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町を作ろう ♯.10

 海の中から這い出てくる十数体のシー・リザードの攻撃手段は大きく分けて三つ。

 その口を大きく開けて噛みついてくるか、全身を使って体当たりをしかけてくるか、その尻尾を使い打撃を加えようとしてくるかのどれかだ。

 遠距離攻撃が無さそうなのはよかったのだが、全身がしっとりと濡れている為に攻撃が通り難くて仕方ないとハルとフーカが文句を言っているのが聞こえてきた。


「落ち着くんだ。単体ではそう強くないぞ」


 ムラマサが言うようにシー・リザードは単体ごとの強さは微妙だった。

 戦い慣れない相手だから苦労することはあり得るだろうけど、それが原因で負けることはなさそうだ。


「とはいえ時間が掛かるのはゴメンだな。〈ブースト・ブラスター〉!」


 俺の背後に青い魔方陣が浮かび消える。

 そういえば、ハルとフーカは≪強化術式≫へとなった俺のスキルを見るのは初めてだったかもしれない。突如発せられた青い光に一瞬だけ視線をこちらの方へと向けてきたのが分かった。


「ムラマサは――」


 自分でどうにでもできるよな、と聞こうとする前にどうにかしていたようだ。

 少し離れた場所にいる俺にも伝わってくるほどの冷気がムラマサを中心に広がっている。それは≪魔刀術≫スキルにある氷属性の攻撃だった。


「これならヌルヌルも関係ないだろう」

「そ、そうだな」


 自慢げに問うムラマサに俺は戸惑いながら答えていた。

 折角ハルたちに銃形態の威力を見せてやろうと思っていたのだが、これでは動けなくなった的を撃つただの射的ゲームと何ら変わらない。


「なるほど。相手の動きを止めればいいんだな」


 ハルがムラマサの攻撃にヒントを得たというように呟いている。

 そして次の瞬間、


「喰らえ! 〈豪腕爆砕斧〉!!」


 アーツの光を伴った一撃をシー・リザードのいる砂浜目掛けて放っていた。

 巻き起こる大爆発と舞い上がる砂浜の砂。

 そして爆風にひっくり返らされるシー・リザード。


「トドメはあたしだねっ。〈フィフス・ライトニング〉!」


 フーカがその直剣に白い光を纏わせて空中に浮きあがったシー・リザード全てを同時に斬り払っていた。


「ふっ。心強い仲間たちじゃないか」

「そう…だな」


 自分が強くなっているのなら同じように冒険を続けてきたハルもフーカも強くなっているはず。そんな風に思っていたが、純粋に戦闘職としての技能とキャラクターのレベルを高めていった二人はこと戦闘において俺の何歩も前に行っているように思えた。


「自信を失くしそうかい?」

「そう…かもな」

「安心するといいさ。ユウも十分に純粋な戦闘職として通用するくらいには強いからさ」


 ウインクをしながら凍らされたシー・リザードを斬り裂いていくムラマサの言葉に俺は疑問を禁じ得なかった。

 それだけの差があるのだとハルの戦いぶりを見て思ってしまった。


「とりあえずはあそこで氷漬けになっているシー・リザード共を倒してしまおう」

「ああ」


 ムラマサと一緒になって攻撃を再開した俺は黙って引き金を引き続ける。

 弾丸が当たる度に氷にひびが入り砕けてしまうその刹那、射的の的と化していたシー・リザードが消滅した。

 後はこれを繰り返すだけ。

 先に戦闘を終えたハルとフーカに見守られるなか、俺とムラマサは残りのシー・リザードを掃討していった。


「片付いたようだな」

「そっちもな」

「へへっ、あたしも強くなってたでしょっ」

「ああ。驚いたよ……本当にな」

「どうかしたのか?」


 フーカの言葉に答えた俺の反応がいつもと違って見えたのか、ハルがムラマサに問いかけていた。


「二人が強くて自信を失くしかけているみたいだよ」

「へ!?」

「ユウが!?」

「…何だよ」


 驚いたような顔をして俺を見てくる二人から顔を逸らす。

 そして気を紛らわせるかのように、ようやく表示されたリザルト画面を確認し始めた。


「使えそうにない素材ばかりだろう?」


 自分のコンソールを見ている俺にムラマサがいった。


「まあ、使おうとして使えない物じゃないと思うんだけどな」

「いやいや。粘膜とか粘液とかって何に使うんだよ」

「えっと、多分、装備の潤滑剤とか?」

「あのモンスターを見てからだと何だかヤだなー」


 顔を顰めるフーカを見て俺たち三人は笑いを堪えきれないと噴き出してしまう。


「何だよー」


 それを見てフーカが不満を露わにすると、それを見てまた俺たちが笑う。

 戦闘が終わったことによる安心感もあったのだろう。

 暫く子の笑い声が途切れることはなかった。


「もういいだろっ。ほらっちゃんとやることをやろうよ」


 一人先に笑いの渦から抜け出したフーカが告げる。


「この素材アイテムはどうするつもりなんだい? ユウが欲しいというのなら残しておいてもいいんだよ」

「いや。今の俺がこれを使う予定はないからな。全部ここで使ってしまっても構わない」


 残しておいて何かに使えるのではないかという検証をすることも楽しそうだけど、生憎と今の俺にそんな時間の余裕はない。

 島の整備と町の設立。

 言葉にしてしまうとたった二つのことでしかないのだが、その実それらを実現させようと思えば想像以上の手間と時間が掛かるのだ。


「それならこっちの変換でいいんだよな?」

「ああ。変換することでこの島を作るためのポイントが加算されるからね」


 ハルが真っ先に使わない素材アイテムを端末を操作するためのポイントへ変えた。


「何か思ってたよりも少なくない?」

「そうでもないさ。モンスターからドロップした素材の場合はこれくらいのものだよ」


 不満を呟くフーカを宥めるようにムラマサが言う。

 前にこの島の中でモンスターと戦い、そこで得た素材アイテムをポイントに変換したことのあるムラマサの言葉だ。素材アイテムをポイントにする際の変換効率は基本的に同じということなのだろう。

 素材アイテムの種類、レア度問わず、一つに付き1ポイント。そしてそれらは十個集めることで変換可能となる。

 先のムラマサたちが獲得したポイントが10ポイント区切りだったのはそれが理由か。


「余ったのはどうする? 全員の分を集めればあと一回くらいはここで変換できそうだけど?」

「種類を問わずに変換できるみたいだから無理に今する必要はないんじゃない」

「…だな。どのみち俺たちはここを探索するつもりで来たんだ。その時に手に入る素材も合わせて変換すればいいだろう」

「それにオレたちはアイテム一覧からいつでも変換できるようになっているはずさ」


 ハルの問いかけにフーカと俺が答えるとムラマサがそれに捕捉を加えた。

 リザルト画面を閉じ、所持アイテム一覧を種類順から入手順へと変えると今手に入り変換しなかったアイテムが一番上に表示された。

 そして、それを確認してみるとムラマサの言葉通りにポイント変換の項目が追加されていた。


「そう言えば、換金アイテムはどうなるんだ? 今は自動換金機能をONにしているからお金になったけど、それを切ると換金アイテムもポイントに出来るのか?」

「出来るとも。変換効率は素材アイテムの時と同じさ。ちなみにだけど既に持っているアイテムをポイントに変換することは出来ないらしい。それと既に持っているCをポイントに出来ないのも覚えておいてくれ」


 すなわちこの島で手に入れたアイテムしかポイントに変換することができないということらしい。

 ここは自分で検証する手間が省かれたと喜ぶべきだろう。そして同時にこの島での行動が大事なのだと分かった瞬間でもあった。


「手に入れたアイテムねぇ」


 そう呟きながら俺は足元の砂を抄った。

 これもアイテムと認識されればポイントに換えることも楽になるのだが、残念とこれはアイテムとは認識されなかった。


「ま、当然と言えば当然か」


 普段のプレイでも地面の土を抄っただけではアイテムとして認識されることはない。

 畑になるように耕し、肥料を加えることでようやく『土』あるいは『たい肥』というアイテムとしての認識されるのだ。

 海岸の砂という存在はあくまでも舞台を構成するための要員でしかなく、それ自体がアイテム化することはない。

 可能性としては砂を選別し瓶詰することでどうにかといった所だろう。可能性があったとしても俺はそれをするつもりはなかった。アイテム一つにつき1ポイントの原則があるのだとすれば、それまでの行為に見合う見返りだとは到底思えなかったからだ。


「モンスターと戦っていた方がまだマシってことみたいだな」


 採取で手に入るアイテムも同様の変換効率なのだとすれば、時間で再度採れるようになるとはいえ有限のリソースを選択することはない。

 それよりも同じように時間で復活するモンスターと戦っていた方が経験値が入ることも合わせると有益だと思えた。


「ということで、これからの方針だけどさ」

「モンスター討伐がメインってことでいいだろ」

「探索も忘れるつもりはないけどね」


 ハルとフーカが黙って俺とムラマサの話を聞いていた。

 それでは話合いとしての意味はないと俺は問いかける。


「二人はそれでいいのか?」

「俺は別に」

「あたしも何でもいいよっ」


 どうでもいいと思っているわけではなく、素直に俺たちの判断に任せても問題ないと考えている節があった。

 それを思考の放棄では無く信頼なのだと思えるのは俺がハルとフーカの性格を知っているからだ。


「とはいえ、ここでシー・リザードの復活を待つのもいいんだけど」

「アレは戦い難かったからヤだなー」

「同感だ」

「ならば別のモンスターを探してみるかい?」

「それがいいかもな」


 俺たちは急いで砂浜を進む。

 歩くたびに残される四人分の足跡は暫く経つと独りでに消えていく。

 それが妙に面白く思えて俺は偶に後ろを振り返りながら歩いていた。


「お出ましだ」


 不意に足を止めたハルが告げる。


「目が良いんだな」

「≪索敵≫スキルはソロの基本だぜ」

「ソロ…ねえ。ライラやフーカと一緒に行動していたみたいだけど」

「それはそれ」

「まあいいけどさ」

「それでっ、来てるのはどんなモンスターなの?」


 フーカの問いは俺も知りたいことだった。

 唯一知るハルがそれに答えようと目を凝らした。


「安心していいぞ。ヌルヌルっぽい奴じゃないから」

「だからどんな奴なんだよ?」

「こういうゲームでは結構有名処だな」


 俺たち三人の視線がハルに集まる。けど、ムラマサは俺たちが戸惑うのを横目に笑いを堪えているように見えた。

 そう言えばムラマサも俺たちと出会うまでは生粋のソロプレイヤーだったはず。ならばハルほどではないとはいえ≪索敵≫スキルを覚えていてもおかしくはないのだ。


「『サハギン』」


 ハルでは無くムラマサがその名を告げた。

 そしてようやくかのモンスターが姿を俺たち全員の眼前へと現す。

 魚の頭部にゴブリンのような身体。

 全身の色はくすんだ青色をしていてその手にあるのは三又の矛。リントが持っているトライデントによく似ているそれは、リントの持っているそれに比べると刀身も石突きも歪んでいてどう見ても品質が悪い。

 プレイヤーに最初に与えられる武器よりも低品質だと言わざるを得ない代物だった。


「加えるならば『サハギン・メイジ』もいるぞ」


 やはり≪索敵≫スキルのレベルはハルの方が高いらしく、ムラマサが見逃した存在を告げていた。


「メイジ? ってことは魔法を使うのか?」

「ユウの考える通りだ。だからメイジの担当はユウだな」

「俺!?」

「遠距離戦に慣れてるのはユウだけだからね」

「ムラマサまで…」

「無論オレもそれなりに遠い相手との戦闘の心得はあるからね、フォローに回るつもりさ。けど…」

「解ったよ。数は明らかに普通のサハギンの方が多いみたいだからな」


 ぞろぞろと近付いてくるサハギンの中で魔法を使えるサハギン・メイジの割合は一割にも満たない。

 それがこの種のモンスターの中の魔法を使う個体の割合なのだとすれば、ここでそれを相手にするのはやはり俺ということになるのだろう。


「俺たちがサハギンを倒しきる前にメイジを倒すことができたらユウもこっちに来てもいいぞ」

「ハルこそ。数に押し切られて負けるなよ」

「誰に言ってんだ」

「そっちこそ」


 笑い合う俺とハル。

 そしてその笑顔とは反対に高まっていく闘争心。


「行くぞッ!」


 ムラマサの一言を合図に俺たち対サハギンの集団の戦闘が始まった。




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