Re:スタート ♯.15
前回更新より少し間が空きましたが続きの更新です。
先にレベル上げをしていたアラドに連れられて俺は自分のレベルにあった狩り場に来ていた。
そこに出現するモンスターの種類は二つ。
一つは少し前にも戦ったゴブリン・マキナと似たモンスター『オーク・マキナ』
体躯はゴブリン・マキナよりも大きく俺と同じくらいの背丈があり、手に持たれた武器は骨で出来た棍棒や刃毀れをおこした剣などではなく、鉄パイプのような物だった。
もう一つは『リザード・マキナ』
地を這う蜥蜴のような姿をしたモンスターであるそれもオーク・マキナ同様に一般的なプレイヤーと同じくらいの大きさを誇っている。
この二種のモンスターを相手にしていることは決して幸運などではなく、アラドが俺のレベルに、そしてその戦い方に見合ったモンスターが生息している場所を選んでくれていたからに他ならない。
適当なモンスターとの戦闘は確実に俺のレベルを上昇させた。
一つレベルが上がる毎に獲得するスキルポイントをケチること無く使用して、俺は自身の戦力の強化を行った。
スキルの恩恵で上昇させたパラメータがある種の限界に達した後、俺は≪ガントレット≫のスキルレベルを上げることにした。
スキルレベルが上がり習得したアーツは何もない。それが妙だと思うこともあったが、それはそれで仕方ないと諦めがつく部分も少なからずあったのは、俺が元よりアーツの種類を攻撃の手札としてこなかった為だろう。
俺が使える攻撃アーツは剣形態で三種。銃形態で二種。それに必殺技を含めた全六種。
魔導手甲を手に入れてから使えるようになった防御アーツも僅か一つ。一定の防御力を誇る盾を出現させることのできるそれは俺が持つ防御力を数値以上に引き上げてくれていた。
出現する二種の雑魚モンスターとの戦闘は当初こそ数回でインターバルを挟む必要があったが、今では殆ど休憩を挟まずに戦闘を継続することができるようになっていた。
時間にして六時間。
現実の時間でおおよそ二時間に相当するそれを俺はアラドとのレベル上げの時間にすることを決めたのだった。
「ふぃ、今日はここまでだな?」
消費したMPを回復させるために元の地点まで戻ってきた俺は隣を行くアラドにそう問いかけた。
「いいのかよ」
「まあな。現実の時間もだいぶ遅くなったことだし、続きは日を改めた方がいいと思うんだけど」
例え雑魚モンスターとはいえど連戦に次ぐ連戦は俺とアラドの動きの精彩を欠く結果になっていた。
レベルが上がりHPが増加したことで容易く負けることは無いだろうが、それでも危ない場面が何度か見受けられるようになってきたのだ。
この休憩を決めることとなったきっかけであるMPの枯渇も今にして思えばベストなタイミングだったと思えてくる。
今日はこれまでだと決断したことで押し寄せてくる疲労も、ここがゲームの中だということも忘れてしまいそうになる程にリアルに感じられた。
「なら明日だな」
「いいのか?」
「良いも悪いもあるかよ。そうじゃねェとアイツとは戦えねェンだからよ」
自分よりも低いレベルの俺に合わせた相手だとしても、その戦闘で獲得できる経験値というものに違いなどないのだ。
次第にレベルが上がっていった俺に合わせて更なる強敵を求めるのではなく、一度に戦う相手の数を増やすことで補ってきたのは、意外なことにそれが最も効率がいいとアラドが判断したからだった。
そうしてレベル上げ戦闘の中盤以降、一度に数体のオーク・マキナやリザード・マキナと戦ったことでアラドのレベルもゆっくりではあるが確実に上昇していた。しかし、それでもまだ足りないとアラドは思っているらしく、悔しそうに自分の手を見つめていた。
「俺は今日と同じくらいの時間からしかログインできないけど……いいか?」
残念ながら明日も平日。日中は学校がある。諸々の雑事を熟したとして、やはり今日のような時間からしかプレイすることは難しそうだ。
「別に構わねェよ。それならそれでやれることはあるからな」
「ありがとう。それじゃ続きは明日だ」
俺はログアウトしてこの世界から現実へと戻った。
◇
翌日。
アラドと共に雑魚モンスターとの戦闘でのレベル上げを早々に切り上げ、俺はアラドとの模擬戦をすることにした。
俺のレベルの上がりかたが緩やかになって来たということも理由の一つではあるのが、その本当の狙いは魔導手甲を獲得したことで可能となった無手での格闘をアラドから学ぶためだ。
「また右手だけが出てるゼッ」
「なにっ!?」
アラドがガン・ブレイズを腰のホルダーに収めたままであるが故に何も持っていない俺の右手を掴み引き寄せる。
体勢を崩しそうになるのを必死に堪えている俺の腹をアラドが勢いよく蹴り付けてきた。
「がはっ」
痛みよりも衝撃が俺を襲う。
地面に転がされる俺にアラドが追い打ちを繰り出そうと襲い掛かって来た。
「――ッ 〈エアトス・シールド〉!」
「甘いンだよっ!」
瞬時に展開させた不可視の盾を的確に避けるアラドは見えていないはずの盾の前で立ち止まり叫ぶ。
「けど、これで…」
俺が立ちあがるまでの時間は稼ぐことが出来る。
模擬戦の為に減らないHPでも感じる痛みと衝撃は本物。更には目の前に立つアラドが放つプレッシャーも本物だ。
自然に右手が腰のガン・ブレイズのグリップに伸びる。
しかし、俺の手はそこで止まる。この模擬戦はあくまでも手甲を使った格闘を学ぶためのものだ。ガン・ブレイズという武器を用いたのでは本末転倒のはず。
魔導手甲を嵌めた左手を前にして俺は見様見真似で格闘ゲームでよく見るファイティングポーズをとった。
やる気十分。
集中力も十分。
時間だってまだまだ残されている。
意欲満々格闘術をものにしてみせるという態度をとる俺を見てアラドは何故か不機嫌そうな表情を浮かべた。
「何だよ。これのアーツを使ったって文句はないはずだろ?」
格闘術習得のための模擬戦の中で盾を出現させるアーツを発動させたことを悪びれることなく言い放つ。
「……別に文句を言うつもりはねェよ。けどな。そンな調子で俺と戦えると思ってンのか」
「どういう意味だ?」
「解らねェなら別にいい」
不可視の盾が消えたのを俺は知ることが出来る。俺からすれば自分の放ったアーツなのだから当然のことなのだが、その瞬間を狙ったように拳を振りかざしてきたアラドもまたどういう訳かそのタイミングが解っているかのようだった。
消えた盾はアラドの拳を止めることはなく、その拳はまっすぐに俺を捉えている。
「――くっ」
「どうしたッ。守ってばっかりか」
「そんなこと言われてもな。俺はまだ格闘初心者なんだから仕方ないだろ」
「ンなこと知るかよ」
「無茶苦茶だな」
「そンなこと、俺に頼ンだ時点で解ってンだろうが」
連続して繰り出される拳を魔導手甲を嵌めた左手だけを使い払い除ける。
だが、両手を使うアラドと左手だけに固執する俺とでは根本的に手数に違いが生じてきてしまう。
次第に追い込まれていくのは確実に俺の方だった。
「ここまで、か」
背中に壁がピタッとくっ付いてしまうくらいになるまでギリギリに追い詰められたその瞬間に俺は模擬戦の終了を告げた。
この時、自分から自身の敗北を口にしなかったのは、俺の中の僅かな意地が素直になることを阻んでいたからなのかも知れない。
「もう一回だ。やり直すぞ」
模擬戦は始まったたばかりだというようにアラドが告げる。
ダメージも無いために休む必要もないというように俺から離れていくアラドを見ながら、俺は何もできなかった自分の手を見つめた。
手応えなどなにもない。当然だろう。俺はまだ格闘技術を習得する取っ掛かりすら掴めていないような状況なのだ。
だからこそ、ここで終わらせるわけにはいかない。
「来い」
アラドのその一言を切っ掛けに俺は再び構えをとった。
それにしてもと思う。どこかの格闘ゲームを模している俺の構えとは違ってアラドは自然体で俺に向き合っている。そんなアラドは素人目ながら一縷の隙もないように見えた。
隙を窺いながらも見つけることは出来ず、躊躇する瞬間に直面する。その為に俺は常にアラドに対して後手に回ってしまっているし、反面アラドは常に自由に攻勢に出てくるのだ。
ジャブのように細かいパンチを繰り出してくるアラドに対して俺は左手の魔導手甲で防御することしかできない。
思えば先程〈エアトス・シールド〉を使うことできたのは偶然だったのだろう。俺にそう思わせてしまうほど仕切り直した模擬戦が始まってからは一度とてアーツを発動させることすらできずにいるのだから。
軽い攻撃はどうにか耐えることが可能だとしても、その合間に織り交ぜられる蹴りや強打までは防ぐことは困難。
ダメージを受けずとも精神的には同等以上のダメージを受けているに等しい状況だ。
またも簡単に追い詰められていく俺にアラドは一瞬冷めた視線を向けてきた。
「……もう一度だ」
アラドが攻撃の手を止め告げる。
再び仕切り直しを強いられた模擬戦が始まったその刹那、俺は今度は自分から攻勢に出るべく前に出た。
右手を腰の後ろに添えた構えで左手だけを使い攻撃を繰り出す。
片手が使えないのではなく、魔導手甲を嵌めているのが左手だけだからこその戦い方だ。そしてその左手だけでの攻撃のやり方はたった今見たアラドを模したもの。
軽快なリズムで繰り出すジャブも、その狭間に織り交ぜる強力なストレートも、攻撃のタイミングこそ自分流にアレンジしてはいるが根本的な所はアラドとよく似ている。
似ているからこそアラドも簡単に防御することができているらしく、一度として俺の拳がアラドを捉えることはなかった。
「もう一回!」
今度は怒気を含んだアラドの怒号が飛ぶ。
そして、その声とタイミングを同じくして強く俺の体を打ち抜く拳が放たれたのだった。
痛みよりも戸惑いに体を折り、次に体を起こした時には目の前に迫るアラドの拳が迫っていた。
「――ッ!!!」
この時の俺はそれまでに培った経験による咄嗟の行動が現れていた。
素早い動きで引き抜いたガン・ブレイズを瞬間に剣形態に変形させて、その刀身の腹でアラドの拳を受け止めていた。
アラドが装備している金属製の手甲と俺の持つガン・ブレイズが激突して火花が散る。
これは純粋な格闘戦ではなくなってしまった。武器を使ったのでは俺が望んでいる格闘技術は身に付かない。そんな風に思ってしまうことで後悔の念が頭に過っていた。
しかし、この時が模擬戦が始まって初めてとなる俺がアラドの攻撃を受け止めたと言える瞬間でもあった。
「……!」
無言で拳を押し込んでくるアラドに俺は無意識のうちに魔導手甲が嵌めらている左手を向けた。
その行為にどんな意味があるのか。無意識であるが為に俺は直ぐに判断することが出来ないでいた。だが、アラドは当然だというように拳を引き、俺からすれば大袈裟とも思えるほどに後ろに下がってみせたのだ。
押し合っていたその片方が離れたことで俺はバランスを崩してしまい前のめりに転んでしまいそうになった。
「どうした?」
どうにか踏ん張りつつも、平然とした様子を取り繕いながら問いかける。
「ハッ。何でもねェよ」
素っ気ないように答えつつも、この時のアラドは笑っているように見えた。
そして背中にある大剣を片手で持ち、その剣先を俺に向けてきた。
片手に剣、もう片方には手甲を着けているとはいえ無手という格好が同じになった俺とアラドは、それこそ鏡合わせのようにして向かい合っている。
「どうかしたのかよ」
突然動きを止めた俺にアラドがさっきの俺の問いと同じ文言で問いかけてきた。
「あ、いや……」
何故だろう。
同じような剣だとしても持つ武器の大きさが全く以って違うアラドだが、不思議とその姿は鏡越しの自分を見ているかのよう。
そして、その姿は妙なくらいに自分の姿として的確に自身を投影することが出来ていたのだ。
自然とガン・ブレイズを持つ右手に力が入る。そして左手にも不思議と力が入った。
「…行くぞ……」
戸惑いながらも俺はそう呟く。
大剣を片手で持ちその切っ先を後ろに向かってくるアラドに対して、俺は魔導手甲のある左手を前にするのではなく、それまでの戦い方と同じ様にガン・ブレイズを前に構えた。
模擬戦が開始して以来初めて俺は自分の構えというものにしっくり来ていた。
先程までとは見て分かるほどに違う動きを見せるのはアラドも同じ。
拳の代わりに繰り出してくる大剣に合わせて振るうガン・ブレイズの刃が激突する。
「――くッ」
大剣とガン・ブレイズ。その自重の違いが俺を一歩後ろに下がらせる。
「どうしたァ? そンなもんかよ」
「それは、どうかな?」
押し負けたといってもそれは最初の一瞬だけ。
直ぐに体勢を整えることができた俺はそれ以上は後ろに下がることはなくギリギリと鍔迫り合いを繰り広げるのだった。
剣同士の打ち合いでは埒が明かないと思ったのだろう。アラドは迷うことなく大剣を持っていない右手で拳を作り俺に殴り掛かってきた。
迫る拳を魔導手甲を嵌めた左の開いた手の平で受け止める。
拳と掌がぶつかり合う音とは思えない程の重い金属同士の激突音が鳴り響く。
「どうだ?」
優勢も劣勢もまだ決まってはいない。
均衡している。たったそれだけのことがこれまでにはないことだった。
一見するだけでは分からないような含み笑いを見せたアラドが問いかけてくる。
「オマエは俺に格闘のやり方を教えて欲しいンじゃなかったのかよ」
「どうやらこれが俺の格闘のやり方みたいだ」
「――ハッ」
キッパリと答えた俺をアラドは今度こそはっきりとわかるくらいに笑ったのだ。
「なんだよ」
「別に」
ゆっくりと互いに距離を取る俺とアラドはほぼ同時に堪えきれないというように笑いだした。
「ナルホドな。随分とオマエは特殊な戦い方をするみたいだな」
「そういうアラドこそ。まともな戦い方じゃないと思うぞ」
「オマエが言うか?」
思えば俺の魔導手甲を武器にした格闘術はアラドの戦い方に酷似している。
それは片手に剣を持つという点以外にも重心の置き方など、この僅かな時間教わっただけにしては異様なほど細部が似てしまっている俺からすればアラドは正に師ということになるのだろうか。
アラドと模擬戦を繰り返したことで形になり始めてきた俺の格闘というものも、未だ多くの粗が目立つ。それ故にこの日より三日間。俺はアラドと共にレベル上げと模擬戦を交互に繰り返した。
レベル上げの日数が僅か三日となったのはこの辺りに出現するモンスターから得られる経験値がレベルアップに至るまでに必要となる経験値の割合に見合わなくなったからだ。もちろん見合わなくなったというだけで獲得できる経験値がゼロではないのだからそれまで以上に討伐数を上げさえすればかなりゆっくりにはなるもののレベルを上げることはできない訳ではない。
しかし、そうすることが出来ない見逃せない理由が二つあった。
一つは所持しているポーション類の枯渇。ストレージにあった素材を使い作成しているとはいえ、それではいずれ底をついてしまうのは明らか。この後に待ちうけるドラゴ・エスク・マキナとの戦闘を考えればここでそれらを使い切るわけにはいかないのも道理。
もう一つの理由は装備の耐久度。
テントの設備を用いれば武器と防具の耐久度を回復させることはできる。しかしそれに使える素材もポーション同様に無限にあるわけではない。強化に使って残された素材をやりくりしてきたが、遂に二人分の装備を全て修復できるのは残すところ二回程度という状況にまでなってしまっていたのだ。
レベルを上げればその分だけ勝てる確率は高くなる。しかし、その為に戦闘を繰り返していれば万全の状態で戦うこと自体が難しくなってしまう。
そんなジレンマに苛まれた俺たちは苦渋の決断としてレベル上げを程々に切り上げて武器の耐久度もHPもMPも減ることのない模擬戦を使った俺とアラドによる戦闘訓練に移行した。
模擬戦に使った時間はレベル上げを含んでいた日数と同等の三日間。
都合六日に及ぶ訓練と事前の準備を終えた後、俺たちは満を持して再びドラゴ・エスク・マキナが待つ階層に足を踏み入れることになったのだった。
◇
「先ずは〈ブースト・ディフェンダー〉」
俺の全身を盾の紋様の魔方陣が包み込む。
瞬時に上昇する最大HPとDEF等の防御力。
能力強化たる≪マルチ・スタイル≫というスキルを戦闘が始まる前に使わなければならないことはまあ稀なことだが、あり得ないことという訳でもない。街中でこそ使うことは無いが、エリアやダンジョンに赴いた時なんかは自身の安全を確保する為に使用したことがあった。
能力が上がったことをコンソールに表示されている自身のパラメータを確認した後、俺は先に続く扉を開ける。
そして、その先に待ち受けているモノの姿が目に入って来た瞬間に魔導手甲を嵌めた左手を前に翳した。
「〈連盾・エアトス・シールド・三式〉!!」
ドラゴ・エスク・マキナの姿が見えたその瞬間に俺は当初の作戦通りにスキルレベルを上げた≪ガントレット≫にある〈エアトス・シールド〉を発動させた。
使用したのは同じアーツでもスキルレベルが上がったことにより獲得した新しい力がそれの汎用性を高めている。それまで使っていた一枚の盾を出現させるのに比べ、同時に展開することのできる盾の枚数を増やすことができるのが『連盾』という冠詞を付けたアーツの発動だ。
そして締めの言葉として綴る『三式』というものが展開した複数枚の盾をどのように使うかを決めるという意味合いを持つ。
『一式』がそれまでに使っていた時と同じように一枚の盾を即時展開させるもの。
『二式』は展開させた盾を町を覆う壁のように広範囲に広げるもの。
『三式』が複数枚の盾を重ねるように出現させるものだ。
おそらくはもっと≪ガントレット≫のスキルレベルを上げることで盾の使い方を増やすことが出来るのだろうが、今の時点で獲得できたスキルポイントを使い切ったためにこれ以上は≪ガントレット≫の強化は不可能だ。
俺はこの準備期間に獲得したスキルポイントを最初に基礎パラメータの強化に該当するスキルのレベルアップに用いていた。
≪魔力強化≫を≪MP強化≫という上位スキルにした以外は他のパラメータ強化スキルの全てを上限に近い高レベルのままで留められており、敢えて余らせたスキルポイントを使うことで≪ガントレット≫のスキルレベルを上げることにのみに使った。先の冠詞と締めの言葉はその時に獲得したもので便利なことこの上ないのだが、格闘をアラドに習っていたというのに一般的に籠手や具足のような直接身に纏う類の専用武器を使うプレイヤーが習得することの多い≪格闘≫スキルと称されるものにあるような攻撃アーツを習得することができなかったのは残念でしかない。
だが、今はそれでも仕方ないかと思う。
迫るドラゴ・エスク・マキナが吐き出す炎が重ねて展開された複数枚の盾を破壊しながらも途中で阻まれて俺とアラドに届くことはなかったからだ。
「今度は俺も参戦させてもらうぞ」
腰のホルダーからガン・ブレイズを抜き、即座に剣形態に変形させながら告げる。
「フンッ。好きにしろよ」
「そうさせて貰うよ」
自然体で大剣を構えるアラドの隣に並ぶ。
全くを以って不満だが俺にとっては一度目の、アラドにとっては二度目の戦いの幕が上がった。