表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
191/671

輝きを求めて ♯.3

 雷鳴の如く飛来したリリィの蹴りが俺の頭を直撃した。

 とはいえ、攻撃力が設定されてすらいない妖精だ。俺のHPにダメージは無く、ただただ衝撃が訪れただけだった。


「あの…」


 テーブルに突っ伏す俺を気遣う声がする。

 顔を前に向けるとシスター服のプレイヤーが注文したお茶の入ったカップを持ったまま固まり、目を白黒させていた。


「あー、ダメージは無いから気にするな」


 突然目の前で起こった出来事を飲み込めていないのだろう。俺が平気だと言ったところで戸惑いの表情が変わることは無かった。


「っていうか、おい、リリィ。何故蹴った?」

「だってだって、見てきてって言われて行ってさ、さっき元の所に戻ったのに誰も居ないんだもん! どうして私とクロスケに黙って移動したりしたのさ!」


 体を起こした俺の頭を掴んだままにまくし立てるリリィの隣に同じように見てきてと頼んでいたクロスケがゆっくりとテーブルに降りてきた。

 クロスケはリリィの怒りようなど気にしないと言わんばかりに目を細めテーブルの上で羽を休めている。


「待って、移動したのはわたしが話しかけたのが原因なんだ。その人に非はないんだよ」

「でも、付いて行ったのはユウの判断でしょ。だったらユウにも責任があるんじゃないの?」

「まぁ、それはそうかもな」

「ほら!」

「だからリリィとクロスケには何かお詫びにここで奢ることにする。それでどうだ?」

「ん? んんー、見に行ってって頼んだ時にも同じ事言われた気がするんだけど」

「気にするな。リリィの気のせいだ。それとも何もいらないのか?」

「いらないなんて言ってない! 早くメニュー見せて!」

「ほら」


 テーブルに置かれたままのメニューをリリィに渡すとリリィの思考は俺を怒るということから自分が何を注文するかに移行したようだ。

 なんとか誤魔化すことが出来たとほっと肩を撫で下ろす俺を困惑した表情のシスター服のプレイヤーが見つめてきた。


「悪いな、いつもこんな調子なんだ。そうだ、リリィも何か頼むつもりみたいなんだ。アンタも何か注文したらどうだ。騒がせた詫びに奢ってもいいぞ」


 どうせリリィとクロスケが頼んだ分は俺が支払うのだ。今更一人分増えた所でたいした痛手でもない。


「ユウは何も頼まないの?」

「俺はいいよ」


 先に頼んだお茶の味に満足できなかった時点でここで何かを食べようとは思えなくなっていた。仮に何かを頼むとしたらリリィが何かを頼み、それを食べてどのような反応をするか見てからにしようと思っていたのだ。


「決まったよー」


 真剣な眼差しでメニューと睨み合いをしていたリリィが勢いよく叫ぶ。その隣にいるクロスケもいつもの調子で一鳴きして自分もどれにするか決まったと伝えてきたのだった。


「アンタはどうするんだ?」

「わたしは別に…」

「そうか」


 遠慮を見せるシスター服のプレイヤーに無理矢理注文しろというわけにもいかず、俺は小さく頷いた後、片手を上げて店員を呼んだ。

 素早くやってきた店員にリリィとクロスケが選んだ品をメニューから読み上げて伝える。

 簡単なメモを取った店員が去ったことでようやくリリィが落ち着いたらしくテーブルの上にペタンと座り込んだ。


「で、この人は誰?」

「何でも俺に人探しを頼みたいらしい」

「ユウに? どうして?」

「リリィとクロスケがいるからだ」

「私たち? どういう意味?」


 余程興味が出たのかシスター服のプレイヤーの顔の前まで飛んで行く。

 小首を傾げて訊ねるその姿からは可愛らしい印象を受けるが、普段のリリィの物言いを知っている俺からすれば少しばかりイラっとしてしまうものがある。


「あなた達は飛べるから。だから…」

「んー、いくら私が飛べても知らない人は探せないよ?」

「わかってるわよ」


 先に俺にやんわりと出来ないと言われたのが影響しているようで、シスター服のプレイヤーは意気消沈しているようだった。


「それなんだけどな。俺はこの人の人探しを手伝うことにしたぞ」

「そうなの?」

「まあ、俺の目的も忘れるつもりはないけどな」

「目的? そういえばあなたは何でこの大陸に来たの?」

「俺の目的はこれだ」


 椅子に座ったまま器用に腰のホルダーから剣銃を取り出しそれをテーブルに置いた。


「自分の武器の耐久度の回復に使う鉱石を探しているんだ」

「あなた、まさか生産職なの?」

「正確にはそれも出来るって感じだな」

「それ、も?」

「基本的には戦闘職だと思ってくれて構わない。俺もそのつもりだからな」


 俺がきっぱりと言い切っている傍ら店員NPCが注文していた品を持ってきた。

 リリィとクロスケが注文したのは同じ幾重にも生地とチョコクリームが重ねられたミルフィーユケーキ。外見はすごく美味しそうに見えるがどうだ、と俺は会話を中断し持ってきたケーキに飛びつくリリィをじっと見つめていた。


「何よ? あげないよ」

「あ、いや、別にそれはいいんだけどさ。どうだ? 美味いか?」

「うん。甘くて美味しいよ」


 両手でフォークを持って止まることなくケーキを食べていくリリィの様子を見ながら俺も頼もうかと考え始めた頃、シスター服のプレイヤーがいきなり立ち上がった。


「どうしたのっ!?」

「リントが、リントがログインしてきてる!」

「リント? それがアンタが探してるっていうプレイヤーか?」

「そう!」


 居ても立っても居られないというように走り出そうとするシスター服のプレイヤーを止めたのは、驚いたことにクロスケだった。

 小さなくちばしがシスター服の裾を加えている。

 その小さな体に反して強い力を持つクロスケによってシスター服のプレイヤーはここから動くことが出来ずにいる。


「離してっ!」


 服の裾を加えているクロスケを乱暴に引き離そうと腕を振ろうとするがビクともしない。徐々に苛立ちを露わにしていくシスター服のプレイヤーに声を掛けたのはケーキを食べ終えたリリィ。


「ちょっと待って。そのリントって人がどこにいるのか解っているの?」


 いつもの人をおちょくる雰囲気を出さずに落ち着いた口調で語りかけるリリィに俺は新鮮な感覚を抱いていた。


「先に一つ聞きたいんだけどさ、アンタが探している人はいつもログインしているんじゃないのか?」

「解らない」


 自分の疑問を自分で否定するわけではないが、さっきの様子から察するにリントという名のプレイヤーはログインしているのが稀、あるいはシスター服のプレイヤーが活動している時間帯とリントというプレイヤーが活動している時間帯が中々重ならないということなのだろう。

 だからこそこの貴重なチャンスを逃すわけにはいかない。そう考えてしまうのは解る。だがここを飛び出して行ったとして見つけられる可能性は限りなく低い気がする。


「そもそもどうして探して欲しいのさ?」

「え?」

「だって、連絡出来るんじゃないの」


 リリィが不思議だと言わんばかりに首を傾げてみせる。

 確かにプレイヤー間では相手をフレンドに登録してあれば基本的にいつでも通信することが出来る。勿論互いにログインしている必要はあるが、少なくともリントがログインしてきたと確認できていることからもフレンド登録しているのは間違いないはずなのだが。


「事情を話してくれないか? 何故アンタはリントというプレイヤーを探しているのか? そして、何故連絡をすることが出来ないのか」


 探し人という言葉から俺はてっきりその人が何処にいるのか解らないプレイヤーやNPCなのだとばかり思っていた。

 しかし、目の前のシスター服のプレイヤーの様子を見るにそんな単純なことではないようだ。


「…わかった」


 渋々といった様子で椅子に座る。

 もう走り出して行ってしまう心配は無いと判断したようでクロスケは加えていた服の裾を離していた。


「そうだな、自己紹介からやり直そうか。俺はユウ。こいつがリリィでこっちがクロスケ。俺の仲間だ」


 それまでの雰囲気を変えるべく俺は今更ながら自分の名前を告げた。


「わたしはアイリ。探しているプレイヤーはリント。わたしの現実の弟よ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ