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Re:スタート ♯.12

「くそっ、思ってたよりも反撃が激しいな」


 クロスケの背中からジャンボ・グレムリンの弱点である頭部を攻撃するために飛んでいる俺たちを狙って無数の泥の飛礫が襲い掛かる。


 一つとして当たるわけにはいかない。

 当たればそれだけでダメージ以上の被害を被ることになる。


 天井付近からジャンボ・グレムリンまでの距離を巧みに操りながら飛ぶクロスケの背中から牽制を兼ねた銃撃を放つ。

 頭部以外に命中してもHPを多少削れるだけで傷自体は即時に修復されてしまう。

 大きなダメージを与えるにはその弱点の頭部を穿つ以外に方法はないはずだ。


 銃形態のガン・ブレイズでジャンボ・グレムリンに狙いを定めている俺はクロスケが大きく鳴いたのを聞いた。

 ポンポンとクロスケの首元を叩き、準備は出来ていると伝える。

 すると翼を折りたたみ急降下を始めるクロスケはその勢いのまま飛んでくる泥の飛礫を避けながら近付いていった。


 ここだ、というようにクロスケがもう一度鳴くその声を合図に俺はその背中から飛び降りた。


「くらえっ。〈インパクト・スラスト〉!」


 咄嗟に剣形態にに変形させたガン・ブレイドの刀身に赤い光が流星のような軌跡を描く。

 縦一文字の切り傷がジャンボ・グレムリンの頭部に刻まれる。

 表情のない頭頂部に浮かぶクレイ・グレムリンの顔が苦痛に歪み、その頭上に浮かぶHPバーが凄まじい勢いで減少を始めた。

 そして自壊するかの如く崩れ始めた体を引き摺りながらもがき苦しむジャンボ・グレムリンが自分の体重を支え切れなくなって右足の崩壊をきっかけに地面に転がった。


 弱点を狙うことがジャンボ・グレムリンを討伐する時の近道。HPの全てをごり押しで削ったとしても倒し切ることは出来るだろうけど、それまでに至る時間と負けてしまう可能性は高くなる。

 そう考えて弱点を探し攻撃を加えたというわけだなのだが、ここまで劇的にHPが減り、身体がドロドロに溶けて崩壊し始めるとは思っていなかった。


 当初から設定されている弱点を攻撃することで劇的に戦闘が変化するモンスターは存在する。有名なのはゴーレム種のモンスターだ。

 思えばジャンボ・グレムリンもゴーレムのようなものなのだろう。

 他のクレイ・グレムリンを吸収して出来あがった体は、土と魔法によって体が出来あがるゴーレム種と共通している部分が多い。


 そんなことを考えながら着地した俺を見届けたクロスケはその身を翻しガン・ブレイズの中へ消えていく。


「なにをボサッとしてやがる」


 反撃を警戒して距離を保ちつつ地面に転がるジャンボ・グレムリンを見下ろしている俺の前でアラドがその大剣をジャンボ・グレムリンに叩きつけていた。

 瞬間、光の粒となり霧散するジャンボ・グレムリンの向こう側で大剣を肩に担いでいるアラドと目が合った。


「ったく、油断してンじゃねェよ」

「あ、ああ。悪い、助かった」


 出現したコンソールに表示されているこの戦闘のリザルトには獲得した経験値とドロップアイテムが記されており、中でも経験値の値が驚くものになっていた。

 確かにジャンボ・グレムリンが出現するまでに討伐したクレイ・グレムリンの数は二百を軽く超えており、それは普通は一度の戦闘では相手にすることのないモンスターの数だった。


『先を急ぐのですかー?』

「どうすンだ?」

「悪いけどちょっと待ってもらっていいか? 今の戦闘でレベルが上がったからさ、その分のスキルレベルも上げておきたいんだ」


 あれだけのモンスターを討伐したからこそ、この戦闘だけで俺のレベルは元の倍の10にまでジャンプアップしていた。

 獲得したスキルポイントは5。

 スキルレベルを上げるのは≪ガントレット≫のレベルを一つ上げてレベル3に。これにより〈エアトス・シールド〉の消費MPとリキャストタイムの短縮が出来た。

 残りは≪魔力強化≫を二つ上げてレベル10に。これにより上位スキルに該当する≪MP強化≫に変化できるようになったが、これは≪魔力強化≫のままで維持。

 残るスキルポイントは≪ガン・ブレイド≫に一つ使いレベル3に、≪攻撃強化≫も同様にレベルを上げてレベル9にした。


「もういいぞ」


 近くの地面に座り込み俺を待っていたアラドが立ち上がり先を急ごうと告げてきた。


『ちょっと待つのですよー。ここがちょっと気になるのですよー』


 にゅっと大剣から半身を乗り出した精霊が壁を指差しながら言った。


「ドコだよ」

『ここなのですよー』


 怪訝そうな顔で精霊が指さした場所に近づいていくアラドが岩壁に触りながら調べ始める。すると程なくしてある一点に触れた時、アラドの手が止まった。


「なにかあったのか?」

「黙って見てろ」


 そう言うとアラドは両手を使い壁を押し始めた。

 動くわけないと言い切るのは簡単。しかし、動くと思って壁を押し込んでいくアラドはそんなこと微塵も考えていないかのように力を弱めることは無かった。


『あと少しなのですよー』


 精霊はアラドがしていることの意味が全て分かっているかのように両手を上げて応援している。

 ならば俺も黙って見守る以外に選べる選択肢は残っていないようなものだ。


「…動く……」


 小さなアラドの呟きの後、ゴゴゴという地鳴りに続いて石壁の一部が内部にめり込むようにして大きな窪みが現れたのだった。


『ここから下に行けるのですよー』


 精霊が窪みの床を指差す。

 反射的に見上げていた視線を下に向けると人一人が通れるくらいの大きさの暗い闇の底に続いている穴がぽっかり口を開けていた。


「ちょっと待て。ここからって、まさか落ちろって言ってンのか?」

『落ちるわけじゃないのですよー。すべり台みたいにして降りるだけなのですよー』

「同じコトだろうが」

「っていうか、この穴はどこに続いているんだよ」

『さあ? わたしは知らないのですよー』

「なンだソレ」


 曖昧な精霊の言葉に従ってこの穴に飛び込むか否か。

 悩む俺とアラドに選択を迫るのは常に外部。

 一階層の通路に反響し始めた人の声はお世辞にもダンジョンの攻略に挑もうとしているようには聞こえてこなかった。

 戦闘中というわけではないが、何やら穏やかならぬ雰囲気を含んだその声の中に『アラド』という一言が無ければ無視できたようなものの、その一言があるが故に俺は焦ってしまう。

 アラドは平然としているのだが、面倒ごとは嫌だと思う俺が穴に飛び込むことに対して前向きに考えていると、近づいて来る人の影が見えてきた。


 どうするか。

 近付いてくるプレイヤーが全く持って関係ない人である可能性はある。それに加えてアラドが以前にそのプレイヤーたちと揉めていたとしても、姿を変えている今のアラドを本人だと認識できるかどうかも解らない。とはいえ、それら全てが裏目に出てしまうかもしれないというのもまた事実。


「行くぞ」


 先に決断したのはアラドの方だった。


「いいのか?」

「コッチの方がオモシロソウだろ」


 ニヤリと笑うアラドが躊躇することもなく穴に飛び込む。

 一人が穴に入った段階で窪んだ岩壁の天井が崩れ始め穴を塞ごうとしているかのようだ。


「迷っていられる時間はないってことか」


 崩壊して穴が埋まってしまえばアラドに追いつくことは出来なくなってしまうと俺は慌ててその穴の中に飛び込んだ。


「う、うおおおおおおおおお! 早ええええええええええ!! 怖えええええええええええええ!!!」


 どこかの絶叫マシンのように滑り落ちていく俺はギリギリのところで塞がった穴の入り口が差し込んでいた光を閉ざす。

 暗闇に包まれればそれはそれで怖かっただろう。しかし、完全に暗闇に包まれることはなく、壁の至るところに生えている仄かに発光している苔がトンネル内の電灯のように俺が滑り落ちていく道を照らしていた。


「っていうか、これはどうやったら止まるんだ?」


 重力に従って増していくばかりの勢いは現実で経験したことのあるすべり台というものから大きく逸脱していた。

 落下している今はまだいい。

 しかし、それが終着点に到達した時が問題だ。

 緩衝材になるものが何もなければ地面に直接激突してしまい、その瞬間は想像したくもないスプラッターな映像になってしまうだろう。

 だからと言ってここで壁にガン・ブレイズの刃を突き立ててブレーキ代わりにするにしても、終着点がどこなのか解らない今、武器の耐久度が無駄に減ってしまうなんてことになりかねないのだ。


「アラドが何も言ってこないし、多分大丈夫なんだろうなぁ」


 若干楽観的とも取れる判断だが、言ってしまえばこれは俺の強がりだ。

 そして、生と死を分ける未来が訪れるのに対して時間は必要としないはず。

 どれくらいの時間、どれくらいの距離が過ぎたのだろう。

 今や落下の速度にも慣れてしまって叫ぶこともない俺は達観した老人のような落ち着きを見せている。


 足の先に光が見えてきた。


 それが出口の光であることを自覚したその時、再び自分が地面に衝突する光景を想像してしまい頬が引きつくのが解る。

 それでも叫ぶまいと全身に力を込めたその瞬間。

 俺の身体は宙に舞った。


「へっ!?」


 唖然とする俺は落下の勢いをそのままに空中でくるくると回転した。


「――落ちるっ!」


 自分の意思に反して回転する自分の体では上手くバランスを取ることが出来ずにいる。これでは綺麗な着地を決めることなどできはしない。

 せめて尻もちを着いてでも衝撃を受け流すことが出来ればいいのだが、そんなことが出来る自信は全くない。


「何が?」


 起きたのだろう。

 いよいよ地面と激突する未来を受け入れるしかないと覚悟を決めた俺を正体不明の浮遊感が包み込んだ。

 まるで見えない手が親がおんぶしていた我が子をそっと地面に下ろす時のように俺を丁寧に地面に下ろしたのだった。


『おケガはないのですかー』

「あ、ああ。アラドがどうにかしてくれたみたいだな」

「まァな」


 先に下りていたアラドが精霊と共に呆然とする俺に話し掛けてきた。


「もしかして、さっきの穴も罠だったりするのか?」

「タブンな」

『でもこうしてショートカットできたのですよー』


 俺の戸惑いとアラドの疲労感を気にも留めていない精霊が告げた。

 確かに穴を抜けて、というか落ちて辿り着いたここはさっきまで居た第一階層の通路とは全く違う雰囲気がある。

 人の手が入ったかのように整備された天井や壁。そしてこの区画のあちこちに置かれたり散らばっていたりするのは、俺がガン・ブレイズの整備をする時に見かけるようなネジなどの部品。それらは一見するとファンタジー系ゲームの雰囲気にはそぐわないようにも見えるが、よくよく近くで確認してみると現実で目にするものとは違っていた。

 簡単に言い表すのならば古代の機械兵器の部品とでもいえばいいのだろうか。

 どのような目的で、どのように作られたのか解らない部品がこの場所に無造作におかれているのだった。


「でもって、またボスバトルがありそうだ」


 この階層の確認の為に視線を巡らせていると不意にアラドがそんなことを言ってきた。


「どういう意味だ?」

「オマエも自分の目で見れば解かンだろ」


 その言葉が示す存在がこの階層で光の当たらない闇の中に佇んでいるのが見えた。



ようやくグレムリン戦が終わりました。

ここで懺悔を一つ。

元々この戦闘は一話で纏めるつもりでした。しかし、現実でのネット回線の故障や別のゴタゴタが起こったりしたせいで思ったように執筆の時間が取れず、こうして三回に分けてしまったのです。

一話一話が短いのもそのせいです。

今後は必要ではないのに一話を数回に分けることの無いようにするつもりですが、当分は一話の文字数は5000字程度になってしまうと思います。

プライベートが落ち着いた頃にはまたしっかりとした文量で書きたいと思いますので暫くはこのままでご容赦くださると幸いです。

因みに更新時間はバラバラになるかもしれませんが、平日毎日更新は続けます。

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