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Re:スタート ♯.17

長らくお待たせしました。前回の続きです。

 結晶体の中にいるドラゴンを救出することを決めて再開された戦闘に俺は幾許かの不安を抱えていた。

 その原因は挙動を変えたタイミングでドラゴ・エスク・マキナの攻撃が素早くなったこと。そして目の前にある問題の結晶体。

 攻撃のスピードが増したことで俺たちはそれまでよりも頻繁に回避をする破目になり、反面俺たちの攻撃の回数が減ってしまっていた。

 それでも、アラドは平然とした様子でちょっとした隙を見つけては攻撃を繰り出しているあたり流石というべきか。


 ドラゴ・エスク・マキナの攻撃に関してはまだいい。相手がボスモンスターだということを思えばまだ常識の範疇だ。

 だがあの結晶体に関しては別。

 アラドがドラゴ・エスク・マキナの攻撃を掻い潜りながらも大剣で斬り付け、俺が数回ガン・ブレイズの銃形態で射撃しても傷一つ付いていない。

 その光景を目の当たりにして俺が妙に思ったのは異様にして異常に硬いだけならばまだしも、俺たちの攻撃が吸収されたかに見えたからだった。


「助けるのを諦めたほうが楽なんじゃない?」


 必殺技の使用によってMPの殆どを使ってしまっていた俺にリリィが話しかけてきた。

 俺は戦闘に参加しても憂いが無い程度になるまでMPの自動回復を待ちながら溜め息交じりに答える。


「かもな。けど、一度決めたことを変えたくない。それに、あれを見てやっぱり無理だったと素直に諦められるほど俺は人が出来ていないんだ」


 視線の先、そこにはアラドが斬り付ける場所を変えながら結晶体に大剣を振るっている姿があった。

 多分アラドがドラゴ・エスク・マキナに勝つだけならばそう難しくは無いはずだ。それが例え一度しか使えない必殺技を使ってしまっていたとしても。

 アラドにはそれだけの実力を持っていると知っているからこそ言えることだった。


「とはいえ、力技だけでどうにかできる気はしないな」


 アーツを使わない攻撃でどうにもならないのならばアーツを使えばいいだと俺と同じことを考えているのだろう。アラドが繰り出している攻撃はどれもアーツを伴っているように見える。

 攻撃の度に大剣の刀身が発光しているのがその証拠。


 ゲームを始めて最初に手にした専用武器ほど強化していないにしても、精霊器となった大剣が繰り出すアーツには最初の専用武器で繰り出すアーツ攻撃と何一つ遜色のない威力がある。

 それ以上となれば必殺技になるのだろうが、一度使ってしまったからには俺もアラドも今はそれを使えない。

 故に最大に近い威力を持つ攻撃すら効果が無いのだとすればあの結晶体からドラゴンを解放するのには純粋な攻撃で結晶体を破壊する以外の方法を用いらなければならないというわけだ。


「他の方法、か」


 さて、現状で俺たちができる事が他にあるだろうか。

 所持しているアイテムの大半はこの戦闘に挑むための準備に使用した。残っているのは僅かなポーションと戦闘後に装備類の整備をするための道具。生憎と戦闘に役立ちそうな物は何一つ残っていない。

 というよりも、そもそも俺が作るアイテムはどれもHPやMP、それに状態異常を回復するためのものばかり。その過程で完成する状態異常付与薬をこれまでにも俺が戦闘中に使うことは無かった。戦闘中にコンソールから取り出して、あるいは最初から持って戦うことが難しかったためだが、この時ばかりは少しくらい常備していればよかったと思ってしまう。


 無いものねだりをしてもしょうがないと考えを切り替える。

 攻撃でもアイテムによる状態異常付加でもない。俺に出来ることは何だ。


 銃撃。違う。

 剣撃。違う。

 アーツを使った攻撃も俺の場合確実に前二つの延長線上でしかない。


「なあ、リリィ。何かいい考えは浮かばないか?」

「そんなのわたしにあるわけないでしょー」

「即答か。もう少し考えてくれてもいいと思うんだけど」

「えぇ。わたしが思いつきそうなことって全部ユウが先に思いついてそうな気がするんだよねー」

「まあ、確かに」


 プレイヤーではない妖精に何を聞いているのだろうと自嘲的な笑みが零れてしまう。それでも話ができる相手がいるだけ助かっているとは意地でも言わないが、その効果は確かなもの。

 少なくともこんがらがってきた頭を整理するには十分な効果があったらしい。


「攻撃が通らない理由を見つける方が先か」


 アラドには悪いが、今は頭を動かすことだけに集中させてもらう。

 精霊器と化したガン・ブレイズからクロスケを喚び出し、リリィと共に周囲――といっても件のドラゴ・エスク・マキナだけだが――の警戒を任せる。

 そうすることで俺はようやくしっかりと観察することが出来るようになるのだった。


 より異様な風貌になったドラゴ・エスク・マキナは一番最初に見た時に比べ随分と生物的な印象に変わっていた。

 それが結晶体の中にいるドラゴンによるものなのか、それともHPバーの残り本数が一定にまで減少した際に見られる現象なのか。

 仮に後者ならば結晶体からドラゴンを助け出すことは不可能に近くなるが、そうでないのなら。

 前者ならばまだやりようがある、気がする。


 それはアラドの攻撃がドラゴ・エスク・マキナの腕や胴体に命中した時には見られず、結晶体に向けられた場合に限り見られた現象を目の当たりにしたからだ。

 まるで生物の脈動のように、攻撃が結晶体に向かう度に、正確には攻撃が命中する刹那に見られる発光がドラゴ・エスク・マキナに吸収されるように消えていくのが見えたのだ。


 そして、そのことのみに集中していると更なる事実に気が付いた。

 結晶体全体が発光しその光をドラゴ・エスク・マキナが全身で吸収しているとばかり思っていたのだが、そうではなく結晶体のある腹部、それもその中にある一点のみが光を吸収しているようだ。


「胴体から外すことが出来ればどうにかなる…のか?」


 確信は無いし、確証も無い。あるのはただ自分の勘だけ。

 しかしそのたった一つの可能性が俺を動かす理由としては十分なように思えたのだ。


「アラドッ! 俺に合わせてくれ」


 叫んだ俺の声に反応してかクロスケは再びガン・ブレイズの中へと戻っていく。

 姿を消したクロスケを見届け俺はアラドの返答を待たずにガン・ブレイズの引き金を引いた。

 狙うのは結晶体を包み込んでいる腹部の装甲。


「ハッ、そういうことかよォ」


 ガンッという音を立ててドラゴ・エスク・マキナの腹部の装甲が宙に舞う。

 結晶体には傷一つないまま。だが、その奥に覗く機械の竜の人工的な血管とでも呼ぶべきケーブルの一部が露出したのだ。

 それを見てアラドも俺の意図を理解したようで大剣を的確に俺が撃ち抜いた時と同じようにドラゴ・エスク・マキナの装甲を剥がすための攻撃を繰り出していた。


 一発の銃弾に比べ大剣の斬撃は剥がすことのできる装甲の量が段違いだ。

 連続して撃つ俺が狙った場所と同じ場所に向かって大剣を振るい続けるアラドによってドラゴ・エスク・マキナの腹部の装甲はみるみるうちに剥がされ、中の結晶体が完全に露出した。

 結晶体の奥に覗く数本のケーブルが確認できるや否や俺はガン・ブレイズを銃形態にしたまま駆け出していた。


「行けェッ!」


 思い存分に大剣を振り回し終えたアラドが叫ぶ。

 動こうとしないアラドの意図が装甲を剥がすための攻撃に消耗したMPを回復させるための休息にあると気付いた俺はその言葉に促されるようにガン・ブレイズの銃口の先を結晶体とドラゴ・エスク・マキナの腹部に出来た隙間に無理矢理に押し込んだ。


「普通に撃ち込んでも効果が薄いだろうけど、念の為」


 などと言いつつ引き金を引く。

 残念というべきか、それとも案の定というべきか撃ち出された弾丸が結晶体どころかケーブルにも傷一つ付けることは叶わなかった。

 解りきっていた事であり、覚悟していたこととはいえ、こうも全く効果がないことを目の当たりにすると少しばかり気分が下がる。


 元々かなりの巨体を誇るドラゴ・エスク・マキナだ。

 その腹部にある結晶体自体もそれなりの大きさをもっている。となれば、結晶体と本体を繋ぐケーブルもかなり頑丈な造りになっているようだ。


「だったら威力特化しかないよな。〈インパクト・ブラスト〉!!」


 迷うことなく発動させた射撃アーツは正確に発動した。

 撃ち出される弾丸は変わらずともアーツが持つ威力はその性質を変化させる。鉄製の弾丸がその衝撃で爆散するように、俺が撃ち出した一発の弾丸も大きく爆砕した。


 生じる衝撃は俺の予想を大きく上回ったものの、狙った通りの状況を作り出すまでには至らなかった。反面この時に俺のHPは四分の一程度削られてしまっていた。それでも武器と防具の耐久度がそれほど減少しなかったのは運が良かったと捉えるべきか。


「ケーブルの表面が溶けかかっているだけ、か。それならもう一度〈インパクト・ブラスト〉」


 放たれる光の弾丸が二度目の爆発を引き起こす。

 またしても俺のHPが同量削られ、そして装備の耐久度も同量減少したのだ。

 それでも俺のこの行為は全く無駄にはならなかったようだ。ケーブルを覆っている表面のゴム製のカバーが融解し、中にある怪しい光を宿す鋼線のようなものを露出させることに成功していた。


「――ッ。これでもまだ足りないってのか」


 俺は次第に焦りを感じ始めていた。

 ドラゴ・エスク・マキナの腹部の装甲を剥がして結晶体を露出させた時はまるで動きが固まったロボットのように体全体を硬直させていた。この時を好機と捉え攻勢に出れば多大なダメージを与えることができただろう。しかし俺たちはこのチャンスを結晶体からドラゴンを救出させることに使うことを決めた。そうしようと、するべきだと決断したのだ。


 だが、それが可能なのはドラゴ・エスク・マキナの動きが止まっている僅かな間だけ。

 ドラゴ・エスク・マキナが再び動き出した瞬間に俺は否が応にも払い退けられてしまい、最大の威力を直接与えることのできる距離を保っていられる時間も終わってしまうだろう。

 そうなってしまうと俺はこの結晶体を本体から切り離すことを諦めなければならない。


「こうなれば俺が反射ダメージで戦闘不能になるのが先か、結晶体を切り離すのが先か。……勝負だ」


 自然な言葉として出てくる〈インパクト・ブラスト〉のアーツ名を叫びながら引き金を引く。

 極至近距離から放たれる光によって引き起こされる爆発をこれまた至近距離で受けることすら厭わずに何度も、何度も連続して引き金を引いた。


「ぐっ…ぐうぅぅ」


 仮想であり加減されているとはいえ、全身が爆発によって焼き付けられる痛みは十分に現実離れしたものがある。

 奥歯を噛みしめながらその痛みに耐えつつ、俺はその時が来るのをひたすらに待った。


 いったい何度、引き金を引いただろうか。


 二度や三度ではない。それこそ十を軽く超える勢いで繰り返される爆発を受けながらも〈ブースト・ウォリアー〉による僅かなHPの自動回復量を頼りに高威力の射撃を放ち続けた。


 その射撃は何時まで続けられるのか。それはドラゴ・エスク・マキナが元の挙動を取り戻すまで、そして俺の望むことが現実になるまでを競うかの如きチキンレースの様相を呈していた。


「ユウっ! まだかァ!」


 少し離れた場所からアラドが叫ぶ。

 フレンド通信を使わずに爆発の最中向けられたその声はとても聞き取りづらいものだったが、それでも俺の耳にしかと届いていた。


「もう少し――ッ!!」


 確証が無いが故に俺はアラドには聞こえないくらいの小さな声で「…多分」と付け加えていた。

 だとしても、この時の俺が口にしたもう少しだという言葉が全くの嘘であるなんてことはない。実際に結晶体を胴体を繋ぐケーブルの表面は等しく融解し、内部の鋼線までもが熱を帯びたように真っ赤に染まり始めているのだ。


 臨界点はすぐそこにきている。


 確信と希望が織り交ざった何かが俺に襲い来る爆発の痛みを忘れさせる。


「もう一回ッ! 〈インパクト・ブラスト〉!」


 赤々とした爆発が起こり、遂にその時が訪れた。

 爆発の衝撃によって熱されて柔らかくなったケーブルが切れ結晶体がぐらりと揺れたのだ。

 そこからはもはやお決まりの光景。

 これまた爆発の衝撃が結晶体を前方へ押し出し、地面を転がる卵のように結晶体がドラゴ・エスク・マキナの胴体から離れ、アラドの近くを通り過ぎ、最後は戦闘とはもっとも離れた壁に当たり止まった。


「――くっ、〈ブースト・ディフェンダー〉」


 自らに施している強化を変えることで俺のHPとMPは飛躍的に上昇する。それはDEFに代表される防御力も同様だ。しかし、この時に俺が強化を変更した理由は別にある。〈ブースト・ウォリアー〉と〈ブースト・ディフェンダー〉では自動回復するHPの量と速度に明らかな違いがあるからだった。


 ポーションを使用した時に比べると即時効果は望めないものの、持続的な効果は確か。

 まして爆発にのまれ地面に転がされているという自分の現状を思えば言葉を発するだけで叶うと言っても即座に強化を変更することができたのは運が良かったと思う。


 ここはダメージを受けてなお平然としていられるほど現実感が薄い場所ではないのだから。


「……どうなった?」


 徐々に回復している自身のHPバーをさっと確認して、俺は転がっていった結晶体と腹部に大きな窪みが出来たまま硬直しているドラゴ・エスク・マキナを見比べた。

 先に近寄るべきなのはどっちか。

 結晶体の中のドラゴンを助け出そうと決めたのだからまずは結晶体の様子を確認すべきなのだろうが、ドラゴ・エスク・マキナがいつ動き出してしまうか解らない現状ではそれもままならない。


 アラドはどうするのだろうかと視線を向けるとやはりと言うべきかドラゴ・エスク・マキナを睨みつけたまま動こうとはしていなかった。


『アラド。どうかしたのです?』


 まるで俺の疑問を代弁したかのように大剣から姿を現した精霊がアラドに問いかけていた。


「あ? なンでもねェよ」

『それは嘘だと思うのですよ。わたしに話してみるといいのですよー。一体何を気にしているのです?』


 まるでプレイヤーが居るかのように話す精霊にアラドは表情を歪め、言葉を詰まらせていた。

 俺にはアラドがNPCに相談をするという行為そのものを受け入れられないなどという性質ではないように思えるからこそ、不自然なくらいに口を噤むその様子が奇妙に思えてならなかった。


 そんな風に考えている俺の視線に気が付いたのだろう。アラドが何かバツが悪そうな顔をして再び視線を停止しているドラゴ・エスク・マキナに向けていた。


『話すといいのですよー』


 未だ何かを決断しかねているアラドの背中を押すように精霊が言う。


「チッ、仕方ねェな」


 ようやく何かを言う決意が定まったのか。アラドが何かを言いかけたその瞬間だった。結晶体が転がっていった後方からダンジョンの中には相応しくない音が聞こえてきたのは。


「――ッ!?」

「アレは――ッ」


 咄嗟に振り返った俺とアラドの視線が同じ一点を捉える。


 その瞬間を目撃できたのは本当にタイミングが良かったという他にない。

 素材不明の結晶がまるで氷が瞬時に溶けてしまうかのように一瞬で水になり、その中から透明な水を滴らせている琥珀色の毛並みをしたドラゴンが滑り出てきた。


 言葉を発するということすらも忘れてしまったかのように俺とアラドの息を呑む小さな音だけが木霊する。


 耳が痛いほどの静寂は常に思いもよらぬ形で終わりが訪れる。

 今回の場合、その要因は二つ。

 一つはドラゴ・エスク・マキナが再び動き出したことを示す咆哮を上げたこと。

 もう一つは琥珀色の毛並みを持つドラゴンがゆっくりと瞳を開いたこと。


 奇しくも同じタイミングで起きたそれらの板挟みにあうように立つ俺たちは僅かに離れた場所にいながらも背中合わせになる形になっていた。


 俺が見つめるのは琥珀色のドラゴン。

 アラドが見つめているのはドラゴ・エスク・マキナ。


 戦闘が再開されると直感したアラドが再び大剣を構える音がする。

 首だけで振り返ると、俺はドラゴ・エスク・マキナを見て叫んでしまう。


「動き出しただとっ!? ……くっ、まだ全然回復しきれていないっていうのに」


 徐々にHPとMPが共に回復できているとはいえ、まだまだ全快には程遠い。

 ポーションを使用すればいいだけの話でも、それを使う隙が見つけられないのだから話は別だ。

 未だ挙動が遅く感じられるドラゴ・エスク・マキナでもその無機質な瞳は絶えず俺たちを捉えたまま。まるで俺が油断しようものならば最初に見せた灼熱の炎をお見舞いしてやるぞと言わんばかり。


 これからどう動くべきか。

 一瞬の間にいくつもの未来を想像する。

 例えば振り返りドラゴ・エスク・マキナに攻撃を仕掛ける未来。あるいはこのまま琥珀色の毛並みを持つドラゴンを救出する未来。

 自分が有利なままことが運べばいいが、そのどちらも俺が動き出した途端にドラゴ・エスク・マキナの攻撃に晒される最期が頭を過った。


 大剣を構えたままのアラドの額を汗が伝う。

 ドラゴ・エスク・マキナと正面から向かい合うということは俺の想像以上のプレッシャーが掛かってしまっているのだろう。


 瞬間、ドラゴ・エスク・マキナの咢が開く。


 吐き出された炎の先端が俺たちの目前にまで迫るその刹那、この一室に漂う緊張感を十二分に含んだ空気が一変した。


「な、何が起こったの?」


 再度ドラゴ・エスク・マキナが動き出した途端に俺の外着のフードの中に隠れていたリリィが顔の半分だけを出して戸惑いの声を漏らしている。

 それもそうだろう。

 ドラゴ・エスク・マキナが吐き出してアラドの眼前まで迫っている炎は確実のその全身を飲み込んでしまうかのような脅威を孕んでいるのだから。


 俺は何かに導かれるように視線を自分の前にいる琥珀色の毛並みのドラゴンに向けた。

 ドラゴンの額にあるダイヤモンドのような宝石が輝きを放っている。

 この光が持つ効果に気付いた時、俺は自然と呟いていた。


「これは……時間が止まってる…のか」


 自分の呟きに対する答えは返ってこない。

 それでも不自然な形で停止したドラゴ・エスク・マキナが吐き出した炎が自分の勘が当たっていることを教えてくれているかのようだ。


『…私の声が聞こえていますか?』


 初めて聞く女性の声がする。

 誰が喋っているのだろうかと思い、キョロキョロ辺りを見渡すも女性のプレイヤーどころかNPCだって見つけられない。


『こっちです。あなた方に話し掛けているのは私です』


 再び同じ女性の声がする。

 今度ははっきりとその声がした先が分かった。そして炎から離れようとしてゆっくりと後ずさるアラドが俺と同じものを見つめているのだ。


 俺とアラドが見つめる先で風も無いのに琥珀色の毛並みが揺れている。

 重力に逆らいゆっくりと浮かぶドラゴンの口が聞こえてきた言葉に合わせて動いているのを見る限り、聞こえてきた声はこのドラゴンが発したもののようだ。


『あまり時間はありません。さあ、貴方たちのどちらかに力を与えましょう。私が宿る武器を差し出すのです』


 ふわふわ揺れるドラゴンが告げる。

 さも威厳あり気な一言に俺とアラドは何とも言えない表情になりながらお互いの顔を見合わせると、それぞれ大剣とガン・ブレイズを差し出すと、


「えっと…確か精霊器って一人一つだけ持てるんじゃなかったっけ」

「そのハズだな」

『どうかしたのですかー?』


 戸惑う俺の持つガン・ブレイズから黒い梟の姿をとっているクロスケが。無言のアラドが持つ大剣から精霊が姿を現した。

 バサバサと羽ばたきながら俺の肩に止まるクロスケと大剣から身を乗り出すいつもの格好で場違いなくらい穏やかな笑みを浮かべる精霊が目の前に浮かぶドラゴンと見つめ合っている。


『えぇっ!?』


 なんとも人間味のある表情を浮かべるものだと感心しながら俺は浮かぶ琥珀色の毛並みのドラゴンに言葉を掛ける。


「この場合、どうするんだ? っていうよりもどうなるんだ?」


 それまでの緊張感は何処へ行ったのか。

 如何ともし難い微妙な空気が漂い始めた。



どうにかドラゴン救出まで漕ぎ着けました。

次回でこの戦闘に決着を付けられればいいのですが、はてさてどうなることやら。

どういう訳か自分が想定していたよりも戦闘だというのに物語が進まないのです。とはいえ、この戦闘が終わればこの章も終わりに近くなるのでまだまだ頑張りますよ。

不定期更新になっていますが、このまま更新せずに放置することは無いので長い目で見守ってくれると嬉しいです。

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