Re:スタート ♯.7
「ちょっと、ちょっと。なんでいきなり戦い出してるのさ?」
戸惑うリリィの声が虚しく響く。
廃墟の庭先のようなダンジョンから奥に入り、その中にある吹き抜けの一室にある扉が壊れ元隠し階段となっている階段を下りた先。伽藍洞となっているダンジョンの二階層にて二人のプレイヤーが剣を交え始めたのだった。
二つの剣閃が交差する。
一つは言うまでもなく俺の持つガン・ブレイズ。ホルダーから抜き瞬時に剣形態へと変えたそれを振るっていく。
二つ目はアラドの持つ黒い刀身の大剣。アラドは赤い亀裂模様が脈動する大剣を両手で軽々と操ってみせているのだ。
「オラァ!」
振り抜かれた大剣の切っ先が俺の鼻先を掠める。
危機を感じ咄嗟に動きを止めたことで直撃は免れたものの、それは自ずと俺の次の攻撃の手を遅らせることにも繋がっていた。
「こっちが…ガラ空きだ」
アラドが両手持ちをしていた大剣から左手だけを放し、そのまま俺を殴りつけてきた。
「見えてる!」
「…チィ」
剣とは違う金属同士がぶつかり合う音が響く。
元より片手で操っているガン・ブレイズだ。そして、今の俺は空いている左手には魔導手甲は付けられていて、それは攻撃よりも防御に重きを置いた武器となっている。
初めから武器として長い時間鍛えられたアラドがその両手に付けている手甲とは似て非なるもの。
攻撃と防御という違う目的で作られた手甲が衝突したのだ。
俺の腕とアラドの拳が激突している最中、俺たちはほぼ同時に次の攻撃を目論んでいた。
矛と盾がぶつかり合っている現状、二人は限りなく近づいている。それは即ちお互いが近距離武器である剣の攻撃範囲内にいるということでもあった。
「喰らえッ!」
「はあッ!」
接触しているのは互いに左手。
剣を持っているのも互いに右手。
そして、攻撃を繰り出したのも同じ右側からの斬撃だった。
大剣とガン・ブレイズ。
大きさの違う刀身を持つ剣同士の激突は本来、自重の重い方が有利。しかし振り抜かれるまでの距離が僅かで攻撃に十分な勢いを乗せることの出来ない状況では、片手で扱うことが前提のガン・ブレイズの方が速度を出すことが出来るのだ。
アラドが持つ大剣が迫るその直前、俺が振り抜いたガン・ブレイズの刃がその黒い刀身を受け止めた。
「まだだッ」
続けざまにガン・ブレイズを浮かせ、黒い大剣を上から思いっきり叩きつけた。
ギリギリと押し合うアラドの手甲と俺の魔導手甲。同時にガンッと音を立てて地面にめり込んだ黒い大剣の切っ先を俺は鉄底のショートブーツで踏み付けた。
思いっきりではないのは自分の体重で自分の足を傷つけてしまわないようにするためだ。
簡単に部位破壊の状態異常を与えることの出来る黒い大剣だからこそより強い警戒を向ける必要があるのだ。俺のその予想を正解だといっているかのように実際に俺のショートブーツの靴底には深くない傷跡が刻まれてしまっていた。
「――くッ」
両手を封じられ、攻撃も防御も出来なくなったアラドは憎々し気に俺を見た。
「行くぜッ! 〈アクセル・スラスト〉」
速度強化の斬撃を腰の捻りと腕の振りだけで放つ。
密接しているせいで回避は望めず、両手を防いでいるせいで防御も出来ない――はずだった。
『させないのですよー』
俺が発動させた攻撃アーツはその威力を発揮することも無く、不意に現れた第三の手によって防がれてしまった。
「そういや、アラドの大剣は精霊器だったよな」
「はッ、折角のバトルだ。こんな簡単に終わらせるつもりはねェよなァ」
『アラドにはわたしが付いているのですよー』
内心憑いているの間違いではないかと思いながらも俺は精霊の手から逃れようと大きく後ろに跳んだ。
あの黒い大剣が持つ精霊器としての特性が精霊の腕なのだとすれば、それは俺が使った必殺技〈シフト・ブレイク〉と同じ類のはず。
そう考えるのは間違いではないのだろうけど、不思議と威圧感のようなものは感じられなかった。
「っても、俺もそれを使う訳にはいかないんだけどな」
俺の必殺技には長いリキャストタイムと発動までに要する膨大なMPを溜めるための時間が必要となる。
一度使えればかなりの威力がある技ではあるのだが、それは反対に一度使ってしまえば暫くの間は使えないということでもあるのだ。
何よりも、ここに来るきっかけとなったソルナ救援のクエストで使ってからゲーム内の時間でまだ20時間程度しか経ってはおらず、再度使用することが出来ない状況であるのだった。
「オマエ…ランク上げただろ」
「そりゃあ、これだけ斬り合えば解るよな」
「アタリマエだ」
「そう言うアラドこそ、ランクを上げたんじゃないのか? っていうか、その大剣がアラドの二つ目の専用武器なんだろ?」
ランクを上げたことによる特典。それが第二の専用武器。
元より専用武器である手甲の他に数多の剣を自在に操っているアラドなのだ。今更新しい剣を携えていたとしても不思議ではないのだが、それが精霊器となれば話は別だ。
精霊器は特別な武器。
耐久値が減少して切れ味や攻撃力が落ちることはあれど決して壊れることのない専用武器を除く他の武器。プレイヤーやNPCの手によって作られた武器やモンスターとの戦闘の際にドロップして手に入れることの出来る武器はその耐久限界に至ることで破壊され消滅してしまう。
その為にあの時に受けたチュートリアルでは専用武器を精霊器にすることが望ましいと説明された。
だから俺も自分の専用武器であるガン・ブレイズを精霊器にすることを選んだのだ。
そんな自分を鑑みればアラドが精霊器として選んだ黒い大剣が何の変哲もない武器であるはずが無い。
最初の専用武器が手甲であることを知っている俺だからこそ、アラドがランクを上げ、その際に得た第二の専用武器がこの大剣であることは明らかだった。
『わたしが付くに相応しい剣なのですよー』
自慢げに胸を張る半透明の少女、精霊が告げた。
その彼女に視線を向けることなくアラドは再び大剣の柄を握り構え直した。
「どうした? まだやれるンだろ?」
「当たり前だ!」
俺もガン・ブレイズを構え叫ぶ。
俺とアラドの間にあるのはほんの数メートルという短い距離だけ。
それは強く踏み込み前に出ることで簡単に埋められてしまう程度の距離だ。
再度激突する俺とアラドは何よりも先に己の持つ剣を振るう。
俺の持つ最大の武器がガン・ブレイズであるように、アラドの持つ最大の武器は手甲である。それは即ち未だ鍛錬しきれていない第二の武器が俺の場合、魔導手甲でアラドはその黒い大剣であることを示している。
本来、強化の度合いが違う武器というのはそのモノの持つポテンシャル自体が違ってくる。そのポテンシャルというのには攻撃力や正確さなどの他に耐久力というものがある。耐久度とは攻撃を受ける度に減少していくもので強化を繰り返すことで高めることが出来るのだ。
だからこそプレイヤーのレベルに応じた武器が必要になってくる。
より強い相手に勝つ為にはそれだけの攻撃に耐え得る武器が必要で、反対にプレイヤーのレベルに反して強力な武器というのは持て余してしまうことになりかねないものだった。
しかし今の俺とアラドは自身のランクを上げたことでレベルという垣根を超えた武器を扱えるようになっていた。
そういう意味ではガン・ブレイズとアラドの大剣が有している激突しても問題はないのかもしれない。
だが≪鍛冶≫を行う生産職として言わせてもらえば、だからと言って強化を重ねた武器とそうでない武器が拮抗しているのは明らかに異常ではあるのだ。
「成る程ね。それが…理由か」
俺が見たのは十字に交差する黒い大剣の刀身を覆う半透明の黒い影。
それが直接ガン・ブレイズの刀身が黒い大剣に当たることを妨げ、耐久度の減少を防止しているようだ。
『何度でも言うのですよー。わたしがアラドを守るのです』
ふんわりとした口調ではあるが、精霊が発揮している能力の程は確かなもののようだ。
そう言えばと思い出す。何本もの剣を戦闘の度に使い潰していたアラドからすれば、手甲以外に決して壊れることのない武器というものは望んで止まないものだったのだろう。しかし専用武器であっても攻撃や防御の度に減ってしまう耐久度は必ずしもアラドの願いに見合うモノでは無かった。
そんな思いを抱くアラドだからこそ得た精霊器の能力。
不懐にして不滅。
何度攻撃しても、何度防御しても減らない耐久度はそれだけで十分以上の恩恵をアラドにもたらしているのだ。
「決まり手に欠けるってわけか」
必殺技が使えない俺は必ず勝てるという保証はない。
そう考える自分を嘲笑うようにアラドは防御の緩んだ隙を狙って拳を突き出してきた。
「ぐっ」
意識が戦闘に集中しきれていなかった俺は防御が間に合わずその拳をまともに受けてしまう。
減っていく自分のHPを目の当たりにしつつも、ポーションを使って回復することは無く、ダメージを受けて仰け反ってしまうその勢いを利用してガン・ブレイズを振り上げた。
「いいネェ。そうじゃネェと面白味が無いってもンだ」
大剣を腹をガン・ブレイズが斬りつける。
ガリガリと音を立てているのは黒い大剣か、それとも斬り付けている俺のガン・ブレイズの方か。
「ま、多分俺の方なんだろうけどさ」
そう呟く俺の目に黒い大剣の腹に刻まれた一筋の傷跡が目に入って来た。
思えば、あの黒い大剣は強化回数が少ないはずなのに能力を持ち過ぎている。というよりもレベルを上げる前の段階ですら不懐や不滅などというものは実現できなかったし、何よりも先程アラドはあの大剣を用いて数多のプレイヤーに部位欠損という状態異常を与えていたではないか。
部位欠損は確かにプレイヤー同士の戦闘やモンスターとの戦闘で稀に現れる状態異常だ。事実、俺が目にしてきたのも無いわけではない。しかし、それがほぼ100%という確率で起こることなど有り得ない。
加えてそんな強力な状態異常を引き起こすことのできる能力が他の能力と並行して持っているような武器があるわけがない。
仮にあったとしても、それは最近手に入れたばかりなどという専用武器ではないはずだ。
「俺の想像が違っている?」
ならばどこで間違えたというのだろう。
否定していく材料を見つけて先ず否定したのは部位欠損などという状態異常の100%付与などという能力だ。
実現不可能に近しいその能力を偶然、アラドが手に入れたなどとは考えないことにした。
次に否定すべきなのは何だろう。
アラドの攻撃に身構えつつも思考を巡らせる俺に気付いたのだろう。不敵にアラドが笑った。
「…どうかしたか?」
「やっぱオマエとのバトルはイイな。心が躍る」
清々しいまでの笑顔を向けてくるアラドに俺は何とも言えない表情になってしまっていた。
「オマエだってそうだろ?」
認めたくは無いが、アラドの気持ちは解らなくもない。
強敵との戦いは自分を昂らせるものがあるのは重々解っていることなのだ。
「ってもな。俺の場合はプレイヤーとの戦いじゃなくてモンスターとの戦闘の方が燃えるんだけどな」
例外に思えているが目の前の相手との戦闘なのだが、そんなこと本人には知られるし、言うつもりもない。
「そろそろいいか……?」
「意外だな。俺のことを待ってくれていたのか?」
「なンだよ。俺がそンなセコイ攻撃するとでも思ってンのかよ」
「…どうだろうな」
思考を止めるつもりは無いが、それだけに集中していては戦闘自体が疎かになってしまう。
ガン・ブレイズを構え俺は自分の意識を戦闘と思考に分けた。
「行くゼ」
大剣を振りかざして迫ってくる。
十分な距離がある今、大剣の威力は存分に発揮できることだろう。それこそ俺の持つガン・ブレイズを正面から打ち退けてしまうほどに。
俺が打ち勝つには手数を増やす以外に道は無い。
だからといって我武者羅に打ち込んだのでは大して効果的な攻撃を繰り出すことは出来ないはずだ。
全ての攻撃をクリーンヒットさせる必要は無いまでも、全ての攻撃がクリーンヒットに成り得ると思わせなければ織り交ぜる牽制用の攻撃も意味を成さなくなってしまう。
大剣の一振りが来る前に二度三度斬り込む。
そうすることで大剣の勢いを削ぎ、同時に俺の攻撃がアラド本体に当たる確率を引き上げることができる。
「ハァッ」
手数自体は俺の方が圧倒的に上。しかし黒い大剣の纏う影が俺の攻撃を防いでしまう。
それに剣本体から伸びてくる精霊の手というのも困りものだ。それ自体には大した攻撃力は無いのだと判っているのだとしても、先程のようにこちらの攻撃を妨害できるのは明白だ。
やはり俺がアラドに勝つにはあの黒い大剣の持つ防御を突破する以外には無さそうだ。
「どうしたァ! それでオシマイか!」
攻撃の威力の差が浮き彫りになり始めた頃、アラドはワザと俺を挑発するかのような動きを見せ始めた。
大振りになる攻撃も、敢えて空を切る斬撃も、その全てが俺の最大の攻撃を引き出すための囮。それに引っかかってしまえば、俺はこの戦いに負ける。
だから、負けないために俺はアラドの持つ大剣の謎を解く。
「もしくは防御を上回る攻撃、か」
小さく呟く俺にアラドはまたも口元だけで笑う。
俺が破れかぶれの攻勢に出るとでも踏んだのだろうか。ならば俺はその認識の齟齬を穿ってやればいい。
「〈サークル・スラスト〉!」
攻撃範囲特化の回転切りの攻撃アーツを放つ。
盾のように構えた黒い大剣の上からでも伝わる衝撃がダメージとなってアラドのHPを削る。
「まだまだァ!」
ガン・ブレイズごと俺の身体を強引に押し返したアラドが叫ぶ。
「ならっ〈インパクト・スラスト〉!」
今度は威力特化の縦切り攻撃アーツを放つ。
再びアラドが大剣を盾にして俺の攻撃を防ぐも、威力に特化した一撃が与えるダメージは先程の範囲特化アーツの比ではない。
防御の上からも決して少なくはないダメージを当たることのできた俺が喜ぶよりも早く、アラドの持つ大剣の切っ先が俺の胸を突いた。
「……!」
呼吸が止められそうになる一撃はHPの与えるダメージ以上に俺に与える衝撃が大きかった。
大きく後ろに飛ばされ攻撃が届かない場所にまで追いやられてしまいながらも、両足で強く踏ん張って、倒れてしまわないように身を屈めた。
(まだだ。ここで足を止めればやられる。負ける!)
一転、意を決して前に出る。
しかしまたも俺の足を止めたのはアラドの大剣の周りにある影と同様の色をした第三、そして第四の手だった。
「必殺技〈ガウスト・ハンド〉」
アラドが大剣を地面に突き立て静かに宣言した技の名が示す通り、無数の影の腕が地面から伸び俺を捕らえて離さない。
「さて、ここで一つオマエの謎解きに付き合ってやンよ」
「な、何?」
大剣から手を放し、両手の拳を打ち付け合うアラドが影の手によって拘束されたままの俺に告げてきた。
「どうせオマエのコトだ。コイツのことが気になってバトルの集中しきれていないなんて言うンだろ」
予想もしていないアラドの言葉に俺は影の腕から逃れようともがくのも忘れ立ち尽くしてしまう。
『アラドいいのです? 他の人に聞かれてるかもしれないのですよー』
黒い大剣からにゅっと顔を出した精霊がアラドに問いかけた。
「別にどうでもいい。コソコソ隠れて聞くしか能のないヤツなんて気にするだけムダだ」
『そういうものなのです?』
「そういうもンだ」
自分の剣と話し合う、それこそ比喩でも何でもなく本当に話し合っているプレイヤーというものを初めて見た。
鍛冶師は自分が作った武器や防具と語り合うなんてことはよく耳にするが、実際にああして話をすることは無い。
一度くらい俺も武器と話をするということをやってみたい気がするのだが、傍から見た感じがああでは躊躇してしまうのも無理はないだろう。
「で、どうすンだ? 話をする気がないンならこのまま殴るぞ」
「わ、わかった。話をする。それに…気になっていたのは事実だしな」
もちろんそれで戦闘を疎かにしたなんてことはないのだが、こうして動けないままサンドバッグのように殴られるのは御免だった。
「言ってみろよ」
「は?」
「まさか俺がシンセツに何でもかンでも一から十まで話すなンて思ってないだろ」
思ってましたなんてことを言うわけにはいかず曖昧に笑って誤魔化した。
「そうだな。リミットは〈ガウスト・ハンド〉の効果時間が切れるまで。方法がオマエが自分の仮説を言って俺がソレに答える…でどうだ?」
「わかった。なら最初の質問だ。アラドの大剣を覆っている影は精霊器となったことで得た特殊能力で間違いないな?」
「セイカイ」
「その効果は……不懐」
「ハズレだ」
この時の俺は自分の仮説が外れて残念というよりも、やはりそうか、という思いに駆られていた。
寧ろ自分の間違いを確認するための問い、だったようにも思う。
「あるいは…部位破壊」
「それもハズレ」
そう。俺がしているのはあくまでも間違いの確認だ。
だから正解と言われるまで繰り返す必要は無い。
「もしくは……両立してる?」
「半分だけセイカイだ」
またもアラドが笑う。
そしてこの時に俺はようやくとでも言うべき手応えを感じることが出来た。
不懐であり部位破壊をもたらすことのできる武器。
片方だけでは間違いで両立では半分だけの正解。
「そうか、その二つを切り替えてるってわけか」
「セイカイだ」
アラドの持つ大剣は特殊効果を二つ持っている。その一つが不懐。敵の攻撃や自身の攻撃による耐久度減少を最低値に留めることのできる能力だ。もう一つが部位破壊という状態異常を付与する能力。
片方だけでも十分に脅威に思えるそれを両方持っているということだけでも驚くべきことなのだった。
「どうだ、満足したか」
「というよりは呆れてるよ。アラドの大剣の持つ能力はインチキ過ぎるだろ」
『そう言う割には余裕そうなのですよー』
「どうかな?」
遂に俺も武器から生えた首との会話に参加してしまっていた。
「それで、これはいつまで続くんだ?」
自分の身を縛る影の腕に視線を送りながら問いかけた。
「心配すンなよ。もうソロソロだ」
アラドの言葉の通り、俺を縛っている影の腕が一本ずつゆっくりと消滅し始めた。
「オマエは必殺技が使えねえンだろ。俺の〈ガウスト・ハンド〉もこれでリキャストタイムに入る。条件はイーブンだ」
「ったく。相変わらず、妙な奴だな」
影の腕から解放された俺は心機一転というようにガン・ブレイズを構えた。
「仕切り直しだ。いいよな?」
「ああ。アタリマエだ」
地面から大剣を引き抜き構える俺と、ガン・ブレイズを構える俺の視線が交わる。
「〈ブースト・ウォリアー〉」
浮かぶ剣を構える騎士の模様の魔方陣が俺を透過して消える。
アラドとの戦闘が始まる前、俺は自分の足りないであろうHPを補うために防御強化の〈ブースト・ディフェンダー〉を発動させていた。
けれど、それでは勝てない。
これまで負けなかったのは間違いなくそのアーツの恩恵だ。だとしても勝つ為に負うべきリスクは確かに存在するのだと、俺はここに来る直前のデッド・ラビットとの戦いで学んだのではなかったのか。
むやみやたらとリスクを負うのでは無策を通り越して愚策であるのだろうが、そのリスクを怖れて何もできないのではそれこそ全く意味がないというものだ。
「ソレがオマエの全力か?」
「ああ。アラドに勝つ為の全力だ」
「上等オォ!」
刹那、俺とアラドの剣閃が激突する。
それはこの戦闘、最後の激突となったのだ。
戦闘の決着は次回!