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秘鍵が封じるモノ ♯.2『迷宮五層のボスモンスター』

一週間ぶりです。今週分の更新です。

 階層を一つ一つ上っていくたびに消費する秘鍵の量が増していった。

 それでもここまでは今日に至るまでに獲得してきた秘鍵とこの迷宮の戦闘で獲得した数を合わせること滞ることなく進むことができていた。

 秘鍵を手に入れるための迷宮内の戦闘で戦ったモンスターが思っていた程強くなかったのもここまですんなりと進めることのできた一因だろう。

 とはいえだ。俺たちはここで、迷宮の五層と六層を隔てる扉の前で一度足を止めた。


「さて、これまでとは違う扉みたいだね」


 ムラマサが見上げる扉にはどこかの街並みを彷彿とさせるレリーフが施されており、こう言っては何だが綺麗なものだと、美術館にて華美な絵画を目の当たりにした時のような感想を抱かされた。


「この先に何が待っているのか……」

「ンなこと決まってンだろ」


 獣のように獰猛な笑みを浮かべ、


「ボスモンスターだ」


 アラドが手甲を付けた手で無意識に拳を作ると微かに金属同士が擦れ合う独特な音が聞こえてきた。


「つまりオレたちはボス部屋の前に辿り着いたということだね」

「だからそう言ってンだろうが」

「それよりさ、気になってるんだけど他のプレイヤーがどこにいるんだ?」


 辺りを見渡しながら問いかけた。

 ここがボス部屋の前だというのならば、迷宮に挑んだプレイヤーの多くはここに辿りつくようになっているはず。それなのに、だ。俺たちが今いる扉の前の部屋は実際に扉以外は何も無いといった様相で雑魚モンスターの出現も、それどころかこれまでにあった次の階層に進むために秘鍵を納める場所すら存在していないのだ。

 確実にこの扉の先にあるだろう道が次の階層へと繋がる唯一にして絶対の道であるはずなのに。


「大して広くない部屋なのは置いておくにしてもさ、ここに俺たちしかいないのはおかしくはないか?」

「そんなことはないさ。これまでにも何度か経験しているだろう? 全てのプレイヤーが等しく戦うことになる相手がいる場合は挑むプレイヤーの数だけ存在することになると。そしてそれはモンスターだけではなく」

「戦場となる場所もまたプレイヤーの数だけ存在する。だろ?」

「その通り」


 頷くムラマサの隣に並び扉を見上げる。

 すると程なくして重々しい音を立てながら扉が開き、その奥に何とも形容しがたい色をした渦が姿を現した。


「この先に進む前に言っておきたいことがあるのだけど、いいかな?」

「なンだ」

「プレイヤーがここに至るまでの道筋は一つ。所謂一本道というヤツさ。それでいてこの先は挑むプレイヤーの数だけ、それこそ無限に存在するというわけさ」

「何が言いてェんだ。手前ェは」

「いや、なんとなく思いついたことを言ってみたかっただけさ」


 軽快に笑いながらムラマサがそう言うとすかさずその手を渦の中に入れた。

 次いで俺とアラドも渦の中へと手を差し込む。

 瞬間、俺たちはこことは異なる部屋へと転送された。


 視界が歪み、世界が歪む。

 そして、漂う空気が一変した。


「さて、どんなモンスターが出てくるんだ」


 ワクワクとした感情を抑えることもしないままに呟く。

 そこで俺は自身の思い違いに気が付いた。

 ここで俺たちが戦うべき相手は現れるのではなく、既にここに存在していたのだ。


「『グレーター・デーモン』。ま、迷宮には付き物だよな」


 腕を組み、翼を広げ、目を瞑り浮かぶ悪魔はプレイヤーが有するキャラクターよりも遥かに巨大。

 微動だにしないグレーター・デーモンを見上げ、俺たちは自然な動作でそれぞれの武器に手を掛けた。

 アラドは背中の大剣。ムラマサは腰にある二振りの刀。俺はホルダーに収まっているガン・ブレイズを。


 一呼吸おいて俺たちは互いを見た。

 開戦の合図となるのはそれぞれの武器が抜かれた瞬間。

 そしてそれは、自分たちの手によって齎される。


 三人がそれぞれの武器を抜いて飛び出した刹那、グレーター・デーモンは目覚めの絶叫を上げた。

 周囲が絶叫に震える。

 黒い豪炎がグレーター・デーモンの手に宿ると、次の瞬間に現れたのは昔の絵画などに描かれている処刑人が持つ処刑鎌。

 刀身の至る箇所にある錆はただの演出であり装飾なんだろうが、俺の目にはそれは血が乾きできた錆のように思えてならなかった。


「…不気味だな」


 グレーター・デーモンが醸し出す怪しい雰囲気に思わず感想が口から漏れた。


「どうでもいい。さっさと行くぞ」


 腕を広げ地上へと降り立ったグレーター・デーモンへと一斉に斬りかかる。

 左右、そして正面と反撃されることすら構わずに繰りだした攻撃はグレーター・デーモンが持つ処刑鎌の横薙ぎの一撃によって簡単に防がれてしまう。

 そして、体勢を崩すこと無く着地した俺たちは改めてグレーター・デーモンの頭上に浮かぶ複数本のHPバーを見た。

 グレーター・デーモンが有するHPバーはボスモンスターとして通常のモンスターよりも多い三本。とはいえ何度もボスモンスターと称されているモンスターと戦ってきた俺たちにとっては随分と見慣れたものだ。

 しかし、名実ともに悪魔の姿をしたモンスターを前に俺たちは逃れようのない圧迫感を感じ取っていた。


「簡単に防がれるのか」

「感心してねェで攻撃しやがれッ」

「分かっているともさ」


 グレーター・デーモンを挟み撃ちするように位置取ったアラドとムラマサが互いに軽口を叩きながら再度攻撃を繰り出していた。

 それも今度はアーツを伴った攻撃だ。

 二人が持つ武器が放つ光はそれぞれの攻撃が持つ威力を底上げし、あるいは別なる属性を付与させる。

 アラドの一撃は純粋な威力上昇のようだが、ムラマサの一撃は風を伴い、その切れ味を何倍にも高めている斬撃だった。


 攻撃の狭間にある僅かな無防備を狙い放たれた斬撃は強固なグレーター・デーモンの肉体をも斬り裂くかに思われたが、実際にはそうでは無かった。

 無論無傷とはいかずそのHPを多少減らすことは出来たのだが、見た目では傷一つ与えることが叶わなかった。


「――チッ! 硬ェッ」


 大剣という重量のある武器を使った攻撃の勢いを利用してグレーター・デーモンと距離を取ったアラドがほんの少ししか減少していないHPを見て憎々しげに舌打ちをした。


「剣が効かないのならっ。<インパクト・ブラスト>」


 ガン・ブレイズを銃形態へと変形させ、すかさず引き金を引いて銃撃を繰り出した。

 撃ち出される威力特化の銃撃アーツはグレーター・デーモンに正確に命中するものの、僅かな白煙を残すだけで、俺が期待していた程のダメージを与えることは無かった。


「これでも駄目かっ!」


 銃撃までもが効かないのだとすれば、斬撃に耐性があるのではなく純粋に防御力が高いのだろう。


「っていうか、最初のボスモンスターにしては硬すぎないか!?」

「んー、もしかするとだけどさ。オレたちのレベルに合わせてグレーター・デーモンの強さが決まっているのかもしれないよ」

「はい!?」


 冷静に状況を見定めていたムラマサが両の手からそれぞれ違う刃紋を持つ刀を携えながら告げた。


「それならプレイヤー、この場合はパーティ毎にボス部屋が違っていることにも納得できるだろう。気になるのはグレーター・デーモンのレベルがパーティ側の最大レベルに準ずるのか、それともプレイヤーの平均値になっているのかくらいだけど……」

「俺たちの場合どっちでもあまり関係なさそうだな」

「まあね」


 俺たちが上げたランクは全員が一つ。ランクを上げてから伸ばしてきたレベルも大きな差は生じていない。結局グレーター・デーモンのレベルは高く、こうして俺たちの前に強大な壁として立ち塞がっているというわけだ。


「んー、ユウとリタのお陰で武器も防具も完全な状態に戻っていてよかったね」

「呑気だな」

「それにアイテムも補充できているからね。存分に戦えるというわけだね」

「…何か他人事みたいに言うな」

「いやぁ、あのアラドの姿を見てるとどうしても、ね」

「あー、なるほど」


 飛翔する斬撃を放ちながら話すムラマサが見ているアラドは空中で器用に移動を繰り返しながら大剣を振り回している。

 空中での移動は大剣から生えた影の手に任せているようで、それが出来ているのも大剣が精霊器となり、それに宿る精霊がフラッフの肉体と融合したために強力になったからこそだ。


「とりあえず普通の強化で行けそう、か?」


 未だ竜化する気配の無いアラドを鑑みるとグレーター・デーモンの脅威度はさして高くないように見える。回復アイテムの使用制限が掛かってしまう俺は竜化を切り札にせざる得ないが、アラドは通常のアーツが使えなくなるだけだ。それでも竜化しないというのは竜化できる回数制限を気にしているか、するまでも無いと判断しているかだ。

 自身に掛けた強化<ブースト・ブレイバー>の効果を自分のHPバーの下に浮かぶアイコンで確認しつつ、ガン・ブレイズの銃口をグレーター・デーモンに向ける。

 相も変わらずほとんど減っていないHPバーだが、それでも確実に減ってはいる。


「ま、勝てないわけじゃないさ」


 再び撃ち出した<インパクト・ブラスト>がグレーター・デーモンを頭を射抜く。


「あン?」


 微妙な雰囲気の変化を感じ取ったのか、アラドが一際大きく飛び退いた。

 俺やムラマサの攻撃によって巻き起こる小規模な爆炎と白煙の奥でグレーター・デーモンの瞳が怪しく光を放つ。

 レーザーポインターの光のように赤々としたその光は次の瞬間、俺やムラマサがいる地上に当たり乱反射したのだ。


「気を付けろっ」


 ムラマサの怒号が飛ぶ。

 刹那、グレーター・デーモンが吐き出した炎が赤い光を追うように部屋の全てを駆け巡った。



いきなりボス戦が始まりました。

前回更新から通常よりも一週間多く経ったために急展開です。とはいえ、前回から今回までは普通に迷宮内を進んだというだけであまり変わり映えしないので割愛しました。道中の描写はこの後にいずれ差し込むつもりですが、今回の更新分には無かったので先んじてここ記しておきます。


では、いつものように、まずは本作を読んで下さりありがとうございます。

評価、ブックマークをよろしくお願いします。


尚、今回よりまた週一更新を再開していきますのでどうぞ宜しくお願いします。


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