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輝きを求めて ♯.7

「『モンスターハーフ』ねぇ」

「春樹でも聞いたことないのか?」

「んなことはないぞ。ただなあ、初耳って訳じゃないんだけどさ、実際に見たことは無いな」


 昨夜アイリと別れ眠りにつくまでの時間、俺は1人『モンスターハーフ』という単語を調べていた。

 元々前情報を調べすぎるのはネタバレ感が強く好きではないのだが、1度目にしたものを調べるのは好奇心に負けたということにしておこう。

 なによりも、有力な情報が手に入らなかったのが自分に対する意味も無い言い訳になっていた気がする。

 そういう訳で今日、登校してきた俺は昼休憩の時間を使い春樹を訪ねてみることにしたという次第だ。


「悠斗こそ知らないのか? 最近はモンスターハーフに限らず魔人族と獣人族に追加された細かなバリエーションが色々と確認されだしたって掲示板で話題なんだけど…」

「悪い。知らない」

「はぁ…まあお前はそういう奴だよ」


 自分の無知を恥じる事もなく平然と言う俺に春樹はがっくりと肩を落としていた。


「つか最近お前見ないけど何してるんだよ」

「あー、前まではヴォルフ大陸に居たんだけど、今はオルクス大陸に居る」


 なんとなく申し訳なさそうに呟く。


「何でって……ああ、聞くの辞めておくわ」


 机に肘をつきながら呆れたような顔をして溜め息をつき春樹がお茶のペットボトルを飲んだ。


「ま、まぁ色々やってるからなぁ」


 その色々は春樹と別れてから、特にヴォルフ大陸でのことを指していた。

 最近ではゲームの中で会うことは無くなったものの、現実でば同じ高校のクラスメイトであり、親友なのだ。実際に顔を付き合わせて近況を話すというのが昼休憩の風物詩となっているのだった。


「それで、何で春樹はモンスターハーフを知ってたんだ?」

「あん? 何でって単純に調べただけだぞ」

「俺だって調べたけどさ、ざっくりモンスターの特徴がある種族ってくらいしか書いてなかったんだよ」

「悠斗が知りたいのはもっと詳しくってことだな」

「まあな。例えばモンスターハーフになる方法とか、モンスターハーフだけが憶えられるスキルや使えるアイテムがあるのかとか」


 アイリを見た感じ特別な装備を身に付けていなかった気がするのだが、スキルなど外から見受けられないことに関しては本人に聞く以外知る手段はない。やはりアイリに話を聞いて見た方が早いかと考えている俺の前で春樹は行儀悪くも弁当の箸を咥えたままスマホで何かを検索している。


「こんなもんか」

「何か見つけたのか?」

「そういう訳じゃないけどな、まずはこれを見てくれよ」


 机の上にスマホを置きその画面が俺によく見えるように差し出してきた。


「まとめサイトからの引用だけど、今判明してるのは大体こんなもんだろ」


 それは春樹が自分で信憑性が高いと判断した情報がスクショに撮られ専用のファイルの中にまとめられているものだった。

 その中の1つにモンスターハーフに関することが載っている。

 まず、モンスターハーフという種族になる条件として魔人族であるということ、そしてキャラクターのレベルが60以上であるということとあった。

 これだけでは該当するプレイヤーは相当数いるはずだが、それにしては確認されている数が少な過ぎるように感じる。それ故にモンスターハーフになるには先の2つの条件以外にもなにかしらの条件があると推測されるのだ。


「モンスターハーフの特徴はこっちだな」


 春樹がスマホの画面をスワイプさせて次の画像を出してきた。

 モンスターハーフという言葉の通り、魔人族のキャラクターに特定のモンスターの特徴を追加するというらしい。それはこの一文から始まっていた。

 確認されているのは比較的人の姿に近しいモンスターの特徴を併せ持ったキャラクターばかりなのだという。

 人型のモンスターということですぐに思い至ったのはこれまでにも戦ったことのあるアンデッド。いわるゆゾンビだ。アイリの腕が骨になっていたことからもスケルトンという可能性もある。しかし、アイリの例を除いて体が半分腐敗しているようなキャラクターは見たことが無いし、そもそも自分から好き好んでゾンビの特徴を得ようとする人は他のモンスターの特徴を得ようとする人に比べて稀なのだろう。

 それもそのはず。アンデッド系の特徴を得たとしても不死性を得られるわけでもなく、単純に腐敗や腐食に強くなるくらいのはずだ。でなければ他の種族とのバランスがとることは叶わず、魔人族でモンスターハーフに成れるプレイヤーは皆アンデッド系を選択してしまい街はゾンビとスケルトンで溢れるなんてことになりかねない。それではこのゲームはファンタジー系のVRMMOではなくホラーゲームになってしまう。

 実際俺がそれに成れるとして選ぶのはやはりアンデッド系ではない、そう思えるのだ。


「モンスターの特徴の追加ねえ」


 いまいちその仕組みを理解できずに呟いていた。

 こう言ってはなんだが、元々魔人族という種族はモンスターの特徴のようなものがある気がするのだ。それは俺が幻視薬によって赤銅色の鬼の姿になった時にも感じたこと。勿論その際に本当に魔人族になったということではないので実際にそれが正しい感覚かどうかという点は疑問が残るが、同じギルドメンバーであるヒカルがリリィのような妖精――実際にはエルフに近いが――の姿になった時も特別何かがあったという話は聞いていない。

 詰まる所種族的な特徴を差し引いた場合、魔人族はその外見のみに人外の特徴があるということであり、それは獣人族も同様だ。

 今回のモンスターハーフというものはその特徴に実質的な性能を持たせると考えていいのだろうか。それならば、


「獣人族にも同じような変化をしたプレイヤーがいる?」


 ぼそっと呟いた俺の言葉に春樹はおもむろに頷いて見せる。そしてスマホの画面に触れ表示されている画像を次に送った。


「ああこれのことだな」


 そこには『モンスターハーフ』ならぬ『幻獣化』という言葉とそれを行っているであろうプレイヤーの姿が同じ画面の中に収められていた。


「幻獣化はモンスターハーフとは違い一時的に獣人族の獣の部分を増大させることだな。その範囲はプレイヤーのレベルにもよるが究極的にはキャラクターの大きさと寸分変わらぬ巨大な動物になるはずだ」

「それも、プレイヤーの持つスキルを扱う動物がってわけか」


 それこそモンスターのようではないかと思いながらも俺はふとあることが気になった。


「だったらその時に装備していた武器や防具はどうなるんだ?」

「例えばそれが犬の特徴を持っている獣人族だったとする。その場合武器、特に剣や槍なんかは爪や牙にそのまま転化されるらしいな。防具は毛皮、付けているアクセサリなんかは該当する動物の体の部位にそのまま埋め込まれているような風になるらしい」


 画像を拡大させるとスマホの中の幻獣化したプレイヤーの腕や首には金属製の何かが埋め込まれているのが確認できた。これがこのプレイヤーが元々装備していたアクセサリなのだろう。

 春樹の言う通りなのだとすると幻獣化はモンスターハーフとは違い一時的な変化だということになる。それはそのまま戦術の幅を広げること以外に役に立ちそうなことと言えば、なんだろう?


「幻獣化の特徴は基礎能力の圧倒的な向上だな。なんでも幻獣化が解けた時にはMPはゼロになってしまっているらしいし、一定時間はアイテムでも回復不能ときた」

「ということはそれで勝ちきれないとキツイってわけか」

「だな」


 MPを回復させられなければアーツを発動させること自体が出来ないということになってしまう。仮に戦闘が続いているならばそれは致命的なマイナスになってしまうことは否めない。


「モンスターハーフの場合もそのモンスターの弱点なんかが自身にも適応されるらしい。悠斗も考えたかもしれないけどアンデッド系、特にゾンビのモンスターハーフが増えないのはこれが原因だな」

「なるほど。確かゾンビ系はポーションでダメージを受けるんだっけか」

「その通り。スケルトンやデュラハンなんかはその中には含まれないが、光系統の魔法やアーツに弱くなるのは一緒だな」


 つまり回復魔法の効果が薄くなるということか。

 確かにそれではわざわざ選択するプレイヤーが少ないのも納得できる。


「幻獣化も既に自分のキャラクターがもつ動物の特徴が影響するらしいからな。見た目重視で選んだプレイヤーが使いたがらないのも解らなくはない」


 犬や猫、熊や猪、パッと思いつく戦闘に活かせそうな種族ならまだいい。しかしウサギやネズミなどいわゆる小動物系はあまり戦闘に活かせない気がする。

 巨大なウサギやネズミなど…まあ、可愛いかもしれないが強いかどうかと問われれば首を傾げてしまいそうになる。


「ん? でも、たしか鳥の特徴を持つ獣人族もいたよな? そのプレイヤーが幻獣化したら飛べるのか?」

「無理だな」

「そうか」

「良く考えてもみろよ。いくらゲームだからと言ってそのキャラクターを動かすのは俺たち自身だぞ。それもコントローラを使って動かすんじゃなくて現実のように自分の脳で動かすんだ。自力で飛んだことのない俺たちが空を自由に飛んで回れるとは到底思えない。だから鳥の特徴を持つ獣人族が成れるのはせいぜいダチョウやペンギンのように走るか泳ぐことが得意な鳥くらいだろ」


 キャラクターサイズの巨大な鳥、それも普通に空を飛んでいるような姿をした鳥が水のなかを泳ぎ回るのはまだカッコいいと思える気も知れないが、それが地上を猛スピードで走っているかと思うと間抜け感が出て来てしまう。


「ちなみにモンスターハーフも一緒のようだぞ」


 机の上からスマホを取り、画像をいくつか捲っていた春樹が告げた。


「悠斗が戦ったことのある解りやすい飛行型のモンスターって言えばコカトリスとかか。魔人族の時にその特徴を持っていたとして、モンスターハーフになってモンスターの特徴を発揮できるようになっても空は飛べないらしい。だからコカトリスの場合は石化のアーツの追加とかになるんだろうな」

「ふーん」


 ならば妖精を目指してそれを選んだプレイヤーも同じか。

 心の中でヒカルに残念と告げ俺は最後に自分が選択している種族、人族には何か追加が見られたのかと春樹に問いかけてみた。

 魔人族がその特徴を発揮させられるモンスターハーフに。獣人族がその特徴を増大させた幻獣化というものを習得したように人族にも何かあるのではないかと。

 しかし返って来たのは俺の期待を大きく裏切る、


「何も無いな」


 この一言だった。


「いくら魔法を使えるからと言って人族はただの人間だからな。人が人の身で出来ることを増やそうとするなら人族という枠組みから逸脱しなければならない。それが公式の意見だ」

「逸脱…ねえ」


 それがどういう程度の物なのか。

 人としての姿を棄てると考えるべきなのか、それとも人族としてできることを放棄すると考えるべきなのか。

 前者ならばそれは単純に獣人族や魔人族になるということに外ならず、後者ならばこれまでのプレイを全て棄て去る覚悟を要するということになる。

 どちらにしても人族という種族で遊んでいこうとしている人からすれば容認できることではなく、そのまま選ばない選択肢となっていた。


「おっと、そろそろ時間だ」


 少しばかり残念な思いに駆られる俺の耳に昼休憩の終わりを告げる音楽が聞こえてきた。

 春樹の近況を聞くことは出来なかったがそれはまた明日でもいいかと思いながら空になった弁当箱を片付けつつ午後からの授業に備えることにした。




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