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町を作ろう ♯.2

 事の発端は俺も知っての通り、ギルドショップの開設に向けたあれこれ。

 なんでも当初はギルドショップを開くために必要な店舗をリタなどの先にギルドショップを運営している知り合いと一緒に探していたらしい。ギルドショップで売ろうとしているのは俺が作り余ったアイテムの他、メンバーの誰もが使わないアイテム等々ある程度の数は確保できた。問題として残っていたショップの運営のノウハウが無いことも後にボルテックのギルド加入が伝えられた時に、ボルテックに教えて貰えばいいということで意見は一致したらしい。

 そうして残ったのはどの程度の規模のギルドショップにするかということだけだった。

 しかしリタを含めた四人がギルドショップの店舗を探す最中、グラゴニス大陸の街で運営からのお知らせを耳にしたのが運の尽き。良くも悪くもそれに興味を引かれてギルド会館へと足を延ばしたのがこの状況を招いた直接的な原因だといっていた。


「それで、具体的にどうしたんだよ?」


 ギルドメンバー全員がソファに座り向かい合って話す様を見ると随分と自分のギルドも人の数が増えたと感じる。実際には四人が七人になっただけなのだが、それでも少数ギルドで活動していこうと思っている俺からすれば二つ分のパーティ人数を有するとなればそれなりのギルドになったと思っても仕方ないことだろう。


「具体的か。そうだね、それはセッカから聞いた方が速いかもしれないよ」

「セッカが? どうしてさ?」

「何てったって、引き当てたのは他ならぬセッカなのだからね」

「……引き強い、みたい」


 自分でも驚いているというように呟くセッカに俺はまた疑問符を浮かべた。


「えっと、ちょっといいッスか」

「何かな? 確かリント君だったね」

「あ、はい。リントって呼び捨てして貰ってもいいッスよ」

「ふむ。そうかい? ではそう呼ばせて貰うよ。それでリント。何か聞きたいことがあるのかな?」

「はいッス。セッカさんが引き当てたっていうのが、その…島なんッスよね?」

「……そう」

「それが解らないのよ! 何がどうなって島を引き当てることになるってのよ」

「うん。アイリさんの疑問は尤もだ。その説明の為にもこれを見てくれるかい?」


 そういってムラマサが俺たち全員に見えるように可視化したコンソールを拡大して見せてきた。


「ギルドクエストの一覧? 新しいのが追加されてたのか」


 個人ではなくギルドという単位で挑むクエスト。それがギルドクエスト。

 未踏ダンジョンの挑戦や、レイドボスクラスのモンスターの討伐など、パーティ単位ではクリアするのが困難とされている、もしくはより多い人数で挑むことを前提とされているクエストがギルドクエストとして名を連なっている。

 基本的にはプレイヤー個人で受けるものやパーティ単位で受けるクエストの大型版と思って問題はないのだが、中にはギルド単位のみで攻略することが出来るクエストもある。プレイヤーたちの中でギルドクエストと言えばだいたいがこのギルド単位のみで攻略することの出来るクエストをギルドクエストと呼ぶことが多かった。

 手元に出現させた自分のコンソールを確認しながらボルテックが口元を歪めた。これがボルテックが愉しいことを見つけた時にする表情なのだと俺は最近になって気が付いたものだ。


「どれどれ? ふむふむ。これはコミュニティ作りのクエストのようだね」

「コミュニティて何よ?」

「そうだね、このゲームの場合だと国とか町とか、小さなとこだと村がそれに当たるかな」

「まあ、オレたちの場合は島なのだけれどね」


 アイリの疑問に答えるボルテックを補足するようにムラマサが告げる。


「島ってのは新しく出来たエリアなんッスか?」

「うーん。オレはそう言い切れないと思うな。現実問題、一つの島だけを作るならともかく、多くのギルドに向けて数多くの島を作り上げるには、如何せんこの世界にはまだ未開の土地が多すぎる。その未開の地の何処かに島が出現したと仮定してそこで一つのギルドがコミュニティを作り上げることが出来ると思うかい?」

「それに他の町や村、国なんかも同じことが言えるんじゃないかい? 既存の町や村の立地から離れ過ぎる、同時に近過ぎない土地なんてものもそう易々と見つけられるとは思えないのだけどね」

「ボルテックの言う通りさ。今回のギルドクエストに置いて町や村や国というものは限りなく小規模でしかない。そもそもが基本的にギルドメンバー以外が使うことが決まっていない場所に新しく住もうとするプレイヤーがいるとは限らないからだね」


 ギルド『黒い梟』の年長組に当たる二人が訳知り顔で話し合っている。

 取り残されているのはヒカルとアイリで、セッカは我関せずというスタンスのまま、リントはどうにか二人の話について行こうとしているように見える。

 俺はというと、コンソールを操作してこの大陸の全体マップを表示させていた。


「そうは言ってもある程度の場所はこのギルドクエストで確保してあるはずだろ。それはどの辺になるんだ?」

「うん。ユウの言う通りだ。一応場所は確保してあるらしい。全ての大陸、全ての種族が同時に進められる場所としてこのグラゴニス大陸の外周。中でも比較的寒暖の差が少ない東側と西側が今回のギルドクエストの舞台となっているようだ。ユウが見ている地図で言うならこの辺だね」


 俺の隣まで近づいてきて手元のコンソール上の地図の該当する部分を丸で囲む動きをする。

 その動きをなぞるように俺も自分の地図に円で囲むとそこに赤い鉛筆で書かれたような線が書き込まれ、なぞった部分に丸が刻まれた。


「へえ、仕様が変わってたのか」


 いつアップデートされたのだろうと思い呟く。ミニマップでは自分の現在地の確認と周囲の大まかな地形の拡大と縮小が出来るだけということもあり地図に何かを書き込もうなどと考えることも、それを試すことをする機会も無く気が付かなかった。

 何となくミニマップに表示を変えてそれをなぞるように指を動かしても何も書き込まれることは無いのが確認できたことからもこれは大陸全部を映し出す全体マップだけで発揮される機能だということが判った。

 再び全体マップへと切り替えると書き込んでいた丸は消えることなく残っており、表示されている地図の右上部にある見慣れない消しゴムのような形をしたアイコンがこの書き込んだ情報のリセットボタンなのだと漠然と理解できた。


「いいかな?」


 突然ミニマップと全体マップを切り替えていた俺を待ち、ムラマサが声を掛けてくる。


「あ、ああ。悪い、続けてくれ」

「このマップ上ではそんなに広くないように感じるだろうけどさ、実際この大陸は広大だ。今回のギルドクエストに割り振られた土地もまた広大だ。片側だけでも国の一つや二つ、それこそ町や村ならばそれなりの数が成立させられるくらいには」

「まあ、大陸が広いってのは理解できるよ。伊達に俺だって三つの大陸を行き来してはいないからな。けど、解らないのはどうしてセッカが引き当てたのが島なのかってことなんだ。そもそも引き当てたって何なんだ? くじ引きでもしたっていうのか?」


 自分でも何を言っているんだと思うが、引き当てたという言葉を聞いて真っ先に思い当たったのがそれなのだ。


「……ん、そう、だよ」

「そうって…本当にくじ引きしたのかよ」


 呆れたように聞き返す俺にセッカは頷く。元からセッカが嘘を吐くような性格じゃないのことを知っているからこそ、この肯定は紛れもない事実であることを物語っていた。

 戸惑う俺を気遣うようにムラマサが告げた。


「ギルドクエストの参加を決めたのはオレとヒカルとセッカの三人だ。ギルドマスターであるユウに無断で済まないと思っているのだけど」

「いや、ギルドショップのことは元々三人に全面的に任せていたし、ムラマサだってサブマスなんだ。そもそもギルドクエストの受注はギルドメンバーの誰にも可能なようになっているはずだ」

「それでも、さ。今回のコミュニティ作りという内容のギルドクエストは確実に個人の手に余る。それはそのままギルドで取り組まなければならないクエストだということになるのさ」

「解ってる。それでもムラマサが謝る必要は無いって言っているんだ」


 交じり合うことの無い平行線のような感情が俺とムラマサの間に生じた。

 それは一歩間違えれば余計な軋轢をも生じさせるもの。しかし、この場に居るのは俺とムラマサの二人だけではない。俺とムラマサ、二人だけの間に生じた微妙な空気は別の人物の言葉によっていとも容易く掻き消されてしまう。


「どっちにしても私たちはそのギルドクエストを進めることになったってことでいいのよね?」


 一瞬張り詰めたかに思えた空気を変えたのはそれまで何かを考え込むような素振りを見せていたアイリだった。


「違うの?」

「いや。出来ればアイリたちにも協力して貰いたいと思っているよ」

「勿論いいッスよ」

「何といっても同じギルドの仲間だからね」


 リントとボルテックもギルドクエストに反対ではないらしい。


「……ユウ、は?」

「色々と説明が足りていない気もするけど、分かったよ」

「……よかった」

「では、ギルドマスターのご要望だ。説明に戻ろうか」


 ムラマサがまた別の画面をコンソールに表示させた。


「先程から当てた、と言っているのは正にくじ引きなのさ」

「それがそもそも解らないんだって。何でギルドクエストの受注にくじ引きが関係しているんだよ?」

「簡単なことだよ。このギルドクエストの舞台となるコミュニティの規模はくじ引きによる抽選で決まるからさ」

「は?」

「私が説明しますね」

「ああ。ヒカル頼む」

「はい」


 ムラマサは説明下手では無かったはずだが、どうも今のムラマサは要領を得ない。何に対して興奮しているのかはわからないが、変にいつもよりテンションが高い気がする。


「今回のギルドクエストの受注条件は三つありました。一つはギルドホームを所有していること。二つ目がギルド用の転送ポータルを所有していること。そして最後の一つがギルドに所属しているプレイヤーの平均レベルが一定以上であること、です」

「ギルドの人数とかは条件に入ってなかったのか」

「でなければ私たちのギルドじゃ条件をクリアできませんよ」

「そう…だな」


 コミュニティというものを作る以上ある程度の人の手は必要となるはず。それが条件に含まれないのだとすれば、


「NPCを雇えばどうにかできるってことなのか?」

「……多分、そう」

「私たちのギルドでもベリーさんやキウイさん、それにラクゥさんとシャーリさんが働いてくれてますから。町や村なんかでも同じように出来るはずです」

「ええっ!? ここってNPCが働いてくれてるの?」

「さっきこの部屋にもいただろう。それにプレイヤーショップを開いたことのあるボルテックなら珍しい話じゃないだろ?」

「そうだね。僕は雇ったりしなかったけど、それほど珍しいことじゃないね」


 既に部屋から出て行ったベリーを探すように窓の外へと視線を向けるアイリを余所にボルテックは自身の経験を含めて頷いていた。


「でも、店一軒と町や村の運営とは全くの別ものだと思うッス。それに僕たちは島なんッスよね」

「ああ。その通りさ。それと先程ユウはくじ引きと言ったが実際は福引そのものだったよ」

「その二つに違いあるんッスか?」

「オレのイメージだと箱から何かを引くのがくじ引き。福引はよく商店街でやっているアレさ」


 ムラマサの言葉を補足するようにセッカが手を回す仕草を見せた。セッカの前にガラガラと音を立てながら回して小さな球を出してその色で等賞が決まるあの福引の機械があるかのようだ。


「ギルドの規模に構わず、このギルドクエストで作るコミュニティが決まるってことか」


 与えられる機会が公平であることに納得したように呟く。

 くじ引きという運に左右されるものがそれぞれの作るものを決めるということは、弱小ギルドが巨大な国を、反対に巨大ギルドが小さな村を作るようになってしまうことがままあるということのようだ。

 しかし、公平であるが故に成立しない場合もあるのではないかとも思う。それに対しては自分たちで作るコミュニティの規模を決められればそれに越したことが無いように思えるが、それでは巨大ギルドと弱小ギルドとの差が埋まらないのだろう。


「でもなぁ」


 自分の中で出た疑問に対する回答も微妙に腑に落ちない所がある。


「どうしたんッスか?」

「あ、いや。小さなギルドが国を作るように宛がわれたとしても、途中で頓挫する可能性の方が高くないかと思ってさ」

「ふむ。可能性の問題だね」


 俺の呟きに反応したのはリント。呟きとして出た疑問に答えたのはボルテックだった。


「どんなに大きなギルドだとしても小さな村の運営に失敗することが無いとは限らない。反対に小さなギルドが国の運営に成功する場合もあるはずだ。つまりどちらの場合でもどちらにでも転ぶ可能性があるということだね」

「それは解っているさ。けどな運営するギルドのメンバー数が足りないなんてことになるのは実際問題、結構な確率であり得るんじゃないのか?」

「それをカバーするためにNPCたちがいるみたいだよ」


 ムラマサがコンソールの画面を切り替えて見せてくる。


「見ての通り、コミュニティの運営に適した能力を持つNPCがいるらしいよ」


 イベントの説明が載っているそこにはNPCが持つ適性を簡単に記されているページがあった。そこには現実の市役所に務める人のように事務作業に長けたNPCや町や村の建物を建てる能力に長けた大工のようなNPCもいた。中でも変わっているのは城を築く際に雇われる城大工というNPCも存在していた。


「あー、何となく理解した。NPCを使っても失敗するならこっちに問題があったってわけなんだな」

「厳しいようだけどね」


 元々プレイヤーの中にコミュニティの運営に慣れた人などいるかどうかも解らないイベントなのだ。現実のようにシビアな設定にはなっていないのだろう。

 どちらにしてもギルドクエストを始めなければどうなるかは解らない。

 今決まっているのは俺たち全員でこのクエストに挑むことと俺たちに宛がわれているのが町や村でも国でもなく島だということだけ。

 自分の中で整理を付けた俺の見たヒカルが明るく問いかけてくる。


「何がともあれ、一度行ってみませんか?」

「どこに?」

「セッカちゃんが引き当ててくれた島にです!」


 意気揚々ヒカルが告げる。

 そうして俺は件の島に足を踏み入れることになった。



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