Re:スタート ♯.2
俺の第二の専用武器『魔導手甲』
それに適応したスキルも同じ名称の≪ガントレット≫だ。このスキルを習得して最初に使えるようになったアーツが先程使用した〈エアトス・シールド〉で、性能としては空気の壁を盾のように出現させて相手の攻撃を防ぐというもの。
すなわち俺の持つ二つ目の専用武器はその性能を攻撃ではなく防御に置いた、云わば防具とも呼ぶべき代物だった。
魔導手甲を装備した左手を引き、代わりに回転を加えたガン・ブレイズによる斬撃が隊長NPCに向かって大口を開けたままでいるデッド・ドッグの頭部を飛ばす。
デッド・ドッグの頭部と体を両断した斬撃を目の当たりにして俺は戸惑いを覚えていた。
耐久力が低いと推測していたにしても、想定外の威力を出したと言わざるを得ない。
「……ふぃ」
霧散するデッド・ドッグを見届け短く息を吐き出した。
剣銃からガン・ブレイズになったことで変形機構をより複雑なものに変えた俺の専用武器はそれまでと変わらずグリップの上にあるスイッチを押すことで二つの形態に姿を変える。
銃身が展開し、中から現れた刀身が前面へと伸びる。閉じた銃身の片方に刃の一部を浮かび上がらせた。
一振りの剣へと姿を変えたそれを俺は慣れた手つきで操る。
自画自賛のように聞こえるかもしれないが、その鋭さ足るや到底低レベルのプレイヤーであるとは思えない程だ。
まあ、実際にレベルが低いだけで初心者というわけではないのだが。
「無事か?」
「え、ええ。そうね、まだ生きてるのだから無事なのかしらね」
「ならいいさ」
ストレージから取り出したポーションを隊長NPCに投げ渡す。
「使え。どうせこのクエストはまだ終わっていないんだろうからな」
「ああ、有難く使わせて貰うよ」
俺の呟きを耳にして良く解らないという顔を見せた隊長NPCが一気にポーションを飲み干していた。
「さて…見えているのは三体ってところか。他にもいるだろうけど、目の前のアイツらを倒す方が先だな」
「そうだな。私も力を貸そう」
「元よりそのつもりだ」
ポーションによって体力を回復させた隊長NPCが立ち上がる。
そしてボロボロになっている盾を構え、シンプルな形の剣を握り直した。
「行くぞ! プレイヤー!」
「なっ!?」
俺をプレイヤーと呼ぶNPCを始めて目にしたわけではないはずだが、あまりにも自然にそう呼ばれたことに違和感を感じてしまっていた。
だとしても今は戦闘の真っ最中。瞬時に意識を戦闘へと引き戻し、俺はガン・ブレイズのグリップを強く握った。
目視できているデッド・ドッグが三体、その矛先を俺と隊長NPCに向けて飛び掛かってくる。
戦闘に介入した俺に一体、そしてそれまで戦闘中だった隊長NPCに二体。
警戒すべき攻撃方法は変わらず、噛みつくか引っ掻くくらいだ。
「あっちは…大丈夫そうだな」
自分は問題ないとこれまでの戦いで理解していたが驚いたのは隊長NPCの戦い方だ。
盾を巧みに操りデッド・ドッグの一体の攻撃を防ぎ、同時にもう一体のデッド・ドッグに剣を突き立てる。
的確に急所を穿つその剣術はステータスとスキルの恩恵に頼り切ったプレイヤーの剣術とは全く違って見えた。それこそ現実で剣術を学び、この世界で実戦に適したものに昇華させたかのような者でなければ並び立つことが出来ないような。
四肢の動きの起点となる前足の肩を破壊し、地面に倒れ込んだ一体を踏み台に残る一体の頭上を跳び越す。
アクロバティック且つこなれたその動きはそれまでも何度も行ってきた動きのように思えるが、それはどことなく隊長NPCが使っている剣術とはそぐわないようにも思えた。
「我流が混ざっているってことなのか? いや、それにしては随分と――」
自分に向かって来ていたデッド・ドッグが一体だけということもあって、手早く倒した俺は暫く隊長NPCの戦闘を見守ることにしていた。
共に戦うことになるという予想から隊長NPCの動きを知ることが出来ればいいと思ってのことだったが、今はそれよりもあの剣技に見惚れていたという感じでもあった。
ほぼ同時に二つの破裂音が聞こえてきた。
それは隊長NPCがデッド・ドッグを二体同時に倒したことを知らせる音だった。
「流石はプレイヤーというべきかな?」
「二体を同時に相手していたアンタ程じゃないさ」
剣を鞘に収め、盾を背中に担ぎ直した隊長NPCが話しかけてくる。
見える範囲にモンスターが居ないことを確認した俺はそれに答えながら離れた場所に待機してもらっていたリリィと騎士団員NPCを呼んだ。
「この先に小さな洞窟があるんだ。そこで休憩しよう」
「隊長。このまま町に戻らなくてもいいのですか?」
「ああ。まだ任務は終わっていないからな。プレイヤーさんもそれでいいかな」
「解った。それでいいよ」
二人のNPCに先導され俺は森の奥に進む。
道中デッド・ドッグは現れず、別種のモンスターも見かけることは無かった。
隊長NPCが安全な道を選び進んでいるからなのか、それとも先程倒したデッド・ドッグが出現しているモンスターの全てだったのか。おそらくは前者なのだろう。先程の任務が終わっていないという一言が変に俺の頭に残り続けた。
案内され辿り着いた洞窟は森の中にある小山の脇にあった。
露出している断面にも地面にも苔が生え、遠くから見れば緑の地面が膨らんでいるようにしか見えない。入り口がある方向から近付くことでようやくそこが洞窟だと解かる程度の大きさしかないのも見つけ難い原因の一つだろう。
「この季節はここに動物はいないからな。こうして休憩所として使わせてもらっているというわけなのさ」
「だったらさ、他の季節はどうなの?」
「目撃例が多いのは熊だね」
「くまぁ!?」
「まあ、この季節ここは安全だから安心してくれていいよ、妖精さん」
「わたしはリリィだい」
洞窟の地面にある石を椅子として座る隊長NPCにリリィが答えていた。
リリィを宥めながら口火を切ったのは隊長NPCだった。
「それじゃあ自己紹介を済ませようか」
「まずは自分から。自分の名はレイン・ブルゥです。隊長の下、騎士団に所属しています」
「そして私がレインのいる隊を預かっているソルナ・リュリュ。見ての通り騎士団に所属している」
「俺はユウ。アンタの言う通り……プレイヤーだ」
一瞬だけ躊躇して俺は自分の名を伝えた。
その際『黒い梟』というギルドのことは隠したまま、それは同時にクロウ島のことを隠すことにも繋がっていた。
「ここに来たのはそっちの、レインの依頼を受けたからだ」
「依頼?」
「その…隊長を助けて欲しくて、自分が依頼しました」
「ふむ。ではその依頼は私が引き継ぐことにしよう。申し訳ないがユウ君にはもう暫く付き合って貰うことになるとは思うが」
「別にいいさ。途中で降りるつもりはないからな」
クエストは現在も進行中となっている。どうやら依頼主が変わっても問題のないクエストのようで助かったとほっと肩を撫で下ろしていた。
「それで、これからどうするんだ? アンタが受けた任務ってのはまだ完了していないんだったよな?」
「ああ、確かに完了してはいないね」
「どういう内容なのか教えてくれるか?」
「任務の内容自体は簡単だ。最近この森に出現したモンスターの討伐さ」
確かに内容自体は簡単かつ単純なもののようだ。それこそ俺たちプレイヤーが日々熟しているクエストと同じ類と考えて問題ないはず。
なのに未だ完了していないというのはどういうことだと自分に問いかけて直ぐにウィザースターの教会前で話した男の言葉を思い出した。
レベル上限を与えられたプレイヤーよりも遥かにレベルの高いボスモンスターが出現するという情報が正しいのだとすれば、ソルナが討伐を命じられたモンスターというのはそのボスモンスターである可能性が高い。
「どこに出現するのか解っているのか?」
「いいや。情報によれば出現する場所はまちまちで、決まった場所に現れるというわけではないらしい。そのせいで前任の隊がいくつも全滅に追い込まれているというわけさ」
「だからって隊長一人で行くなんて無謀過ぎます」
「そうは言ってもね。私の部隊は未だ人員が集まり切っていない状態だからね」
「そんな隊に任せなければならない程に状況は切迫しているってわけか」
「まさにその通り。全く耳が痛いよ」
ソルナは困ったものだと笑ってみせた。
それに反してレインが塞ぎ込みながら呟く。
「それに、こう言っては何ですが、自分たちの部隊は実戦向きの部隊ではないのです」
「どういう意味だ?」
「有り体に言えばお飾り部隊。隊員の殆どが女性で構成される予定の部隊だからね。国の式典で重要人物たちを警護する時に都合がいいように作られるという訳さ」
自嘲気味に言い放つソルナに僅かに頷き同意してみせたレインはどこかまだ釈然としていないように見えた。
「せめてどんなモンスターが出てくるのかとかは解っていないのか?」
「生存者からの証言で良ければ伝えられるけど、正直あまり役に立つとは思えないね」
「構わないさ。こう見えて俺は色んな種類のモンスターを見てきたからな。俺が知っているモンスターの可能性も無くはないだろ」
「解った。証言にあったのは確か……」
「三メートルを超す巨体だったのと鬼のような角、それと全身が岩のように硬かったというものです」
「どうだい。何か思い当たるモンスターはいるかな?」
三メートルを超える巨体というのはボスモンスターの場合、大半が該当してしまう。鬼のような角となればやはり真っ先に思い浮かぶのは文字通り鬼やオーガという種類のモンスターだろうか。そして全身が岩のように硬かったとなれば鎧を纏った鬼の姿を思い浮かべてしまうのは無理もないこと。
しかし、ここが森であるということと、初心者が多く活動する町、ウィザースターの近くという二つの懸念材料が俺の想像を否定していた。
「いや。それっぽいのはいても、断定できる程じゃない」
「そうか」
「悪いな。期待させるようなことを言って」
「別に構わないさ。どちらにしても手を貸してくれるのだろう?」
「ああ。それが俺のクエストだからな」
「ならばそれでいいさ。では再び行くとしようか」
それほど長くない休憩を終わらせることを告げ、ソルナが立ち上がる。
部下であるレインがそれに続き、俺も同様に立ち上がった。
「で、何処に向かうつもりなんだ? 出現する場所が解らないのであれば闇雲に探し回るのか?」
「それしか無いだろうね」
「マジか……って、いや、待てよ」
「どうかしたのかい?」
あてもなく森を彷徨うことになることが決定してしまったらしい。
面倒に感じ落胆しかけるも、思い直すことにした。今のレベルが3である以上、上限まであと二つ上げられる余地があるということ。ならば先ずはそれをするべきなのだろう。
「さっきのモンスターとの戦闘をあと何回か試したい」
「何故と聞いてもいいかな?」
「俺のレベルを上げておきたいんだ」
「自分はいいですけど」
「私も構わないよ。どうせ目的のモンスターを見つけなければならないんだ。それに、道中のモンスターの討伐も私の任務に含まれているからね」
「助かるよ」
当面の行動の目的を定め、俺たちは洞窟から出て行った。
この洞窟に来るときはモンスターと出会わないように進んでいたが、今度は自分からモンスターがいそうな場所を目指し進む。
隠れ潜んでいるというわけではないが、それでもある程度見つけ難い場所にモンスターがいたのはどうしてか。まるで何かから隠れているとでもいうようなその光景が示す何かが自分たちならばまだいいが、そうでは無いのだとしたら。
目的のボスモンスターが潜んでいるのはこの近くなのかもしれないという予感がしてくる。
そんな中、実感したことだが、ここに出てくる雑魚モンスターはデッド・ドッグという種だけだった。
一度コツを掴んだ相手に後れを取ることはなく、問題なく討伐していく。
その数が二十を超えた頃、俺のレベルが4に上がり、それから更に十体を討伐した頃に現状の上限値である5に上がった。
この時に得た2のスキルポイントも全て≪HP強化≫スキルのレベルを上げることに使用して、結果、俺のHPにスキルだけで3000もの上昇値が加わっていた。
これは…認識を改めなければいけないかもな。
割合でHPの最大値が上昇していた前のスキルに比べ一定値で上昇するこのスキルは最初の習得時だけがその上昇値が大きく、後は緩やかな上昇値になるとばかり思っていた。それでも今は死ぬ可能性を下げるためにスキルレベルを上げた。
微々たるものであろうとそれが必要になると判断したからだ。
しかし、現実には二回のレベルアップだけで2000もの数字が増えた。
確かにランクアップする前に比べれば及ばないが、それはあくまでも76という高レベルの状態に比べての話だ。僅かレベル5の俺がその三分の一近くにまでHPの最大値を伸ばしているのは若干異常ともいえるのかもしれない。
「とりあえずはこのスキルを上限まで育てた方がいいかもな」
もしくは上昇値が減るまで。
このままの上昇値が続けば一般的なスキルのスキルレベル最大値である10になる頃には10000ものHPが加算されるということになる。
それでは他のスキルに比べて強力過ぎると言わざる得ない。
だからこそ、確実に言い切れる。
このスキルの上昇値はいつか絶対に減少すると。
「ま、今はこの恩恵を有り難く受け取るとするか」
「何か言ったか?」
「ああ、いや。何でもないさ」
ガン・ブレイズをホルダーに戻し、静かになった辺りを見渡す。
同様に剣を鞘に戻すソルナとレインが俺に視線を送ってくる。どうやら自分の目的の一つを完遂したことに気付いたのだろう。
「それで、もういいのかな?」
「ああ。十分だ」
上限レベルになってしまった以上、これ以上の雑魚モンスターとの戦闘は意味を成さない。となれば、次は件のボスモンスターを探す番だ。
「それにしても、これまでに足跡一つ無かったのは妙じゃないか?」
「モンスターの足跡ですか?」
「比喩だ。そのままの意味に取るな」
「はぁ……」
「貴方が言っているのは他の団員との戦闘痕なども含まれてるんだな」
「まあな」
自分が行っていたそれを含め、戦闘を行えば必ずと言っていいほど痕跡を残してしまうものだった。踏み荒らされる足場、薙ぎ倒される木々、どんなに僅かでも確実に何かが残ってしまうのだ。
しかし、俺たちがこれまでに通って来た道も、こうして戦闘を繰り広げていた場所も元は綺麗なまま。
フィールドは自然に復元されると言ってもこの短時間で完全に修復されたとするのは無理がある。
「痕跡を残さない相手か、それとも俺たちが見逃している何かがあるっていうのか」
「見逃しているって、いったい何をですか?」
「さあな。それが解れば苦労は――」
「どうしました?」
「あ、いや。ちょっと嫌なことが思い浮かんで」
「それは?」
「さっきのデッド・ドッグがアンデッド種のモンスターであることは気付いているよな?」
「当然だね」
「なら、その元になった素材は何だと思う?」
「素材……?」
「これは俺の予測だけど、あのデッド・ドッグの元は『バーサク・ドッグ』というモンスターだと思う」
外見もさることながら、その攻撃方法までも同じ。
最初に戦った時に勘付き、それからの度重なる戦闘で確信したこと。
そしてだからこそ、思いついてしまった。
この事実がもたらす、ある一つの可能性。
「バーサク・ドッグの死体が素材なのだとすれば――」
有り得ないとも思う。プレイヤーがモンスターと戦えばその死体は光の粒子となって霧散してしまうからだ。
けれど、同時に在り得るとも思う。
プレイヤーが戦った時だけそうなるのだとすれば、プレイヤーと共に戦った時にだけそうなるのだとすれば。
「答えてくれ。斃された騎士団の死体はあったのか?」
NPCだけで戦った場合はどうなるのか。
息を呑むソルナとレインが俺の顔を見る。
その目には驚愕と信じたくはないという思いが混在しているように思えた。
「全員分は…無かった」
「けど、戦場で遺体が発見できないことなどそう珍しい話ではありません。ですから――」
「だがそうでは無い確証も無いってことだろ」
「それは…そう、ですが」
「では君はあり得ると考えているのだね。先に逝った騎士団の精鋭たちがアンデッドとして立ち塞がることが」
「そうだな。くどいようだけど、その可能性は高いと思う」
歩きながら告げたその一言をソルナが嚙みしめていた。
「解った。私共はその心積もりで行くとしよう」
「隊長!」
「可能性を無視して進むのは愚策だ。それに、仮にアンデッドになったのだとすれば斃すことこそが救いになる。違うか?」
「そう、ですね」
俺の言葉とソルナの言葉を聞き届けたレインが目を閉じ頷いた。
「こっちだ」
急に立ち止まり、右に九十度進む方向を変えたソルナが言った。
「ちょっと待て。このまま前に進まないのか」
「この先は…あれ? 何があったんでしたっけ?」
「忘れたのか、レイン。この先にあるのは、その…何だ?」
「成る程な」
立ち止まり考え込むソルナとレインを見て俺はようやく得心ができたというような感覚を得た。
元々疑問だったこと。それは大勢の騎士団員を失ってもなお、何故多くの騎士団の戦力を動員しないのかということ。
クエストの仕様だから当然だという見方もあれば、不自然さが目立つという見方も出来るということでもあるのだ。
「このまま前に進もう。おそらくそこにボスモンスター…がいる」
敢えて口に出さなかったこと。それに気付いていない二人では無いだろう。
それでも先に進む俺の続き歩みを止めないあたり覚悟は出来ているということだろうか。
暫く直進して見えてきたのは森の中とは思えないほど荒涼とした大地。
万遍なく生い茂っていた草木も無く、あるのは素の地面の色だけ。
この地面が不自然な程ぼこぼこしているのは多分俺の嫌な想像が当たったということなのだろう。
「気を付けろ。直ぐに戦闘が始まるぞ」
俺たちがこの荒涼とした大地に足を踏み入れることが戦闘開始のスイッチになるはず。
「ひっ!?」
事実、俺たち全員がこの地面を踏んだその時、地面から無数の手が生えてきた。
「まったく。とんだホラーだな」
急ぎ後ろに跳ぶ。
程なくして目の前に鎧の中に腐った肉体を隠したアンデッドが姿を現したのだった。
「さて、ここまでは予測通りだが」
ちらりと後ろにいる二人のNPCを見た。
同じ騎士団の一員だったアンデッドを攻撃することが出来るかどうか、出来なければこの数を俺一人で相手にすることになる。
「行くぞ!」
真っ先に剣を抜いて駆け出したソルナがアンデッドの一体の首を撥ねた。
「どうした? レインも来い!」
「は、はいっ」
遅れ剣を抜いたレインがアンデッドの鎧の隙間を的確に突いていく。
どうやら心配する必要はなかったらしい。
「寧ろ失礼だったかもな」
俺もガン・ブレイズを抜き銃形態のまま鎧を着たアンデッドを撃ち抜いていく。
この時アンデッドの頭上に浮かんだ名称は『デッド・ナイト』防御力は先程のデッド・ドッグよりも遥かに高い分、素早さは異様な程低い。
攻撃は受けていないから計りかねるが、それでも純粋な脅威度としてはこちらの方が低い。
「一気に斃し切るぞ」
「任せろ!」
「解りました」
三者三様の攻撃を繰り出しデッド・ナイト共を土に返していく。
一体、二体と消滅させていく最中、不意に周囲に漂う雰囲気が変貌した。
程なくして荒涼とした大地に平穏が戻り、同時に別種の脅威が現れたのだ。
「…来たか」
デッド・ナイト共が現れ掘り起こされた大地からさらに別の存在が這い出てくる。
その体の大きさはデッド・ナイトの倍以上。
そして俺の目に見えるHPバーの数も同様に倍。
「二本か。ボスモンスターとしては平均的だけど、それだけではないだろうな」
何より異質なのはボスモンスターが携えている歪なハンマー。
鎚の部分が多くの鉄板と釘、それと鉄の塊で作られ、石突きの部分はどこかの鉄柱をそのまま用いたかのような代物だ。
ボスモンスターの名称は『デッド・ラビット』
その名が示すように、元となったのは草原エリアに出現するボスモンスター『グラス・ラビット』だろう。
奇しくも俺は形を変えて一度敗北した相手と戦える機会が巡って来たということだ。
「折角だ。これを試させてもらう! 〈ブースト・ディフェンダー〉!!」
俺の背後に浮かぶ盾の模様が刻まれた魔方陣が霧散する。
同時に俺のHPの最大値が著しく上昇し、防御力が上昇した。
「行くぞ。ランクアップして最初のボス戦だ。負けるつもりは無いぞ」
左手の魔導手甲を前に、右のガン・ブレイズを後ろに引いて構えを取り宣誓する。
次の瞬間デッド・ラビットの咆哮が轟く。
それこそが、このボスモンスターと俺の戦闘が始まる合図だった。