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町を作ろう ♯.14

「攻撃を止める時の見極めポイントはサハギン・キングの目さ」

「目?」

「流石のユウもこの短時間では気付けなかったようだね。サハギン・キングは例の攻撃を繰り出すその前に目の色が変わるみたいなのさ」


 隆起した地面からみんながいる高さに降り立った俺は真っ先にムラマサにその見極め方について訊ねていた。

 その答えが目の色の変化。


「確認してみるかい」というムラマサの問いかけに俺は大きく頷いた。


 またハルとフーカに攻撃を任せ、俺とムラマサはそれぞれに消費したMPを回復させていく。その最中、俺はムラマサの言うようにずっとサハギン・キングの目に注目していた。

 それから暫くの均衡の果て、感情など読み取れはしない無機質な目で俺たちを見下ろすサハギン・キングのトライデントによる攻撃が再び放たれようとしていた。


「見えたようだね」

「ああ」


 共に駆け出す俺たちの前に迫る光景は先程と同じ。

 同じなら対処の仕方もまた同じ。


「〈インパクト・ブラスト〉!!」


 放たれる弾丸が正確にトライデントの矛先に命中する。

 続けざまに引き金を引き、轟音と共に弾け飛ぶ弾丸の奥にもう一発の弾丸を放つ。

 ようやく、とでもいうべきか。俺はこの相手との戦い方というものを掴んだような気がした。


「その調子だ!」


 ムラマサの振るう大太刀が大地を隆起させる。

 下から打ち上げられるトライデントの軌道が逸れ、誰も居ない虚空を貫いていた。


「今度は鱗だったな」


 次に来る展開を予想して身構える。

 そして俺の予想の通りに楕円形の鱗が雨のように降り注いできた。

 既に後方に下がり消耗したHPとMPを回復させているハルとフーカは鱗の爆発の範囲外にいて問題ない。

 そしてこの場に残っている俺とムラマサもまた既にこの攻撃に対する方法は熟知しているようなものだ。

 一拍の間をおいて足元が揺れる。

 この揺れが先程のように俺を上空へと飛び上がらせるためのものであることを知るからこそ、俺はムラマサに目線を送り、問題ないと告げた。


「行っけー。ユウ!」

「おう!」


 再び上空へと打ち上げられた俺はその勢いを殺さずにもう一段上空へと跳び上がる。

 剣銃の照準を地面に突き刺さっている鱗に定めると俺はまたも威力強化の銃撃アーツを放った。

 素早い対処が功を奏したのか、鱗の爆発はそれまでよりも小規模なものだった。


「連鎖したのも同じくらいになったってわけか」


 続けざまに爆発する鱗が全て消えたことで三度ハルとフーカの攻撃が始まった。


「ユウも攻撃に参加したいのかい?」


 二人と入れ替わるように後方に下がった俺たちがMPを回復させる最中、突然ムラマサが問いかけてきた。


「大丈夫。今の俺たちの役割ってのは重々承知しているさ」

「その割には不満そうだけどね」

「そんなことはないさ」


 などと口に出していても、実際俺がやっているのはサハギン・キングの攻撃のキャンセルだけ。

 ダメージを全く与えられていないとは言わないが、それでもこれまでに自分が行ってきた戦闘に比べると直接的な貢献という意味合いでは如何なものかと思ってしまう。

 せめてもう少しだけ、後ほんの僅かだけ、戦闘の役に立ちたいと考えてしまっていた。


「ふむ。無理をせず、攻撃のキャンセルに使うだけのMPを残すのならば、攻撃に出てもいいかもね」

「いいのか?」

「やはり攻撃したかったんだね」

「ぐっ」

「まあいいさ。オレも似たようなものだからね」


 ムラマサが大太刀を提げて微笑みかけてくる。


「オレたちが攻撃に参加するならここで仕留めてしまおうじゃないか」

「言うね」

「パーティが全員攻撃参加になるんだ。倒しきれないと反対にこちらが危険なのさ」


 釘を刺すように告げるムラマサは微塵も自分たちが窮地に追いやられるなどと考えていないように見えた。

 奇しくもそれは俺も同様で、仲間たちの実力を知っているからこそ、そして、相手の動きを見極めることがある程度できるようになっていることからも、負けるなどとは想像もできなかった。


「行くぞ!」


 俺が先に駆け出して、その後をムラマサが追うように走る。

 目標は今なおハルとフーカと戦闘を繰り広げているサハギン・キング。


「ユウさん!?」

「オレたちも攻撃に参加させてもらうよ」

「わかった。それなら俺たちと入れ替わるようにして攻撃してくれるか?」

「了解!」


 雄々しくハルバードを振るうハルと入れ替わるようにムラマサが大太刀を振るい、軽々と直剣を振るうフーカと入れ替わるように俺が剣銃の引き金を引いた。

 トライデントの攻撃が振るわれるまでの時間で出来る限りのダメージを与える必要がある俺たちはその全ての攻撃をアーツを発動させたものにしていた。

 色彩様々な光が伴う攻撃がサハギン・キングを襲う。


 通常攻撃よりも威力の高いアーツ攻撃はサハギン・キングのHPを確実に削っていく。

 俺が戦闘に参加した段階で三本残されていたサハギン・キングのHPバーが今や残すところ満タンなのが一本と残り一割未満にまで削られているHPバーが一本の計二本。

 この残り僅かなHPバーがこの消えるのも時間の問題。いや、その瞬間はまさに、この時だ。


 パリンと砕けるサハギン・キングのHPバー。


 この音が合図となりサハギン・キングに異変が起きた。


「攻撃力上昇に防御力上昇……」

「それに状態異常無効にクリティカル耐性とクリティカル率上昇。なんというか、支援効果(パフ)のオンパレードだね」


 呆然と見上げるハルの言葉に続きムラマサが困ったもんだと呟いていた。


「まだあるみたいだねっ」

「各種属性耐性。それと、あれは何だ?」


 サハギン・キングのHPバーの下に追加された見慣れないアイコンを目にして俺は自然と疑問を口に出していた。


「ユウは初めて見たのか?」

「ああ」

「まあ、仕方ないかもしれないな。あれはプレイヤーが使えない類のバフだから」

「どういう意味だ?」

「文字通りモンスター専用のバフってことさ」


 俺に比べてボスモンスターとの戦闘経験の多いハルだからこそ即座に判断できたのだろう。


「だからどういう効果があるのかって聞いてるんだ」


 勿体ぶるかのように話さないハルに若干の苛立ちを感じつつ訊ねる。


「一定のダメージ無効」


 なかなか話さないハルに代わり答えたのはムラマサだった。


「は? なんだって?」

「安心してくれていいよ。今回の場合は一定のダメージ以下が無効になるみたいだからさ」

「いやいや、安心できないだろ」

「それってさ普通の攻撃は効かないってことだよねっ」


 ムラマサの言葉に戸惑いを覚える俺とフーカがそれぞれに不安を口に出していた。


「だとしても問題はないはずだよ。なんてたってオレたちはこれまでもアーツを使って攻撃していたのだからね。今度はそれが強要させるってだけのことさ」


 だけと言われて安心できるはずもなく、俺は大きな溜め息を吐いていた。


「そう思えば、まだ平気…か?」


 銃形態の剣銃を見つめ、次に自分のMPの残量を見た。

 〈ブースト・ブラスター〉を発動させていることで上昇しているMPの自動回復速度のお陰で、先程の攻撃の間に消費していたMPの大半が回復していた。


「全快じゃないけど、行けるのか」

「このまま攻め切るぞ」


 自分に対して疑問をぶつける俺が答えを出す前にハルが全員に向けて告げる。

 最後のHPバーに突入したことで起きた変化が収まったサハギン・キングは体色が緑から紫に変わっていた。

 それでも武器や体の大きさには変化がなく、一見してまだサハギン・キングのままだと解かる程度。向かって行く俺たちに対する反応もそれまでとはあまり違いはなく攻撃手段や動作自体は読みやすい。


 しかし、その威力という一点において、ひしひしと感じさせられる差が俺たちの肝を冷やす。

 何よりもその一定以下ダメージ無効の効果がアーツを使わずに振り抜いた剣銃から放たれる弾丸を全くと言っていいほど通さない。

 これはハルの言葉の通りではあるのだが、それでもここまではっきりと攻撃が弾かれてしまうとは思っていなかった。

 せいぜい攻撃は通るがダメージがゼロになってしまうだけだと思っていたのだ。


「チッ」


 跳ね返ってくる望まない手応えに思わず舌打ちをする俺にムラマサが言う。


「遠距離武器では不利みたいだね。近接に切り替えるんだ」

「わかってる! 〈ブースト・アタッカー〉!」


 俺の背後に赤い魔方陣が浮かび、消える。

 そして上昇するATKとDEFを感じつつ、剣銃を剣形態へと変え攻撃を再開した。

 またも色彩様々な光を伴った斬撃がサハギン・キングを襲う。

 先程までとは違い攻撃に全力を傾けている今、俺たちが与えるダメージは増加する、そのはずだった。


「防御力の上昇の影響がここまでとはな」


 ハルバードを振るいながら言うハルの言葉が示すように、サハギン・キングに与えられている俺たちの攻撃によるダメージは増えていない。

 せいぜいこれまでの通常攻撃のダメージと同等だ。


 そうなのだとしても出来得る限りの攻撃をと俺たちはそれぞれにアーツを放った。

 幾度となく俺たちの攻撃に晒されたサハギン・キングのHPバーが半分程削ることのできたその刹那、「反撃が来るぞ!」と一人だけこれまで通りにサハギン・キングの動向を窺っていたムラマサが叫ぶ。

 細々とした反撃はこれまでも何度も繰り出してきた。けれどもムラマサが注意を促した攻撃はそれよりも威力が高く、俺たちに甚大な被害をもたらす攻撃の時だけだ。


「ここから避けるのは間に合わない。――ならっ。ムラマサ! 俺たち全員を空に打ち上げろ!」

「任せろ」


 瞬時の判断を下したハルがムラマサに言った。

 その瞬間に隆起する地面が俺たち全員をサハギン・キングの攻撃の位置よりも遥か高くに押し上げた。


「うおっ!?」


 次の瞬間に俺たちの足場になっていた地面がサハギン・キングのトライデントによって砕かれる。

 ぐらりと体勢を崩され、宙に舞うようになった俺は大きな土の塊として同じように宙に浮かぶ足場だったそれを使い前へと出る。


「ここからならどうだっ! 〈インンパクト・スラスト〉!」


 威力強化の斬撃アーツによる縦の斬撃を放つ。

 魚の特徴があるサハギンという種だからこそその全身は硬い鱗で覆われている。目の前に立つサハギン・キングもまた現実の魚と同様に頭までもがその鱗に覆われて硬くなっているはずなのだ。

 だからこそ俺はこの機を逃さずに落下の速度も加えた一撃を繰り出したのだ。


 硬い頭部に当たった剣銃の刃がサハギン・キングを斬り裂く。

 しかし、その傷跡の大きさも、与えられたダメージも俺が想定していたよりも小さく少ない。


「これでもダメか」


 空中でアーツを放ったからだろう。振り下ろした剣銃の勢いをそのままに空中で俺は前転してしまっていた。


「こうなったらこのままッ 〈インパクト・スラスト〉!」


 連続して発動させたアーツの光を灯す剣銃をサハギン・キングの肩目掛けて振り下ろす。


「うおおおおお!」


 力を込めて深く突き刺した剣銃を両手で持ち、自身の全体重を掛けて動かそうとするも固定されてしまったかのようにピクリとも動かない。

 剣銃を取っ手代わりにサハギン・キングの身体に掴まっている俺を暗く染める人影が見えた。


「そこを退け、ユウ!」

「ハル!?」

「〈豪腕爆雷斧〉!!!」


 その名称の通り、爆風の色をした雷を伴った強力なハルバードの一撃が突き刺さったままの俺の剣銃目掛けて放たれた。

 雷が轟く爆音とサハギン・キングの断末魔の叫び。

 その二つの轟音がサハギン・キングの体に剣銃を残したまま跳んだ俺の耳を襲った。


「――ッ!」


 慌てて落下する地面の欠片の上に着地した俺は咄嗟に耳を塞いだ。

 それでもまだ聞こえてくる轟音と視界を明滅させるほどの雷の閃光。

 しかしその閃光は一瞬の後に収まる。

 サハギン・キングが全身を黒く焦がしビクビクと痙攣させているのが見えた。


「お疲れさん」


 ポンと俺の肩を叩くハルは疲労を感じさせないほど清々しい笑顔を向けてきた。


「まだ勝ったってわけじゃ――」


 ない。そう言おうとする俺の前で黒焦げになっているサハギン・キングに向かって最大の攻撃アーツを放つムラマサとフーカの姿があった。

 次の瞬間、光の粒子となって掻き消えたサハギン・キングの居た場所には勝利の証だとでも言うように陽光を反射し輝く俺の剣銃が斜めになって突き刺さっていた。



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