町を作ろう ♯.24
今回の顛末。というかまとめみたいなもの。
シシガミたちの協力を得た俺たちはムラマサ、ボルテックの二人をリーダーに定めた二つのパーティを同行させることになった。
厳密に言えばムラマサのパーティにはヒカルとセッカが参加しての計三名。
ボルテックのパーティはアイリ、リント、それからフーカを合わせての計四名のフルパーティとなった。
まず、前提条件となる討伐数がカウントされるか否かということに対する確認作業だが、当初からあまり懸念を抱いていなかった俺たちのギルドメンバーを含めたパーティでの討伐数のカウントは問題なくされていた。そして次いで俺たちのギルドメンバーを含まない戦闘でのことだったが、これも問題なく討伐数のカウントが加算されていた。
これによりこの先俺たち以外がモンスターを討伐したとして問題なく討伐数が加わっていくことだろう。そうともなればアチーブメントの達成によるポイントの加算という俺たちの目的も十分に達成されるはずだ。
ムラマサたちの確認作業の後、先んじて通常のボスモンスターの討伐が行われた。
この討伐はこの島に出現するモンスターと他の大陸に出現するモンスターとの差異を確かめる為にシシガミがリーダーとなっているパーティが戦うことになったらしい。
結果としてこの島のモンスターはそれ以外の場所に出現するモンスターと差異はなかったという結論に行き着いたのだという。これには実際に戦った俺も同じように感じていた。だからこそ俺たちのギルドクエストに参加していないシシガミのギルドに依頼することを決めたのだ。
そうしてボスモンスターの討伐を終わらせたシシガミたちは次に、カマキリ型のレイドボスモンスターとの戦闘を開始した。
レイドボスモンスターのモチーフが昆虫だということもあって時折飛行したり、相手の表情が読み取れないなどして苦労するかと思われたこの戦闘だったが、シシガミ曰くさほど手こずることは無かったということだった。
なんでも一撃で死んでしまうくらいのダメージを与えられる武器を持ったプレイヤー大勢に取り囲まれた時の方が怖かったとのことだが、それはそれでどうかと思う。
次の鳥型レイドボスモンスターは大方の予想通り、プレイヤー側の攻撃の殆どが届き辛く手間取ったと後に笑い話として話してくれた。
それでも危うげなく勝利を手にしてしまうあたり、ヴォルフ大陸有数の戦闘ギルドといったところか。
モンスター討伐ではなく町の整備を行ったパイルたち商業ギルドと共に行動したのはハルとライラだった。俺の知るなかでこの二人は純粋な戦闘職。最近≪調理≫スキルの取得をしたとはいえ、ライラはまだ戦闘が日々のプレイの多くの比重を担っていることだろう。
それが何故、町の生産を任せたパイルたちと行動することになったのか。二人の言葉通りに受け取るのなら後学のためということらしい。
いつか、自分が何らかの店を営むことになった時。
いつか、自分が何らかのアイテムを製作しようとした時、それを売ったりする場合にはどうするのか。
主に学んだのはこの二点。
その場にいなかった俺としても是非今後の参考にさせてもらいたい所だが、残念なことにハルの話だけではいまいち解りづらかった。
この時俺が何処にいたのかというと、建設途中の町の郊外で俺のギルドで雇っているNPC四人を引き連れモンスターハーフのNPCたちと一緒に新しい畑と温室を作っていたのだ。それらは俺たちの町にモンスターハーフたちを招くための説得材料にもした『幻視薬』。それの材料となる素材アイテムを栽培するためのもの。
そう言えば俺が自分たちの町で格安で『幻視薬』を売ると言い出した時に見せた皆の驚いたような顔は今でも笑いが込み上げてくる。
ちなみに『幻視薬』の材料となる素材アイテムはシャーリの度重なる品種改良のお陰で二種類の素材アイテムは新種の素材アイテムとなっていた。
その名を『霊視草』
これを煮出して作り出した原液の薄め具合によって三つの種族の姿に変えることの出来る『幻視薬』が完成するのだ。
畑が完成する頃を見計らい俺は薬師ではないモンスターハーフのNPCたちにこの『霊視草』の栽培の仕方を教え、また薬師のモンスターハーフには『幻視薬』の作り方を教えた。
実はアリアを含めた若干名のモンスターハーフのNPCたちにはもう一つやって貰うことがあった。本来ならばグラゴニス大陸とヴォルフ大陸からも同数名のNPCを雇い同じようにその任に就いてもらう予定だったのだが、あいにくと俺が信頼のおけるNPCは自分のギルドで働いてくれている四人以外にはいない。
その為に一度彼女たちに話を持ち掛けたこともあったのだが、きっぱりと断られてしまった。
何でもそんな責任は負いたくないというのが彼女たちの言い分。これに関しては元々ギルドホームやログハウスの維持と畑の維持を任せるつもりで雇っただけに、嫌がっていることを無理矢理させるということは気が引けた。
その為、この任に就いてもらうNPCは現状アリアたちだけということになる。
勿論これから先も現状維持のままでいるつもりはなく、いつかは他の大陸からもNPCを雇うつもりではあるが、結局有力な候補が見つからないまま今日に至っているわけだ。
この任というのが島と町の維持管理。
俗に言う官憲というやつだ。
プレイヤーを管理することは無理だとしても、同じモンスターハーフのNPCくらいなら、後は他のNPCならば、権限さえあれば取り締まることができるだろう。
人数が揃うまでの間、足りない手は俺たちのギルドが補うというように決まった。これには元から町の運営というものに興味を示していたボルテックを中心にして行うことも同時に決定したのだった。
二体のレイドボスモンスターの討伐と町の施設の充実。それらの終了の目途が立ったのはギルドクエストを開始してから三週間が経った頃だった。
パイルたちの手による町の施設の充実は、そのギルドが引き当てた村という最小単位の建設によって溜まった鬱憤を晴らすかのように積極的に行われた。
この頃、施設の充実も何もかもを何かにとり憑かれたかのように熱中していく様を見たリタが村を引き当てたパイルをからかう姿をよく見かけるようになり、それが一時建設途中の町の風物詩となっていたことは本人には言わない方がいいのだろう。
パイルたちの町の完成と時同じくして、先にレイドボスモンスターの討伐をすませていたシシガミたちが行っていた森の探索にもある変化が現れ始めた。
完全に踏破しきる前の段階で一定の範囲ごとに区画分けがなされ始めたのだ。
シシガミが実際に戦ってきた感想をそのまま言うなら、町に近い場所から出現するモンスターのレベルが低く初心者向けとなっているらしい。
当然奥に進めば進むほど出現するモンスターのレベルが上がり適したプレイヤーのレベルも上がってくる。
現状シシガミたちが確認したところではレイドボスモンスタークラスの巨大モンスターは発見できてはいないが、森の最奥に近くなるにつれてボスモンスター程度ならばごろごろと出現してくるようになったらしい。四人一組のパーティ単位では襲い来るボスモンスターの波に抗いきれず撤退を余儀なくされたとシシガミが言っていたからにはこの森の全てを攻略しきれるようになるにはまだもう少しの時間が必要だと予測できる。
町の近くはレベルが低く、奥に進むにつれてモンスターのレベルが上がっていくそれは何となくギルドクエストで持った町ではなく、本来のこのゲームにある町とその外のフィールドやエリアの仕様と似ている気がする。
これは予想外の出来事だったのだが、この島を利用してもらうプレイヤーに適切なレベルの狩り場を提供できたと思えばそう悪い話ではないはずだ。
現にこうして島と町、そして森を一般のプレイヤーにも開放した今、シシガミのギルドですら攻略に手こずっているという情報が他のプレイヤーを招く材料となっていた。
他のプレイヤーが来るようになったことでパイルのギルドが作った商店や鍛冶屋は大盛況。
そして俺が町で格安販売している『幻視薬』も街の中だけで有効な一種の仮装の手段として想定以上の利益をもたらしていた。
島に訪れるプレイヤーの数が増えてきたことで自然と『幻視薬』の噂が広まり、キャラクタークリエイトをやり直す時の参考にするために一度使ってみると良いということもまた同時に噂として広まっていたのだった。
奇しくもそれが俺が最初に『幻視薬』を作った理由の一つだったのは妙な話なのだが。
そうして『幻視薬』と町の利益はそのまま町の運営費用に充てられ、中には『霊視草』を育てるNPCたちと『幻視薬』を作る薬師のNPCたち対する報酬も含まれている。
まだ資金運用はギリギリの現状だが、それでも町の発展に必要なのはお金ではなくこの町で得られるポイントだったのは幸いだという他ない。俺たちのギルドで用意していた当初の施設――ここには自分たちのギルドホームも含む――の改修や新しい施設の建設、それに加えて新しいアイテムの試作等を行う時に自分たちの資産を減らす必要が無かったからだ。
さらには俺が招いた二つのギルド以外にもこの島に自分たちの商店や森の探索を目的とした拠点を作るプレイヤーが現れ始めたのも朗報だと言えよう。
これにより俺たちの町と島は今以上の賑わいが約束されたようなものなのだから。
◇
そして今日。
俺は一人ギルドホームにある自室兼工房に籠りこれからに対する準備を行っていた。
主な準備は二つ。
一つ目はスキルだ。
未だ使用していないスキルポイントの全てを使い所持しているスキルのレベル上げをするつもりだったのだ。
まず候補となるのは俺の武器専用スキルである≪ガン・ブレイド≫。威力特化や速度特化、加えて範囲特化の斬撃と銃撃のアーツを有するそれは文字通り俺の最大にして最強の力だ。このスキルのレベルを上げればそのまま俺個人としての戦力強化に繋がる。そういう確信があっても尚、俺はこのスキルのレベルを上げることを躊躇していた。
その理由としては武器の種類名とスキル名に差異が生じていたからだ。
本来対であるはずのそれらに違いが現れたのだとすれば、どちらか一方に合わせる必要が出てくる。そして合わせるのならば下位にではなく上位にするべきだと思う。となればこの後に強化と修理をする剣銃がスキル名でもある【ガン・ブレイド】になる保証がない以上、あまり先んじてスキルだけを強化しない方がいいというのが俺とこの事を相談した相手であるムラマサとの共通見解だった。
次に候補に挙がったのは≪強化術式≫というスキル。
これは俺が戦う時に自分の剣銃の形態に合わせて発動させて特定の基礎能力上昇とHPもしくはMPの自動回復を行うためのスキルだ。
最初の頃に比べ一度の発動で上昇効果が掛かるパラメータの種類が増えて来たが、最近はスキルレベルを上げても目立った変化が現れなくなっていた。
この時の打開策として一般的なのはスキルそのものの強化を一旦諦め、別のスキルを育てるという方針に変えること。あるいは専用スキルに属性スキルを合わせるように別種のスキルを合わせることだ。だが、俺はこの≪強化術式≫というスキルがここで頭打ちになるとは思えないし、似たような効果をもたらす別種のスキルを覚えたとして何かが変わるとも思えなかった。
となれば思いつくのは≪剣銃≫スキルが≪ガン・ブレイド≫スキルに変化したことだろう。
スキルレベルが上がっただけで新しいスキルになるとは思えないが、そうなのだとしても今はそれしか方法が浮かばない。
スキルポイントの無駄遣いになる可能性を孕みつつも俺はまず一つ≪強化術式≫のレベルを上げた。
5から6へ。
たった一つレベルが上がっただけとはいえ、スキルというものはそれだけでも十分な効果が得られるのが常だった。
期待していなかったと言えば嘘になる。しかし、ここまで都合良くスキルが変化するとは思ってはいなかった。
≪強化術式≫が≪マルチ・スタイル≫に。
この変化により新しいアーツが手に入ると思ったが驚いたことにそれまで何度も使用していた〈ブースト・アタッカー〉と〈ブースト・ブラスター〉というアーツが消失したのだった。
スキルがリセットされたかと一瞬焦りもしたが、コンソールにある詳細情報を確認したことで俺の懸念は解消された。この≪マルチ・スタイル≫というスキルは≪強化術式≫にもあった自己強化のアーツを二種選びそれを使用するという類のスキルらしい。
そして記されていた自己強化のアーツの種類は四つ。
一つ目が〈ウォリアー〉。内容としては以前のものとは違い攻撃重視とも言えるアーツで、詳しくはATK・INT・SPEED・AGIの上昇、及びDEF・MINDの低下。この上昇値の伸びと低下値の減少率はスキルレベルによって決まるらしい。
上昇率こそスキルレベルが上がったとしても大きく変化するわけでは無いらしいが、問題は減少率の方。スキルレベルが1の時には50%減、その後スキルレベルが上昇する毎に5%ずつ減少率が減り、最大で30%減にまでになる。
こうなれば即座に≪マルチ・スタイル≫のスキルレベルを5にまで上げたのは言うまでもないことだろう。
二つ目が〈マジシャン〉。魔法重視の強化らしくINT・MIND・AGI・DEXの上昇。低下するのはATKとDEFだ。〈ウォリアー〉でも魔法攻撃力の上昇はあるが、こちらはスキルレベルによってINTの上昇率に加え魔法攻撃の威力上昇が加算されるようだ。
三つ目が〈ハンター〉。速度と攻撃回数重視の強化のようでAGI・DEX・SPEEDが上昇という他の強化に比べ上昇する数が少ない代わりに低下するのがINTだけという強化だ。これはスキルレベルによってSPEEDの上昇率が変化する。
四つ目が〈ディフェンダー〉。読んで字の如く守りを重視した強化で上昇するのはDEF・MIND・AGI、低下するのはSPEED。この強化が一風変わったものと思えるのはスキルレベルで上昇率が変化するのが基本的なパラメータの中でもHPの最大値という一点だろう。攻撃には適さない反面、守りにおいては抜きん出た性能があるというものらしい。
ちなみにこの時に受けたダメージは通常の状態、あるいは別の強化になった時に割合で残存HPが決まるとのことだ。
ついでに言うなら以前の〈アタッカー〉の時にあったHPの自動回復と〈ブラスター〉にあったMPの自動回復速度上昇の二つの自動効果は全ての強化で有効となるらしい。
この中から自分の戦い方にあった物を選ぼうと考えて手が止まる。
強化してまで必要なのは相手を倒すための手段。剣形態で〈アタッカー〉銃形態で〈ブラスター〉という使い分けはそれぞれの特性を伸ばすと考えた時に有効だった。
しかし、この≪マルチ・スタイル≫というスキルでは以前の二つの役割を〈ウォリアー〉一つで補えてしまう。だからこそこの強化を選択するのは決定事項となれば、あとはこの強化で足りない部分を補う強化を選択すればいい。
そうなると答えは簡単。下がった防御を補うために〈ディフェンダー〉を選択すればいい。守りを考えた場合〈ハンター〉も候補に入るのだが、回避は失敗する怖れがあるし、なによりも俺が目を引いたのはHP最大値の上昇という一点だった。
最大値が上がるということはそのまま耐久値が上がることと同義であり、それは純粋に俺の生還率にも繋がる。
元に戻った時にダメージが割合で決まるということは、少なくとも受けたダメージ値が通常時のHPを超えたとしても直接死に繋がるわけではないということのようだ。
ついでに言うならこの強化を発動させる際にもこれまで通りキーワード登録が必要とされていたので、俺はこれも前と同じ〈ブースト〉をキーワードに指定した。
ということで俺は≪マルチ・スタイル≫で使用できる強化を〈ウォリアー〉と〈ディフェンダー〉に設定し、残るスキルポイントを基礎能力上昇スキルのレベル上げに回した。
俺が習得している基礎能力上昇スキルの種類は七つ、残っているスキルポイントも7。
全てのスキルレベルを一つずつ上昇させてスキルに関する問題は終了した。
後はこの剣銃だ。
先ずは持ち得る素材アイテムの中で剣銃に適応したものを使い修理を行う。とはいえ、あれから目立った戦闘を行っているわけではないので比較的簡単に終わらせた。
本題は剣銃の強化。
より強く、より頑丈になるようにと鎚を振るう。
いつもは剣銃のパラメータの強化だけでいい。
しかし、今は違う。
この剣銃は剣銃のままではいけない。
どうすれば変わる?
どうすれば、強くなれる?
迷いを抱いたまま振り下ろす鍛冶鎚では時折強化に失敗してしまう。
無駄になるのは使用した素材アイテムだけだからまだいいが、皮肉なことに光明が見えてこない今、こうして強化して成功したとしても無駄になったという感が否めない。
素材アイテムを無駄にしたくないと思えば手を止めればいいのだが、俺はこうして手を動かしていた方が何かいいひらめきが出てくる気がして手を止めることができずにいた。
このまま迷いのある鍛冶を行ってどれくらいの時間が経っただろう。
ギルドホームの窓の外に見える太陽は沈みかけ、鍛冶槌を振るう俺の影を伸ばしている。
成功と失敗を繰り返した俺の剣銃は攻撃力や命中率など武器としてのパラメータが軒並み上昇し、それだけを見れば武器の強化としては大成功の部類になるだろう。
けれどそれが俺の目標としていた部類ではないことは言わずもがな。
もっと強く、もっと、と願う俺は残り少なくなってきた素材アイテムも使用した。
せめてこれからの修理に使う分の素材アイテムは残していなければならないというのに無心で剣銃を叩き続けていた俺はそのデッドラインを超えようとしていた。
一瞬だけ躊躇するかのように手が止まる。
けれど、足りないと感じる心に逆らえるはずもなく、俺はいとも簡単にそのデッドラインを超えた。
残り少なくなっていく素材アイテムの残数。
全てを使用しても願いが叶わないのではないかと危惧したその刹那。俺の手元にある剣銃にこれまでには無い現象が見られた。
発光現象の一言で片付けられないそれを目の当たりにした俺は自分の手を自分以外の意思で動かしているかのような錯覚に苛まれた。
刀身を打ち付ける鍛冶槌の音が変わる。
銃身を形作る部品の形が変わる。
そうして出来上がった剣銃はこれまでよりも一回り大きい刀身と銃身を持ち、形態を変える時により複雑な変形機構を発揮させる『ガン・ブレイズ』へと進化していた。
姿を変え、より力強さを感じさせる自分の半身とも呼ぶべきそれを前にして俺が抱いた感想はただ一つ。
「スキルと武器の名前が違う!?」
というある意味元の木阿弥とでも言うべきものだった。