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町を作ろう ♯.21

 町の施設というものは作る時も壊す時も大掛かりなものだ。

 無数のノームが手際よく既存の壁を崩し、また同時にムラマサが思い描いていた通りの境界線となる壁を建てる。

 モンスター避けという目的も、この島ではプレイヤーの活動領域にさえしてしまえばそれ程考えなくてもいいことのようだ。


「ポイントがある限り同時に作業を進めてしまおう」


 その言葉の通りに石畳を敷き詰めて行く範囲を広げていく。

 まずは俺たちがサハギン種を倒した地点までまっすぐ。それ以上は今まさに討伐に向かっている仲間たちの成果次第といったところだろう。


 次いで各大陸にある施設の移設。

 グラゴニス大陸からはギルドホームを。ヴォルフ大陸からはログハウス、オルクス大陸からは一つの屋敷を。この三つの建物と島に建てた館を含めた四つがカタカナのロの字のような位置で配置することで巨大な一つの建物のようになる。

 四つの建物の中心には俺たちのギルドが持っている転送ポータルを置き、建物の隣の日当たりの良い場所には二つの温室を建てる。


 最後に町の建設。

 想定より広くなった為に今は町の中心部にしか家屋を建てることはできないが、それはこの先に町の住人が増えてきたらすればいいこと。

 何せ今はこの町の住人となることが確定しているNPCが僅か五人だけという現状なのだ。


 アリアのいう同胞たちがこの島に住むようになればもっと増えるのだろうが、それにはまだ大きな問題が残されている。

 それを考えるのはもっと先の事になると思っていたのだが、この調子で町の建設が進めば出来るだけ早くその問題を解決するべきなのだろう。


「皆、順調にモンスターの討伐をこなしているみたいだね」

「解るのか?」

「これを見ればね」


 端末に表示されている所持ポイント数の残高が増えてはいないものの、想定していたよりも減ってはいない。その理由がモンスター討伐の時に獲得したアイテムをポイントに変換しただけではないことは明白。

 新たに獲得した【施設破壊/50】というアチーブメント項目の他にこれまで獲得していた【モンスター討伐総数】というアチーブメントが幾度にわたって更新されていたようだ。


「この調子でいけば【施設建設】とかも更新されていくだろうね。どうやらある程度の規模の町が完成するまでは問題なさそうだ」


 ノームによる工事の様子を見守っているムラマサが言った。

 順調なのだと告げる以外にその言葉には別の意図が含まれているように俺には聞こえた。


「問題はアリアのこと、だよな?」

「そうだ。この町の住人となる最大候補は彼女たちだからね。けど問題があるのは言わずもがな」


 そろそろ館の中でキウイたちとこの町の建設が終わるのを待っているアリアに訊ねてみる頃合いなのかもしれない。


「ノームたちの作業効率が上がってきているからね。壁も石畳もギルド施設の移設もそれほど時間が必要ないはずだからね。残る町の建設もいい感じの時間帯で完成させられるはずさ」

「そう、みたいだな」

「行くならなギルドマスターであるユウが適任だろうね。アイリやリントが同行すれば警戒を解くの早いかもしれないけど」

「それじゃ俺たちの目的を果たしているとは言えないってわけか」


 それはアリアの口からオルクス大陸におけるモンスターハーフの境遇を聞いた時から懸念していたことだ。

 似たようなことはヴォルフ大陸のラクゥたちがいた村でも起こった。その時は紆余曲折を経ることでどうにか解消出来た感じだったが、残念ながら今はアリアの同胞たちの問題に口を出していられる余裕はない。


「ま、全てはアリアから直接話を聞いてからだな」

「頑張ってきてくれたまえよ。この町の最初の一歩が成功するかどうかはユウに掛かっているからね」

「プレッシャーをかけてくれるなよ」

「ははっ。ワザとだよ」

「解ってるっつーの」


 軽口を叩き合いながら俺は館の方へと歩き出した。


「ここは任せたぞ」

「ああ。ボスモンスターが出現した場合は直ぐに連絡を入れるよ」

「頼んだ」


 俺は館に戻り、アリアたちがいる部屋へ向かった。

 各々がそれぞれの目的の為に行動を起こす前、ギルドメンバーが合流して割とすぐの頃に消費したポーションの補充と武器の耐久度の回復は済ませていた。突貫作業で行った修理の為に強化までは手が回らず性能自体に変化が起こってはいないが、それでも修理以前の性能の高さがある武器だからこそ問題はないはずだ。


「アリア、少しいいか?」


 部屋の扉を開けて真っ先に声を掛ける。

 館に残っている他のNPCたちと和やかにお茶を飲んでいるアリアが持っていたカップをテーブルに置いた。


「何かの?」

「町の建設の目途が立った。だからアリアの同胞に会わせて欲しい」

「ふむ。一人も会わずではこの町に迎え入れることはできんということか」

「取り繕うつもりはないからな。はっきりいうならそういうことだ」


 ここで和やかに談笑しているアリアの様子を見た限り、俺がそれほど心配する必要はないかもしれない。

 それに全員が全員、俺が望んでいる通りの感情を抱いているとも思ってはいない。だからといって全員が全員俺が望んでいない感情を抱いているとも思えないのだ。


「わかった。案内する」


 立ち上がったアリアの後に続いて俺は転送ポータルのある部屋へと向かう。


「これを使えば直接行けるぞ」


 NPCのアリアが手をかざすと仄かな光が転送ポータルに宿る。

 プレイヤーの手では複製した転送ポータル同士を繋ぐだけの性能しか持たないはずのそれが別の場所と繋がった。在り得ないことだとも思ったが、これがギルドクエストの恩恵なのだとすれば絶対に在り得ないことだと言い切れるわけでもない。


「行くかの」


 アリアの言葉に反応するように発光する転送ポータルの光が俺たちを覆っていく。

 そして次の瞬間には俺たちの身体と意識は別の場所へと移動した。


「ここが?」


 荒涼とした赤い岩肌が目立つ崖の谷間。

 日の光が届かず、岩肌のあちらこちらには苔が生え、カビのような臭いが充満している。


「この先に妾の同胞たちが住んでいる集落がある」

「集落? そんなものがあるのに俺たちの町に来たいって言ってたのか?」

「見て解らぬか? ここはあまりにも暗く閉鎖的……妾はこんな所は嫌いなのだ」

「だから出てきたっていうわけか」

「そうだ」


 歩きながら話すアリアの口調は重い。

 それでも俺を案内してくれているのは単純に俺がここに連れて行けと求めたからというだけではないはずだ。

 アリアの目的が何なのか。

 同胞を俺たちの作っている町に住まわせること。そう言われてもなお、まだその奥に別の目的があるように思えた俺はそれを考えながら歩く。


 暫く歩いていくと俺の目に件の集落が入ってきた。


 簡単に建てられた木造の建築物が並ぶ。

 家と呼ぶにはあまりにもお粗末で、お世辞にも暮らしやすい場所とは言えないそこがアリアのいう集落なのだとすれば、アリアが飛び出してきたのも理解できるような気がした。


「あそこに住んでいたのか?」

「いいや、あれはダミーだ。本当の集落はこっちだ」


 木造の建造物の前を横切るアリアは迷うことなくその奥に蔦のような植物によって隠されている洞窟に足を踏み入れた。

 洞窟の壁に取り付けられた松明に滲み込んだ油の匂いが漂ってくる。


「この奥だ」


 慣れた感じで進んで行くアリアの後を追いながら俺は手コンソールを出現させマップを表示させた。

 真っすぐ一本道の洞窟を想像していた俺の予想は外れ、マップにはアリの巣のように複雑に入り組んだ内部が表示されている。

 一般的なダンジョンと違うのはあらかじめ全体が表示されていること。それはこの洞窟がダンジョンではなく町や村の類と設定されているからだ。


「同胞に声を掛けてくる。だから少し待っていてもらえるか」

「ああ。ここにいるよ」


 洞窟の奥へと進むアリアを見送ると俺は手持ち無沙汰にコンソールを出現させて自身のステータスを確認した。

 今更ながら先程のサハギン種共との戦闘を経て俺のレベルは76になっていた。

 この値がプレイヤー全体の中を見通した時にどの程度の位置付けになるのか。初心者でも中級者のレベルでもないことは理解している。しかしトッププレイヤーのそれでもないことも同様だ。

 低くはないがとても高いとまではいかないレベル。

 それが今の俺のレベルだった。加えて現時点の俺の細かなステータスはこうだ。


 ユウ レベル76 所属ギルド『黒い梟』


 HP 8630/8670

 MP 6390/7060

 ATK 830

 DEF 720

 INT 670

 MIND 650

 SPEED 820

 LUK 470

 AGI 530

 DEX 770


 装備 剣銃――装弾数・2

      特性 MP銃・鬼払い

   頭――なし

   首――なし

   外着――ディーブルーシリーズver2.1

   内着――ディーブルーシリーズver2.1

   手――なし

   腰――ディーブルーシリーズver2.1

   下半身――ディーブルーシリーズver2.1

   足――ディーブルーシリーズver2.1


 アクセサリ 総重量7/10


   『証の小刀』重量2

   『黒翼の指輪』重量1

   『妖精の指輪』重量1

   『呪蛇の腕輪』重量1

   『輝石の腕輪』重量2 

          ――輝石効果1・火属性

          ――輝石効果2・雷属性

          ――輝石効果3・未設定

          ――輝石効果4・未設定


 所持スキル スキルポイント・12


    ≪ガン・ブレイド≫レベル・1

     アーツ――〈オート・チャージ・リロード〉

        ――〈インパクト・スラスト〉

        ――〈アクセル・スラスト〉

        ――〈サークル・スラスト〉

        ――〈インパクト・ブラスト〉

        ――〈アクセル・ブラスト〉

    ≪体力強化≫レベル・5

    ≪魔力強化≫レベル・5

    ≪攻撃強化≫レベル・3

    ≪防御強化≫レベル・3

    ≪魔法攻撃強化≫レベル・3

    ≪魔法防御強化≫レベル・3

    ≪速度強化≫レベル・4

    ≪強化術式≫レベル・5

      アーツ――〈ブースト・アタッカー〉――ATK、DEF、SPEED上昇。HP自動回復

         ――〈ブースト・ブラスター〉――INT、MIND、SEPPD上昇。MP自動回復

    ≪鍛冶≫レベル・8

    ≪細工≫レベル・5

    ≪調薬≫レベル・5

    ≪調理≫レベル・2

    ≪魔物使い≫レベル・2

      契約モンスター【ダーク・オウル】 名称『クロスケ』特性――〈威圧〉〈飛翔強化〉

     アーツ――〈召喚〉

        ――〈解放〉



 前に確認した時とあまり様変わりしない自分のスキル構成を眺めながら考える。これから自分が強くなるには何をするべきか。


「スキルレベルを上げるなら≪ガン・ブレイド≫と基礎能力上昇スキル、それと≪強化術式≫くらいかな」


 生産系を後回しにしたとして、今の残存スキルポイントだったら軒並みレベルを上げても余裕はある。

 その余裕分までも使ってしまうことを避けたとしても問題は無いだろう。

 コンソールを操作してスキルポイントを消費することで軒並みスキルレベルを上げる。すると俺のパラメータが揃って上昇した。

 これらの中でも一番の上昇率を見せたのはそれまであまり伸びてこなかったINTとMIND。これは最近剣銃の銃形態で戦うことが増えていた影響だろう。


 残念だったのは≪ガン・ブレイド≫と≪強化術式≫のスキルレベルを上げたにもかかわらず、新しいアーツを覚えることができなかったこと。

 既存のアーツの性能が上がったのならばいいが、それを確かめる機会は現時点ではない。


「すまんの。待たせたか?」

「いいや。こっちでもすることがあったからな、気にしなくてもいいさ」

「そうか」


 コンソールを消して洞窟の奥から戻ってきたアリアに向き直す。


「ついて来てくれるか? 紹介したい者がおる」

「ああ」


 アリアの後に続いて洞窟の奥へと向かう。

 道中人影らしきものを目にすることはあったが、誰一人として姿を現すことはない。ちょっとした壁の出っ張りの陰や地面に直接置かれている棚の陰に隠れているのがこちらからは丸分かりなのが些か滑稽に思えてしまうのだが。


「あまり気に病んでくれるな。同胞は皆、外部の者に対して臆病なだけなのだ」

「アリアがそう言うなら気にしないことにするけどさ、これから先もこの調子だと俺たちの所に来るのは難しいんじゃないか?」

「そう言ってくれるな。ああ見えても皆、ここでの暮らしに不満を感じているはずだ」

「だといいけどな」


 臆病だというのならあまり注視しても怯えさせるだけだろう。

 今は真っすぐ前を見てこれからアリアによって引き合わされる相手のことにだけ集中すべきだ。


「ここだ」


 アリアが歩みを止めた目の前には幾何学模様で編み込まれた布が扉の代わりというように洞窟の一室の入り口に取り付けられている。

 この布をくぐり洞窟の中に入るとそこには数名のNPCが待ち受けていた。

 見た目は一般的な人族や魔人族それから獣人族。しかしアリアが同胞と呼ぶからにはおそらくはここにいる全員がモンスターハーフという種族なのだろう。


「その者が姫様が申す我らを助けるかもしれない者か」

「そうよ」

「何故ここに連れてきた?」

「なぜとは…一度会わせろと言うたのは其方であろう?」

「しかし……その者は同胞ではない。違うか?」


 じろりと俺に視線を向けてきたのは人族の老人NPCに見える。しかし確実に人族ではない証に開かれた片方の目が赤かった。


「確かに俺はモンスターハーフ、つまる所アンタたちの同胞ってわけじゃない。けど、俺はアリアが望んでいる安住の地ってやつを提供することができるかもしれないんだ」

「そ、そうよ。妾たちはこんな穴蔵で隠れ暮らさなくても良くなるのだぞ」

「だが、同胞以外の者を信じるわけにはいかぬ。我らの歴史を忘れたとは申すまい」

「憶えておる。けれど、それではダメなのだ。妾たちは再び日の当たる場所に出ねばならぬ。妾はここに暮らす子供たちをこのまま暗い洞窟の中になど押し込めていたくはないのだ」


 仄かに瞳を濡らすアリアの言葉がどれだけこの人たちに届いたかどうかは分からない。けどそれだけで全てが上手く行くわけなど無いのだ。

 少なくとも俺は警戒心を隠そうともしない目の前の老人NPCをこのまま島に引き連れて戻るわけにはいかないと考えているのだから。


「姫様の気持ちも解る。しかし、我にはどうしてもこの者が信用できるとは思えないのだ」


 俺がこう言ってしまえばなんだが、俺は未だ警戒を解かない老人NPCの気持ちが解らなくもない。

 どんなに信用している人が連れてきた相手だろうとも初対面では全面的な信用などすることができるはずがない。寧ろ手放しで信用する方がどうかしているとすら思えてしまうのだ。


「モンスターハーフが受けた迫害ってのはアリアから聞いている」

「ならば解ってくれるだろう。我にとってはこの穴蔵の方が安心できるのだ」

「だろうな」


 同意して頷く。

 何故自分の側ではなく老人NPCの側に付いたのかと俺を責めるような視線をアリアが向けてくるが、俺からすれば心情的に理解できるのはこの老人NPCの方だった。


「待ってくれ。妾が皆を説得する、だから――」

「安心しろ。アリアたちのことを投げ出すつもりはないさ。けど、俺たちの方にもアンタたちを受け入れるための条件があるんだよ」

「やはりか」


 条件という一言を口に出したことで老人NPCの警戒心が増したように思える。しかし、だからと言って手放しで受け入れると断言できる程、俺たちが作ろうとしている町は閉鎖的ではない。


「一応聞いておこう。何が望みだ? 我らの力か? それとも我らの持つ資源か?」

「どっちでもないさ。ただ、アンタたちが抱いている他種族に対するマイナスの感情は一旦忘れて貰う」


 俺はアリアにも伝えていなかったことをここに来て初めて口にだした。

 アリアには島で俺たちプレイヤーと触れ合うことで元々抱いていたかもしれない他種族に対する悪感情を上書きしてもらったように、俺はこの老人NPCや他のモンスターハーフNPCにも同様のことを求めていた。

 理由は単純。

 プレイヤーはNPCに比べ種族というものに対する偏見が少ないからだ。プレイヤーにとってあるのはパラメータの違いだけ。後はせいぜい個人の趣味嗜好の問題だ。


「全員が揃って全面的に受け入れろって言ってるわけじゃない。けれど今みたいに他種族を根本から受け入れようとしないのでは俺たちの町で暮らすなんてことは無理だとしか言う他ないのさ」


 俺が言わんとしていることをアリアは理解したようだった。

 その為に表情を曇らせ、今まで説得してみせると言っていた老人NPCに対して不安げな視線を向けている。


「時間はまだあるからな。もう一度アンタたち全員で考えてみてくれ」


 そう言って俺は一人洞窟の部屋から出た。

 モンスターハーフのNPCたちが話し合うとして、そこに俺というプレイヤーはいない方がいいと思ったからだ。



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