波。

 発動までに蓄積したのは自身が与えたダメージ。半ば強引になろうとも攻撃を続けていたのは単にこの必殺技(エスペシャル・アーツ)の威力を高める為。

 そして与えることの出来るダメージは蓄積してきた威力に比例する。


 獣ではなく竜の咆吼のような叫び声を上げながら必殺技を繰り出すアラドはパペット・キングが自身を振り払おうとするのをがむしゃらに堪え、その爪を、その尻尾の先の大剣を結晶で出来た頭部に突き立て続ける。


 次の瞬間、パペット・キングの全身に無数のひびのような亀裂が走った。


「チッ、足りねェか」


 蓄積してきた全てを吐き出してもなお届かなかったと不満気に呟くアラドは自ずと外れた爪や尾を靡かせながら落下していく。

 必殺技を使った以上、アラドの竜化が解かれるのも時間の問題だ。


「アラド!」

「ユウが受け止めろ」

「え!? ハルは?」

「当然、このチャンスを無駄にするつもりはないさ」


 兜の奥で笑ったハルが駆け出す。

 俺も慌ててその後を追い、ハルに言われるまま落下してきたアラドを受け止めた。

 竜化が解かれたアラドを地面に降ろし、アラドが見つめる視線の先を辿る。

 するとそこには穂先だけでは無く戦斧全体を真っ赤に染めたハルが烈火の如く戦斧をパペット・キングに叩きつけている姿があった。


「何をしてるんだ?」


 これまでハルが繰り出していた攻撃を思うと今繰り出している一撃はお粗末も甚だしい。

 狙う場所も、戦斧に込めるべき力も滅茶苦茶。

 あれではただ攻撃しているだけ、と言ってもおかしくは無い。


「何か狙ってンだろ」

「何かって何を?」

「ハッ、俺が知るわけねェだろうが。だが、まあ、全くの無意味ってワケはねェだろうよ。随分と手慣れてるみてェだしな」

「手慣れてる?」


 そうだ。冷静になって見てみればハルはあの滅茶苦茶な攻撃も様になっているように思う。

 例えば踊っているとでも言えば良いのだろうか。

 戦斧を用いた剣舞。強引ながらも例えるならばハルが見せた攻撃はソレだ。


「見てろユウ、アラド。これが俺の必殺技だ。<乱爆斧舞(らんばくふぶ)>」


 アラドの必殺技を受け全身に亀裂を走らせたパペット・キングはハルが振るう戦斧を杖を構えることで身を守っていた。

 特殊ボスモンスターに意思があるのかどうか分からない。けれど仮にあるのだとすればアラドの一撃によってかなりのダメージを受けたことでプレイヤーが繰り出す攻撃に対する恐怖心が宿っていたとしても何も変な話ではない。


 だがそれこそが今を好機と捉えたハルの狙いなのだろう。

 必殺技は強力であるが故に何らかの制約があるものだ。

 例えば攻撃を繰り返し与ダメージを蓄積させなければならないアラドのように、例えばMPを使い威力を高めなければならない俺のように、ハルにも何らかの制約があるのだとすれば。

 それが仮にあの剣舞にあるのだとすれば。


 例え弱い攻撃だとしても必死に守る相手となればその全てを命中させることも容易いはずだ。

 現にパペット・キングは先程の滅茶苦茶なハルの攻撃も全てガードした。そしてハルが狙うのはその最後の一発。

 俺の予想が正しければハルの必殺技の威力を高めるための条件は攻撃の命中した回数。それを爆発的に増加させるのならあの威力度外視の滅茶苦茶な攻撃も理にかなっている。


 ヒット回数を増やし、増大させた威力で放つハルの必殺技はそれまでに使っていた他のアーツの例に漏れず爆発を引き起こす。

 パペット・キングの胴体に入った亀裂に目掛けて放たれた一撃は命中した途端その内部から爆発した。


「――これでもまだ足りないのか。けど……」


 砕けて舞った結晶の欠片が湖に雨のように降り注ぐ。

 ぐらりと揺れたパペット・キングは杖を地面に突き立て必死に倒れないように耐えているようにも見えた。

 ハルはどこか満足そうにその光景を眺めながら不敵に笑っている。


「ユウッ!」


 不意にアラドが俺の肩を掴む。


「解ってンだろうな」

「…ああ。当然だろ」


 アラドもまたハルのように不敵な笑みを浮かべている。


「なら行け」

「ああ!」


 銃形態にしたガン・ブレイズのグリップを強く握り締め駆け出す。

 アラドが付けた無数の亀裂。その亀裂を利用して内部から大爆発を引き起こしたハル。そして、俺はその後を継ぐ。

 パペット・キングの欠片が湖に落下する度、揺れる水面。

 僅かに跳ねる湖の水は表面に王冠を形作る。

 俺はその中を走り、その最中<チャージ・リロード>を使う。

 一定のMPが減る代わりに次の一撃の威力を増加するアーツ。繰り返し使うごとにリキャストタイムが延びていくそれを可能な限り使う。

 MPが無くなるギリギリまで。

 パペット・キングに攻撃するギリギリのタイミングまで。


 この一撃は外せない。外さない。

 だから見極める。

 パペット・キングの現状(いま)を。


「何処を狙う?」


 アラドとハルが広げた道はどこに繋がっているのか。

 亀裂が生じても尚パペット・キングはその形を崩さなかった。

 爆発を受けても全身を砕くことはなかった。

 その理由は何か。

 パペット・キングのみが持つその特異性その正体は――


「アレかッ!」


 亀裂の奥、爆発の中心地。

 そこは結晶の胴体が爆発によって内側から広がり内部が露出していた。

 中にあったのは他のパペットモンスターと同サイズのモンスター。

 HPバーは無い。

 けれど確かにそこに居る。いや、()る。


「<ブレイキング・バースト>!!」


 初めて露わになったパペット・キングの弱点と思わしきそこに俺は全身全霊を叩き込む。

 極大の光線がパペット・キングの中にいる小さなモンスターを飲み込んだ。




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