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ガン・ブレイズ-ARMS・ONLINE-  作者: いつみ
第一章 【はじまりの町】
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♯.3 『スキル勉強会』


 リタに連れられて俺がやって来たのは町の隅にある木造の一軒屋。石造りの建物ばかり見てきたせいか、この家は他に比べると妙に浮いているように思える。

 窓から家の中を覗く限りではこの小さな一軒屋は生活を営む家としての体裁を取っておらず、リタの言葉の通りに何かしらの作業を行う工房としての機能しか有してはいないように見えた。


「ささ、遠慮しないで、入って入って」


 工房の内装は中型の鍛冶を行う炉が一つと用途に分けて使われているであろう机が三つ。机の近くの壁には見たことも無いような器具がいくつも立て掛けられている。鍛冶に関して何も予備知識も無い俺からすればこれらの器具が正確には何をどうするために集められたのか、実際にどう使うのかさえわからない。それでもリタが言っていた防具屋という言葉を考慮するならばここにあるもの大半は十中八九、防具を作るための設備と器具なのだろう。


「そこら辺に適当に座ってくれればいいからね」


 火の入っていない炉の前に置かれている椅子に腰掛けるリタが言った。

 リタが立ったままの俺と向かい合うよう場所に座っているから、俺は近くのテーブルに備え付けられた椅子の一つを選び座ることにした。


「さて、ユウくん。まず君が聞きたいことはスキルポイントの上手な使い方だったね」

「ああ」


 この工房へと案内されている最中、俺は自分の知りたいことについてそれの説明をする順番をリタと話し合ってある。結論としては神殿で受けることの出来るチュートリアルの順番通りに話を聞くということで落ち着いたのだ。


「その前にユウくんは今どんなスキルを持っているのか教えてくれる?」


 スキルの構成、武器の性能、パラメータの実数値。それらはこのゲームに置いては最も他人に知られてはならない情報であり、リアル情報を除いては最も重要な個人情報に分類される。予めそう話していたリタの言葉を借りるなら決して他人には話してはらない隠しておくべきこと。

 しかしそのリタに教えを乞う以上は隠すことではないのだろう。


「えっと、俺が持ってるスキルは一つだけだ。≪剣銃≫武器と同じ名前のスキルだな」


 腰のホルダーから抜いた剣銃を見せるように机の上に置き答えた。


「剣銃か、珍しい武器を選んだんだね」

「珍しい、か。友達にもそう言われたよ。使いにくい武器種なんだってな」

「もしかしてその友達はベータの出身者?」

「そうだ」


 ハルの顔を思い浮かべながら頷く。


「やっぱり。だからそんなこと言ったのね。多分その時にユウくんはこうも言われたんじゃない? 対応したスキルが無い武器種だったって」

「ああ、言われたよ」


 それに加えて<リロード>を覚える前だったから銃弾の補充が出来ない欠陥品だというようなことも。


「実はね、その前評判ってのはベータテストの時の仕様のせいもあるのよ」

「どういうことなんだ?」

「ベータテストの時は何度でも武器種を変更出来たってのは聞いてるかな」

「ああ。そんなことを言ってた気がする」

「だったらその武器種にも追加された順番があったことは?」

「いや、初耳だ」

「最初に追加されたのはね、剣とか弓とか槍とか、結構メジャーな武器種ばっかりだったの。それでユウくんが使ってる剣銃は殆ど最後の方だったのよ」

「へえ。でもそれと対応しているスキルが見つからなかったってのはどう繋がるんだ?」

「実はベータテストの時は専用武器スキルには習得するための条件があったの」

「条件?」


 俺が≪剣銃≫スキルを覚えた時に特別な条件など何もなかったはずだ。コンソールを操作して探して比較的すんなりと習得できたことからも、何か見落としていたなんてことは無いはずだ。


「武器種の名前を冠するスキルは他に同種の武器スキルを覚えていると習得できなかったの」

「ちょっと待ってくれるか。ハルは剣スキルと銃スキルは同時に覚えられたって言ってたぞ」

「これは私みたいな生産職のベータテスト出身者が言ってたことなんだけど、≪剣銃≫っていうスキルは剣と銃、両方の特性を持っているみたいの。だから先に剣や銃のスキルを覚えていると習得できなかったのよ」


 思えば製品版ではチュートリアルで覚えることになるという武器種専用のスキル。それは事前に他の武器種のスキルを覚えていないからこそどんな武器種の専用スキルでも覚えられるのだと考えても条件にベータテストの時と大きな相違はない。


「このことを発表する前にベータテストが終わっちゃってさ。それに製品版でも同じ仕様なのかどうかわからなかったことからも、結局不遇武器の前評判を覆すことは出来なかったのよね」

「公式で発表とかはされなかったのか?」

「確認するけど、ユウくんはチュートリアルを受けなかったのよね」

「まあな」

「本来、武器種の専用スキルに関する説明はそこでされることになってるみたいなのよ。それに専用武器の種類を変えることの出来ない製品版ではその制限は無くなってるの。だから誰も専用スキルを覚えられないなんてことにはならないのよ」


 そう言いながらも考え込むリタを前に俺はハルがその変更点を知らなかったことに対しての疑問が浮かんできた。


「もしかして、ユウくんのその友達もチュートリアルを受けなかったんじゃない?」

「どうだろ。聞いていないから解らないけど……」

「その友達もベータテスト出身者なのよね」

「あ、ああ、そうか。ベータ版で経験したから受けなかった可能性もあるのか」


 リタが頷く。

 確証はないが、俺とはまた別の理由でハルはチュートリアルを飛ばしたのだろう。


「ハルが知らなかった理由はだいたい想像ができたよ」

「でもう一度確認だけどユウくんはその剣銃の専用スキルは習得しているのよね?」

「ああ。見ての通りに」


 コンソールに俺の習得済みスキル一覧を表示させてリタに見せた。


「うんうん。ちゃんと習得してるのね。それなら第一関門突破って感じかな」

「これが専用スキルか」

「剣なら剣、銃なら銃、槍なら槍みたいに持ってる武器種と同じ名前が付いたスキルのことを専用スキルって呼んでるの」


 リタの言っていた通りなのだとしたら≪銃≫スキルには≪剣銃≫スキルにあった<リロード>があるという保証はないのかもしれない。だとすればいち早く<リロード>を手に入れることの出来たことは幸運だったのだろう。


「それじゃあ、リタお姉さんの初心者講座を始めましょう」


 リタがどこから取り出したのか解からない黒板に白いチョークで何かを書き始めた。学校の先生のように黒板に書き込んでいくリタの後ろ姿を見て俺が抱いた感想は単純にこの世界にもチョークがあるんだという的外れなもの。口に出さなかったのはその一言でリタの講義を遅らせたくたくはなかったから。


「ユウくんはキャラクターのパラメータことをどこまで理解してる?」


 手を動かしながら振り返ることなくリタが聞いてきた。


「あんまり詳しくは解かってないかな。とりあえず一から説明してくれると助かるんだけど」

「もちろんいいわよ。それじゃあ、まずはこれを見てくれるかな」


 黒板に書き込む手を止めて俺の視線を誘導する。


「ユウくんのステータス画面にも似たようなのあると思うけど、解かる?」

「ああ、これだよな」


 コンソールに表示させたのは自分のステータス画面。そこには自分の名前レベル、所持スキル一覧の他にも装備している武器や防具に所持アイテムの一覧、そして俺のパラメータを示す八角形のグラフが計3ページに渡って表示されていた。

 一つ一つの項目を長押しすることでスキルの内容、装備品やアイテムの詳細が確認出来る。俺はコンソール画面とリタが黒板に記したものを見比べてみた。


「そのコンソールにあるのがユウくんの現時点のパラメータ。で一つ一つの説明をするけど……」


 と言い、短い単語で表示されているそれぞれのパラメータの項目の説明を始めた。


【HP】は体力。

 HPゲージと呼ばれる一本の緑色のゲージとその隣のX/Xという数字で表示されるそれは右がHPの総量、左が現時点での数値を表している。


【MP】はアーツやスキルの発動の際に消費する魔力。

 表示方法はHPと同じでMPゲージとX/Xの数字があり、HPゲージとは色が違いオレンジ色。MPゲージがHPゲージとは違うのは町中にいなくとも基本的に時間と共に自動で回復していくことだろう。


 この二つが並び二色のゲージという形で視界の左上に常時表示されているが、その他の八角形のグラフで表示されているパラメータは目に見えるものではなく、あくまでもコンソール上で確認できるのみ。

 そして、この全ての項目はプレイヤーに基礎パラメータと呼ばれているらしい。

 HPとMPの説明に続き他の項目もリタが丁寧に読み上げていく。


【ATK】が物理攻撃力。

 武器を使った通常攻撃及び武器を使用したスキルに影響する。


【DEF】が物理防御力。

 通常攻撃を受けた際のダメージ軽減率に影響する。


【INT】が魔法攻撃力。

 魔法攻撃や魔法に関連するスキル、状態異常攻撃の成功率に影響する。


【MIND】が魔法防御力。

 魔法攻撃を受けた際のダメージ減少率及び状態異常の被発生率と抵抗力に影響する。


【SPEED】が素早さ。

 移動スピードに加え攻撃速度、同じスキルの再使用までに要する待機時間(リキャストタイム)の長さに影響する。


【LUK】が運。

 アイテムドロップ率、エリアでのアイテム採取数などに影響する。


【AGI】が回避率とクリティカル発生率。

 自発的な回避行動にはSPEEDが関係するが、回避不能な攻撃を受けた際のダメージの数値や被ダメージ時及び与ダメージ時のクリティカル判定に影響する。


【DEX】が器用さ。

 アイテム合成や強化の成功率、攻撃の命中率に影響する。


 八つの数値にHPとMPを加えた計十項目がキャラクターのパラメータの全てであり、キャラクターを構成している要素の中でも一際存在感が大きいものだ。

【ARMS・ONLINE】ではレベルアップ時のパラメータ上昇が自動で行われているが、それらは完全なランダムという訳ではないらしい。仕組みとしてはレベルアップするまでに行われた行動が熟練度として見えない数値として蓄積し、それが積み重なることで自分のプレイスタイルとなる仕組みになっているのだという。

 現時点の俺は剣銃による通常攻撃を繰り返したこととモンスターの攻撃を受けまいと必死に避け続けたことが影響したのか、ATKとSPEEDが一際高く成長していた。


「パラメータは結構良い感じに育ってるのね。だとすれば、やっぱり後はスキルかな? 流石に専用スキルだけってのは少な過ぎるよ」

「一通り確認はしたんだけどさ。どれから取ればいいのかサッパリ解かんなくて結局手付かずのままなんだよなぁ」


 俺が習得できる中で専用スキルと呼ばれているもの以外は基礎パラメータ上昇系が大半。地味な効果しかないことからも慌てて習得する必要性は低いと思ってしまっていたこともこれまで先延ばしにしていた理由だった。


「そうだねー。最低でもこの二つは取っておいた方がいいと思うよ」


 他人にも見えるように可視モードに切り変えていたコンソール画面にある俺の習得可能スキル一覧を見てリタが指差したのは≪体力強化≫スキルと≪魔力強化≫という二つのスキル。この二つは基礎パラメータ上昇系の中でもHPとMPに影響を及ぼすスキルのようだ。


「≪魔力強化≫はMPを消費して使用できるアーツの回数を増やしてくれるし、成長させればMPの回復速度も上がるスキルなの。それにこっちの≪体力強化≫はその名の通りHPの最大値を上げてくれるものなのよ」


 つまりHPの最大値が増えればそれだけ死亡する可能性が減るということ。二つのスキルの習得に必要なスキルポイントは両方とも1。初期スキルレベルのままの初習得になるスキルは総じて覚えるための消費ポイントが少なく設定されているようだ。

 その為にこの二つを習得したとしても使っていないスキルポイントはまだ7も残っている。それならばと迷いなくリタに勧められたスキルを習得し、俺は上昇するHPとMPを二つのゲージの横にある数字を見て実感していた。

 スキルレベルが1のままで自分のレベルも低く、総量が少ないHPとMPでは一定数で上昇する値は幾ばくか物足りなくも思える。しかしそれは裏を返すことで自分とスキルのレベルが上がりHPとMPの上昇値さえ増せばスキルの恩恵もよりしっかりと受けることが出来るということ。


「他におすすめはない?」


 使えると言われているスキルはこの際、習得出来るとこまで取ってしまおうと思いリタに聞いてみることにした。


「うーん、どんな属性を使うか決めてないのなら暫く戦闘系スキルは専用スキルくらいで良いと思うよ。まあ、剣銃のことは詳しく知らないんだけどね。後は他のパラメータ上昇系のスキルを覚えたらいいんじゃないかな」

「成る程。とはいえ全部は覚えられそうも無いけど」

「それなら現時点で伸び幅が大きいのでいいんじゃない?」

「他は?」

「そうだね。この他となれば非戦闘系のスキルかな」

「それこそサッパリだ。何を取れば何に使えるのか。実際に試さないと解からないんだろうけどさ、スキルポイントっていう制限があるから何でもかんでもおいそれと試せないんだよなあ」


 正直に言えば一覧を見た時に気になったものは幾つかあった。けれど無闇矢鱈とスキルを習得できるくらいにスキルポイントに余裕のあるプレイは出来ていない。こういうのは何だが、結局使わなくなるようなスキルを覚えようと思えるほどの余裕はないのだ。


「ところで、一つ聞きたいんだけどさ。ユウくんは自分の剣銃をどうやって強化してくつもりなの?」

「え?」


 スキルのことで頭一杯になって忘れていたが、このゲームはキャラクターと同時に武器も成長させることができる。しかし、武器は戦闘を経てレベルアップしていくキャラクターとは違い強化を施すしかなく、それにはそれ専用の手順が存在するようで、ハルに聞き忘れていた俺はそれが何なのか解からず仕舞いだった。


「例えばこの私の剣だけどね、武器種は両手用の大剣になるの。で、この大剣の強化は町にいるNPCの鍛冶屋に素材を持ち込んでするのが一般的ね。この町には武器種ごとに専用の鍛冶屋みたいなのがあるからそれを利用すればいいんだけど、他の町だとそうはいかない時もあるの」

「へえ」

「それで、ユウくんはどうするつもりなの?」

「どうするって言われてもな。俺もこの町の剣銃を扱っている鍛冶屋に頼めばいいんじゃないか?」

「その通りなんだけどさ。前はNPC鍛冶屋はプレイヤーがしていた鍛冶屋に比べると素材の数が多く必要になるし、なによりも成功率があんまり高く無いんだよね」

「でも、それが一般的なんだろ?」


 リタの言う成功率という言葉に俺はパラメータにあった項目の一つであるLUKを思い出していた。仮に武器の強化にそれが影響するのだとするならば、鍛冶屋を営んでいるNPCにもプレイヤーと同じようなパラメータが割り振られているということなのだろう。

 だとすれば常にレベルを上げ続けているプレイヤーの方が適していると言えなくもない。


「リタはどうするつもりなんだ?」


 当然の俺の疑問にリタはにんまりと笑う。


「私はこれを使うつもりよ」


 座っている椅子の前に置かれた炉を指差しリタが答える。


「かまど……いや、炉か」

「そう! ≪鍛冶≫スキルがあれば防具だけじゃない、金属製の武器なら自分で強化出来るようになるの!」


 防具専門じゃないのか、というツッコミをするよりも前に俺の興味はリタが指差す先の炉に注がれていた。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






キャラクターネーム『ユウ』

レベル『6』



【実数値】[基礎能力値](装備加算値)《スキル加算値》



HP 【580/580】 [560] 《+20》

MP 【285/285】 [275] 《+10》

ATK 【80】 [70] (+10)

DEF 【50】 [60] (-10)

INT 【55】 [55]

MIND 【50】 [50]

SPEED 【80】 [70] (+10)

LUK 【10】 [10]

AGI 【60】 [60]

DEX 【60】 [60]



『装備・武器』



専用武器・【剣銃】

――(ATK+10)



『装備・防具』



頭・【なし】

首・【なし】

外着・【初心者装備・最軽装・ジャケット】

――(DEF-10)(SPEED+10)

内着・【初心者装備・最軽装・半袖シャツ】

腕・【なし】

腰・【なし】

脚・【初心者装備・最軽装・ズボン】

靴・【初心者装備・最軽装・ブーツ】



『アクセサリ』 装備重量【0/10】



なし



≪所持スキル一覧≫ 保有スキルポイント【7】



≪剣銃≫レベル・1

≪体力強化≫レベル・1

――HPの最大値を上昇させるスキル。《+20》

≪魔力強化≫レベル・1

――MPの最大値を上昇させるスキル。《+10》



<所持アーツ一覧>



<リロード>





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






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[一言] 銃、機械、ロボットはファンタジーをぶち壊すよな(笑)許容範囲はオートマタ、アンドロイド、ゴーレムくらいか、後は生物を保存するものくらいかね(笑)
2020/07/02 14:57 退会済み
管理
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