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町を作ろう ♯.20

「この町にオレたちの拠点の全てを集合させる」


 フーカを連れて一度館から出て行ったムラマサが戻ってきた時には既にこの館にはギルドメンバーが全員揃っていた。

 加えてアリアとリリィ、クロスケ。

 さらにムラマサとフーカが戻ってきた時に連れてきていた四人のNPC。グラゴニス大陸にあるギルドホームの管理を任せているベリーとキウイ、それからヴォルフ大陸のログハウスの管理を任せているシャーリとラクゥが一堂に会している。


 若干狭く感じる部屋の中で俺はムラマサに聞き返していた。


「それがムラマサの言ってた考えていることってやつか?」

「まあね。まずはこれを見てくれないかい」


 ムラマサの手でテーブルの上に広げられたのは横に長い一枚のこの町の地図。

 全ての情報が記されているわけではないその地図にはまだ空欄が目立つ。そもそも書き込むべき建物も何もない現状なのだから仕方の無いことのようにも思えるが、それでも外壁と俺たちがいるこの館の場所はしっかりと記されていた。


「これがオレたちが作ろうとしている町の地図だよ」

「この地図はムラマサが作ったのか?」

「違うよっ。作ったのはわたしだよっ」

「フーカが?」

「まあねっ」

「そういえば前にダンジョンに挑むからって≪製図≫スキルを習得したって言ってたわね」

「ムラマサはそれを知ってたからフーカを連れて行ったのか?」

「まさか。偶然以外の何者でもないさ」


 嬉しい誤算だと告げるムラマサは再びフーカが作った地図に視線を落とす。


「けど、これで町の中身を作りやすくなったとは思わないかい?」

「まあな」


 こうして地図を眺めてみて実感した。端末の画面に表示させたこの町のマップよりもこういう自筆の地図のほうが分かりやすく思えたのは不思議だったが、案外こういうものなのかもしれない。


「この地図のことは分かったけどさ、それが拠点を集めるってのとどう繋がってるんだ?」

「オレたちのギルドが持っている拠点は三つ。それにこの町にあるこの館を含めると四つだ。構成員十数名のギルドにしては多すぎるとは思わないかい」

「……そうなの?」

「一応はそれぞれの大陸でしかできないことをするつもりで作ってたんだけどな」

「けれど、これだけの数となれば問題も出てくるんだ」

「問題って何なんです?」

「一つは管理の問題だね。今はまだどうにか維持できているけどこれから先もできるとは限らない」


 断言するムラマサに俺は何故と首を傾げて見せた。

 二つの拠点の管理を任せている四人のNPCはこれまでも十分過ぎるほどの成果を見せてくれている。少し前に増やしたオルクス大陸の拠点だってそうだ。今はまだリントたちが管理しているが、無理となればまたNPCを雇えばいいだけ。それはこの町にある館だって変わらないはず。

 だからこそムラマサが出来るかどうか分からないと判断したのが不思議でならない。


「……みんな頑張ってくれてる、よ?」

「それは分かっているともさ。けど現実問題いくつもの拠点を維持するだけの継続したリソースの確保が難しくなっているんだ。特にこの島に掛かりっきりになってからはね」

「……リソースって何?」

「簡単に言ってしまうとお金。NPCを雇い続けるのも施設の維持にもそれなりに掛かっているんだよ」


 分かっているよねと視線で問いかけて来たムラマサに俺は頷いて答えていた。

 しかし、それを補うためのギルドショップ開設であり、消費アイテムを自分で作るという節約策を取っているのではなかったか。

 そう考えて現状がその前提条件を満たせていないことに思い至った。

 ギルドショップの開設は途中で止まり、消費アイテムの製作は時間が取ることができずに消費されていく一方。

 これではムラマサが言うような危惧を抱いても決して変な話ではないのだろう。


「でも、各大陸の拠点は転送するために必要なんじゃないんですか?」

「それが二つ目の理由だよ」


 各拠点に置かれている転送ポータルを日々使っている人にとっては当然のように浮かんでくる疑問を口に出したヒカルにムラマサはさっきよりも深刻そうな顔で告げていた。


「もしかしてだけどさ、忘れているんじゃないかい? あの転送ポータルは本来のギルドポータルとは仕様が違うということを」


 それに対して詳しい事情を知らないリントとハルたち新規メンバーは意味が解らないという顔をギルドマスターである俺に向けてきた。


「前に話したことがある人も居るかもしれないけどさ、俺たちのギルドにある転送ポータルは普通とは違う手段で手に入れたんだ」


 俺は細かな経緯は省いて説明する。

 説明の中で出てきた転送ポータルの問題点。それは単純に性能という点で販売されているそれよりも劣っているということ。

 手に入れた時は暫くの間は問題ないと思ったものだが、現状その暫くの間が終わったと思って間違いないのかもしれない。


「でもですよ。拠点が無くなるってことはその大陸に行けなくなるってことじゃないんですか?」

「そうでもないさ。オレたちの持つ転送ポータルは設置できる場所の数に限りがある。だから限界がきていると思ったんだ」

「成る程。設置する場所はここに限り、各大陸にある本来の転送ポータルと繋いでしまおうというんだね」


 ボルテックがムラマサの考えを読み告げる。


「そんなこと出来たか?」


 別の転送ポータルと直接繋ぐことができないからこそ各拠点を作り、そこに転送ポータルを設置していたのだ。

 今ムラマサがやろうとしていることができるのならばわざわざそんな手間をかけることは無かっただろう。


「このギルドクエストでは各ギルドが作る町や村に転送ポータルを設置することができる。それは全ての大陸の全ての町の転送ポータルと繋がっているのさ」


 今日、俺が来るのを待っている間に端末を調べ気付いたことだと付け加えて言った。


「勿論それなりのポイントは消費することになるけどね。それでもこれは必ず設置することになるんだろう?」

「まあ、そうだな。別に外と断絶させたいわけじゃないし」

「……というよりも人の出入りは多くした方がいい、と思う」

「同感だ」


 セッカの言葉に頷いたハルが久々にといった感じで話し始めた。


「けど、どうやって拠点をここに集めるつもりなんだ?」

「それが意外と簡単なのさ」


 ムラマサが端末に出したのはギルドが所有している施設をギルドクエストの舞台となっている場所に移転させるかどうかを確認する画面。

 俺たちのように複数の拠点を持っていなくともギルドホームがあれば、ギルドショップの店舗があればこの舞台へと引き寄せることが可能となっているようだ。


「このギルドクエストのもう一つの側面。それはおそらくギルドが持つ点在する施設を集め管理しやすくするためのもの」

「誰が何のために?」

「さあ? 俺たちプレイヤーのためかもしれないし、運営側の都合なのかもしれない。けどこれはオレたちには好都合だと思わないかい?」

「確かにな。これなら限界がきている転送ポータルを新しく買い替える必要はないってわけか」

「そう。オレたちの持つ転送ポータルはこのままログインやログアウトの時のセーブポイントとして使うのさ」

「それで他の場所に移動するのにはこれから町に作る転送ポータルを使うってことだな」


 これまで使っていた転送ポータルが無駄になってしまう気がして些か勿体なくも感じるが、それにしてもまたこれから繋げていけばいいだけの話だ。


「っていうか、ここに拠点を集めるって言ってもどこに置くの?」

「……この館と同じくらいの大きさがある、よ」

「だからさ。ここまで町を作って来たなか悪いけど、かなり大掛かりな変更をしたいんだ」

「大掛かりな変更ですか?」

「ああ。今、オレたちが作っている町の規模はこうだ」


 ムラマサが町の全体像だけが記されている地図の上に別の地図を広げた。

 この島の全体が記されている地図。おそらくはこれもフーカの手によって書かれたもののはず。所々というか島の半分近くが空欄なのはまだ俺たちの誰も足を踏み入れていない証拠だ。


「それでこっちが島の全体図。縮小の倍率が違うから少し分かり難いけど、オレたちが作ろうとしている町の大きさはおおよそこの程度」


 地図の中の一部分を丸で囲む。


「これでも結構広いと思うッスけど」

「しかし、十分とは言い難い。ムラマサ君はそう思っているのだろう?」

「ああ。だから今度はこうしたい」


 そう言ったムラマサは島の全体像が記されている地図に一本の線を書き込んだ。


「この線をこの島の町とそれ以外を分ける境界線にするのさ」

「って、これじゃ町の半分近いじゃないですかっ!」


 驚くヒカルが言うようにムラマサは地図上でこの島を二分した。

 森区画と当初町を建設しようとしていた草原区画の境目に一本の境界線を引いて見せたのだ。


「比較的安全なこちら側を開拓する」


 ムラマサが安全と判断したのは町を作ろうとしている草原区画から右。

 草原区画とその奥の平原区画、そしてその奥にあるのは先程俺たちがサハギン種のモンスターと戦った海岸区画。

 こちら側に関しては自分の目で見てきたからこそ言えるが、確かにモンスターは少ない。しかし、少ないだけで存在しないわけでは決してないのだ。俺たちの手が届かない遥か上空の他にも海の中、そこにはサハギン・キングのようなボスモンスターだって隠れている可能性は多大に残されているのだから。


「それならこちら側のモンスターをある程度討伐する必要があるってことだよな」

「そうだね」

「けど、大きな問題があるぞ。モンスターのリポップはどうなるんだ? 討伐して町を作ったはいいけど、街中でモンスターが出たなんてことになったら目も当てられないぞ」

「解ってるとも。けど、それはおそらく問題ないはずだ」

「どうしてそう言い切れる?」

「この草原区画でモンスターが現れないのがその証拠さ」

「どういう意味だ?」

「元はこの草原区画にもモンスターが出現していた。けれど、オレたちが拠点にすると決め石畳を敷き詰める前からモンスターの出現は止まっていた。理由は定かではないけど、それがこのクエストの仕様なのだとすれば、今出ているモンスターの討伐を成功させて自分たちの領域であることを示す何かをすることができればそれでモンスターのリポップは止まるはずさ」


 このムラマサの推測に反証する材料を俺は持たない。

 第一、この推測が間違っていることを証明するよりも、正しいと思って先に進んだ方がいい。それがこの部屋にいるギルドメンバー全員の気持ちのはずだ。


「わかった。俺はムラマサの直感を信じるよ」

「ありがとう」

「そうなると今回も二班に分かれた方がいいよな」


 即座に考えを切り替えて次のことに思考を向けたハルが告げる。


「だったら俺は――」

「ユウはここで町作りをしてくれないか?」

「別にいいけど、どうして?」

「多分、その方がいいはずだからだ」


 ちらりとをハルが視線を向けた先にはムラマサが連れてきた四人のNPCがいる。どことなく不安げな瞳を向けてくる彼女たちに対して最も誠実なことは俺が対応することだろう。


「討伐に向かうのは俺の他には…」

「俺が行きたいッス」

「なら私も行くわ」

「近接系が三人か。それならあと一人は支援系、もしくは後衛が欲しいかな」

「となると私かしら?」

「ライラ頼めるか?」

「いいわよ」


 ハル、リント、アイリ、ライラの四人組パーティが出来上がる。

 残るメンバーの顔を見渡したムラマサがぽつりと呟いた。


「何ならもう一パーティ行っても大丈夫だよ」

「……それなら、私も行く」


 セッカがそう言うと続いてヒカルとフーカがそれぞれ「私も」と言って手を挙げた。


「ならば僕も行こうか。ここに残るのはユウ君とムラマサ君ということになるけどいいかい?」

「問題ないさ。ユウも大丈夫かい」

「ああ」


 確認してくるムラマサに俺は短く答え頷いた。


「俺たちのパーティが左側、セッカたちのパーティが右側から討伐を進めることにしよう。ボスモンスターとの戦闘は勝てそうだと判断したなら戦ってもいいけど、そうでは無い場合は即座に退避すること。ここにはそれなりの武器種を持つプレイヤーが揃っているんだ。わざわざ不利な相手と戦うことはないさ」


 指示を送るハルの言葉にモンスター討伐に向かう仲間たちはそれぞれに頷いていた。


「では行こうか」

「……うん。私たちも、行こう」


 ハルとセッカがそれぞれのパーティを率いて館から出て行く。

 皆の後ろ姿が見えなくなった頃、ようやくと言うようにキウイが口を開いた。


「ちょっと良いですか」

「何かな?」

「この島にギルドホームを移設した場合、私たちはどうなるのでしょう?」

「俺はこれまで通りにしたいと思ってるんだけど」

「オレも同じ意見だね」


 きっぱりと言い切る俺とムラマサにキウイとベリーはよかったと肩を撫で下ろしている。しかし、その隣でシャーリが不安を露わに問いかけてきた。


「ねえ。私たちが作ってる畑はどうなるの? せっかく色々と育って来たのに」


 キウイたちがいるギルドホームの気候はこの島とよく似ている。だからもう一度畑を作り直すとしてもさほど問題はないのだろう。

 だが、ヴォルフ大陸はそうではない。この島よりも高温多湿な南国の気候を持つそこで育てている植物は俺がグラゴニス大陸では育成が困難と判断したものばかり。気候が変わっても同じように生育できるとは限らない、というよりも無理なはずだ。


「大丈夫。それは考えてあるよ」

「そうなのか?」


 平然と言い切るムラマサに俺は自然と問い返していた。


「勿論。そうでなければここに施設を移そうなんて考えやしないさ」

「まあ、そうかも知れないけど」

「ここには温室を作ることができるらしい。それを拠点の傍に作るつもりなんだ」


 このムラマサの発言があろうと無かろうと当初に比べ色々と作るものが多くなった。

 安心しているシャーリとその横にいるラクゥの表情が緩むのを見ながら俺は漠然とそんなことを考えていた。


「まずはさっき作った壁を壊そうか」


 ムラマサが笑顔で告げる。

 それが必ずやらなければならないことなのは間違いない。けれどまさかものの数時間で作り上げた町の外周を覆う壁を壊すことになろうとは、正直、想像もしていなかった。



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