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三つ巴の争奪戦 ♯.30『猛攻』

お待たせしました。今週分の更新です。

 魔方陣をくぐり抜けたその瞬間、周囲に大小様々な鏡の如く光や景色を反射する魔法陣が砕け散って生じた無数の欠片が舞った。

 暗い霧のなかに差し込む太陽の光や眼前で繰り広げられている毒の吸血候とムラマサたちの戦闘から漏れるアーツのライトエフェクトを反射に七色に輝く欠片に映る俺とアラドの姿は、それぞれの竜化した姿へと変貌していたのだ。


 舞い散る魔方陣の欠片に映り込む自分の姿はこれまでとは微かに違って見えた。

 白と赤の全身鎧に包まれた黒い素体だった自分の姿は今は赤と黒の全身鎧に包まれた白い素体に。

 細身の鎧に刻まれる紋様は何かの回路図のように全身に行き渡り、そのラインには仄かに光る青い光が宿っている。

 だが、基本的な造形は変わっていないらしい。欠片に映る自身の姿を見て、現在の自分の大体の性能を理解できた。


「多分、以前の竜化と大きくは違っていないはず。はっきりしているのはさっきのアナウンスにあったことくらいだろうけど……」


 数回拳を作ったり開いたりを繰り返しながら呟いた。

 この呟きの目的は自己確認が最たるものだったのだが、一応はもう一つ別の目的も含まれていた。それは俺と同じように竜化を果たしたアラドに対する確認。

 俺が知るこれまでの竜化した姿よりも一回り程大きくなったアラドは背中から生やした黒い大剣が変異した尻尾を地面に叩きつけながらより鋭く、より太くなった爪の備わっている自身の手を俺と同様に動かしている。


「アラドはどうなんだ?」

「ンだよ。ベツに問題ねェぞ」

「ならいいけどさ」


 アラドが竜となった顔を向けてきて頭の全てを覆う兜を身に付けている俺に告げた。

 フラッフが体と心に分かれ、それぞれを取り込んだノワルやクロスケが竜化の起点となっている今、フラッフの意思はどこに行ってしまったのだろう。そのようなことを考えていると不意に『わたしならここに居ますよ』という軽い声が頭の中に響いた。


「フラッフ!? お前、今どういう状況になっているんだ?」

『えっ、それって今気にすることなんですか!?』

「あ、まあ、違う、か?」

『そーですよ。いくらMPの自動消費が無くなって竜化の持続時間が延びたとはいってもあまり悠長に構えてはいられないんですからね。ほら見てください。なんか大変っぽいですよ』


 フラッフの言葉の通り、ムラマサやシシガミたちと毒の吸血候との戦闘は苛烈さを増している。

 だが、それでもと言うべきなのだろう。俺が最初に想像していたよりもムラマサとシシガミたちは善戦しているように見えた。

 銃形態のガン・ブレイズを構え、銃口を毒の吸血候へと向ける。

 引き金に指を掛け、魔力の弾丸を撃ち出した刹那、銃声とは違うダンっという一際大きな音が轟く。

 実体の無い弾丸が毒の吸血候を貫くまでを見届けることも無く、俺が視線を向けた先のアラドは尻尾のようになった大剣を強く地面に打ち付け、その反動を利用して天高く跳び上がっていた。


「オラァ!」


 振り下ろされたアラドの右手からは影のように黒く巨大な爪が伸び毒の吸血候を襲う。


「ぬぅぅぅ」

「シシガミィ!」

「任されよッ!」


 毒の吸血候が硬質化させた自身の爪でアラドの影の竜爪を受け止め動きを止めたその瞬間を狙い、シシガミがその肥大化した体による体当たりを繰り出した。

 凄まじい轟音を立て砂埃が舞い上がる。そうして訪れた一瞬の静寂は舞い上がった砂埃を吹き飛ばす衝撃と共に破られ、次に空から無数の魔法が降り注いだ。

 火の矢。氷の槍。風の刃。雷の弾丸。

 それらは全てプレイヤーによる攻撃であり、この場に居るムラマサやリンドウたちが放った攻撃であることは明白だった。


「むぅ、やるではないか。だが、まだ甘い」


 両手から連続して繰り出される影の竜爪の攻撃を片手で平然と受け止め、受け流していく毒の吸血候は残るもう一方の手で、今なお勢いを増加していくシシガミの突進を受け止めていた。

 ならば、空から降り注ぐ無数の魔法を毒の吸血候はどう対処したというのか。

 その答えは簡単。突然濃度を増した闇が物質を形作り魔法に向かい自爆特効を仕掛けたのだ。

 上空で巻き起こる無数の爆発は闇の物質とリンドウたちの魔法がぶつかり合った結果だ。毒の吸血候を外れた魔法が大地を削り隆起を引き起こしているのだから魔法の威力は十分なはず。


「まだ足りないというのか!?」


 そう驚いた声を出したのは額に一本の角を生やしたムラマサ。

 彼女は一振りの刀を携えたまま、眉間に皺を寄せて毒の吸血候を睨んでいた。


「俺の攻撃にも平然としてるんだよなぁ」


 剣形態で斬りかかる隙間などがない為に銃形態での攻撃のみに制限させられているとはしても、こうも平然とされては気分が滅入る。


「そもそも、何で竜化しないといけないんだ?」


 銃撃を繰り返しつつ、浮かんできた疑問を口に出した。


『それは普通の攻撃は当たる前に無効化されるからです』

「無効化だと!? 一介のレイドボスモンスターがそんな能力を持っているっていうのか?」

『とはいっても、限定的なモノのようですが』

「説明してくれるか?」

『分かりました。毒の吸血候の持つ無効化能力は魔力、マスターたちが言う所のMPを消費しない攻撃に対してのみ有効となっています』

「だからか」

『はい。闇を使い魔法を迎撃したのはそういうことです』

「ちょっと待て、だったら何故俺の銃撃が妨害される? あれも一応って言うか確実にMPを消費した攻撃だぞ」

『それは単純にガードされているからです』

「はあ? だって両手は塞がっているだろう」

『現在毒の吸血候が行使している防御は三種類あると想定されます。一つはご覧の通り両手を使った物理的な防御、アラド様とシシガミ様の攻撃を防いでいるのはこれに当たります。二つ目はムラマサ様たちの魔法を防いでいる闇の防御。そして三種類目が全身を覆う薄い防御壁。これがマスターの銃撃を防いでいるみたいですね』

「破る方法は?」

『簡単です。防御壁の防御力を上回る攻撃をすればいいのです。それにあの防御壁は先にお話しした物理攻撃を無効化するをより強めて多少の魔力攻撃を弾くようにしているのですから』


 思わず引き金を引く手を止めてしまった。


「ってことは何だ? 俺の攻撃は物理攻撃無力化に引っ掛かってるってのか」

『まあ、簡単に言えばそういうことですね』


 繰り返し行われる攻撃を受けても微量のダメージしか受けていない毒の吸血候に対し有効となる一撃。


「それは勿論これだよな。<インパクト・ブラスト>………あれ?」


 銃撃アーツを発動させようとして不発に終わった。


「どういうことだ?」

『竜化が変化してこの状態で使用できるアーツ名に変化があったみたいです』

「悪いけどコンソールを開いている余裕はないんだ。どうすれば使えるかだけ端的に教えてくれ」

『キーワードは<バースト>です』

「助かるっ。<インパクト・ブラスト・バースト>!」


 俺の右手にあるラインの光が強くなる。

 光は腕から手、指先を伝いガン・ブレイズへと広がっていく。

 そして光はガン・ブレイズの銃口から波紋のように広がっていくと、そこには淡く光る青色の輪が出現していた。

 引き金を引いてから一拍の間を置いて放たれた光はこれまでに俺が使っていた必殺技(エスペシャル・アーツ)に匹敵するとまではいかないが、それに近しい威力を秘めているように感じた。

 加えて消費したMPは通常時の<インパクト・ブラスト>と同程度。

 この時ばかりは竜化が持つポテンシャルの高さを実感せずにはいられなかった。


「なっ、何故だ」


 俺が相対してから初めて毒の吸血候が見せた動揺と明確なダメージだった。

 ガン・ブレイズの銃口を下げ、呼び出したコンソールを確認した。俺が見たのは所持しているスキル一覧でも、そこにあるアーツの一覧でもない。竜化をもたらす<ブースト・ハート>の項目だ。

 見たかったものはただ一つ。フラッフが言った<バースト>の詳細。

 思えば俺が竜化して放つことの出来る必殺技<ブレイキング・バースト>にもあるその単語は全てのアーツに付随するようになっていた。

 威力特化、速度特化、それから範囲特化。それら全てのアーツに対してだ。


「アラドっ!」


 俺の竜化に変化があったのならばアラドの竜化にも変化があるはず。

 再び毒の吸血候に銃口を向けながら叫ぶ俺を一瞥しアラドはその竜の顔で微笑ったように見えた。


「行くぜェ」


 毒の吸血候と拮抗しているアラドが押し始めたのだ。

 まるでブースターのように両手の手甲から影を吹き出す様は竜が炎の翼を羽ばたかせているかの如く。

 反対側から押し続けているシシガミの足が微かに地面に亀裂を入れ、勢いを増したアラドをも受け止めている。


「ぐっ、うぅぅ」

「どうした? さっきまでの余裕はないようだな」

「な、なにぃ」


 荒々しい面持ちのシシガミが自身の前にいる毒の吸血候を嘲笑うかのように告げた。


「おっと、俺を忘れンじゃねェよ」


 苦悶の表情を浮かべる毒の吸血候にアラドが三本目の腕とでも言うべき尻尾を突き立てた。


「うぐっ」

「ほォ、テメェも痛みを感じるみてェだな」

「馬鹿にするなっ」

「してねェよ」


 毒の吸血候の腹部をアラドの尻尾が横一文字に斬り裂いた。


「がっ、だ、だが、この程度のダメージなど……」


 ダメージを受け慣れていないのか苦悶の表情を浮かべてはいるが、毒の吸血候のHPで減少したのは未だ二割程度。

 普通のレイド戦やボス戦ならば二割のダメージは切っ掛け程度に過ぎない。それに加えて自己の回復手段を有する毒の吸血候ならば殆ど意味が無いダメージだとすら言える。

 辺りに広がる闇がまたしても小型の蝙蝠のように姿を変えた。


『マスター。回復させるわけにはいきませんよっ』

「分かっている」


 銃撃を止め駆け出した俺は隆起した大地の一つを使い跳ぶ。


「<バースト>で威力が上がったのが威力特化だったからなのだとすれば…」

『何をする気なんですか!?』

「見てれば分かるさ。<サークル・スラスト・バースト>」


 咄嗟に変形させた剣形態のガン・ブレイズで空中での回転切りを放った。

 全身を巡る光は先程の銃撃アーツの時と同様に腕からガン・ブレイズの刀身へと広がる。

 そうして青い軌跡を描く斬撃は周囲の蝙蝠を根こそぎ吹き飛ばした。


「思った通り!」

『すごいです。これなら回復されることは無さそうですっ』

「――っ、だが、まだ逃した分が…」


 <バースト>を得て慣れないからだろうか。僅かにアーツの軌道から逃れた蝙蝠が一目散にと毒の吸血候へ飛んで行くのが見えた。

 生憎と俺は攻撃を放った直後。どうにか銃形態に変形させることは出来たとしても、そこから狙いを定めて蝙蝠を打ち落としていくことは出来そうにない。


『大丈夫そうですよ』


 脳裏に過るフラッフの声にあるように、俺が逃した蝙蝠はリンドウたちの魔法によって全て撃ち落とされていった。


「ぐぅうっ、馬鹿なっ」

「ふむ。当てが外れたようだな」

「貴様らァ」

「だから余所見してンじゃねェよ」


 HPの回復が叶わず恨めし気な視線を向ける毒の吸血候に対し、アラドとシシガミは勢いよくその拳を、竜爪を振り下ろした。


「もう一発だ。<インパクト・ブラスト・バースト>!」


 二度目の銃撃アーツが毒の吸血候の肩を撃ち抜く。

 血のように闇を撒き散らす毒の吸血候が再び苦悶の声を漏らす。

 俺たちの攻撃はまだ続く。



毒の吸血候との戦闘決着篇その1です。

一応あと一、二回でこの戦闘にはケリをつけるつもりなのでそれ程長くはならないはず。

というわけで、次回の更新も金曜日。

またここでお会いしましょう。


いつも本作を読んでいただきありがとうございます。

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