秘鍵が封じるモノ ♯.14『相談と作戦会議』
お待たせしました。今週分の更新です。
今回も短いです。
台風、恐るべし。
湖畔の片隅で見つけた階段は蔦や枝によって封鎖されており、俺たちはその前で呆然と立ち尽くしていた。
この蔦や枝はどうやっても除去することが出来なかったからだ。
最初は各々の武器を使い切り払おうとした。だが、蔦や枝は驚くべき堅さを誇っており一切刃を通さなかったのだ。
次に思いつき実行したのは火を放ち燃やしてしまうこと。
ムラマサが所持していた簡易マッチを使い蔦や枝の端に火を灯そうとしても湿気ってしまい火が付かない薪のように白い煙が立ちこめるだけで肝心の火は点かない。
最後にはアラドが強引にも蔦や枝を引き千切ろうとしていたが、当然と言うようにびくともせず大きく肩を上下させていた。
結局今の俺たちではこの階段はどうにもならないと諦め別の階層を進むかどうか相談し始めた矢先こと、突然の仲間からの知らせが届いたのだ。
故に俺たちは『回帰のカンテラ』を使い一度『黒い梟』のギルドホームへと戻ってきていた。
この時、唯一ギルドメンバーではないのがアラドだったが彼はどのギルドにも所属していないことと『黒い梟』が基本的に自由意志を尊重するギルドだと言うことを伝えたことで加入することとなった。
そうしてギルドホームのリビングにてギルドメンバー全員が集まったというわけだが。
「それで、話したいことってなんだ? フレンド通信じゃ出来ない話って言ってたけど」
長机に座る場所は決まっていない。各々が好きな場所に座れば良い。
そうなると当然のようにある程度決まった場所と人というものがあるわけで。
長机の右側にはムラマサ、ヒカル、セッカの三人。そして一つ席を空けてアラド。
左側にはボルテック、アイリ、リントが三人固まっており、向かい側にはハル、ライラ、フーカがそれぞれ座っている。
俺はといえば一人で端に座っていた。
「まずはこれを見てくれないか?」
そういって可視化、拡大させたコンソールを俺たちに見せてきたハルはどこか険しい表情をしている。
「それは?」
「一応、今回のイベントのメイン…になるのかな?」
「どういうこと?」
「二人…いや、三人は迷宮内にいて見てないと思うけど、ついさっき公開されたものなんだ」
ハルの一言にコンソールを凝視し始めた俺とムラマサ、そして今ひとつ分かりにくいがアラドもこちらに注意を向けているみたいだ。
「そういえばここにいる中で迷宮に挑んだのは俺たちだけなんだっけ」
「ああ。迷宮が出現して以降、俺はライラとフーカと組んでグラゴニス大陸で秘鍵を集めて回っていたし、ヒカルとセッカはヴォルフ大陸でだったな」
「……そう」
「ふっふーん。私たちも結構集めましたよ」
ハルの言葉にセッカが頷き、ヒカルは自慢気に胸を張っている。
「で、アイリとリントはオルクス大陸に行ったんだよな」
「その通りっス」
「残るボルテックはギルドホームで留守番、と」
ちょっと緊張したような口調で肯定するリントに反してボルテックは静かに首を縦に振っただけ。
自分たち以外の行動は予め教えられてはいたがこうして改まって聞くとやはり俺たちのギルドは纏まりがないと思う。
「まあ、皆の行動は分かったけどさ、それと俺たちを呼び戻した理由ってのが繋がっていないように思うんだけど」
「んー、そうでも無いみたいだよ」
顎に手をやり考え込んでいたムラマサが徐に告げた。
「ハルはこれに参加するつもりなんだろう?」
「ああ、その通りだ」
トントンと叩く素振りをホログラムのコンソール上で行ったムラマサが指したそこにあるのは特殊ボスモンスターの出現と討伐を知らせるアナウンスだった。
「参加条件は既に迷宮に挑んでいるパーティ、あるいはそのパーティメンバーが所属しているギルドに所属しているプレイヤー、か」
「なんか妙に広範囲な参加条件だな」
「それに、発生条件も気になるね」
ムラマサが言うように、この特殊ボスモンスター出現の切っ掛けとなったのは俺たちが挑んでいた迷宮のプレイヤーが到達した階層が五十階に到達したこと。
そしてその中にあった驚くべき一つの記述にも目が止まった。
「迷宮内の階層に統一性が無かったのはこういう訳か」
一人納得したように呟くと事情を知らないムラマサとアラド以外の視線が集まった。
「あー、皆は知らないかもだけどさ。俺たちが入った迷宮はその中の階層がメチャクチャだったんだよ。一面が雪の階層もあれば砂漠の階層もあったし、それこそ俺たちが最後にいた階層は湖と自然が綺麗な場所だったよ」
コンソールに記されていた一文。それは各大陸に出現した迷宮は繋がっており、その中がランダムに入り混ざっているということ。それによりプレイヤーたちは階層を進むごとにどこかの迷宮のどこかの階層に出る仕組みになっていたらしい。
ちなみにこの迷宮の状態は今回のイベントが終了した際に元の正常な状態に戻り、現在のようなランダムな階層の迷宮には再度挑戦することが出来なくなるようだ。
「それで確認だけど、ユウたちは迷宮内で何処まで進んだんだ?」
「残念ながら十六階層止まりだ。そのアナウンスを見る限り最も進んだ人たちが五十階層らしいから大体その三分の一ってところだな」
「それって他の人たちよりも多いの? 少ないの?」
「さあ、どっちだろうね。ヒカルはどう思う?」
「ちょっと聞き返すのはズルくないですかっ」
「はははっ、まあその辺りは各々の感覚次第ってことで、ね」
誤魔化すように笑うムラマサにヒカルは頬を膨らませた。
「今ユウたちがいる階層に他のプレイヤーは居たのか?」
「いや、俺は見てないけど。ムラマサはどうだ?」
「んー、オレも見ていないね。それにあの様子だとアラドも見てないと思うよ」
明言しなくともハルが気にしていることは理解できる。
先程見た特殊ボスモンスター出現と討伐にはまた別の条件があった。それは同じ階層内にいるプレイヤーは同じ特殊ボスモンスターとの戦闘になってしまうということ。
その場合、気になるのは同じ階層にいる人数次第ではかなり大規模な戦闘になってしまう可能性があること。そしてそれに対応できるモンスターが出現すると暗に言われているも同然だということだ。
「となると戦えるのは俺たちだけってことか。なんて言うか珍しいな」
「そうか?」
「現在出現している迷宮は四つ。そのどこかの迷宮で五十階層に到達したプレイヤーがいるのははっきりしているけどそれ以外はどうだ? 最大到達階層は不明だし、そこに挑んでいるプレイヤーの数も分からない。その中でユウたちがいる階層にいるのは自分たちだけ。勿論ユウたちが見落としている可能性もあるけどさ、そうじゃない可能性ってのもあるだろ」
「まあ、な」
「だから珍しいなって言ったんだ」
しみじみと言うハルを俺は無言のまま見ている。
「ん? どうした? なんか気になることがあるのか?」
「あ、いや、もしかしなくともだけどさ、皆も戦うつもりなの?」
「そうだぞ。っていうかそう言ってるよな」
「本気で?」
「もちろんっス」
「全員?」
「……そう」
ギルドメンバーの気持ちは固まっているようでその瞳からははっきりとした意思が感じられた。
「ってなワケで、作戦会議から始めようか」
晴れ晴れとした笑顔を向けてくるハルに俺たち全員の視線が集まった。