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Re:スタート ♯.7.5

今回は短いですが、前話の続きです。


 舞い上がる砂塵が俺とアラドの姿を覆い隠す。

 濃霧のような砂埃の中、アラドの振るう黒い大剣が俺に迫る。

 風を切り濃霧を掻き消すかのような鋭い攻撃を俺はこの戦闘が始まって以来、初めて使う空気の盾〈エアトス・シールド〉で受け止めた。


「何ッ!?」


 空気の盾に衝突し跳ね返る大剣の勢いに流され大剣を持ったまま両手を上げるアラドに、あからさまな隙が生まれた。

 瞬間、俺はガン・ブレイズを構え直す。


「決めさせてもらう! 〈インパクト・スラスト〉!」


 威力特化の一撃が赤い閃光を伴ってアラドを捉えた。


「グッ、オオオオオオオオオオオオオオオ!」


 凄まじい咆哮を放つアラドは咄嗟に大剣を手放し両手の手甲で俺のガン・ブレイズを掴む。

 攻撃アーツ発動中の刀身はそれ自体が攻撃と同等。

 直撃することは勿論のこと、掠れるだけでもダメージは発生してしまう一撃を掴むなんてことは以ての外。相手の攻撃が強ければ強い程自殺行為に繋がるその行為を微塵の迷いも無く実行に移したアラドの胆力を褒めるべきなのだろう。


 ガン・ブレイズの刀身を掴むアラドの指の隙間からはバチバチと火花のように散るアーツの光が漏れていた。


「このまま推し切る!」

「ムダだああアアアアアアアアアアア」


 意識の全てをガン・ブレイズでの攻撃に向けていた俺とは違い、手甲を嵌めたアラドの意識は反撃と自身の勝利に向けられていた。

 次第に俺の攻撃の光が弱まっていく最中に生まれた瞬間を逃さないとアラドの眼光が鋭く光る。


(……まずいっ)


 その瞳を見た瞬間、俺はアラドの狙いに気付くことが出来た。

 しかし、がっちりと刀身を掴んで放さないアラドは自分の手が傷つくことを恐れずに右手で強く握ってきたのだ。

 強固な専用武器の耐久力を俺の攻撃が上回っているのは確実だろう。その証拠に刀身を握るアラドの右手には無数のひびが入っていく。


 だが、この戦闘における勝利を掴んだのは自分の右手も犠牲にした決断を下したアラド。

 それは金色の光を纏う拳が俺の腹を打ち抜いたその瞬間に決定付けられた事実だ。





 俺とアラドの一騎打ちが終わった。

 戦っていたその場で仰向けに倒れ込んだ俺は目の前に飛んできたリリィに曖昧な笑顔を向けた。


「ねえ。もう一度聞くけど、何で戦ったのさ?」


 解らないと腕を組むリリィは俺と同じように戦闘の疲れから地面にへたり込んでいるアラドを見て問いかけてきた。


「何でって言われてもな。何となくとしか言いようがないんだけどさ」

「はあ?」

「強いて言うなら…そうだな。アラドがランクアップをしていて、俺も同じようにランクアップしてたから…かな?」


 またも訳が分からないと首を傾げるリリィは半目で俺を見下ろしてくる。


「…よっと」


 体を起こしストレージから取り出したHPポーションを使用する。


「ちょっと、大丈夫なの?」

「ああ。これは初めから死ぬことはない戦いだったからな」


 このゲームにおける対人戦は大きく分けて二種類。


 問答無用に対人戦を強要するPK戦。これには何重もの制約が設けられるようになっていた。まず戦闘で勝っても経験値もアイテムも手に入らないということ。それと仕掛けた側には負けた場合にいつも以上のデスペナルティが掛けられるようになっていること。これは時間でパラメータ減少と次レベルアップに至るまでの獲得済み経験値の減少いう通常のデスペナルティの他に死亡時の強制ログアウトと再度ログインしてくるのに可能となるまでに12時間というインターバルが設けられるようになること。

 加えてもう一つが仕掛けられたプレイヤーが死亡した場合、デスペナルティで受けるパラメータ減少はそのまま、経験値の減少は発生しないものとなるようになっているということだ。


 これではこのゲームで対人戦が行われなくなると懸念してのコトだろう。

 もう一つ『決闘』という形で残されたPVP方式がある。双方合意の上で行われる決闘にはPK戦やモンスターとの戦闘とは違い『負け』はあっても『死亡』はない。

 勝敗が決定付けらるのは戦っているプレイヤーのHPが全損した時ではなく、一定値以下にまで減らされた場合だからだ。

 その一定値というのがHPの残数が二割を切ってHPバーの色が赤く染まるデッドラインと呼ばれる値になるまで。

 仮に一撃でHPを全損させる威力のある攻撃を受けたとしても必ず1ポイントだけ残るように決まっているのだった。


「何時まで寝てンだ?」


 知らぬ間に俺の近くまで来ていたアラドがポーションの瓶を咥えたまま見下ろしてきた。


「アラドは大丈夫そうだな」

「当たり前だ」

『わたしが守っていたから当然なのですよー』


 アラドの背後から顔を出した精霊がふんわりとした口調で告げる。


「俺の勝ちだな」


 勝ち誇るアラドに俺は小さくため息を吐き頷く。

 それから何となく気になったことを訊ねてみることにした。


「ったく、アラドのレベルは幾つなんだよ」

「23だ」

「はあ? ランクを上げたんじゃなかったのか?」

「上げたに決まってンだろ」


 背負わずに持って来ていた大剣に視線を送りながら答える。


「そりゃあさ、その大剣を持っているんだからそうだろうとは思ったけどさ。いくらなんでも早くないか? 俺だってまだレベル5なんだぞ」


 例のクエストをクリアしたことで俺に掛けられていたレベル制限は解除されていた。

 そしてクエストクリアの報酬として渡されたのがダンジョンに入るための『許可証』と謎の液体が入った陶磁器の小瓶。

 アルハスの町に来る少し前に俺はその小瓶の栓を開け中身を使用した。

 俺が想像していた小瓶の中身はクエスト内でレベルが上限に達した後に得た経験値を象徴化したもの。使用することで上限が外れた俺のレベルが上がっていくのだとばかり思っていたのだが、現実には違っていた。

 クリアに至るまでに得た経験値が参照されているのは同じだったのだが、俺に与えられるのは経験値ではなく、上昇するはずのレベルに相当したスキルポイント。


 この時に俺が得たスキルポイントは3。俺はそれを使い、≪ガントレット≫と≪HP強化≫スキルのレベルを一つずつ上昇させて、残る1ポイントは≪器用強化≫の取得に当てた。

 ≪ガントレット≫のレベルが上がることで〈エアトス・シールド〉のリキャストタイムが短縮され、≪HP強化≫のレベル上昇は文字通り俺の最大HPを増やした。

 ≪器用強化≫はDEXに僅かながらの数値上昇をもたらしたのだった。


「そこまでだ!」


 自分とアラドのレベル差を考えながら座り込む俺と、その横に立ち精霊と話をしているアラド。

 僅か数分前に必死の形相で戦っていた二人だというのにどういう訳か、和やかな空気が漂っているこの場所にどことなくマヌケな男の声が響く。


「やあやあ、この大北(オオキタ)が来たからには野蛮な戦闘はそこまでにしてもらおうか」


 一階層から漏れる逆光を背負いながら大きなアクションで見栄を張る男に俺とアラドの視線が向けられる。

 男の格好も変な感じだ。

 逆光を反射して金色に輝く全身鎧。

 背負っているのは武器ではなく大きなのぼりの付いた旗。

 剥き出しになっている顔は良く見えないが、俺とアラドよりも年上のようだ。


「誰だ?」

「…俺が知るか」

「だよな」


 すっと姿を隠した精霊と俺の外着のフードに潜り込むリリィを横目で確認しつつ、俺は自分のガン・ブレイズを握り、アラドは地面に突き立てている大剣を握る。


 立ち上がってアラドに並び構えをとる俺はガン・ブレイズの切っ先を乱入してきた男に向けた。



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