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三つ巴の争奪戦 ♯.34『転』

お待たせしました。今週分の更新です。

「それで、ユウはどう答えたんだい?」


 商会ギルドの露店街の一角にある作業小屋の一つを借りて俺は自分のパーティとシシガミのパーティ、それからリタと顔を付き合わせていた。

 この集まりの目的はレイド戦で消耗したそれぞれの装備の修復。武器を担当するのは俺で防具を担当するのがリタだ。

 今この小屋にいる全員が着ているのもリタが渡してきた簡素な服。各人に合うようにサイズこそ取り揃えられているみたいだが、デザインはどれも一緒。柄も模様も何もない代わりに着心地だけは保証されているシンプルなパジャマ。

 作業の役割分担はそれぞれが得意にしてきた生産に合わせて決めた。ついでに言うならば修復に使用する素材は各自の持ち寄り。足りない分を俺やリタが個人で持っている分で補うことになっている。ちなみにだが、これはタダで渡すのではなく買い取ってもらうことになっていた。

 俺からすれば現状持っていても使わない分の素材であり、自分のガン・ブレイズや手甲に合わない素材であるために無償で提供することもやぶさかではなかったのだが、それでは駄目だと全員に反対され素材の市場価格そのままで売ることになったのだ。


「一応は保留かな。まあ、俺個人だけなら受けても悪くない提案だと思ったんだけどさ」


 ここに居るプレイヤー全員の武器を修復することになった俺の手は休まることは無い。

 炉の中にくべられた炎は轟々と燃え盛り、修復を待つ武器を赤く染め上げている。


「んー、確かに。ジェイル大陸に行く予定の無いオレたちにとっては悪くないと言えるのかな?」


 炉の前で真剣に炎の中にある柄も鍔も外された刀身だけの刀を見つめているムラマサの横で俺は思わずというように彼女の顔を見た。


「意外かい?」

「え? ああ。そう…だな。てっきり勝手に決めるなとか言われると思っていたからさ」

「んー、別にオレは何かを言うつもりはないさ。それはアラドも同じなんだろう?」

「ああ。勝手に決められンのは気に食わねェケドよ」

「特別反対って訳じゃないってことだね」

「まァな」


 椅子の背もたれに体を預け窓の外を眺めるアラドにも俺はムラマサに向けたのと同様の視線を向けた。


「ンだよ?」

「いや、正直ムラマサは何となく受け入れてくれるかもとか思ってたけどさ、アラドには何かしら文句を言われるものかと…」

「別にどうこういうつもりはねェよ。ただ、ソイツらが何なのか少しくらいはオマエも知ってンだろうな」


 その一言の後、ここにいるプレイヤーの大半の視線が俺に集まった。俺を見ていないのは防具の修復に取り掛かっているリタくらいだ。


「先に言っておくけどさ。俺は奴らがどういう目的を持って、何をしようとしているとかを分かってる訳じゃないぞ。話をしたのだって数えるくらいだし、何より、仲が良いわけじゃないからさ」

「それくらい解かってンよ」

「だった話すけどさ――」


 そうして俺はこの街で起きた件の人物との邂逅を思い出した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 彼ら、正確には彼女たちと呼んだ方が正しいのかも知れないが、俺がその集団と会ったのは自分の専用武器であるガン・ブレイズの修復を終えて、再びこの街に戻って来てリタと合流を果たしてから直ぐのことだった。

 同じ鎧を纏いバラバラの武器を携えるその集団は明らかにプレイヤーの集まり――ギルド――であることは明白だった。


「どうです? 私の提案を飲んで戴けますか?」


 涼しい顔で告げる女性の名はシラユキ。

 相も変わらず武器らしい武器を持たない一風変わったプレイヤーだ。

 しかし、彼女から感じられる静かな威圧感は本物で、それは隣に立つリタも感じているようだ。


「えっと、私たち【商会ギルド】とユウ君たちのギルドにあなたたちの活動拠点であるジェイル大陸での侵入を禁じるってことよね?」

「そうですね。端的に言えばその通りです。ですが、その代わりに…」

「シラユキたちはこちら側に手を出さないってことか」

「ええ。その通りです」


 表情も変えず、というよりも表情一つ窺えない兜を被った騎士たちの前でシラユキが頷く。


「ああ、それから貴方と共に戦ったシシガミという方が率いるギルドにも同じことを願いましょう。こちらに手を出さない限り、私達もヴォルフ大陸には手を出さないことを条件にでもして」


 そしてまたも平然と告げたのだ。この場にはいない仲間に向けた公平とも不公平ともとれないような提案を。


「それを俺に伝えろっていうのか?」

「別にこちらから出向いても構わないのですが、どうもそれは嫌そうでしたので」

「当然だろう。悪いが俺の中でアンタに対する印象は良くはないんだ」

「それは残念。ですが、当然ですね」


 今までの自分の言動というものを思い出しているのか、それにしても僅かにも表情一つ変えないシラユキに俺は一層彼女に対する警戒心を強めた。


「それを解っていながら俺たちに声を掛けたってワケか」

「ええ。それが最も確率が高いので」

「確率、か」

「何かおかしいですか?」

「さあな。アンタだったらこっちがその話を呑まざるを得ない状況に追い込むなんてことくらいしてきそうだと思ってたからな」


 最初にシラユキがしたことも自分の望む結果を生み出せる状況を作り出したこと。俺はそう考えていた。しかし、それから暫く会うことは勿論話すことも無くなったシラユキに俺はどこか過去のことを忘れていたのだろう。

 だが、こうして再び邂逅して理解した。

 シラユキの言葉や態度には必ず自己の目的を達成させるべく幾つもの伏線があるということを。


「…たかがゲームなのにな」

「どうかしましたか?」

「いや、気になったことがあってな」

「それは何? とお聞きしても?」

「構わないさ」

「では――」

「そうだな。なら一つ聞くが、何故アンタたちはこのゲームにそこまで真剣になる? あ、いや、違うな。真剣になることは悪くない。俺だって、そこのリタだって真剣だ。真剣にこのゲームで遊んでる。でも、アンタの真剣は俺たちとは違う」

「誰だって同じ気持ちを抱くとは限らない。違いますか?」

「そんな言葉遊びはどうだっていいさ。だが……」

「自分とは違うから受け入れられない、と?」

「綺麗ごとを言うつもりはない。だけど、それで何も聞かず突っぱねるつもりもない」


 はっきりと言い切る俺にシラユキは一瞬、その目を細め僅かに口角を上げた。


「ですから貴方に声を掛けたのです」

「…は?」

「現在の私共の目的は正しくこのイベントをクリアすること」


 そう前置きをしてシラユキが言う。


「ですがそのためにどれか一方の勢力に力が集中することは好ましくはない」

「待て。それはどういう意味だ? 秘鍵を集めその数を競うのがこのイベントなんだろう?」

「ええ、その通り。ですが、それだけではないのです」

「意味が解らない。優劣が決まる以上、どこかの勢力に戦力が集中するのは当然なんじゃないか?」

「ですから、私共はそれを避けるべく動いているのです」

「アンタは何を知っている?」


 真剣の意味合いが違う相手は見ている先までもが違う。

 ならばその差はどこで生まれるのか。

 当然のように浮かんできた疑問を声に出した俺に返ってきたのは――



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「それでその者は何と答えたんだい?」

「『秘密です』だとさ」


 話をしながらそれぞれの武器の修復を続ける俺は完成した大剣を炉から取り出し、肩を竦めた。


「それは、まあ、なんとも」


 戸惑いの声を出したのはリンドウ。

 忘れてはならぬがシシガミたちもこの場にいる。目的は言わずもがなだ。


「とりあえず、次はリンドウたちの武器になるんだけど。どうする? ちゃんと魔法系の武器の修理が出来る人に頼んだ方がいいと思うんだけど」

「いえ。出来ればユウさんにお願いしたいんです。それにこれはあまり他人の手に任したくはないものなので」

「俺はいいのか?」

「其方も共に戦ったのだからな、構わん」

「ああ、そう。にしてもこれは……」


 この場に居るプレイヤーの全てがランクを上げているようで所持している専用武器は二つ。通常の専用武器と精霊器。

 中でもシシガミのパーティでリンドウたち三人が持つ金属の杖はどれも同じようなデザインをした物となっていた。

 性能面においても酷似しており、違うのは扱う属性。敢えて揃えていなければこうはならないはずで、つまりは敢えて合わせてあるのだろう。


「驚きましたか?」

「まあ、な。けど、そう珍しいことじゃないのかもな」

「そうなのですか?」

「最近はな。確かに武器種まで揃えてあることは珍しいけどさ、その性能が酷似しているってことなら」


 例えばと話し始める。

 同じタイミングでゲームを始め、それからずっとパーティを組んでいる相手とならば武器の成長具合が似通ることはよくあることだし、ゲームがリリースされて時間が経った今、攻略記事のようなもので紹介されたおススメの性能の武器を持つプレイヤーが増えていた。

 最初期から生産を行ってきた俺に言わすと一定以上の性能を持つ武器というのは確かに存在する。だが、それを持っただけで強くなれるかと問われれば違うと断言できる。

 キャラクターがレベルアップで強くなっていくように武器も強化することで強くなる。その際指針となるのは決して攻略記事のようなものではなく、それまで個人がどう戦ってきたかだ。

 自分ではない別の人に定めらた性能では本来の自分の能力値と差が生まれてしまう。その差が大きな意識の錯誤を生んでしまう。俺はそう思っている。


「これは私たち三人で決めたことなんです。シシガミさんとパーティを組んだ上で最も戦いやすくなるようにとみんなで相談して決めたんです」

「それに使いやすいんですよ」

「成る程」


 ストレージから魔法に適したインゴットを取り出し、炉に入れる。

 そして三人分の武器を同時に作業机の上に並べた。


「時に。其方はどう思うのだ?」

「どうって?」

「あの者のことだ。保留したにしても何らかの回答はしたのだろう」

「まあ、俺個人の返事だったら」

「それを教えてはくれないか?」

「…俺はシラユキの提案を受け入れた」

「え!?」

「そうなんですか?」


 黙って修復の様子を見守っていた餡子とボールスが同時に驚愕の声を上げていた。


「ジェイル大陸に行く予定はないってのは聞いたけどさ、それだけであの話を呑んだって訳じゃないんだろう」

「あー、シラユキを見たことのあるムラマサならなんとなく解かると思うんだけどさ。シラユキってプレイヤーの目的は語られていない」

「それはオレも同意するけどね…」

「かといって嘘は言っていない……気がする」

「つまりは?」

「信じきれないけど、信じられるかな」


 自分で言っておきながらなんとも曖昧かつあやふやな物言いだと思う。

 だが、それでいい気がする。

 信じ切るのは危険。だからといって最初から嘘だと無視することもまた危険。


「ま、シラユキがそういうヤツだって解っていればどうにかなりそうじゃないか」


 手早く修復を済ませた鉄製の杖を三本、リンドウたちに手渡す。

 次いで残る一つの武器の修復に取り掛かった。


「それで、シラユキの返答は?」

「あー、それがなあ。『別にそれで構わないのですよ。こちらとしての目的は達成されたも同然ですので』だとさ」

「んー、なんとも判断に困るね」

「まあな。けど、そういうもんだろ。色々と疑問は残るけどさ、それを暴くのは俺たちの仕事じゃないだろうし」

「この先にまた会うことになるかもしれないものね」


 両手一杯に服と鎧を抱えたリタが話に加わってきた。


「お、早いな」

「ユウ君ほどじゃないよ。だってさ、それ、もう殆ど終わったんでしょ?」

「まあね」


 今も修復が終わっていないのはただ一つ。シシガミが持つグローブ型の手甲だけ。

 それも今まさに終わろうとしていた。


「どうだ? 何か問題があるなら言ってくれ」

「いや、十分だ。皆はどうだ?」

「私も問題無いですよ」

「自分もです」

「私も同じです」

「そうか。良かった」


 これで全員分の武器の修復が完了した。リタの手によって防具の状態も万全だ。


「秘鍵のイベントは今日で三日目。期限の一週間を思えば折り返しも同然だね」

「ムラマサさんは何か起きると思っているの?」


 一人一人に防具を手渡していくリタが徐に呟いたムラマサに問いかけた。


「昨日の突発的なレイド戦を考えるとね。このまま何も起こらず終わるとは思えないのさ」


 この日の正午。全てのプレイヤー向けて一通のメッセージが送られてきた。

 内容はイベントの追加要素のお知らせ。

 そして、この日、全ての大陸にある施設が出現した。

 新たに出現した施設は巨大な塔の様相を呈しており、その内部は巨大な迷宮。


 秘鍵のイベントに挑むプレイヤーたちの戦場が新たな舞台に移った。




はい。今回更新分の最後にあるように次回から迷宮に挑みます。

秘鍵のイベントは続きますが、少しだけ内容に変調があるということです。


というのも作者がこのまま秘鍵の探索と戦闘を繰り返すことに飽きたというのが理由なのですが、もう少し先の展開にと予定していた迷宮云々の話を繰り上げた次第です。


では、いつものように。

いつも本作を読んで下さりありがとうございます。

宜しければ評価、ブックマークをお願いします。

それでは次回の更新もいつものように金曜日になります。



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