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三つ巴の争奪戦 ♯.14

お待たせしました。今週分の更新です。

 イベント二日目。少し早い昼食を終えて月の里へと再度ログインしてきた俺はボロボロのガン・ブレイズの修理よりも自身のステータスの確認を優先することにした。

 ちなみに集合時間を明確に決めてなかったからなのだろう。ムラマサとアラドはまだログインしてきてはいないようだ。それはフレンド欄にある二人の名前が灰色のままであることからも疑いようがない。


 手元に呼び出したコンソールに映し出されている自身のステータス画面を見下ろしながら呟いた。


「――レベル58か。思ってたよりも上がってるな」


 亡者共とリョウメンスクナを倒したことによりレベルが上がったのだろう。昨日は余裕が無くて詳しい確認をとってはいなかった為にここまでの上昇幅があるとは考えてなかった。


「スキルポイントも37ポイントも残ってるまま、か。これなら新しいスキルを習得することも容易そう――いや、違うな。それよりも――」


 スキルを新しく習得するよりも今覚えているスキルのレベルを上げた方がいい。それは以前アラドに言われたことだ。なんでもランクを上げられるようになった現在、スキルの種類を増やすのはランク0からランク1の序盤までにした方がよく、それ以降は習得してあるスキルのレベルを上げることに集中するのが効率がいいのだと言っていた。

 確かに無暗にスキルの種類だけを増やすよりもいいと俺も納得したのだ。


 とりあえず、現在パラメータの確認は置いておくとして今の俺が覚えているスキル一覧を呼び出した。


 まずは専用スキルである≪ガン・ブレイド≫と≪ガントレット≫。スキルレベルは前者が7で後者が3だ。

 それに加えて戦闘で最もお世話になっている≪マルチ・スタイル≫のスキル。このスキルレベルは意外と低く4だった。

 次は各種パラメータ上昇系のスキル。≪HP強化≫≪MP強化≫等々だ。これらのスキルレベルは7でレベルを上げるのを止めてある。スキルレベルが上がることによる上昇値が少なくなっていたのが理由だが、ポイントに余裕があれば最大値であるスキルレベル10にまでするのも悪くないかもしれない。


 次に生産系のスキルである≪鍛冶≫や≪細工≫≪調薬≫≪調理≫だが、これらは後回しにするつもりだ。現状に不満は無いし、そもそも最近は腰を落ち着けて生産活動を行えていない。自分の専用武器の修理ができなくなってしまうのでは考え物だが、現時点でそうなる気配はない。

 残すは≪魔物使い≫のスキルだが、これもフラッフとの繋がりが保てていられるだけで目的は果たしているも同然なので今回はスルーだ。


 ということで所持しているポイントでスキルレベルを上げるのは専用スキルの二種と≪マルチ・スタイル≫それから各種パラメータ上昇系。

 その中でも優先するべきなのは、と考えて俺は専用スキルのレベルを上げた。


 最初に≪ガン・ブレイド≫

 消費したスキルポイントは3。これによりスキルレベルが10になったのだが信じられないことに新規のアーツを習得することは無かった。

 新規アーツ習得が無かった代わりなのだろうか、コンソール上に見慣れない表示が浮かんできた。

 それは『スキルが最適化されました』という一文。この一文が浮かんだ直後≪ガン・ブレイド≫だったスキル名が≪ガン・ブレイズ≫へと変化したのだ。

 スキルが変化した影響なのだろう。設定以上の威力を持った必殺技を発動させた影響でくすんでしまっていたガン・ブレイズの刀身と銃身に竜の翼のような紋様が刻まれた。


 次に≪ガントレット≫だ。元がスキルレベル3だったために消費したポイントは7。先のスキルと合わせて10ポイント消費したことになる。とはいえ、最初が37ポイントもあったのだ。10ポイント消費した所でまだ27ポイントも残っているから安心だ。

 このスキルも≪ガン・ブレイズ≫と同じようにスキルレベルが10に到達した段階で先程と同様の一文が出現し、その名称を≪魔導手甲≫へと変化させたのだ。

 俺にとって朗報だったのは≪魔導手甲≫は習得していたアーツ〈連盾・エアトス・シールド〉一式、二式、三式だったものがそれぞれ、発動時間が短い〈ショート・シールド〉効果範囲の広い〈ラージ・シールド〉防御範囲は〈ショートシールド〉と同じだが発動時間に僅かなラグがある反面、防御力が高い〈タワー・シールド〉の三種に別れた。


 それから≪マルチ・スタイル≫のスキルだがこれもスキルレベルを4から10にした。これによってアーツ〈ブースト〉の種類にも変化が生じ、攻撃特化である〈ブースト・ウォリアー〉が〈ブースト・ブレイバー〉に。防御特化の〈ブースト・ディフェンダー〉が〈ブースト・フォートレス〉へとなった。変化したことによる内容の変化というものは該当パラメータの上昇値の増加と持続時間の延長。説明文を読む限り、平均的な戦闘に要する時間一杯は強化を持続できるようになったようだ。


 さらにもう一つ。これまで使用できる強化使い分けることの出来る強化の数は二つだった。しかしスキルレベルを10にしたことで三つ目の強化を使用することが可能になる、強化種選択のスロットの増加が発生した。

 増えたスロットに宛がう強化はレベルアップ時に追加で習得したいくつかの強化の中から選択する。ここで俺が選んだのは速度強化である〈ブースト・ソニック〉。前の二つの強化に比べると防御力と攻撃力の上昇は僅かなものだが、その反面、射撃能力と速度に上昇が見込める強化となっている。

 射撃能力で言うなら命中率の増加がそれに当たる。


 速度特化の強化を選択したのがきっかけだったのかどうかは不明なのだが、この時、俺の身に意外な変化が生じていた。それは≪ガン・ブレイズ≫で使えていた〈オート・チャージ・リロード〉が〈オート・リロード〉と〈チャージ・リロード〉の二つに分離したのだ。

 今回の変化による影響は実際に戦闘を行って見なければ確かなことは言えないものの、名称だけでもその効果の輪郭は理解できた。


 これまで自動的に行われていた弾丸の補充はそのままに、必殺技発動の為に引き金を引く行為がアーツの一つとして確立されたようだ。これだけではあまり変化が無いようにも思えるが、このアーツが普通の攻撃や通常のアーツ攻撃にも適応されるのならば話が違ってくる。

 MPを追加で消費することでダメージの増加が望めるのだ。攻撃手段に乏しい俺だからこそその恩恵は他のプレイヤーの何倍にも感じられた。


「残り21ポイント。基礎能力系のスキルレベルを最大にするなら出来るのは七つだけ、か」


 俺が習得しているのはHP、MP、ATK、DEF、INT、MIND、SPEED、DEXの八種。

 このうちの一つのレベルを上げられないことになるが、だとすれば候補はDEFかMINDになるだろう。

 防御するよりも回避。

 防御する時は≪魔導手甲≫にある〈シールド〉アーツを使うことになるし、その防御力は俺のDEFとMIND準拠になるはずだとしても、重要度の高い物から順々に選んでいった結果そうなってしまうのは仕方ないことだ。


 まず重要度の高い≪HP強化≫と≪MP強化≫を最大レベルにする。すると俺の視界の左上にある自身のHPバーとMPバーに重なって見える数字がそれぞれ8020/4460へと上昇した。装備している防具の影響を差し引いて計算するとこのスキルによる加算値の最大はHPが5000でMPが3000となっているようだ。


 次いでATKを上げてから順にスキルレベルを10にしていった。

 パラメータの実数値は各800オーバーになり、レベル58ランク1にしてはかなり高い数値になっている。


「……ふぃぃ。よしっ、次だ」


 僅かな時間で0になったスキルポイントの欄を見て小さく溜息を吐き出してから気持ちをガン・ブレイズの修理へと切り替える。


 月の里の里長の家に備わっている工房へと進み、そこに置かれてある道具の確認をしていく。

 金床や炉はギルドで使用しているもののよりも小型だが問題無い。作業机は倒れていたが壊れていないので起こせば使える。

 金槌等の鍛冶道具は常に持ち歩いているのでこれまた問題ない。綺麗な水が必要になるが、ここは人里離れた隠れ里のような場所だ。家の裏にある井戸から汲み上げた水もどこぞのミネラルウォータのように澄んでいた。


 致命的な問題点は無いと判断して俺はストレージから貯めておいた鍛冶素材を取り出す。

 眼前の作業机の上に並べられていく色彩鮮やかな鉱石は既にインゴット化済みですぐにでも鍛冶を行えるようになっている。


「使うのはコレとコレ、それからコレもか」


 赤、黒、それから銀色のインゴットを手に取っていく。

 ≪鍛冶≫スキルの恩恵か、俺は工房という空間に足を踏み入れ机の上に武器を置くことでそれの強化や修理に使用する素材を知ることができた。

 これは生産職、それもある程度の経験を持つプレイヤーならではの感覚のようで、判別できることを話した時理解を示したのは同じように長い期間生産を行ってきたプレイヤーだけだった。


「ん、そろそろ炉もいい感じになったな」


 轟々と燃える炎の中に黒いインゴットを入れる。

 俺はインゴットを加熱している間にガン・ブレイズの分解を始めた。


 ゲーム世界の仮想の武器であり本物の銃ではないのでかなり簡略化された分解になる。解れるのはおおまかに分けて刀身、銃身、グリップ部分の三つ。実弾を使う銃であったのならばこれにマガジンやシリンダー等が加わるというわけだ。

 とりわけ俺の持つガン・ブレイズは魔力銃という特性がある。MPを変換した弾丸を込めておく場所はグリップの内部であり、その構造も機械的なものではなく魔術的なものとなっている。詳しく言えばグリップの側面に刻まれた複雑そうな紋様がそれだ。

 銃身の構造もシンプルで弾丸を安定されるライフリングなんかは無く、銃身内部には幾つかの魔術回路らしい紋様が刻まれているだけだった。

 刀身には先程スキルの最適化が行われた時に生じた紋様が刻まれているだけで他には何もない。元々剣であるそれに奇を衒った細工は必要ないと感じていたし、俺のガン・ブレイズの刀身は剣ではなく刀のような片刃の形状をしている。ある程度は打ち合える強度を残しつつも、切るよりは斬ることを重視した刀身には余計な細工はいらないのだ。打ち合える強度という懸念材料も不懐特性のある精霊器へとなったことで解決したことで今はより斬れるように研ぎ澄ませていくことに集中するようになっていた。


「まずはこれで銃身のダメージの補修だな」


 炉から取り出した溶けた黒いインゴットを小さな鉄製の酌で掬い銃身に掛ける。

 ジュっという音を聞きながら冷え固まった場所を研磨していく。本来の銃の整備とはかけ離れた修理方法だが、ゲームとして現実そのものの工程を再現するのは阻まれたということなのだろう。あるいはスキルさえ習得すれば誰でも出来るようにと言う配慮なのかもしれないが。


 何はともあれ俺はこの世界の方法で銃身を修復していく。


 徐々に本来の輝きを取り戻していくそれに満足しながら修復残しが無いように念入りに溶けた黒いインゴットを掛けて磨いていく。

 そうして出来上がった銃身は黒と銀の混色のような色合いに出来上がった。


「次は刀身だな」


 簡略化された鍛冶は驚くほどさっくりと終わる。

 時間が掛からないようにした理由としては前に言ったものの他にもう一つ、NPCの鍛冶師に頼んだ時に待つ時間を省略するためというものもあるのかも知れないと俺は考えていた。なにせ興味のない人にとっては一刻も早く冒険に出たい気持ちにブレーキを掛けてしまうものになりかねないからだ。


 生産を行いたいプレイヤーとそれに一切の興味がないプレイヤーとの感情のバランスを保つのは難しいだろうなと思ってしまうのは俺も自分が生産を行うプレイヤーだからなのだろう。


 そんなことを考えつつ、作業机の上に置かれている銀色のインゴットを炉に入れた。

 数分で真っ赤に加熱されたそれを取り出すと金槌で叩き始める。

 棒状だったインゴットを板状に。

 板状になったそれの上にガン・ブレイズの刀身を置き折り畳むようにしてインゴットで刀身を包み込むことで準備完了だ。


 加熱と冷却を繰り返しながら、金槌で叩き元の刀身の状態へと形を作っていく。

 これに関してもシステム的なアシストが働くことでそれなりのスキルレベルと必要とするパラメータを有していれば失敗することは無くなっていた。

 出来上がった刀身はこのままでは剣の形をした棒でしかない。ここから研磨して鋭さを出していく必要がある。


 金ヤスリで粗削りして表面のデコボコをなくしていく。

 両面をあらかた平面にすることができればあとは砥石の出番となる。

 砥石に関しても現実のように段階によって砥石の種類を変えていく必要はなく、砥石というアイテムを用いることで行うことが可能だ。

 一応砥石に関しては高級品や粗悪品等の差異が見られるが使い方には違いが無い。


 表裏どちらも綺麗に研ぎあげて刀身が完成した。

 銀色のインゴットを使用したからなのだろう。刀身はくもり一つない銀色に輝いている。


 ガン・ブレイズ修復の最後はグリップ部分。

 使うのは赤色のインゴットだ。


 炉に入れた赤色のインゴットは真紅に染まり、ドロドロに溶けた。

 グリップ部分の補修方法は銃身と同じやり方だ。

 溶かしたインゴットを掛けて研磨する。

 出来上がったグリップ部分の色は赤ではなく、黒と銀の混色という銃身と同じ色合いで完成した。


「一応魔導手甲も直しておくか」


 先の戦闘ではそれほど損傷を受けていない武器ではあるとしても、全くダメージが無いわけでもない。必要なインゴットも手持ちの中にあるのだから、しておいた方が良いだろう。

 ストレージから取り出した鉄色のインゴットを溶かし損傷個所を補修していく。


 程なくして二つの専用武器の修復を終えて、次は防具の修復を始める。といっても布製の部分の修復を出来るスキルも技術もない俺ができる事は防具の端々にある金属製の防具の修理がせいぜいだ。

 まだ使用不可状態になるまでかなりの余裕があるのが幸いだとしても、何時かはリタの元へ修復を頼みに行かなければならなくなる気がする。


 自分に出来る範囲で防具の修復を終えた俺はそのまま月の里の里長の家で二人がログインしてくるのを待つ。


 二人が揃ったのはそれから一時間が経過した頃となった。



イベント二日目開始です。

とりあえずは前回にもあったように秘鍵の納品から始めたかったのですが、その前段階である装備の修復だけで一話使ってしまった。


何がともあれ更新は来週も続きます。


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