三つ巴の争奪戦 ♯.21『討伐とタイムリミット①』
申し訳ありません。
今回はかなり短いです。理由はあとがきに。
「ユウ! 落ち着け。今はこっちに集中しろ」
「解ってる。けど!」
僅かな回復と減少を繰り返す自分の視界に映るアラドのHPバーが何度も俺の集中力を削いでくる。
それでいてスワンプ・ゴーゴンの攻撃は緩まることなく、熾烈さを増しているばかり。
曲刀が空を切るのも、尻尾による叩きつけが外れるのにも構うこと無いその様子を見るに自身の攻撃による反動ダメージというものは一切発生していないのだろう。
「頭部の蛇が来るぞっ」
ムラマサが右手の刀を大袈裟に横に振ったその瞬間、氷の斬撃が迫るスワンプ・ゴーゴンの頭部の蛇を薙ぎ払う。
それでもムラマサの氷を抜けた蛇は存在し、それらの多くは俺を狙ってきた。
「噛まれるなよ」
氷の斬撃を放ったままの体勢で振り返ることなく俺にそう告げたムラマサは左手に持たれたもう一振りの刀を下から上に切り上げた。
左の斬撃が生み出したものを一言で表すのならば光。
不可視ではなく可視の光の斬撃。
色合いで言うならば黄色や白が混ざった色だろうか。
この斬撃がスワンプ・ゴーゴンの尾を傷つけ、鱗と一緒に血飛沫代わりのポリゴンを撒き散らした。
「流石だな」
その威力もさることながら、俺が驚いたのはムラマサがアーツ発動の際に声を発していなかったからだ。これまでは氷の斬撃を放つときには「凍れ」と言うようにキーワードを発していたが、今は無言で切り払っただけだった。そして放つ斬撃の種類は左右の刀によってそれぞれ一種類しかなかったのもまたこれまでとの違いだった。
予想するに発動するアーツを限定することによってアーツ発動の際の発声を簡略化しているのだろう。
目の前で繰り広げられたムラマサの攻撃のすさまじさに関心しつつ、俺は自分に迫っている蛇にガン・ブレイズの銃口を向けた。
≪マルチスタイル≫スキルレベルが上がったおかげだろう。これまで銃撃と剣撃で強化を変えなければならなかったのに対して、今は<ブースト・ブレイバー>一つで両方の形態に対応した能力値が上昇している。
アーツの説明欄には攻撃力と速度の上昇と簡単に記されているが、この攻撃力が二つの形態に対応しているのは嬉しい誤算だった。
それに加えて自身のレベル上昇によって命中率も上がっている。
迫る蛇を的確に撃ち抜いていくことが出来ているのはまさにこの恩恵だと言えるだろう。
「それにしても……コイツ、あまり強くないのか? いや、違うか。攻撃は強いみたいだし」
実際、自分たち以外のパーティの戦闘を見る限りでは、早々にスワンプ・ゴーゴンの攻撃をまともに受けて戦闘不能になってしまっているプレイヤーもちらほら見受けられた。
そのパーティが全て低レベル帯のプレイヤーだけというはずもなく、やはりスワンプ・ゴーゴンは強いモンスターなのだろうが、俺が攻撃した感触やムラマサの光の斬撃を受けてよろめく様を見ると、自分の抱いた感想にすら疑問を感じずにはいられなかった。
疑問を解消するヒントは目の前にある。
対峙しているスワンプ・ゴーゴンを観察していれば自ずと分かるはずなのだ。
「普通の攻撃でもダメージを与えられるかどうかだけど……」
ムラマサが氷や光の斬撃を放つ最中、俺はアーツを使わずに銃撃を続けた。
目的は通常攻撃でも効くがどうかの確認だ。
そしてその確認は滞りなく終わった。通常攻撃でも問題なく効果があると判明したのだ。
「でもアーツを使った方がダメージは大きい、か。まあ、当然だよな」
当たり前のことが当たり前になっていることに安堵しつつ、俺は目の前のスワンプ・ゴーゴンを睨みつけた。
こちらの攻撃が効くことはよかったが、それで状況が好転するかというと、そうではない。
相も変わらずスワンプ・ゴーゴンの攻撃は苛烈を極めるし、威力も高い。そして俺たちの攻撃は効くとはいえ与えられているダメージはそんなに多くはない。
結局の所プレイヤーとモンスターという存在の違いがそのまま能力の違いとして露呈しているような形だった。
だが、それはある意味普通の事と言える。
常にフィールドに出現している雑魚モンスターでもない限り、プレイヤーよりもモンスターの方が強くなるように設定されているのだ。より戦い応えがあるようにという運営側の配慮だという話だが、実際にプレイしている俺たちからしても程よく強敵と戦えると好評だった。
ガン・ブレイズによる銃撃を続けてスワンプ・ゴーゴンのHPを削っていく。
「妙、だな」
通常攻撃の最中、時折アーツ<インパクト・ブラスト>を発動させてより多くHPを削っているのだが、終わりが見えてこない。
確実にHPバーを減らしているのは視認できているから疑いようはないが、これまで五分近い戦闘を経てもまだ七割近く残されていることが僅かながら焦りを生む。
それに加えて、スワンプ・ゴーゴンのHPバーの上に重なるように現れた砂時計型のアイコン。時間と共にその砂時計に砂が満ちていっているような気がしてそれもまた俺の焦燥感を駆り立ててきた。
というわけで今回短い言い訳でも。
実は自分は北陸在住でして、今回の大雪にあたり雪かきに本来執筆している時間を当てるしかなかったのです。
ニュースでは峠は越えたとのことなので、次回はいつも通りの文量になると思いますが、今回はこれでどうかご容赦願いたいと思います。
では、次回。
更新はいつものように金曜日に出来ればと考えています。