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三つ巴の争奪戦 ♯.17

かなり遅れましたが、あけましておめでとうございます。

今年最初の更新です。

『ユウ! 大変なんです。どうすればいいですかっ!?』


 切羽詰まったようにヒカルが告げたその一言を耳にした俺とムラマサは自ずと互いに顔を見合わせていた。

 唯一平然としているのはアラドくらいのもので、俺たちのギルドではないないリタですら心配をしている視線をこちらに向けてきている。


 それから数分間、俺はヒカルの話を聞くことに徹した。

 要領を得ない説明などということはなく、簡潔とまではいかないもののいま起こっている問題を伝えてくれた。


 ヒカルの話を簡単に纏めるとこうだ。

 まず、ギルドで管理しているクロウ島の運営自体は順調だということ。そして、それが一番の問題であるということだった。

 順調であるが故に様々な仕事が積み重なってしまい人手が回らなくなってきてしまっているということらしい。その原因はクロウ島の運営という点に対して俺たちプレイヤーが素人すぎたこと。

 それも仕方ないことだと思わなくもないが、現実問題その一言で済むはずもなく、こうして俺に連絡をしてきたというわけだ。


 無論それはギルドの施設であるクロウ島を放り出して一人勝手に――まあムラマサも一緒にいることはいるが――行動していることが影響していないとは言わない。

 ただ、クロウ島の運営ために自分たちの自由なゲームプレイを阻害されてしまっては本末転倒だと思う。そのことはギルドの皆にも話してあるし、理解も得ていた。だからこそ島の運営はやりたい人にだけ任していたのだが、それではどうにもならなくなってしまう時期が来たということのようだ。

 いつかはこうなってしまうだろうと予期していなかったわけではない。自分が想像していたよりは幾分か早い印象もあるが、俺はこういう時に言おうと決めていたことがあった。

 それは、島の運営をクロウ島で暮らしているモンスターハーフのNPCたちに全面的に受け渡してしまうこと。

 当初モンスターハーフの数が足りずまだ遠い話だと考えていたのだが、ギルドメンバーの手が回らなくなってしまっているのでは意味が無い。

 遊びが遊びで無くなっては意味がないのだ。


 そういう訳でモンスターハーフたちに全面的に受け渡すことをヒカルに提案してみたのだが、返ってきたのはあまり芳しくない反応だった。

 なんでも積極的にクロウ島の運営をしているボルテックやそれを手伝っているリントの楽しみを取り上げてしまうかもしれないと言って来た。第一NPCたちもそれほど人数に余裕がある訳ではないらしい。

 元々クロウ島で暮らすことになったモンスターハーフというNPCたちだが、その理由は数が少ないことに加え同族である魔人族から迫害を受けていた避難先というのが発端の理由だった。それが今ではクロウ島を運営するには欠かせない人となり、モンスターハーフたちも島を訪れる他の種族と接している内に普通に応対することができるようになっていた。そういう意味ではモンスターハーフたちには不安材料はないということになる。となれば残る問題はやはり自分たちの気持ちと慢性的な人手不足だろう。


 だとすれば、このタイミングでこのような状況になったのは良かったのかも知れない。そう考えながら俺は近くで今も不安そうな目を向けてくるリタにある提案してみることにした。


「島の運営にもリタの商会ギルドの手を貸してくれないか?」


 実の所クロウ島の物の流通は自給自足では補え切れていない。だからこそ、俺たちは島の潤沢な資源を対価にしてリタのいる商会ギルドの手を借りているのだった。

 解りやすい所で言うとクロウ島に作った町にある店の半数以上が商会ギルドの息のかかった施設だったりする。これは店舗を構えるような店に限らずちょっとした露店も含めての割合だが、クロウ島の物の流通の大半は商会ギルド無しでは破綻してしまうと言っても過言ではない状況だった。

 当初俺たちはもう少しこの割合を減らすことも考えていたのだが、いずれ今のような状態になってしまう危険性も考慮して敢えてそのままで放置することにしたのだ。


「どうだ? 多分そっちにとっても悪い話じゃないと思うんだけど」

「うーん、ちょっと待って。それは私一人で決められることじゃないから」

「だろうな。でもこれは俺の勘だけどさ、俺がこれを言い出すかもしれないことをパイルは気付いていると思うぞ。なにせ島に出す店舗の数について一番口を出してきたのがパイルだったからな」


 俺が商会ギルドを優先的に島に招いていた理由は大きく分けて二つ。一つは顔見知りということもあって比較的安全に町の流通に交ぜても大丈夫だと思ったこと。そしてこれが一番の理由だが、リタたちが作った商会ギルドはプレイヤーたち、それも生産を行うプレイヤーにとってかなり大きな存在になっていたからだ。

 これも当然のことだが、大きな存在になればなるほど要らぬ軋轢も生じてくるのだと思う。例えば商会ギルドの属していないプレイヤーとの摩擦であったり、商会ギルド内のプレイヤー間の衝突であったり。

 それらを解消する手立ては幾つかあるが、最も簡単なのは住み分けだろう。

 俺たちのクロウ島はイベントで手に入れたばかりの言うなれば新参のエリアだ。当然のようにそこには根付いている店舗は無く、また俺たちのギルドが小規模だったということもあって懇意にしている店もプレイヤーも居ない。強いて言えばリタたちがそれに当たるのだろうが、実の所大半の生産作業を俺が担当し、簡単なポーション類の調薬はギルドで雇っているNPCのベリーとキウイに任せることも珍しくない。それに加え元々個人(ソロ)で活動していたプレイヤーが集まって出来たギルドだからだろう。武器や防具の調整や修理はそれぞれがソロの時代に仲良くなっていたプレイヤーに任せることは多かった。


 そういうこともあってクロウ島という場所は未開拓の商業エリアとして成り立つのだった。


「うん、パイルはOKだって。細かい調整はパイルが直接島に行ってから相談したいんだってさ」

「ああ、わかった。後はこっちで――」


 パイルの思わぬ即決だったこともあって、ボルテックたちとの相談が途中になっていたことを今更にして思い出した。

 繋いだままになっているヒカルとのフレンド通信で俺はボルテックたちに今リタと話したことの概要だけでも伝えておいて欲しいと頼んだ。


「さて、そういう訳だから一度島に行く必要があるんだけど、二人はどうする? ムラマサはともかく、アラドは俺たちのギルドに直接関係してないんだから別に俺に付き合って貰う必要は無いんだぞ」

「そうだね。オレはユウに付いて行くよ。一応ギルドに関することのようだからね」

「アラドはどうするんだ? さっきも言ったけど無理に付き合う必要はないんだぞ」

「ンなら一度ここで別行動にさせてもらう」

「パーティはどうする? ここで一旦解散するか?」

「今のままで構わねェよ」

「まあ、アラドがこのままで良いってんなら良いけど」


 実際、ここでパーティを解散するメリットはない。まあ、パーティを組んだままにするメリットすら無いも同然なんだけど。


「そんなに時間は掛からないと思う。秘鍵のイベントの途中だしな」

「あ、そうだ。今オレたちが持っている秘鍵はアラドに渡して置くことにしよう。クロウ島ではおそらく無用の長物だろうからね」

「分かった。俺の分も渡しておくからサラナの町で使うなり、適当な陣営に納品するなり好きにしてくれ」


 そう言って俺とムラマサはそれぞれ自己のストレージにあった秘鍵を全てアラドに渡した。


「リタはどうする? パイルが来るならリタまで来る必要は無いと思うが」

「ん? 私も二人と一緒に行くつもりよ」

「そうなのか?」

「だってどう見てもユウくんとムラマサさんの防具ボロボロなんだもん。防具屋としては無視できないわ。あ、アラドくんは後でいいかな? 二人よりはダメージ無いみたいだから」

「好きにしろ」


 今の俺とムラマサ、それからアラドの防具は俺ができる範囲で修理したつもりだったが見る人が見れば解かってしまうらしい。

 俺はなんとも言えない恥ずかしさを感じながらも平然を装い、


「それならクロウ島で修理を頼むよ。設備は俺の工房を使ってくれればいいし、素材もそこにあるのは好きに使ってくれていいから」と伝えた。


 そうして俺たちはサラナの町に設置されている転送ポータルを使い、クロウ島へと赴いた。

 島でのパイルたちとの相談事はあまりに地味なので割愛することとして、結果だけ記すとこうなった。


 まず、島の運営に関してだが、基本的にモンスターハーフたちに任せることになった。とはいえ人手が足りないことには変わらないので、俺たちのギルドからは引き続きボルテックとリントが運営の手伝いをすることになった。

 これに加えて商会ギルドからも数名、島の物の流通や交易に関してを取り仕切る人員が割り当てられることになった。だが、商業に関することの全てという訳では無く、あくまでもモンスターハーフたちの手助けの範疇に収まるように自重してもらうことになったのだが。


 これまでと大きく違うことと言えば、俺たちのギルドが島の運営の決定権の殆どを手放したことだろう。

 全てを手放さなかったのはクロウ島には引き続き俺たちのギルドホームがあるし、それに加えて未だ島の両端にあるモンスター出没エリアが関係する。

 クロウ島には他の町には無い冒険を取り締まる施設がある。それは島の両端にあるモンスター出没エリアが難易度ごとに一定の区画で分かれており、それらに挑むためのレベルにざっくりとした制限を設けていた。それらを管理するのもこれまでは俺たちのギルドとNPCたちが協力して行ってい居た事だったが、これからは違う。

 具体的に言うならばサラナの町ではなくプレイヤーが最初に訪れることになるウィザスターの町にあるギルド会館から数名のNPCを招くことになった。俺たちのギルドでギルド会館のNPCを雇う形になったが、実際に雇用しているのはクロウ島で、その報酬は島の運営費から賄われることになった。

 後はそのNPCに仕事を仕込めば俺たちのギルドが担っていた仕事の大半の引継ぎは終わる。

 こうして自分たちの手を離れたクロウ島は本当の意味でこの世界のエリアになったような気がした。


 それから俺とムラマサはリタに防具の修理を任せて一時の休息を取った。

 防具の修理が終わったのは時間にして一時間が経った頃。ギルドホームにある俺の工房から出てきたリタは何故か晴々とした表情をしていた。その理由は直ぐに察することができた。

 リタが俺たちに渡してきた防具が新品同然に修理が施されていることに加え、見慣れない加工が追加されていたからだ。


 この加工は防具の装飾に施された彫刻のようなもので、手でなぞれば微かな凹凸を感じ取ることができた。


「これは?」

「私が最近するようになった彫金よ。決まった彫刻を施すことで防具の性能を高めることができるの。そうだね、ムラマサさん持つ刀の鞘にあるのと似たようなものだと思うよ」

「これかい?」

「そうそう」


 リタが告げたムラマサの刀の鞘にあるそれは俺が持つガン・ブレイズの刀身にあるものと似ていた。しかし、これは俺が自ら施したものではなく、スキル名が≪ガン・ブレイズ≫になった時に自然と浮かび上がってきたものだ。

 そのことを伝えるとリタは珍しいものを見たと言わんばかりにまじまじとガン・ブレイズを観察し始めた。


「その紋様に特別な効果は無いのは間違いないと思う。だからこの防具やムラマサの鞘にあるのとは違うな」


 むしろ何か効果があれば良かったのにと思わなくもない。


「ま、別にいいけどさ」

「それで、これからどうするんだい?」

「俺たちはとりあえずアラドとの合流だな。この短時間で何か問題を起こしてるとは思えないけど……」

「それはフラグなんじゃ……」

「ははっ。まさか……」


 リタの一言に対する乾いた俺の笑い声がギルドホーム内に虚しく響く。

 そしてフラグは回収するもの。

 視界の左端にあるアラドのHPバーが一瞬でレッドラインを割ったのだった。



一週間多めの更新間隔が空いてしまいましたが、こうして今週も更新できました。

前回の引きの続きにしてはわりとさっぱりとした結果になったような気がしますがいかがでしょうか。

今回はあまり内容に触れるのではなく、今後の事でも。

とはいえ、今後も変わらない更新ペースを維持するつもりですが。

一応それに加えて、各話のサブタイトルなどを追加しようかどうか考え中なのです。もしかするといきなり各話にサブタイトルが付いてるかもしれないのであしからず。

中々話数が増えたので一朝一夕にはできないと思いますが。


では、次回の更新は一週間後。

今年も本作をどうぞよろしくお願いいたします。

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