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秘鍵が封じるモノ ♯.3『灼銅の悪魔』

お待たせしました。今週分の更新です。

 壁や床、天井に当たり乱反射する炎からから逃れる道などないように思える。

 だが、実際には炎が描いた軌跡の狭間という微かな道が存在するのだ。

 問題なのは赤々と燃え盛る炎の軌跡の中を突っ切るだけの勇気があるかどうか。そして、その炎の軌跡が俺たちを傷つけるだけの攻撃力を持っているかどうか。


 剣形態のガン・ブレイズを盾のように身構える俺はその勇気が持てずに固まってしまっていた。

 反面、アラドは迷う素振り一つ見せず、炎の中へと飛び出して見せた。大剣を提げ、身を屈め駆けるアラドは竜化していないにもかかわらず獰猛なドラゴンのように見える。

 炎の軌跡を突っ切るアラドには微かな火傷がついていた。とはいえ、その火傷はアラドが纏っている防具の表面を焦がすだけで彼のHPを傷つけることはなかった。


 乱反射する炎はその先端に近づくに連れ威力が高く、残された軌跡には大した攻撃力が無い。

 それに俺が気付いたのはアラドの勇猛な飛び込みと、冷静に炎を捌いていたムラマサの姿を目の当たりにしたからに他ならない。


 高温の炎を相殺させるためにムラマサが用いたのは極低温の氷。

 刀身を一回り大きくするかのように纏わせた氷はグレーター・デーモンが放った炎を一つ打ち払った。

 ランダムな動きをする炎を正確に打ち落としてみせたその腕前に感心するのと同時に俺はグレーター・デーモンの身に起こった変化を見逃さなかった。

 炎を吐き出した後、グレーター・デーモンの体にはいくつものオレンジ色に変色した箇所が現れたのだ。それは翼を始め腕や脚、腹部など頭部以外には全てと言っていいくらいだ。


「何の変化だ?」


 上下左右と迫る炎を打ち払っていたムラマサのお陰もあって、俺に命中した炎は無かった。

 俺のすぐ横を通り過ぎて熱さだけを残していった攻撃は壁に当たると再び反射して天井へと向かって行った。

 自分の中の直感を信じ、ガン・ブレイズを銃形態へと変形させる。

 すかさず銃口を向けるとそのまま引き金を引いた。

 狙うのは飛び回っている炎の先端。

 グレーター・デーモンの変化よりもこの時の俺が重視したのは放たれた炎の処理。

 炎の軌跡は攻撃力を有していないのだとしても、赤々と燃え盛って映るそれは無視できない存在感がある。それが俺やムラマサの足を鈍らせ、どれだけ気にしていないように振る舞っていても多少はアラドの歩みの邪魔している。

 だからまずはそれを消す。

 この時俺が注目したのは炎の性質だった。

 当然のことながら現実の炎は目の前のそれのように動かない。このような軌道を見せるもので思い当たるのはスパイ映画か何かに出てくる赤外線を用いたセキュリティだろうか。

 だが、実際に炎は目の前で天井や壁や床に当たり反射している。

 ならば通常の炎とは違うことは明白。それが有している特性すらも違うはずなのだ。


 この直感が確信に変わったのはガン・ブレイズを銃形態へと変形させ、その銃口を炎へと向けた時。

 元来射撃系の武器を向けた時、モンスターや破壊可能オブジェクトにのみ浮かぶターゲットマーカーが炎の先端にも現れたのだ。

 そして引き金を引き弾丸を撃ち出す。

 外れることなく炎の先端に命中した弾丸が引き起こしたのは小規模な爆発。


「撃ち落とせた!」


 思わず出た歓喜の声も続けざまに起こる爆発の中へ消えた。

 すばやく視線を爆発の方へと向けるとそこではムラマサが刀に纏わせた氷を飛礫のように飛ばしている姿があった。

 繰り返し起こる爆発の奥。俺が目にしたのはアラドが赤く変色したグレーター・デーモンの体に大剣を叩きつけたのだ。

 硬い金属同士が打ち合う音がした次の瞬間、グレーター・デーモンのHPバーは目に見えて減少した。


「ダメージが通った!? だが……」


 ムラマサが驚きの声を上げる。

 それもそうだろう。先程俺たち全員で攻撃を仕掛けた時よりも遥かに大きなダメージを与えることに成功しているのだから。


「アラド、下がるんだ!」


 表情を固くしで叫ぶムラマサの前で火花が舞い散り、苦悶の声を上げるグレーター・デーモンが周囲の炎を飲み込み始めた。

 渦を巻き、グレーター・デーモンの体に吸収されていく炎が消えたその瞬間、それまで熱気に包まれていた階層内が冷まされていく。

 気にする程ではな無かった暑さも、こうして冷まされてしまえば気になってしまう。

 顎を伝うとまではいかないが、じんわりと額に汗が滲んでくるのが分かる。


「チッ、また硬くなりやがった」


 顔を顰めながら近付いてきたアラドがいくつかの石ころを持ちながら呟いた。

 どうやらその石ころを色が戻ったグレーター・デーモンに向けて投げつけていたようだ。


「ってかさ、そんな石でダメージ与えられるのか?」

「あン? ンなもんタダの石なわけねェだろうが」

「え?」

「もしかして、その石は『爆石(ばくせき)』なのかい?」

「ああ」

「えっと、爆石って言うと火属性が得意な武器の強化とかによく使うヤツだよな」

「んー、生産職のユウならそういう印象が強いかもしれないけど、実は爆石はモンスターに向かって一定の速度で投げつけることによって小規模な爆発を引き起こす爆弾みたいな使い方もできるのさ」

「へぇ」

「加えるなら≪投擲≫のスキルがあればより攻撃に使いやすくなるらしいよ。まあ、アラドは素で攻撃判定をクリアするまでの速度を出しているみたいだけど」


 そのように話をする最中、炎を吸収していたグレーター・デーモンがその動きを止めた。

 渦を巻いていた炎が消え去ったことで赤く熱されていた体が元に戻り、そのせいでこちらの攻撃が通らなくなったということのようだ。


「んー、どうやらオレたちの戦い方が決まったみたいだね」

「そうだな」

「グレーター・デーモンが炎を放った時に赤くなる。その時は防御力が低下するようだから、こちらが攻撃を仕掛けるのはその時。そしてオレかユウは炎の迎撃も担当する。そしてアラドは全力で攻撃だ。反撃を貰う危険も今みたいに炎を吸収するのに巻き込まれる危険もあるけど、お願いできるかな?」

「誰に言ってンだ」

「ふふっ、頼むよ」


 手早く打ち合わせをした後、俺たちは一様に散って行った。

 俺たちが引き出すべきグレーター・デーモンの攻撃が乱反射する炎である以上、一つの場所に集まっているよりも散開したほうが確率が上がると踏んだからだ。

 それに、いくらこちらの攻撃の効き目が薄いとは言っても全く手を出さないという訳にはいかない。

 そう思った瞬間、俺はガン・ブレイズを変形させた。MPを消費してしまう銃形態よりも消耗無く攻撃できる剣形態の方がいい。与えられるダメージが少ないのならば尚更だ。

 グレーター・デーモンが繰り出してくる攻撃は例の炎攻撃以外は人型のモンスターにありがちなものばかり。大振りなパンチの他にも両手を広げて振り回したり、翼を持つモンスターの定番とも言える翼をはためかせて風を巻き起こしたり、その翼を叩きつけて来たりするだけ。それだけならばこれまでの経験もあって比較的回避がしやすい攻撃ばかりだった。


 予測できる攻撃範囲を避け近付き斬り付ける。

 ガリガリと嫌な音を立てながらも、削っていくグレーター・デーモンの体表はさながら鋼鉄のよう。

 そして案の定とでも言うべきか、与えられるダメージがごく僅かみたいだ。


「――くっ、せめてあの攻撃を使う切っ掛けさえ解れば」


 たった一回使われただけの攻撃を誘い出すことが出来る程、俺はまだグレーター・デーモンの行動パターンを理解していない。

 手を変え品を変え攻撃を繰り出している俺たちの目的はただ一つ。だが、それに至るまではまだ暫くかかりそうだ。

 それに加えて、敢えて口には出さなかったがムラマサたちと立てた作戦には二つ大きな穴があった。一つは先程の攻撃がたった一度しか使ってこない攻撃であった場合。戦闘が始まって最初に繰り出される強力無比な一撃は大抵それを凌ぐかどうかが鍵になっていて、凌いで以降は使われることは無い。つまりあの炎の攻撃がそれに該当する場合二度と使われることが無い可能性があるのだ。

 もう一つは、こちら側からのアクションで引き出される類の攻撃では無い場合。戦闘が始まってからの時間経過によって使用されるような攻撃であった場合、俺たちはそれを使われるまでどうにかして耐え忍ぶしかなくなる。

 だが、それでは明らかにジリ貧だ。


「突破口を探すべき…でも、竜化を使うのは悪手」


 直感に過ぎないとはいえ、ここで竜化することは避けるべきという思いが消えなかった。


「だったらどうする?」


 意味があるのか無いのかはっきりとしない攻撃を繰り返しながら思考を巡らせていく。

 グレーター・デーモンの足、腕、胴体に翼。

 地上からジャンプして届く範囲には大概攻撃を当てたが俺が望んだ展開にはなっていない。

 自分の何が足りないのか解らず歯痒い思いに奥歯を噛みしめたその時だ。カーンという鉄製のベルを叩いたような音が響いたかと思うと突然グレーター・デーモンが大きく仰け反った。


「何が起こった?」


 まるで目眩を起こしたかのようにふらふらと頭を揺らすグレーター・デーモンの近くで呆然と立ち尽くしているのはムラマサだった。

 刀身には変わらず氷が纏わされており、グレーター・デーモンに命中した攻撃はその氷によって繰り出されたものであることは理解できたのだが、


「何をしたんだ?」

「さ、さあ? グレーター・デーモンに向けて氷の飛礫を飛ばしていたんだけどね。その内の一つが偶然グレーター・デーモンの角に当たって…それで……」


 攻撃も防御、どちらの体勢も取らないグレーター・デーモンを前に呟くムラマサに近づく。

 グレーター・デーモンはプレイヤーで言えばスタンしている状態に近く見えるものの、そのHPバーの下にスタンの状態異常を現すアイコンは現れていない。

 額面通りに受け取るのならばグレーター・デーモンはスタンしていないということになるが、あの様子を見る限りではスタンしているとしか言いようがなかった。


「ユウ、ムラマサ、来ンぞ!」


 硬いグレーター・デーモンの体を足場にしてアラドが飛び降りてくる。

 そしてそのままグレーター・デーモンの瞳に怪しい光が赤く灯った。


「炎の攻撃か!」


 縦横無尽に広がる赤い光を目の当たりにし警戒と歓喜の声を上げる俺の隣でムラマサは一人でぶつぶつと何やら呟いていた。


「…切っ掛けはなんだ? ……思い出せ。一度目の時は何が切っ掛けで炎を出した? ……その時と今との共通点は?」


 赤い光が迸るってから炎が吐き出されるまでには多少のタイムラグがある。

 普通はその間にプレイヤーは安全圏を探したり、反撃に適した位置へと移動したりするのだろうがこの時のムラマサは思考することだけに集中しているように見えた。


「……今回の切っ掛けは恐らく角に命中したオレの攻撃。仮にそうだとするなら、一度目はオレたちの中の誰かが角を攻撃したことになるけど……そんな様子は見られなかった。あの時、積極的に攻撃していたのはアラド……そうかっ!」

「何か分かったのか?」

「んー、確証はないのだけどね。それに検証するのはこの攻撃を捌き切ってからさ」


 移動する素振りの無いムラマサを放っておくことは出来ず、俺はその隣でガン・ブレイズの変形を済ませて待機していた。

 とはいえその時間は僅か十数秒。

 動きを止めていた時間にしては短いと思うけど、それは戦闘中ではない場合だ。戦闘中無防備を晒し動きを止めてしまう時間にしては十数秒は多分、長い。

 だからだろう。

 またしても俺の視界を縦横無尽に駆け巡る炎が埋め尽くしたのだった。



今回も戦闘の続きでした。

そして敢えて締めは前回と似たような状況にしてみました。ちなみにこの戦闘描写は次回で終わる予定です。

ですのでこのボスモンスターに関する設定等のコネタは次回のあとがきにでもしましょう。


というわけで、謝辞から。

毎週、本作を読んで下さりありがとうございます。

日々増えるポイントやアクセス数なんかが作者の励みになっていますのでこの場所を借りてお礼を申し上げます。

評価、ブックマークをしていただけましたら尚の励みになりますので、どうか宜しくお願いします。


では、次回の更新も金曜日です。

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