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三つ巴の争奪戦 ♯.11

お待たせしました。

今週分の更新です。

 八回目の引き金を引く音が鳴る。

 減少するMPをチラ見して俺はガン・ブレイズに蓄えることの出来た今の威力を想像した。このままでもそれまでにない程強力な一撃を放つことができるだろう。けど、それだけだ。リョウメンスクナを倒すこともこの状況を打破することもまだ叶わない。


「チッ、ユウ! まだか!?」

「もう少し!」


 アーツの名前を言わなければ必殺技は発動しない。それは通常のアーツも同様だ。このことが解っているからこそ俺も攻撃に参加しているわけだが、MPを無駄に消費することが憚られる現状大して戦力になっていないのも事実だった。


 攻勢に出ているアラドが自身が使えるアーツを発動させて攻撃しているのが見える。リキャストタイムを考慮して数種類のアーツを上手く組み合わせているようで、アラドが持つ大剣や身に付けている手甲にアーツ発動を示すライトエフェクトが途切れることは無い。

 障壁を失った為に一応はこちらの攻撃が効くようになったリョウメンスクナがったのだが、結局は地力の差が浮き彫りになってしまっていた。


 ボスモンスターとプレイヤーという存在の違いとでも言うべきなのだろう。

 HPの総量から攻撃力や防御力等のパラメータの差のせいで相対的にこちらが繰り出す攻撃は弱くなり、リョウメンスクナの攻撃や防御はより強くなっている。

 かくして俺たちは常に不利な状況を強いられているというわけだ。


 四本の腕で地面に突き刺していた四本の剣を引き抜き、リョウメンスクナは二頭の顔で俺とアラドを的確に攻撃し始めたのだ。


 上下左右、縦横無尽に繰り出される斬撃を回避する。

 四本もの剣はその一振りだけも俺たちよりも巨大だ。防御していたのでは致命的なダメージを受けてしまう危険性が高く、回避するのもかなり余裕をもって行わなければ余波を受けてしまうほど。

 だとしても俺たちは初心者じゃない。

 これまでに戦ってきた類似する種のモンスター。鬼種(きしゅ)と呼ばれている種のモンスターがそうだが、それらと相対した時にセオリーとなっているものを念頭に自分たちが有利になるよう戦闘を組み立てた。


 大きなダメージを避けながら、千載一遇の好機を狙う。

 集中して回避と攻撃を繰り返している最中ようやく引き金を引くことが可能になったようだ。


(九回め!)


 先ほどから俺がしているこれは実を言うと必殺技の効果ではない。

 ≪ガン・ブレイド≫というスキルにあるアーツ〈オート・チャージ・リロード〉に含まれている効果を使っているのだ。

 それ故にリキャストタイムというものが存在した。

 本来、このアーツにはリキャストタイムが存在しない。俺のMPがある限り自動的にガン・ブレイズにMPの弾丸を装填し続けるというものだからだ。

 しかし、その中文にあるチャージの効果を使おうとするならば別だ。MPを溜めるのならば一定時間の間隔で使用不可の状態が発生する。自分の感覚ではそれは繰り返すごとにリキャストタイムが延びているような気がする。


(目標は十回以上。だとすれば後一回なんだけど、本当にそれで効果あるのか?)


 漠然とではあるがチャージを繰り返してから放つ必殺技の威力が想像できる。それはこれまで以上であることは間違いないだろうが、リョウメンスクナに向けて放つには未だ心細く感じていることも確かだ。

 けれど、アラドに前面に出て貰っている以上無理はさせられない。最初に定めた段階で止めておくしかない。


「アラド、後一回だ。どうにか耐えてくれ!」


 そう叫んだ俺を一瞥してアラドは微かに眉間に皺を寄せた。


「それで足りンのかよ」


 小さく、そう、とても小さく呟かれたその一言は、不思議なことに俺の耳に届いていた。

 リョウメンスクナの攻撃に伴う音もアラドがアーツを発動させて攻撃する際に発生する爆音も全ての音よりも小さいはずのその呟きが、俺の耳にこびりついて離れない。


「どうなンだ? あァ?」

「解らない! 確証はない……けど、足りない気がする。でも、これ以上アラドに無理はさせられない! アラドだって見えてるだろ。リョウメンスクナの面に広がっているあの模様が!」


 それは俺が八回目のチャージをした瞬間現れた変化だった。

 二頭の顔に取り付けられた鬼面の目の周りに炎のような模様が浮かんできているのだ。それに俺が気付いたのはさっきのこと。振り下ろされた剣を避けるべく横に跳び、リョウメンスクナから離れた時。

 そして九回目のチャージをした時。炎のような模様に赤い色が浮かんだ。


 明確な原因は解らない。けれど自分の行動が切っ掛けなのだということだけははっきりしている。だから俺は焦り、これ以上はアラドに無理はさせられないと判断したのだ。


「あの模様には何か意味があるはずだ」

「ンなこと見てりゃ解ンだろうがよ。それがどうかしたのかよ」

「もし、あれが強力な攻撃を使う前兆なのだとすればこれ以上引き延ばすことは悪手だ」

「それで倒せンのかよ?」

「――ッつ」

「オマエが持つ一度限りの攻撃なンだろうが。全力でいけよ」


 キッパリと言い放つアラドに俺は返す言葉を失った。

 あの面の模様がタイムリミットを告げるものなのだとすれば、それが満たされる前に攻撃するのは当然のこと。

 その前に十分な威力を蓄えることができなくても仕方ない、そう俺は思っていた。


「安心しろ。俺等の攻撃が全く効いてねェ訳じゃねェンだからよ」


 その言葉は的を射ている、気がする。

 僅かではあるが確かにリョウメンスクナのHPバーは減っている。それはそのまま俺たちの攻撃が無意味ではないことを現していた。

 とはいえ、その値はリョウメンスクナにとっては誤差の範囲。俺たちが希望を見出すにはあまりにも僅かな変化でしかなかった。


(俺の残りMPは少し、けどチャージするには十分!)


 繰り出されるリョウメンスクナの斬撃を避けつつ、果敢に攻撃を加えていくアラドいっそう勢いを増した。剣と拳、入り乱れる攻撃はリョウメンスクナのある一点、剣を持つ四本の腕の内の一本、それも剣を持っている手に集中し始めたのだ。


「俺も忘れるなよ」


 近くの家屋を駆け上った場所で立ち止まり攻撃を繰り返すアラドを振り払おうと残る腕を振り回すリョウメンスクナに向けて俺は刺突を放つ。

 剣先数センチ、リョウメンスクナの足にガン・ブレイズが突き刺さった。


 リョウメンスクナが悲鳴を上げることはない。

 しかし俺の刺突に見せた反応はそれまでにない程過敏なものだった。暴れるように両足で地団駄を踏み、ガン・ブレイズを突き立てている俺を蹴り飛ばそうとしたのだ。


「うおっ、危ないなっ、けど、これで十回め! それから斬り裂けェ!」


 ガン・ブレイズの持ち方を逆手に変え引き抜くことなくそのまま駆け出す。

 いつからだろうか。こちらの攻撃は通ると疑わなくなったのは。

 自問自答の果て、それは多分ほんのさっきのことだと気付いた。


 俺は必殺技で倒すことばかりに集中していた。むしろそれに過剰に拘っていたともいえる。だからアラドに自分たちの攻撃が効いていないわけじゃないと告げられて思い出せたのだ。どんなに遠回りだろうとリョウメンスクナを倒す方法は確かに存在すると。


 気の持ちようと言えばそれまでだが、俺は自分の攻撃の質が変わったと自覚した。

 ガン・ブレイズを突き立てたまま駆けまわる最中にも不思議なほどにグリップを通して伝わってくる感触は確かなものになっていた。

 当然、ダメージの量まで変わるわけじゃない。今も与えられるダメージは僅かなままだ。けれど、それでもゼロじゃない。HPバーで見れば僅かであっても数字で見れば確実に減ってはいるはずだ。


「そろそろ砕けやがれェッ!」


 アラドが叫ぶ。

 黒い大剣を持つ手に力を込め、リョウメンスクナの右の手首に目掛けて渾身の一撃を叩き込んだ。

 ピキッと巨大な岩に亀裂が入ったような音がする。

 次の瞬間、リョウメンスクナの手首に無数の亀裂が入った。


「オラァ、もう一発!」


 そう言ってもアラドが振り抜いたのは大剣ではなく手甲を付けた拳だった。

 手甲こそが本来の武器だと知る俺でもものの見事にリョウメンスクナの手首を貫いてみせたその一撃には目を奪われてしまった。


 パラパラと何かがのリョウメンスクナの右の手首から落ち、次の瞬間にその手首から先である手ごと剣が地面に落ちた。


「なるほどなァ。こういうカラクリだってわけか」


 得心がいったと呟くアラドに誘われるように俺はリョウメンスクナの頭上に浮かぶHPバーを見た。するとそれまで僅かにしか減ることの無かったHPが一気に一割近く減少していたのだ。


「ユウ! オマエも気付いただろうな」

「ああ、だいたいな」


 次に俺が見たのは地面に落ちたリョウメンスクナの手。

 先程まで金色の光を纏っていたそれも今や灰色の石の塊と化していた。


「つまりダメージを与えるには部位破壊するしかないってことだろ?」

「みてェだな」


 ニヤリと不敵に笑い合う。

 モンスターには爪や牙といった部位を破壊することで相手の攻撃力を削いだり、特別な素材を手に入れたりするものがある。

 珍しいことこの上ないが、リョウメンスクナというモンスターは全身に至る所が部位破壊可能であり、ちゃんとダメージを与えるにはそれを狙うのが正攻法となっているらしい。


「どうだ? これでオマエがソレを外しても安心できるだろ?」


 手首を回しながら俺に言い放ったアラドは笑っていた。それも子供が悪戯を仕掛けてその相手の反応を楽しむ時のように。


「ああ、お陰さまでな。っと、十一回め!」


 そろそろ十分だと感じる。

 だった一回。その一回が殊のほか俺に十分だと思わせる何かがあったというわけだ。

 包み隠さず言うのならば、リョウメンスクナの手を切り落としたアラドの行動が俺に勇気付けたことは疑いようがない。恥ずかしい上に悔しいから本人には言ってやらないが。


 リキャストタイムも中々長くなってきた。

 十回から十一回に繋げる時はまだ威力の高いアーツのリキャストタイムとしての範疇だったが、今の状態ではそれを上回っているように思える。

 やはりここが限界。

 そう割り切り、攻勢に出ようと身構えた瞬間だった。アラドの持つ大剣から伸びる黒い腕が俺を制止した。


「何のつもりだ?」

「まだ早ェンだよ。もう少し待っていやがれ」


 その真意が解らずにも動きを止めた俺の目の前でアラドが大剣を構え直した。


「あの模様まだ続きがあるみてェだからな。まだ余裕があるってことだろ」


 鬼の面にある炎の模様に黒い色が入る。

 金色の面にある赤い炎の中に重なる黒い炎。アラドが言うようにそれで完成と見做すには少しばかり足りていない気がした。


「だからもう少し待ってみンだよ」


 好奇心に駆られたのか、生来の気質なのか、アラドは自身の考えを覆すつもりは微塵もないようだ。

 小さく溜息を洩らしただけで強く反対しない俺もまた、この先に何が待っているのか知りたがっている、同類ということらしい。


「これからのリキャストタイムは長いぞ。少なくとも今の段階で二分掛かるみたいだからな」

「別にいいさ。その前に俺が全ての腕を破壊してやンよ」


 遂に戦局が好転し始めたというわけだ。


 残す手は三つ。

 二本ある右手の内の一本の手先が消えた。左右対称にするよりも同じ右側の戦力を削った方がいいと判断したのか、アラドはまたしてもリョウメンスクナの右側を狙い攻撃を再開した。

 手首から先が無くなったとしても腕そのものを棍棒のように使えば攻撃できる。とはいえ、最も警戒すべきだった剣をリョウメンスクナが失ったことは俺たちにとって多大なアドバンテージになっていた。


 一度破壊できたものを二度破壊できないはずもない。

 そのことを体現するかのようにアラドの攻撃が轟かせる音は激しさを増していく。

 リョウメンスクナの注意を少しでもこちらに向けるべく、俺も攻撃を再開した。戦闘中というのは時間が過ぎるのが遅く感じる。視界に表示したままの〈オート・チャージ・リロード〉のリキャストタイムが過ぎるのを待った。


(あと一分!)


 秒で表されているそれが徐々に60から減り続ける。この数字が50を切ったその時だ。繰り返されていたアラドの打撃と斬撃が再びリョウメンスクナの手首から上を斬り飛ばした。

 ガンと硬くなったリョウメンスクナの手首が地面に落ち、剣の重さに耐えきれなくなったとでもいうように刀身が地面に横たわった。


 二つある右手は両方とも手首から先が無くなった。左に比べて右の脅威度が下がったことでアラドが自分の戦う位置を変えた。


 俺の前を横切って移動するアラドがすれ違ったその刹那、視線で俺に右に行くように伝えてきた。

 チャージが完了するまでは比較的安全な場所に居ろということだろうか、と思った俺の前で嬉々として左手を破壊し始めるアラドを見て自分の考えが微かに外れていること知る。

 アラドの目的は確かに俺のチャージを万全に完了させることも含まれているのだろう。しかしそれよりも大きい理由としてさっき自分が口にした「全ての腕を破壊する」というものがあるようだ。


 感心半分、呆れ半分でアラドの攻撃を眺めつつ、俺はようやく満たされたリキャストタイムを確認して剣形態のガン・ブレイズの引き金を引いた。

 十二回。

 最高記録を更新し続けたチャージは遂に最大と思わしき段階に達した。

 ガン・ブレイズの刀身がアーツとは違う光を放ったのだ。


「これで限界……なのか?」


 絶えず放たれる光の奔流は凄まじい力を感じさせる。

 これで攻撃すればリョウメンスクナにかなりのダメージを与えることができるだろう。

 しかし微かに疑問が残る。

 今の状態で最大だと決めつけるにはまだ何かが満たされていないような気がしたのだ。


「違う……まだ先が、限界を超えた先がある」


 最大ではない証拠とでも言えばいいのだろうか。〈オート・チャージ・リロード〉のリキャストタイムが再びカウントダウンを刻み始めていた。


「今度は三分か」


 長い、が問題ないはず。

 180秒から徐々に減り始めるそれを見て俺は決意を固めた。

 アラドには悪いがこの最後のチャージを完了するまでもう少し頑張って貰うことにしよう。幸いにも三つ目の手の破壊に取り掛かり始めたばかりのようだし。


 そうして三本目のリョウメンスクナの手首にひびが入り、砕けたその瞬間、リキャストタイムも満たされた。


「じ、十三回…めっ!」


 今までよりも硬い手応えに歯を食いしばりながら引き金を引く。

 それまでと違うゴキンッという鈍い音と共に俺のMPが一瞬にして残り数パーセントになった。

 明滅するMPバーはここ暫く、というか魔法を使うことのない俺はこのゲームを始めた当初以来目にしていないものだった。


 刀身にのみ宿っていた光はガン・ブレイズ全体へと広がり、俺の耳にはっきりとしたリィンリィンという共鳴音が聞こえ始めた。


「これならやれる!」


 キッパリと断言して俺はこの一撃を最大限発揮できるように走り出した。

 家屋を伝い上へと向かい、攻撃を仕掛けてくるリョウメンスクナの剣を失った腕を道にして駆け上る。

 怨みを蓄えているであろう揺らぐ炎を宿す二頭の瞳が俺を捉えた。


「ジッとしてやがれッ!」


 残る左手で剣を振るおうとする刹那、アラドはそれを真下から打ち上げた。


「行けェ、ユウ!」


 リョウメンスクナの肩を蹴り跳ぶ。

 光を宿すガン・ブレイズを振り被り、叫ぶ。


「〈シフト・ブレイク〉!!!」


 リョウメンスクナの頭上で振り下ろしたガン・ブレイズからその全てを飲み込むかのような巨大な黒い斬撃が放たれた。




これにてリョウメンスクナ戦は一区切りです。

うーん、本当はリザルトなどの戦闘終了後まで一気に纏めたかったのですが、それは今回のクエストのまとめと合わせた方がいいかなと思って次回持ち越しにしました。


てなわけでこの続きは次週更新分にて。

また来週お会いしましょう。


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