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秘鍵が封じるモノ ♯.11『迷宮の騒霊』

お待たせしました。今週分の更新です。

 翌日。

 俺は昨日と同じ時間にログインしてそれぞれが魔道釜に預けていた装備を受け取った後、アラドとムラマサと合流して再び迷宮の攻略へと向かう。


 この時、それぞれがログアウトしてたときに調べていた今回のイベント、その中でもこの迷宮のことについての報告を行った。

 三人の報告にあったことを照らし合わせた結果分かったことがいくつかある。

 まずこの迷宮の階層は突入したプレイヤーによってその様相を変えていること。これは以前に鬼姫と出会った階層の際に推測していたことでもあり、俺たちに取っては予測済みだったことではあるものの、他のプレイヤーたちの証言によってある意味確定したも同然となった。


 もう一つは俺たちがログアウトした民宿のこと。これもプレイヤーによって宛がわれている建物やその中にある施設が違っているらしく、前日ムラマサが言っていた本格実装の前の試遊とういう目的もあながち嘘では無さそうだ。


 中でも俺が気になったのが、迷宮の攻略を最も進めているプレイヤーでも未だ26階層だということと通常の迷宮ではボスモンスターが出現する、いわゆるボス部屋というものが決まった階層に設定されているが、この迷宮ではその限りではないということ。

 プレイヤーのLACの数値が関係しているのかいないのか。入り口である第一階層から第二階層に突入した途端、ボスモンスターとの戦闘になったという話もあるらしい。

 反対にログアウトするまで一度もボスモンスターとの戦闘にならなかったという人もいた。


 全てのプレイヤーに共通しているのは迷宮内で何回かは雑魚モンスターとの戦闘を行っていたこと。

 しかしながら当然のように戦ったモンスターの種類はバラバラでこのゲーム内における一般的な迷宮のように何かしらのテーマに沿って出現するというわけでもないようだ。

 もう一つ共通していることはこの迷宮で獲得出来るアイテムは秘鍵だけだということ。これに対してはやはりと言う他ないが、同時に残念だという気持ちも沸いてきた。

 せっかくの迷宮なのだ。何かしらの条件があったとしても秘鍵以外のアイテムを獲得したいと思ってしまうのも無理ないことだろう。


 それに何より、この迷宮にどれだけの階層があるのか分かっていないこともプレイヤーたちの間で噂になっていた。

 迷宮が出現して一日目だから検証不十分なのは仕方ないことにしても、最も進んでいるプレイヤーですらその先がどれだけあるのか分からないと言っているのだからまだまだ先は長いのだろう。

 一応このイベントの開催期間というリミットはあるものの、その間で迷宮に挑んでいる全てのプレイヤーが踏破出来るかどうかは未だ不明。


 とは言えだ。最も進んでいるプレイヤーに比べて俺たちは未だ10階層にすら到達していない状態なのだ。

 その原因としては迷宮ものの定番として5階層毎にボスモンスターが出没すると想定していたために、鬼姫のいた8階層から先に進む際、あえて進行スピードを落としたのだ。実際、俺たちがこの迷宮でボスモンスターと戦ったのも5階層だったこともあってかそんな風に思い込んでしまっていた気がする。

 それでもボスモンスターの戦闘中に時間の経過を告げるコンソールが出てきたら邪魔になるし、この時の俺は民宿のあるエリアへ強制転送されることを知らなかった故に安全策を選択したのだった。

 転送されることを知っていたムラマサやアラドがなにも言わなかったことからもここで危険を冒す必要は無いと判断していたことは間違いなさそうだ。


 日を改めたことでたっぷりと時間の余裕が出来た俺たちは意気揚々に民宿を後にした。

 その際に転送された先は民宿へと送られた場所とは違い、次の階層へと続く階段の前。

 視界の先に広がっている光景はある意味二極化しているように見える。


 次の階層へと続く階段の奥は暗く、その先にどのような光景が広がっているのかすら分からない。

 反面俺たちの背後には元々踏破する予定だった灰の砂漠が広がっている。これは一度戻りちゃんと攻略したいのならばすればいいと言われているように思えたものの、これから先、少なくとも10以上の階層が俺たちを待ち受けていることは確定しているわけで、ショートカット出来る場所、行かなくても良い場所ならば無視してしまおうということで三人の意見が一致した。


 そうして無言のまま階段を上っていく俺たちが辿り着いたのは一面が真っ白の雪の階層でも、一つ下のような灰に埋もれた階層でもない。

 まるでどこかのお城の中のような華美な装飾が施された広い廊下。

 透明なガラスが埋め込まれた嵌め込み式の窓から覗ける景色は驚くほど穏やかな自然が広がっていて、ここが迷宮の中だとは思えないほどだ。

 廊下に置かれた燭台のにあるロウソクの灯はともっていないにも関わらず辺りは明るく、その場で空を見上げると雲一つない青空が広がっていた。


 足下には真紅のカーペットが延々と敷かれている。


「それじゃあ進もうか。二人とも警戒だけは怠るんじゃないよ」


 そう言ってムラマサが先陣を切る。

 どこかの城の中に居るように思えてもここは迷宮の中。

 足下にあるカーペットも、この窓も、あの燭台も何もかもが迷宮の一部でしかないのだ。


「もしかするとだけど、ここは殆ど一本道みたいなものなのかな?」

「さァなッ!」


 暫く歩いているとムラマサが思案顔で呟いた。

 それに反応したのはアラドだ。彼はさして興味が無いように返答すると(おもむろ)に窓を殴りつけた。

 ガンっとまるで硬い大岩を殴ったかのような音が響く。


「おわっ。びっくりした」

「んー、それは一体何をしているんだい?」

「見て分かンだろうが」

「それがさっぱりだから聞いているんだけどね」


 アラドが窓を殴った音よりも突然殴ったという事実に驚く俺の少し前でムラマサが困ったような笑みを浮かべた。


「まさかモンスターが現れた……なんてことはなさそうだけど?」

「や、モンスターなら俺でも気付くって。それにほら、ここ一本道っぽいしさ」

「だね」


 窓を殴りつけたことで反動によるダメージを受けた様子も見られないアラドは手甲を付けた右手をぶらぶらと振り傷一つ付いていない窓を睨み付けていた。


「それでアラド。説明してくれるんだろね?」

「あン? ベツに特別なことじゃねェよ。迷宮の進む道が他にねェかと思っただけだ」

「他の道?」


 突拍子も無いことを言い出した。そんな風に思ってしまった俺に対してムラマサは納得したかのように頷いている。


「確かに。何かしらのギミックが隠されているかも知れない」


 そう言うや否やムラマサは腰の刀を鞘ごと引き抜きアラドが殴りつけたのとは違う窓を小突いた。

 力の強弱を変えながら窓を叩くもやはり窓はビクともしない。


「ユウも試してみるかい?」

「いや、二人が叩いても意味が無いんだ。止めておくよ」

「そうかい? まあとりあえずはこのまま進もうか。アラドもそれでいいね?」

「ああ」


 柔らかいカーペットのおかげか俺たちの足音は響かない。

 それが不自然なほどの静寂を生む。

 どれくらい歩いただろうか。

 既に俺たちがこの階層へと足を踏み入れた際に通ってきた階段は見えなくなっていた。

 なのに先の階層へと進むための階段も、そこに続いていると確信の出来る道さえ見つかっていない。

 先の見えない行進を続けることを強いられている俺たちは、特にアラドは自ずと苛立ちを募らせていた。


 それからさらに一本道を進む。

 大して変わらない景色に飽き飽きしながらも今更戻るという選択をするわけにもいかず、三人が三人、胸の内で何かしらの変化を望んでいた。

 モンスターの出現でもなんでもいい。そんな風にすら思い始めた頃だ。ようやくとでも言うべき変化が俺たちの前に現れた。


「扉?」


 小首を傾けたムラマサが言うようにそれは見まごう事なき両開きの金色の装飾が施された扉だった。

 蝶の羽のような特徴的な形をしたドアノブも金色に輝き、触るとひんやりとした金属の感触が伝わってくる。

 これだけ豪華そうな廊下の奥に現れた扉だ。だとすればこのドアノブも金のメッキなどではなく純金製なのかもしれない。

 現実のようにそれなりの金額が必要になるわけでもない上に、そもそも運営が用意した迷宮の階層の一つにすぎないこの場所でわざわざメッキを用意する意味などないのだから。


「んー、このまま無視して進むことも出来そうだけど――」


 そう。ムラマサが言うようにこの扉は俺たちの行く手を遮るように現われたわけではない。一本道である廊下の左側の壁にあった扉なのだ。

 何もないと辺りを見渡すことを止めて歩いていたのでは気づかなかったかも知れない――なんて風には思わないが、それでもここで立ち止まるかどうかはプレイヤーの采配に任されている節がある。

 だとすればこのまま進むことが次の階層へと辿り着く正しい道であり、この扉の奥はただの寄り道。そのような可能性も残されているとしても、この時の俺たちの気持ちは一つだった。


「何を言ってやがる。行くぞ」


 言うよりも早くアラドは蝶の形をしたドアノブを引いた。

 音一つ無く開かれた扉はその奥へと俺たちの視線を引きつける。


「あン?」

「なんだこれ?」

「これは――」


 俺たちはそれぞれ疑問を口に出していた。

 それもそのはず。何もないと思っていた廊下と扉を一つ隔てた先に広がっていた光景はあまりにも現実離れしたもの。

 純白のテーブルクロスが掛けられた円卓がいくつも並び、その上にはたった今出来上がったばかりかと見まごうような料理が盛られた皿の数々。

 扉の先で立ち止まっている俺たちの元にも漂ってくるいくつもの美味しそうな香り。

 日が高い時間でただでさえ明るいというのに天井から吊された三つものシャンデリアに備わっているロウソクには明かりが灯されている。


 豪華絢爛。

 その言葉が浮かんでくるのと同時に、予想だにしていない光景に対する警戒度が瞬間的に高まっていく。

 俺は腰のホルダー内にあるガン・ブレイズへと手を伸ばし、ムラマサは刀の柄に手を置いている。アラドは俺たちよりも行動が早く、背中の大剣を抜き自然体で構えていた。


「ここで二人に一つ問おうじゃないか」


 開かれた扉の前でムラマサが軽い調子で口を開いた。


「この先で手に入るものはおそらく秘鍵だけ。それでも行くというのかい?」

「当たり前だ」

「ユウは?」

「ここまで来て戻るってのはナシだろ」

「では、中に入ろうか」


 意を決し料理が並んでいる部屋の中へと足を踏み入れる。

 三人の体が全て部屋の中へと入った途端、開かれていた扉が勝手に閉まった。


「出口が閉ざされたか」

「つまりこの中で何かをする必要があるってことだな」


 香しい料理の匂いに惹かれそうになるのを堪えながら室内を見て回る。

 室内に置かれたテーブルには椅子が置かれていないことからもここは立食パーティの舞台、のようなものなのだろう。

 だが、そこには主催者も客も、働いている人間もいない。不自然に出来たばかりの料理だけが置かれているという光景は何かのホラーゲームのようだ。


「どうやら予想が外れたみたいだね」

「予想?」

「ああ。オレは全員がこの部屋に入った途端、何らかのモンスターが襲ってくると思っていたのさ。けれど、残念なことに未だこの部屋の中に変化は見られない」


 さっと一周室内を見て回った俺にムラマサが声を掛けてきた。

 アラドは大剣を片手で携えたまま眼光鋭く繰り返し繰り返し室内を見て回っている。


「変化を呼ぶには何かの条件があるのかもね。ああ、先に言っておくけど二人ともリリィたちを呼び出すんじゃないよ。彼女たちはオレたちの制止を無視してここの料理を食べてしまうかも知れないからね」

「ああ、そうだな。分かった」


 料理へと突っ込んでいくリリィの様子が簡単に想像できてしまい思わず笑ってしまった。


「けれど、このまま何も起こらずに無為に時間だけが過ぎるのは避けたいところだね」

「入ってきた扉は閉まってるんだろ?」

「ああ。ユウも確認したんじゃなかったのかい?」

「まあな」


 ふとこの部屋にある最も豪華な料理とワインが置かれているテーブルに目線を送った。

 そのテーブルにある他との違い。それは唯一とでも言うべき装飾が施された椅子が置かれていること。

 さらにもう一つ。このテーブルにある料理だけが誰かが手を付けたというように食べられた痕跡が残されていたのだ。


「誰かが先にここにいた?」

「それは他のプレイヤーがってことかい?」

「どうだろうな」


 何も見つけることが出来なかったのか、アラドが少しばかり消沈した顔をして合流してきた。


「アラド、何かあったのかい」

「何もねェよ。だが、それで十分だ」

「どういう意味だ?」

「何もねェってことはここに全て揃ってるってコトだろ」


 そう言った途端、アラドの目が一層険しくなる。

 アラドが見つめている先は俺が不信に思った件のテーブル。そしてそこに備え付けられている豪華な椅子だった。

 考えるよりも先に手が出るのがアラドの性格なのは今や重々承知していること。

 斬る目的ではなく、投擲として使われた大剣が椅子の背もたれに深く突き刺さる。


 一瞬にして重くなる空気が辺りに充満していく。


 まるで重力が膨れ上がったかのようなプレッシャーを放ちながら現われたのは剥き出しの骨の体をした巨人。

 いつの間にか巨大化した椅子に悠々と腰掛ける骨の巨人の目が怪しく赤く光る。

 その刹那、俺たちを取り囲んでいた何かがその存在を現わした。


「来るぞッ」


 アラドが空になった両手で拳を作り、数多くの存在へと意識を伸ばす。

 戦闘に入ったアラドの倣うようにムラマサは刀を抜き、俺は銃形態のガン・ブレイズの銃口を向ける。

 俺たちの前に現われた骨の巨人の頭上に浮かぶ名称は『スケルトン・キング』。俺たちを取り囲んでいる何かは姿形が違えど全て同じ『騒霊』という名前が浮かんでいた。

 それぞれのHPバーはスケルトン・キングが二本、騒霊は一本。そして騒霊のHPは最初から大部分が削られてしまっているかのようにごく僅かしか残されていなかった。


 騒霊がその名の通りに騒ぎ出す。

 ガチャガチャと金属や陶器がぶつかり合うような音のなか、何やらグチャグチャとした生物的な音が混ざっていることに気がついた。

 迫り来る騒霊から視線を逸らさずにガン・ブレイズを構えながらも、生物的な音の正体を探るべく耳をすます。

 そして俺は自分のその行動を少しだけ後悔した。

 それまで美味しそうな香りを放っていた料理の数々が皿ごとバケモノのように大口を開けてよだれを垂らしながら飛びかかってきていたのだ。


「うわぁ」


 若干引きながらも、騒霊はモンスターなのだと自分に言い聞かせガン・ブレイズの引き金を引いた。

 撃ち出される弾丸は正しく命中し、騒霊の一体のHPを一瞬にしてゼロにした。

 射撃によって砕かれてバラバラになった騒霊が溢されてしまった料理として床の上のカーペットに広がり大きな染みを作る。

 壁に掛けられた頭だけの動物の剥製や、テーブル。棚に並べられた装飾品の壺や花瓶に至るまで、この部屋にある全ての物がモンスターと化して襲ってくる。


 俺たち三人と無数の騒霊との乱闘が始まった。


 騒霊が繰り出してきた攻撃方法は単純、体当たりだけ。

 騒霊というモンスターから感じられる脅威度は自分が経験してきた他のモンスターに比べても格段に低く、こちらの通常攻撃一発で簡単に討伐することができる。

 割れたり砕けたり、潰れたりとして床に転がる騒霊の残骸は不思議なことにどれだけ時間が経っても消えること無く、その場に残り続けている。


 スケルトン・キングは戦闘開始の時点で赤く目に光っただけで、それ以降動く素振りを見せず、戦闘に参加してくる気配すらない。

 総じて俺たちは騒霊を掃討していくだけなのだが、動かないスケルトン・キングからは妙な威圧感が絶えず放たれていた。


 瞬く間、と言えば若干誇張になるかも知れないが、あまり時間を掛けること無く騒霊は軒並み床に沈んでいた。

 床一面に広がる惨状はパーティ会場に不届き者が混ざり込み暴れ回った後の如く。

 食べられること無く床に落ちた料理の数々、砕けて原形を留めていない調度品の数々が一際、この場の凄惨さを物語っている。


「んー、秘鍵すら落ちないのか」


 ムラマサがぼそっと呟いたように騒霊との戦いで俺は秘鍵を一つも手に入れられていない。

 騒霊の残骸が消えること無くこの場に残っている以上、当たり前なのかも知れないが、それはこの迷宮に入ってから、いや入る前からを鑑みても初めてのことだった。


「オイッ、来ンぞ」


 騒霊を掃討した以上、ここで来る相手は一体しかない。

 無言で静観を決め込んでいた骨の巨人――スケルトン・キングだ。

 スケルトン・キングが椅子から立ち上がりその巨体で俺たちを見下ろしている。

 椅子に突き刺さっていたアラドの大剣がその拍子に抜け落ち床に転がった。

 そして、次の瞬間に奇妙な現象が起こった。

 騒霊の残骸だけじゃない、スケルトン・キングが座っていた椅子までもがより細かく砕けるとスケルトン・キングの剥き出しの胸骨の中へ吸い込まれ始めたのだ。


 ドクンっと脈動を始める何かがスケルトン・キングの胸の中に現われた。

 それは赤黒い塊であり、それは心臓のようでもある。


 生命(いのち)を得たスケルトン・キングがようやくこの瞬間にこの場所、俺たちの前に顕現した。

 生臭い息を吐くスケルトン・キングが吠える。

 その瞬間、スケルトン・キングの頭上に浮かんでいたHPバーに色の異なるもう一本別のゲージバーが追加されたのだ。


「んー、これは騒霊は無視してスケルトン・キングを先に倒しておいた方が良かったパターンかな?」

「ハッ、ンなもン今更だろうがッ」

「わかっているともさ。けれど、今回も一筋縄にはいかなさそうだ」


 武器を持たず鋭く尖った骨の手を武器にするのかと思っていた俺の予想を裏切り、スケルトン・キングはどこからともなく二つの武器を取り出した。

 右手には所々刃こぼれを起こしたボロボロの片手剣。

 左手には怪しい輝きを放つ宝珠が取り付けられた木製の杖。

 そして、ドクロの頭の上には血のようにどろっとした液体がおどろおどろしい王冠を形作っていた。


「なる程。確かにキングだな」


 苦笑交じりで呟き、ガン・ブレイズの引き金を引く。

 狙うは頭上の王冠。

 胸骨に阻まれ狙い辛い心臓よりも剥き出しの王冠のほうが良いだろうと思い放った攻撃は違えること無く命中する。

 だが、血のような液体が弾けて出来た穴は瞬く間に修正されてしまう。

 その際スケルトン・キングの頭上に浮かぶ二本のHPバーには変化がないが、その上に追加されたもう一つのゲージバーが僅かに減少した。


「攻撃が通らないワケでは無さそうだ。いいかい二人共! 一気に行くぞ!」


 抜き放つ二本の刀を構え駆け出すムラマサを追い、俺はガン・ブレイズを剣形態へと変形させて前に出る。

 素早く動き落ちていた大剣を拾ったアラドはそのまま背後からスケルトン・キングを斬り付けた。

 ガリガリと削れていく骨の体は斬り付けられた場所に赤黒い傷跡を残した。

 それでも減るのはスケルトン・キングのHPバーではなくその上にあるもう一つのゲージバー。一発の銃弾を受けた時よりも多く減ったそれは続けて放たれた俺とムラマサの斬撃によって更なる減少をみせた。


 繰り返し行われた攻撃によって瞬く間に削られたそのゲージバーがゼロになったその瞬間、頭上に浮かぶ王冠が溶けてスケルトン・キングに降り注いだ。

 全身をドロッとした血のように赤い液体によって染められていくスケルトン・キングが左手に持たれた杖を掲げる。


 そして次の瞬間。

 血のように赤い雨が部屋中に降り注いだ。



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