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ガン・ブレイズ-ARMS・ONLINE-  作者: いつみ
第一章 【はじまりの町】
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はじまりの町 ♯.23

「スキルの組み合わせ?」


 不意に告げられた言葉を反芻して聞き返した。


「とりあえず、お前の今のスキル構成を教えてくれるか?」

「えっと俺のスキルは――」


 コンソールに自身のステータスを表示させてスキルの項目を順に読み上げていく。


「俺が習得しているスキルは≪剣銃≫≪鍛冶≫≪細工≫≪体力強化≫≪魔力強化≫の五つだ」

「少なっ」

「憶えてるのがそれだけならまだまだスキルポイント残ってるんじゃない?」


 驚くハルとおそるおそる聞いてくるフーカ、その後ろでは困った顔をしているライラの姿があった。


「まあな。正直使い道が解からなくて困ってるんだ」


 剣銃の強化のために新たなスキルが必要になってくると言われた時はそれの習得のためにある程度ポイントを残しておく必要があった。しかし、実際に習得することになったときにはそのポイントの消費というものが僅か一ポイントづつの計二ポイントで済んだ。


 他になにを習得したらいいのか解からないまま工房を買うための金策に走り、そのすぐ後にはハル達とのクエストに出向くことになった。これから先に何が必要になるか解からないが故に無駄に消費する事は出来ないが、それでも必要だと感じるものがあれば直ぐにでも習得したいと考えている。


「だったら基礎強化系のスキルくらいは取っとけよ」


 基礎強化とは読んで字の如く自身の基礎パラメータに補正を加えるものを指す。


 俺が現時点で習得している≪体力強化≫や≪魔力強化≫がそれに該当するのだ。


「ユウさんが取るべきスキルの残りは攻撃に防御に素早さ。あとは魔防かな?」


 フーカがすらすらとスキルを羅列していく。


 魔防とは魔法防御を略した言葉でそれに倣うなら魔法攻撃は魔攻といった感じか。


「魔法攻撃はいらないのか?」


 唯一出なかったスキルが気に掛かり、問い掛ける。


 使い慣れない言葉は短くした方が言い辛い。俺は略さずにそのまま使うことにした。


「ユウさんは魔法使えないから。今はいらないと思うよ」

「それもそうだな」


 コンソールを操作しスキル習得画面を表示させる。


 最初に比べ表示されている種類は増えたものの、どれがどのようなスキルで、どのような効果をもたらすのか解らない。今はフーカに言われた四つのスキルを探し出して迷うことなく習得した。


 ≪攻撃強化≫


 ≪防御強化≫


 ≪速度強化≫


 ≪魔法防御強化≫


 この四つのスキルが新たに俺のステータスに刻まれた。


「どうだ?」


 俺が新たなスキルを習得してしたのを見届けたハルが聞いてきた。


「少しだけだけどパラメータが上昇したよ」


 言葉の通り上昇したのはごく僅か。これもスキルを成長させていくと効果が強くなっているのだろうか。


「で、教えてくれよ。スキルの組み合わせって何なんだ?」


 基礎パラメータの向上。それは最も基本的な強化であり最も重要なことだ。基礎パラメータが低くては技も魔法も真価を発揮出来ない。だが、俺にはその技が無い。


 現状どれだけ基礎パラメータを上げようとも強くなるのは通常攻撃だけ。


「あーっと、それには魔法の方が解り易いか? 例えばだな、ライラが使っている氷結属性の魔法。それは何もない空中にも氷の矢を生成出来るんだが、近くに水がある場合はその限りじゃないんだ」

「どういう意味だ?」

「わたしから説明するね。氷結魔法は近くに水源があるとそこの水を使うことが出来るの。海や湖、滝やそこらへんに出来る水溜りなんかも使うことが出来るのよ」


 応用範囲の広さに驚きはしたが、何も無い空中にすら氷の矢を作り出せるのだとすれば水の恩恵など無いに等しいのではないかと思ってしまう。


「さっきハルくんが言ってたみたいに空中で氷の矢を作るっていうのはこのゲームでは空気中に存在する水分を集めて作っているっていうふうに解釈されているの。だから砂漠や空気が乾燥しているような場所では魔法の発動まで時間が掛かるし、そもそも発動すら出来ない場所もあるの。つまり近くに水があればその分早く発動できるようになることもあれば、本来使うことのできない場所でも発動させることもできるってことね」


 ゲームとはいえ様々なことに現実の要素を詰め込んでいるのが【ARMS・ONLINE】だ。


 そもそも現実存在しない魔法なんてものが存在しているのだから魔法の種類に関わらず発動くらいは無尽蔵でもいい気がしなくもないが、それらの点が各属性の魔法に得手不得手を生み出しているということなのだろう。


「なるほど。だから水か」

「お? 分かったか」

「ああ。水属性の魔法はその名の通り水で攻撃するんだろ? 何も無い所から水を作り出すってわけじゃないんだろうが、凍らせる必要がない以上、氷を作り出すほど時間はかからないし、使用した後にも水は辺りに残る。だからそれを使って氷結属性の魔法を使う。違うか?」

「正解」


 別々の魔法を繋げて自分に有利な環境を作り出す。それがスキルの組み合わせ、なのだろうか。


「それが同系統で別のスキルを習得している場合の組み合わせ。というよりも戦い方ね」


 俺の疑問を先読みしたライラが付け足した。


「だったらスキルの組み合わせって何なんだ?」

「簡単に言うと隠されてたスキルの習得条件だな」

「……隠された?」


 そう言えばユウのレベルが上がったことも関係しているかもしれないが、先程見た習得可能スキル一覧は最初に見た時よりかなり増えていた。それもハルの言う隠されたスキルというものに関係しているのかもしれない。


「ああ。全く別々の、例えば剣と属性魔法のスキルを同時に習得しているとする。すると習得してた片方のスキルに覚えているもう一つのスキルと同じ属性が付与された技が追加されるんだ」


 初めて耳にするスキルの事実に俺は驚きを隠せないと同時に、自分に残されている可能性を知った。


 近接系の武器だから魔法は必要ない。使えないと決めつけていた俺には行き着くことの無い可能性に心が躍る。


「それはなにも戦闘系に限った事じゃないぞ。確か、≪鍛冶≫や≪細工≫にも同じようなことがあるって聞いたことがある」

「ホントか?」

「ああ。本当だ」


 それが事実なら自分の武器や作り出したアクセサリになんらかの属性に関係する能力を付与出来るということになる。攻撃は自分が使う属性にしか効果が無いかもしれないが防御なら、もしかすると各属性に多少の抵抗力を付与できるかもしれない。


「お前の≪剣銃≫も何かのスキルを合わせることで強力な技を使えるようになるかもな」


 どのスキルと合わせることでどのような結果が生まれるのか。その検証の価値があるとわかっただけでも十分だ。


「とは言え、まだ四体もボスが残っているんだ。試すのは後にしてくれよな」


 釘を刺すように付け加えてくるハルに俺は黙って頷いて見せたものの頭の中ではどのようなスキルと組み合わせが出来るか、限られたスキルポイントのなかでどの程度検証出来るかという計算が始まっていた。


「ちょっと待ってハル。クエストの進行状況、変じゃない?」


 パーティメンバー全員が確認出来るようになっているクエストの詳細画面を見ていたフーカが告げた。


 詳細画面ではボスモンスターを倒したエリアには印が押され現状はどこまでクエストを進めたのか解るようになっている。俺たちが倒したのは西のコカトリスだけ。印が押されているのは西のエリア一つのはずだが、どういうわけか北のエリアにも印が押されている。


「北……もしかすると、あの時の戦闘もカウントされているのか」


 北といえば最初に四人で狩りに行った岩山があるエリアだ。


 そこで半ば強制的にボスモンスターであるヴェノム・センチピードとの戦闘を行うことになったのだがそれはクエストを受ける前、昨日のことだ。


「でもでも、クエストを受ける前の戦闘もカウントするなんて、お姉ちゃん知ってた?」

「ううん。わたしも知らなかった」


 ポツリと問い掛けるフーカの言葉にライラは首を横に振った。そのまま俺に視線を向けるフーカとライラだったが、当然のように俺も知らないと肩を窄めて見せた。


「ま、いいじゃないか。ラッキーだったってことで。残るは三体。南と東、それに街道を塞いでいるボスだけだ」


 確かに戦うボスが減ったのならそれに越したことはない。例え勝てる確率が高いと解かっている相手でもボスモンスターとの戦闘は短い間隔でそう何度も経験したいものではない。


「ん? ちょっと待て。確か戦うのは東西南北のボスモンスターだけじゃなかったか?」


 ハルからクエスト内容を聞いた時の説明では街道を塞いでいるボスモンスターなどその存在すら出てこなかった。


「ああ、それはだな。このクエストは東西南北のボスを倒して実力を示した後に街道を塞いでいるボスを倒すクエストを受けて、それを倒して初めてクリアになるんだ。つまり二つのクエストをクリアしてようやく次の町に行けるってことだな」


 あっけらかんと話すハルの言葉に驚かないところを見ると二人もこのことは知っていたらしい。


「でも、今日クリアするのは東西南北のボスモンスターの討伐までのつもりだから」


 驚嘆している俺を慰めるようにライラが言った。


「何を言っているんだ? 今日全部クリアするに決まってるだろ」

「うそ……流石にそれは無理だと思うけど」

「いいや、俺たちなら出来る。昨日、それにコカトリスとの戦いで俺は確信した。俺たちなら勝てる。俺たちに出来ないことは、ない」


 ハルの言葉に戸惑っているのはフーカも同じようで、自信たっぷりに話すハルに言葉を失っていた。


「残るはあと三体。皆、次は南の森。狙うはゴブリン・ロードの討伐だ」


 声高らかに宣言し、駆け出したハルを追って俺たち三人も歩きだした。


 一本道を真っ直ぐ進み、門の前まで戻るとそのまま町に入り、南のエリアへと続く門に出る。


 南門を潜り森のエリアに一歩入ると空気ががらりと変わった。


 木々に囲まれた森のエリアは西の草原エリアよりも空気が澄んでいるような気がする。


「ゴブリンは森の中で群れを作って生息してる。まずはそれを探そう」


 ハルの言葉を受け俺たちは森のなかに足を踏み入れた。


 時折木々の陰に隠れるように見つけられる他のモンスターには目もくれず、一歩一歩確実に森の奥へと進んでいく。


 森の中心にある大樹から離れた場所。


 太い幹の大木が並ぶこの場所に太陽の光は届いてこない。ジメジメとした湿った空気と微かな肌寒さを感じるこの場所は本当に俺の知る南の森なのかと疑いたくなる。


「見つけたっ」


 フーカが向ける視線の先にいるのは俺の腰の高さほどの身長の小人。


 緑色の肌と尖った耳、ボロボロの服を纏い、石で作られた斧を武器として使うモンスター。それがゴブリンだ。


 ハルが言っていたように群れを作るゴブリンは常に集団で行動をしているのか、一体見つけると近くに別の四体ものゴブリンを見つけることができた。


「ロードは、あの奥ね」


 ライラの視線の先。南の森の奥、ゴブリンの群れの奥に鋭い眼光を放つ何者かの存在があった。


 ギョロっとした目は暗い森の中だというのにうっすらと光っているようにも見える。


「準備はいいな? 皆、行くぞ!」


 睨み合う俺たちとゴブリンの群れ。


 俺が初めて経験する人型モンスターとの戦闘は、俺が初めて経験する多人数同士の戦闘でもある。


 ライラの魔法が最初の一体を襲う。


 氷の矢をまともに受け、消滅するゴブリンの断末魔が辺りに轟く。


 初めての集団戦に緊張する暇など与えられることも無く、戦闘開始が告げられた。




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