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町を作ろう ♯.18

二頭身の身体に三角帽子。

 白い雲のように蓄えられている髭がコミカルに揺れるその様は見ているだけでこちらの笑顔を誘ってくるかのようだ。


「あれは…ノームという妖精であってるのかな?」


 小さいが無数に現れたその存在の正体に思い当たる節があるらしいムラマサが誰に向けたというわけではなく呟き、問いかけていた。


「合っているとも。どうだい? なかなかに壮観だろう」


 答えてみせたのはボルテック。

 館を建てる際に既に一度この光景を見ているはずのボルテックもまた、俺たちと同様にこの光景を見て笑みを溢していた。


「彼らは伝承にもある通り、物造りの妖精さ」

「俺が知りたいのはそれが何でいきなり現れたかってことなんだけど…」


 ボルテックの簡潔な説明に対して聞き返したハルはどことなく複雑そうな表情を浮かべている。

 笑いを堪えている上に、戸惑っている。俺にはそんな表情に見えた。


「……原理はわからない。けど、館を建てる時にも現れた、の」

「だから僕たちは彼ら『ノーム』をこのギルドクエストに限ったプレイヤー支援のキャラクターだと判断したのさ」

「判断したのさって…そもそも、プレイヤー支援のための存在ってのもどういう意味なんだよ?」

「よく考えてもみてくれよ。このギルドクエストにおいて必要不可欠な要素、というよりもスキルがあると思わないかい」

「スキル?」

「成る程。生産、それも建設系のスキルが無ければこのギルドクエストは成立しないということなのだね」


 俺に向けられた問いだったが、その解に真っ先に思い当たったのはムラマサだった。

 そしてムラマサの一言が俺たち全員に共通の認識をもたらしていた。


 生産系のスキルの中で珍しいと言われている類のスキルがある。それは武器や防具、アクセサリとは別の何かを作るという目的の為に存在しているスキルだ。

 ついでに言えば俺が持つ回復系や毒などのアイテムを作るための≪調薬≫スキルはまだ一般的に属しているスキルだ。それは≪調理≫スキルも同様、食事によって多少の能力上昇や様々なバフ効果を得られるようになったことでようやく一般化したスキルだとも言えよう。

 それだけに珍しい生産系スキルというものは自ずと限られてくる。例を出せば≪建築≫や≪造船≫のようにより専門性が高い種類のスキルがそれに該当するのだった。


「ギルドクエストに参加しているプレイヤーがその建設系のスキルを覚えている確証はない。しかし、それが無ければクエストを進めることは出来ないってわけか」

「そのための救済処置。そのためのノームってわけさ」


 ハルの言葉にムラマサが続く。


「でもさ、こんなに大勢のノームたちを使って大丈夫なのか?」


 どこからともなく取り出した石の形を整え始めたノームを見守りながら俺は微かな疑問を感じていた。

 何事も代償も無く得ることは出来ない。

 物を作るには材料を消費し、何かに助力を乞うのなら代価が必要となる。

 ならば、このノームたちの力を借りている俺たちが支払うべき代償とは一体。


「そんなに気になるんなら、同じ妖精に聞いてみたらどうなんです」

「……そういえば。クロスケは居るのにリリィがここにいないのは、なんでなの?」


 何気なく提案したヒカルの隣でフーカの腕に止まっているクロスケを見て問いかけてくるセッカに俺は今の今まで忘れていたもう一人の仲間のことを思い出した。

 これまでリリィはお菓子ある所には呼ばなくても出てきていた。ノームを呼び出す少し前、俺たちはこれからの相談の為にとお茶会を開いた。いつもならばその時に現れ自分の分をと要求してくるはずなのだ。

 なのに現れなかった。

 リリィに何か問題が起こったのだろうかと、一度気になり出してしまえば確認せずにはいられない。


 『精霊の指輪』を発動させるとすかさず俺はリリィを呼んだ。


「って、あれ? 何でだ? どうして直ぐに来ない?」


 妖精を召喚する時に現れる間違いなく出現した。しかし、それが消えてもなお、リリィの姿はここに現れることはない。

 本格的に何かあったのかと心配したその時だった。

 ゆらゆらと空の彼方から一体の妖精が姿を現したのは。


「もーなんだよー。今いいところだったのにー」


 頬を膨らませ飛んでいるその無邪気な顔を見せるリリィを前にしてしまうと、どうも怒る気が失せてしまう。

 何よりも無事で良かった。そう思ってしまっていたのもまた事実だった。


「どうやらベリー達の所で好き勝手食べていたみたいだね」

「うぐっ、ななな、何でバレたの?」

「……口の周り」

「お菓子のかけらが付いていますよ」

「うそっ!?」

「……ホント」


 セッカが取り出した手鏡で自分の顔を確認したリリィが慌てて口元を拭った。


「本当に何事も無くて良かったよ」


 心配が消えた途端に呆れてしまう。


「別にリリィが何を食べていたってどうこう言うつもりはないさ。ただ、聞いてみたいことがあってさ」

「なあに?」

「ノームに何かを作ってもらう時に俺たちは何か対価を払わなくていいのか?」

「払うって何を……って、あれ!? 何であんなにノームがいるのさ」

「だから言っただろ作ってもらっているってな」


 俺の頭よりも高い所で滞空しているリリィが驚きを見せていた。

 石の形を整え終えたノーム数体が力を合わせて一個の石材を運んでいる。石畳の外周に積まれていく石材は時間と共に壁へと形を成していく。


「何で壁なんか作ってるのさ?」

「壁じゃない。俺たちが作っているのは町だ」

「町!? 何で? どうして?」

「まあ、理由は色々とあるんだけどな」


 クエストだ何だと妖精であるリリィに説明したところでそれが理解できるとは思えない。ただ町を作る機会を得、自分たちもそれをやってみようと思ったのだとだけ伝えた。


「で、だ。ノームの力を借りている俺たちが彼らに何か代償を求められることはないのかどうかが知りたくてな」

「うーん、そう言うことなら別に何もいらないんじゃないの」

「そうなのか?」

「ノームってのは物作りをする妖精なんだ。彼らの棲む場所ではいつも何かが作っては壊されるのを繰り返しているよ」


 嬉々として目の前で壁を作っているノームたちを見てしまうとリリィの言うことがあながち嘘ではないと感じられる。

 この大勢の物作り妖精たちが常に何かを作っている様子は一度見てみたいと思うほどだ。


「だから何かを作ったりするのに呼び出したなら別に何も問題ないはずだよ」

「そっか」


 以前に館を作った時に何かを要求してきたなんて話は耳にしなかった。それ故に俺はリリィの言葉を信じようと決めた。


「壁が全て出来上がるまでどれくらいかかりそうなんだい?」


 俺がリリィと話をしている間、ムラマサがボルテックに問いかけていた。


「時間的に言うのなら、そうだね。こっちの時間で三時間らしいよ」


 広範囲の壁の建設をノームに任せたことでボルテックの手の中にある端末の操作はロックされ、それまでとは違う画面が表示された。

 画面全体に浮かぶデジタル時計のカウントダウン表示。

 ボルテックの言う三時間という時間はこの時計表示を基にしたものなのだろう。


「その間オレたちはずっと見てるだけなのか?」

「基本的に僕達がやることは無いね」

「こう言っては何だけど、随分と退屈だね」

「同感だ」


 肩を竦め合う二人の後ろで他のギルドメンバーも同様に困ったという雰囲気を醸し出していた。


「現実の時間なら一時間足らずってことだよな」


 ゲーム内と現実では時間の進み方が違う。

 現実の方を基準にすればゲーム内の時間の進み方はおよそ三倍。

 時間進み方の違いを考慮して浮かんだことを提案してみる。


「だったらここで一度ログアウトして、壁が完成する一時間後に再集合することにしないか?」

「そうだね。少しの休憩を挟むのもゲームには大事なことだからね」

「何か、ムラマサさんってお母さんみたいなこというんだねっ」

「お母さんは止めてくれ。オレはまだフーカくらいの子供のいる年じゃないぞ」

「それならお姉さん?」

「うん。それならまだいいかな」


 などと談笑するムラマサとフーカの横で本当のフーカの姉であるライラが気になって自然とそちらの方を見た。

 頬に手を当てにこやかに楽しそうにしている妹を見ているライラに俺はほっと肩を撫で下ろした。


「それじゃまた一時間後に」

「はいっ」

「リリィはクロスケとアリアと一緒に待っててくれ。そこの館にある物は好きに食べてくれていいからな」

「わーい!」


 クロスケと一緒にアリアのもとへと飛んでいく。

 先に光を纏ってログアウトしていったヒカルとセッカとムラマサ、それとリントとアイリを見送った。


「わたし達も一旦戻りましょう」


 ライラがフーカとハルを引き連れてログアウトした。


「残るは僕達だけか」

「ログアウトしないのか?」

「どうしようか悩んでいるんだ。僕にはまだここに残って出来ることがあるように思えてね」

「出来ること、か」

「それが何なのか解らないのが問題なんだけどね」

「だったら気分を変えるためにも戻るべきだと俺は思うぞ」


 説得するつもりではないが、休養が大事なのは重々解っているつもりだ。

 目的も無く無理をして残り続けるよりも、英気を養い、これからのことに備えた方が良い場合はそれこそよくあることなのだ。


「解った。僕も一旦戻ることにするよ」

「ああ。それじゃあな」


 俺とボルテック。

 二人分の光が現れ、即座に消えた。



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