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町を作ろう ♯.6

 新しくギルドに加わった三人とアリアを引き連れて自分たちのギルドクエストの舞台へと戻ってきた俺たちは二回目となる草原の上に立っている。

 島に残っていたムラマサたちがこの島の探索を頑張ったのだろう。草原の広さ自体は変わっていないもののそこから見える景色には幾許かの変化が訪れていた。

 暗い影に覆われていたかのように見えていた山々に太陽の光が降り注ぎ、緑豊かな光景が広がっている。


「なあ、ユウ」

「何だ?」


 変化した景色に心奪われていた俺を戸惑うハルの声が現実へと引き戻す。


「お前、作ろうとしてるのは町だって言ってたよな」

「ああ。紛れもなく町を作るつもりだよ」

「でもなあ、ここのマップを見る限りここは町なんかじゃなくて島なんだが」


 手元のコンソールに出現させたマップを見ながらハルが聞いてきた。


「だから、俺たちは島の中に町を作るつもりなんだ」


 この一言に一番驚いていたのは何を隠そうアリア。

 町、それも俺たちプレイヤーが作る町と聞いて思い描いていたのは少人数が暮らす、それこそ村の規模を想像していたのだろう。

 それ故にこの広大な土地を目の当たりにして驚き、同時に戸惑いを覚えたらしい。


「とりあえずこの先でムラマサたちが待っているはずだからな。合流するぞ」


 その一言で俺たちは歩き出す。

 いつの間にか草原の上に運動会などで目にするテントが建てられ、その下に島の未踏区域を探索していたムラマサとボルテックとセッカが簡単なティーセット片手に談笑しているのが見えてきた。

 先にハルたちを連れて行くと連絡していたおかげで俺たちを待ってくれているらしい。

 俺は合流してしまう前にと立ち止まり、後ろをついて来ているヒカルに声を掛けた。


「悪いけどさ、先にアリアたちをムラマサのいる場所へ案内してくれるか」

「いいけど、ユウはどうするんですか?」

「ちょっとハルに話があるんだ」

「俺に?」

「付き合ってくれるよな?」

「別にいいけど」


 何の話があるのかと疑問符を浮かべるハルと呼び止めた俺を残し、ヒカルたち四人はムラマサたちのいるテントへと進む。

 四人が離れていくまでじっと待ち、自分たちが話す内容が解らないであろう距離まで離れた時に俺はハルに問いかけてみることにした。

 それは、今まで不思議に思いつつも敢えて訊ねなかったこと。

 そして俺のギルド『黒い梟』に入ったことできっかけを得たことだった。


「何でハルは俺のギルドに入ろうと思ったんだ?」

「いきなりどうしたんだ?」

「別にいきなりって訳じゃないだろ。防具を作るのだってリタに頼むまではNPCの鍛冶屋に頼んでいたほどのお前が、俺のギルドだからって他のプレイヤーと積極的に係ろうとするなんてと思ってな」

「あー、そうだなぁ」

「それにハルほどの腕前ならこれまでもギルドの誘いは何度もあったんじゃないのか?」

「確かにあったと言えばあったな」


 この時の出来事を思い出すように呟くハルはどことなく暗い雰囲気を醸し出している。


「何があったんだ?」

「ええ、聞きたいのか? 別に楽しい話じゃないぞ」

「だろうな。けど折角俺のギルドに入ったんだ。このギルドでハルに嫌な思いはして欲しくないと思っても普通のことだろ」


 当たり前だと告げる俺の言葉にハルは嬉しそうに綻ぶ顔を隠そうと下を向く。


「一から十まで話すと長いし、それこそさっきのライラたちの話が被るんだけどな。ライラたちの時と俺の時とで違うのは自然解体したわけじゃないってことだ」


 ギルドが解散するということはそう珍しい話ではない。

 ギルドの主要プレイヤーがゲームを離れたのをきっかけに活動がままならなくなり、それでギルドが解体されたというのはそれなりの頻度耳にすることがあるし、メンバー同士の口論が切っ掛けとなり喧嘩別れしたというギルドの話を聞いたこともある。

 はっきりとは言わないがハルの場合は後者のほうなのだろう。


「ん? ちょっと待て。ハルは製品版になった後にギルドに入ったのか?」

「まあな。ライラとフーカがギルドに入ったって話を聞いてさ。それなら俺もと思って入れそうなギルドを探したんだよ。ちょうどその頃は一人でのプレイにも限界を感じ始めてたしな」


 ソロの限界か、と俺はハルがギルドを求めた理由を声に出さずに納得していた。

 俺の場合は運が良く常に誰かとパーティを組んでいた。一人で行動することもあったけれど、それは一人でするしかないのではなく、一人でしたいと思ったから。

 このゲームを始めたばかりの頃はハルとライラやフーカと。その後の迷宮イベントの時はリタやマオたちと。そしてそれ以降はヒカルとセッカ、その後にはムラマサも合流して所謂固定されたパーティが完成した。

 後にオルクス大陸に向かった時だって、結局はアイリ、ボルテックの二人とパーティを組み、それにリントが加わったような形だ。

 自分では色々と面倒なこれまでだったと思っていたが仲間という一点において俺はかなり恵まれていたのだと、ハルの話を聞きながらそう気付かされた。


「俺だって最初の頃は楽しくやっていたんだ。パーティを組むことで効率が上がるのは解ってたしな。けど、俺が入ったギルドはその効率こそが問題だったんだ。暫くいたことで解ったんだけどな、あのギルドは効率を求めるあまり、個人の好きにプレイするってことが難しくなっていったんだ」


 黙って耳を傾ける俺を見て、ハルは言葉を続ける。


「例えばユウが価値の高いアイテムを手に入れられるクエストを見つけたとして。それを確実に攻略できるパーティの構成ってものがあったら、自分の戦い方を変えようと思うか?」

「生産と戦闘の両立なんてものをしている俺にそれを聞くか」

「ははっ、そうだったな」


 効率なんてものを求めていた場合、俺は最初から生産か戦闘のどちらかに集中しているはずだ。

 両方を選んだ場合、よくて器用貧乏と言われ、悪い場合中途半端だと後ろ指を指されるなんてことがあるのかもしれないと俺は思っていた。

 無論、面と向かってそう言われるならまだいい。しかしパーティを解散した後に陰口のように言われ、それが他のプレイヤーにも伝わり先入観を持たれでもしたら、それこそ他のプレイヤーと野良パーティを組むのは難しくなるはずだ。その時点で行動を共にできる仲間を見つけていればいいのだろうが、そうでない場合、パーティを組んで進めているプレイヤーに比べると多かれ少なかれ後れを取るということになりかねない。

 人の目など気にしない。などというのは個人の力が抜きん出ているか、自分のプレイが自分の思うように進められている時に限るだろう。

 どこかで躓きでもすれば、その時点でこのゲームを辞めるという選択肢が浮上するなんてのも無いとは言い切れないのだ。


「効率を求めるとどうしても無理が出てくる、と俺は思う」

「無理…ね」

「そもそもゲームをする時間を合わせるのだってなかなかできないことだろ。ましてギルドだけの繋がりの人にそれを強要するのはな」


 学生の身であれば夜に時間を合わせればそう難しいことではない。けれどそれが毎日。同じ時間となれば話は別だ。

 生活空間がこのゲーム内だけという人はいるはずもなく、その背景には必ず現実というものが付きまとう。それが理由に今日は無理だとその日になって解ることだってあるのだから。

 個人を尊重すれば、他人の状況を思いやれば、仕方ないと割り切り無理に付き合わすことはできないと思うはずだ。けれどそれが自分たちを優先した場合、どうしてと思ってしまう人がいるのもまた仕方のないことだとも思う。

 所詮その人がどの程度このゲームに生活の比重を傾けているかなど知る由もないのだから。


「一度や二度、それこそイベントの時なんかに無理を言うのはまだ解る。俺も同じようにしようとは全く思わないけどな。けど、あのギルドは個人の事情よりもギルドとしての活動の事情を優先させる、そんなギルドだったんだ」

「だからギルドを抜けたってわけか」

「まあな」

「それでハルのことだから、ギルドはもう懲りたとか思ってこれまで他のギルドに入ろうとは思わなかった、というよりはギルドというものから距離を置いていたってわけか」

「そういうことだ。でも、まあ、アリアのことは俺が発端だし、何よりユウの所のギルドはそんなキツイ感じじゃなかったからさ」

「まあ、ギルドマスターの俺が好き勝手行動しているわけだしな」

「だから良いかなって思ったんだよ。ユウの所なら楽しく冒険できるってさ」


 大袈裟な動きで両手を頭の後ろに持っていくハルは白い歯を見せて笑っていた。


「それにユウの始めてるっていうギルドクエストってのも面白そうだと思ったからな」

「だったらハルにも協力してもらうことになるぞ」

「いいとも。どんと来い!」


 笑い合うことで俺はようやくハルに感じていた疑問を解消出来た気がする。

 ハルがこのゲーム世界を好きなことは最早疑いようはない。けれど、ハルの対人運の悪さとでも言うべきものがこれまでのプレイで幾許かの嫌な思いをさせてきたことも同様だ。

 人と人がいる空間というものはその両方がその場の雰囲気を良くしようとすることで初めて潤滑な空間に成り得る。いつかどこかで聞いたような言葉が俺の脳裏を過った。


「行くぞ。そろそろ向こうの自己紹介が終わってるはずだろ」

「ああ」


 二人並んで草原に建てられたテントへと入っていく。

 するとそこではここに戻ってきて直ぐに目にした簡単なお茶会が人数を増やして開催されていた。


「話は終わったのかい?」

「ああ。ムラマサはアリアの話を聞いたのか?」

「うん。何でもここに居住したいと思っているみたいだね」


 ライラたちの元へと進むハルと離れ、俺は真っ先にムラマサに声を掛けていた。


「どう思う?」

「まだ詳しくは話してくれていないように思えるね。それに彼女の後ろにはもっと大勢のNPCがいる。それも間違いなさそうだ」


 ムラマサが感じた懸念は俺も同様。

 少し前にアリアの願いを聞いた時、そこには妾たちという言葉が含まれていた。それはそのままアリアが一人で行動している訳ではない、もしくは今一人で行動しているだけでどこかに仲間がいることを指しているのだ。


「ま、それもこの町が完成してから考えればいいことなのかもしれないね」

「そう、だな」


 今は町どころか何もないただの草原が広がっているだけだ。

 これではここに住むなど夢のまた夢。


「自己紹介は終わったみたいだね」

「あん?」


 いつの間にかハルもセッカたちと仲良く話している様子が目に入ってきた。


「さて、それじゃあこの島についての今後を相談しようじゃないか」


 ムラマサが声を大きくして注目を集める。


「ここを探索して得られたこと、それともう一つ。ユウたちが去った後に見つけたこれについて話そうと思う」


 そう言ったムラマサが自身のストレージから取り出したのは現実世界でもよく見るタブレット端末。

 未開の島というものには不釣り合いな現代機器が突然現れたことに俺は疑問を禁じ得なかった。



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