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町を作ろう ♯.1

 オルクス大陸に建てた拠点で新たにギルドに加わったアイリ、リント、ボルテックの三人とのんびりしていたある日の夕方。

 突然ムラマサからメッセージが届けられた。

 それはギルドメンバー全員に向けられたもので、誰か個人に向けられたものでは無かったために別の大陸にいる俺たちも知ることが出来たのだが、それが届いた理由が解らないのだ。


「それでどうするんッスか?」


 拠点として建てたのはグラゴニス大陸にあるギルドホームより一回り小さな屋敷。

 その屋敷の中心部にあるリビングで俺たちは雁首合わせてメッセージの内容について相談をしていた。


「どうするもなにも、俺は一度戻るしかないだろ」

「そうよねえ。なんたってギルマスだものね」

「まあな」


 せめてもう少し内容が書かれていればこの協議もすんなりと進みそうなものなのにと思ってしまう。

 実際、送られてきたメッセージには短く『問題発生。至急全員ギルドホームに来られたし』としか書かれていなかったのだから。


「問題は三人だけどさ。どうする?」

「どうするって、私たちも一緒に行けばいいんじゃないの?」

「いいのか? リントもボルテックもここでやりたいこととかがあったりするんじゃないのか」

「別に俺は大丈夫ッスよ」

「僕も問題は無いね。何より一度他のギルドメンバーと顔合わせはするべきだと思っていたからね」


 顔合わせ。そのボルテックの一言に俺は思わずに考え込んでしまう。

 ギルドに入りたい人がいると報告したとき、三人のギルドメンバーから返って来たのは了承の二つ返事だった。それ故に三人に細かくアイリたちのことを話すことは出来ていないままなのだ。


「そうだな。これもいい機会かもしれないな」


 自分を納得させるかのように呟き、俺は屋敷のリビングのソファから立ち上がった。


「至急と書いてあるんだ。これから行こうと思うんだけど、いいか?」

「もちろんッス」

「いいわよ」

「あ、ちょっと待ってくれるかい? 店に【closed】の看板を掛けてくるよ」

「なら、俺たちは先にポータルのある部屋で待ってるッス」


 一人別れ屋敷の近くに新設されたボルテックの個人店舗へと歩いていくボルテックを見送り、俺たちは転送ポータルの設置されている屋敷の一室に向かう。

 この屋敷はギルドホームに比べて小さいといってもここを拠点に活動している三人分の個人部屋と俺の部屋、それと全員が同時に集まれるリビングルームに転送ポータルの置かれてる部屋と簡単な調理が出来る小型のキッチンルームを含めて7つもの部屋がある。一般的な個人所有の拠点に比べるとどうしても大掛かりなものになってしまっていた。

 俺たちが比較的安価でこの屋敷を手に入れることが出来たのは純粋にその立地と、ここが自分たちでオーダーメイドして建てた訳ではなく元から建てられていた建物であるということが関係していた。

 何でも元はどこかのお金持ちという設定のNPCが持っていた建物らしい。

 理由は聞いてはいないが手放すことになったところに俺たちが現れたというのがここを購入することになった経緯という感じだ。

 微妙に現実でもありそうな設定なのがこれまた微妙な気分にもなったりしたものだが、住めば都とはよく言ったもので今では他の二つの拠点にも引けを取らないくらい寛ぐことが出来るようになっていた。

 唯一の不満点というか問題点。これは俺のテントがあるからと敢えて屋敷の中に入れなかったことでもあるのだが、俺の生産のための施設を設置するためにそれなりの広さの庭のような場所が必要となったことだ。しかしそれもこの屋敷が街の郊外にあり、近くでボルテックが個人の店を開きたいと申し出てきたことからもある程度の敷地を確保していたこともあり解決済みだ。


「待たせちゃったかな」

「いや、そうでもないッスよ」


 転送ポータルの前で呆然と立ち尽くし考え込んでいた俺を現実へと引き戻すボルテックの声とそれに答えるリントの声が聞こえてきた。

 手に持つひとつ持たず、いつもと同じ格好をしている俺たちを見てボルテックが言葉を続ける。


「では行くとするかい?」

「いつもでいいわよ」


 腰に手を当て胸を張るアイリに続いて俺とリントが頷いた。

 そうして四人は仄かな光に包まれ、オルクス大陸の拠点である屋敷から姿を消した。


「これがギルドホーム……」


 転送は一瞬で終わり、次に目に入ったのは俺からすれば見慣れた天井と壁。しかし、リントたち新規のギルドメンバーにとっては見慣れない部屋だった。


「何となく雰囲気は一緒なんッスね」

「意外か?」

「正直に言えばそうッスね。屋敷よりも大きな建物って聞いていたッスから」

「ポータルを置くだけの部屋の大きさなんてそう大差ないよ。まあ、部屋数とかで言えばこっちの方が大きいのは確かだけどさ」

「ふむ。それで他の人たちはここに集まっているのかな?」

「さっきのメッセージ通りならそのハズだけど」


 俺は自信なさげに答えた。

 正直に言えばここが最初に作り、且つ最も大きな拠点であるのは事実なのだが、かなり小規模のギルドとして活動している俺たちはそれぞれの活動に制限も制約も設けていない。例えばムラマサはもう一つの拠点のヴォルフ大陸にあるログハウスをメインに使っていて、ここをメインに使っているのはヒカルとセッカの二人だけ。俺はというと現時点ではオルクス大陸に身を寄せ、その前は両方の拠点を行き来するというようにして活動していた。

 二つの拠点にそれぞれ畑があり、それぞれに別種の植物を栽培しているが為にどちらか片方のみを集中して活動の拠点にするということは出来ないのだ。


「こっちにいるなら一階のリビングルームにいるはずだけど」


 ポータルの設置された部屋のドアノブを回し扉を開く。

 使い慣れたギルドホームの廊下を進む俺を追って三人も歩き出した。

 暫く歩いた後、俺はリビングルームの扉を開ける。

 するとそこにいたのは見慣れた顔のプレイヤーが三人と、給仕しているNPCが二人困った顔をして重い空気の中に居た。


「一体どうしたんだ?」


 思わず呟いた俺の顔を三人のプレイヤーが一斉に見た。


「ユウ!? 来てくれたのか」

「遅いっ!」

「……そんなことない。連絡したの今朝だから、これくらい、普通」


 驚くムラマサと不満を隠そうともしないヒカル、そしてヒカルを宥めようとしているセッカ。

 たった数日共に行動していなかっただけだというのにどこか懐かしい思いが込み上げてくる。


「ユウ君、僕たちを紹介してくれるかな?」

「あ、ああ。そうだな」


 俺の後にリビングルームに入ってきたボルテックたちが顔を覗かせる。


「とりあえず。俺がこっちに来た目的の一つを果たさせてくれるか?」

「……目的?」

「ああ。前に連絡しただろ。新しく俺たちのギルドに入りたいって言ってる人が居るって。この三人がそうなんだ。えっと、先ずはどことなく胡散臭いのがボルテック。その隣にいるのがアイリ。で、あっちのリザードマンがリントだ」


 一人一人を指差し、ムラマサたちに紹介する。


「それでこっちの三人が元からいるギルドメンバーだ。着物風の防具を着ているのがムラマサ。そっちの小さいのがヒカル。今は鎧は着てないけど基本的にはフルプレートメイルを使っているのがセッカだ」


 何となく雑な紹介を終える。


「小さいってなんなんですか!」

「いや、見たまんまだろ」

「もっとまともな紹介をしてくださいよ」

「まともって言われてもな。俺が出来るヒカルの紹介と言えばそうだな……例えば、短剣を使うとか、状態異常攻撃がメインだとか、後は……」

「あーもういいです。自分で自己紹介しますから」


 どういう訳かヒカルに呆れられてしまった。


「では改めて。皆さん初めまして。私はヒカル。ユウと同じギルドで活動しています。そこのセッカちゃんとはリアルの友達で、ムラマサさんにはいつもお世話になってます」

「なあ、俺と大差なくないか?」

「そんなことないですよ。その証拠にほら、見てくださいよって…あれ…?」


 キョトンとした顔のボルテックたち三人の顔を見回すヒカルはぎこちない動きで振り返るとそこには苦笑を浮かべているムラマサと敢えて無表情を貫いているセッカがいた。


「セッカちゃん、どうしたの?」

「……ユウと同レベル、だと思う」

「うそ――」

「……ほんと」


 小さなセッカの呟きに他の四人の首肯が揃う。


「そ、そんな。まさかユウと同レベルだなんて」

「おい、何か随分と失礼な言い方をされてる気がするんだけど」

「……気のせい」

「――じゃないだろ。明らかに」


 残る人たちの自己紹介はそれぞれ自分ですればいいと呆れ混じりに嘆息し、俺は三人と三人の狭間から抜け出し、空いているソファに腰かけた。

 するとベリーがいつものように声を掛けてくる。


「何か飲みますか?」

「そうだな。適当にお茶請けも頼むよ。ああ、それと、あっちの三人の分も一緒に持ってきてくれるか?」

「解りました」


 いそいそと部屋から出て行くベリーを見送り、俺は徐々に打ち解け始めていくギルドメンバーたちを見守ることにした。

 どうしても反りが合わないのならばどうしようかと考えたこともあったが、どうやらその心配は杞憂に終わったらしい。

 それからベリーがお茶とケーキを持って戻ってくるまでの間、俺はじっと六人の会話を聞きながら待ち続けた。


「お待たせしました」

「ありがとう。ここに置いておいてくれれば後は自分でするから。ベリーは好きにしててくれればいいよ」

「そうですか? ではわたしはこれで」


 リビングルームから去っていくベリーを見送り俺は和やかに談笑しているムラマサに声を掛けた。


「で、俺たちを呼んだ理由ってのは何なんだ? まあ、緊急事態だっていってだいたい俺が呼び出される時は似たような時ばかりのような気がするけどな」


 これまでのことを思い出すたびに送られてくる仲間からのメッセージが何かの発端になっている気がする。だから今回もそうなのだろうと、ここに来る前に半ば諦めもした。こうなれば多少面倒な事態になったって受けて立つ、そう思えるくらいには覚悟が出来ていたはずだった。

 しかしこの次にムラマサが告げたのは俺の想像を上回る一言。


「島が当たったんだけど、どうするべきだと思う?」


 意味が解らず固まる俺とボルテックとリント、アイリのオルクス大陸組を前に、グラゴニス大陸のギルドホームで活動している三人の苦笑が重なった。


「ちょっと待て。意味が解らない」


 自分を落ち着かせるようにそう言うと、俺はムラマサたちにどういう事情からこうなってしまったのかという説明を要求するのだった。



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