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ガン・ブレイズ-ARMS・ONLINE-  作者: いつみ
第一章 【はじまりの町】
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はじまりの町 ♯.19

 鍛冶を見せると決めて俺が使うことに選んだのは鉱石は鉄鉱石と瑠璃原石の二種類だけだった。


 他の鉱石の情報は何一つ持ってなく、失敗してしまったら無駄に素材を消費するだけになってしまう。


「まずはインゴット化からだな」


 炉に火を入れ、鉱石を溶かすための道具を用意する。


 十分に炉が熱されるまでの間に俺は腰に下げている剣銃を取り出し、作業机の上に置かれている鉱石の隣に置いた。


 作業机に置いて注意深く剣銃を見ていると漠然とその解体方法が脳裏に浮かんできた。それは≪鍛冶≫スキルを習得する際にいきなりやってみろと言われたときと同じような感覚だった。まるで最初から知っていたかのような感覚は現実では味わうことのないものだ。


 刀身と銃身、それにグリップ部分の三つに分かたれた剣銃はこうして見てみると随分シンプルな作りになっているようだ。


「そろそろいいか」


 炉にくべられた火が十分大きくなったことを確認して、鉱石を溶かすための道具を手に取った。


 炉の中に二種類の鉱石を入れ赤くなるのを待つ。それほど時間を掛けずにも赤く熱されるのはゲームとしての特徴なのだろう。


 まんべんなく赤くなった鉱石を取り出して、金槌で叩き始める。


 リズムよく叩くことで鉱石は一つの塊、インゴットへと姿を変えた。


「随分早く出来たな」


 ≪鍛冶≫スキル習得の際、インゴットを作ったのは鍛冶師NPCだった。使った素材は俺が集めてきたものでその工程もあまり特殊なもののようには思えない。なのに今回はその時よりも早くインゴット化出来たように感じる。


 冷え固まったインゴットを地面に置き、俺は解体した剣銃の刀身部分を巨大なはさみで持ち、炉の中に入れた。


 鍛冶で強化出来るのはこの刀身部分。


 強化の方法は通常の刀鍛冶と同じで、鍛冶と聞いて思い浮かべる行程がこの時に用いられる。


「こんな感じかな?」


 炉に入れられた剣銃の刀身は真っ赤になり凄まじい熱気を帯びている。


 金槌で叩くことで古く余分な部分が削り落されていく。真剣に叩いていると刀身部分は真っ直ぐな一本の地金と呼ばれる状態に変化した。


 数分後、刃も何もない、ただ真っ直ぐなだけの地金が出来あがった。


 地金に先程作り上げたインゴットを接着する。現実ならば接合材が必要になるのだが、ゲームでは地金にインゴットを合わせるだけでくっついた。


「さあ、ここからだ」


 インゴットが接着された地金を炉に入れて熱する。


 再び赤くなった地金を取り出し、金槌で叩き始めた。


 元の刀身の形を意識して叩くことで地金は次第に形を変えていった。


 分厚いインゴットが重なっていたとは思えないくらい薄くなるまで叩く行程と熱する行程を繰り返す。適度な厚さになった地金はそれまでとは違い、微かに刀剣の様相を取り戻していた。


「よっと」


 鏨を当てた部分を金槌で叩くことで長くなりすぎた部分を斬り落とす。すると使い慣れた長さの剣銃の刀身部分が現れた。


 剣先以外の部分、刀の腹と呼ばれる部分を叩いて平らにしてゆく。数分叩き続けることで刀身は見慣れた形になる。


 一度手を止め刀身を作業台の上に置くと、瞬時に熱が抜けてゆき、赤い色からくすんだ鉄の色に変わった。本来何時間と掛かる焼きなましの時間がほんの一瞬で済んだのはやはりゲームの特権というところか。


 くすんだ鉄の色になった刀身を一心不乱に叩いていく。


 裏面、表面、両方とも水平になるように繊細に適度な力を込めるのはかなりの経験が必要なはずだが、システムアシストが働いたことで気を抜かなければ問題ないという程度の難度に収まっている。


 形を整え、出来あがった刀身を泥水の入ったバケツに浸した。


 刀身をバケツから取り出し、火の入っている炉に入れ、十分熱されたと判断した時に取り出してもう一つの冷却水が入っているバケツの中に刀身を浸す。


 白い蒸気が辺りに充満する。


 顔を背きたくなるほどの熱気に耐えながら、丁度いい頃合いを見計らって刀身を取り出した。


 微かに出来た歪みを修正して、炉を使った行程は終わった。


「次は研磨だな」


 出来あがった刀身には未だ刃と呼ばれる部分はない。ない、というのは語弊があるかもしれないが、実際この状態の刀身ではなにも斬ることは叶わない。


 ストレージから六種類の砥石を取り出して目が粗い順に並べていく。


 刀身を横に持ち、真剣に磨き始める。


 一つ一つ別のの砥石を使って磨きあげている間に刀身は元の光沢を取り戻し始めていた。


 見る人の目を奪う光沢と鋭さは日本刀のような独特の感覚を持っているが、剣銃の刀身は片刃の直刀で反りと呼ばれるものは無い。それは剣銃という特異な武器の形に合わせるためであり、変形に耐えられるように刀よりも僅かに刀身に厚みを持たせているからだった。


「よし、悪くない」


 出来あがりを見て呟く俺の台詞は鍛冶師NPCのそれと同じだった。


 システムアシストがあるからこその出来のように思えたが、それでも俺が自分で打った刀身だ。納得のできるものが出来たのならそれで満足だ。


「できたみたいね」


 俺の鍛冶をじっと眺めていたマオが声を掛けてきた。


 刀身を打っている間は声を掛けようともせずに気配すら殺していたのか、集中が途切れることはなかった。それは生産職であるマオの心遣いのように思える。


「もう少し待ってろ、いま組み立てる」


 刀身、銃身、ブリップと三分割されていた剣銃を組み立て元の状態へと戻していく。


 組み上がった剣銃はそれほど変わったようには思えないが、詳細を表示させると確かに強化に成功しているようだった。


 ユウの剣銃――レベル2。


 あれほど大変な鍛冶を行ったにもかかわらず上がったレベルは一つだけ。変化したパラメータはATKとDEF、それにAGIの補正値がそれぞれ5ずつ上昇していた。


「ちょっと離れててくれ」


 一歩二歩と後ろに下がりながら二人に告げると、俺は剣形態の剣銃を構えた。


 持った感じ、重さに違いはなく、適当に振ってみても性能が上昇したという実感は得られない。


 それならばと銃形態へ変形させてみても、やはり目立った違いは感じられなかった。

 剣銃を振り回す俺を見ていたマオが聞いてくる。


「満足した?」

「ああ。十分だ」


 と持っている剣銃を再び剣形態に変形させマオに手渡した。


「うーん、普通の強化にしか見えないけど……」

「だから言っただろ。特別なことは何もしてないって」

「むぅう」


 剣銃を見つめ悩むような声を出すマオに俺は思ったままに答えた。


 特別なことをしようとしても、その特別なことが何なのかが解らないのだ。俺が出来ることと言えば鍛冶師NPCに教えられた通り、真剣に打つことだけ。


「それならさ、今度はアクセサリを作ってみたら?」

「は?」


 そう提案したのはマオの隣で同じように剣銃を見ているリタ。


 一仕事終え休憩していた俺は虚を突かれたような声を出してしまった。


「それだっ。ねえ、ユウ。これで指輪作ってみて」


 作業机の上に置かれたままの鉄鉱石を持ってきて、それを俺に押し付けながら言った。


 剣銃の強化に使うためにインゴット化した鉱石の余り。いまは使い道もないので返そうかと考えていたものだ。


「指輪なんか作ったことないぞ」


 ハル達からゴーレムの素材を貰い受けた時に約束したアクセサリ作り。いつ作ってくれと言われてもいいように近々アクセサリ作りの練習をするつもりだったのだが、まさか、その機会がこんなにも早く訪れるとは思ってもいなかった。


「大丈夫。鍛冶よりは簡単なはずだから」


 俺の背中を押すようにリタが言う。


 その言葉を裏付けるように、指輪の作り方は自然と頭の中に流れ込んできた。


「はぁ。まずはこれをインゴットにするんだよな」


 マオの持つ鉄鉱石を受け取り、再び炉に火を入れた。


 鉱石を溶かしインゴット化するという流れは変わらない。この行為も二度目になれば幾許か慣れてくるものだ。


「どんな指輪にするんだ?」


 指輪を作れといったのはマオだ。形の指定があるなら若干作り易くなる。


「ユウにまかせる。思いっ切り自由に作ってくれてかまわない」


 インゴットが固まりきる前に俺は残りの鉱石に視線を向けた。作業机の上にある鉱石のほとんどは俺の知らない鉱石、そのなかで見た目が綺麗な物を選び出す。


 微かに緑色の石が混じった塊を手にとって、その緑色の部分だけを取り出そうと塊を砕いた。


 作業机の上で粉々に砕けた塊のなかから比較的大きい緑色の部分を選び、ヤスリで磨く。次第に光沢を持ち始める緑色の石は宝石と比べても遜色ない輝きを放っている。


 出来あがったインゴットをもう一度炉に入れ柔らかくすると、金槌で叩き始めた。


 一つのインゴットでは指輪一つを作るのに大き過ぎるのではないかと思ったが、そこはゲーム基準で一つのインゴットを使って作れるアクセサリの数はその大きさに関わらず一つだけというようになっていた。


 指輪を作ると決めてインゴットを叩き始めたからだろうか、インゴットはひと叩きするたびに小さくなっているような気がする。


「……っと、ここまでか」


 手元のインゴットが冷え固まってくるのを感じ、俺は手を止めた。固まってしまってから叩いてはインゴット自体が壊れてしまう。それを避けるためにはもう一度炉に入れ熱くする必要がある。


 再び熱を帯びたインゴットを叩き始めた。


 どういう原理か解からないが指輪を作るのに手頃な大きさになったインゴットを今度はペンチを使って曲げていく。


 小さな輪っかの形になったインゴットはこれから研磨していくことで指輪になるだろう。


 なにも装飾のしないシンプルな指輪ならこれで完成としてもいいのだが、折角磨き出した緑色の石があるのだ。それに見合う装飾をしてみたいと思うのも不思議ではない。


 指輪の上部に石が付けられそうな窪みを作り、そこに緑色の石を嵌める。


 磨き上げたリングの部分は銀色に輝き、その上部で緑色の石が太陽の光を反射して光って見えた。


「……出来た」


 手の平に収まる小さな指輪は初めてにしてはいい出来だろう。


 鍛冶とは違う緊張感が指輪作りにはあった。失敗すると取り返しがつかないという点では同じだが、やはり作った経験の差というものが如実に表れたという感じだ。


「見せて」

「ほら」


 差し出された手の平に指輪を乗せて渡した。


「指輪の名前は『グリンリング』性能はDEX+3。うーん、普通だなー」


 不満げに呟くマオは不思議そうに棚に置かれた証の小刀を見た。


「なんであれだけ高性能なの?」

「俺が知るか」


 自分が作った指輪は失敗作だと言われているような気分になった。


「ねえマオ、私にも見せてよ」

「いいよ」


 俺に了承を得る前にマオはグリンリングをリタに手渡した。


 指輪に嵌められた緑色の石を太陽に翳し、その輝きを確かめるように覗くと感心したようにリタが言った。


「わー綺麗。私は好きだなーこの指輪」


 リタに笑ってそう言われるだけでほんの少しだけだが報われたような気がするのは何故だろう。


「聞いてもいい?」

「何だ」

「証の小刀を作った時にいまと違うこと何かしなかった?」


 そう聞かれて俺は鍛冶師NPCの所で証の小刀を作った時のことを思い出していた。


 あの時と今とで違うことはなにかと考えたとき、真っ先に思い浮かんだのは設備の違いだった。鍛冶師NPCの所の設備は俺の持つ設備よりも何倍も優れたものだった。使う俺の腕こそ変わらないが、そこに違いが生まれたのかもしれない。


 ただ、それが何かをしたかと聞かれればそうではないとしか言えない。違いがあったというだけで違うことをしたというわけではないからだ。


 次に思い浮かんだのは使用したインゴットの違い。あの時使用したインゴットは自分で作ったものではなく鍛冶師NPCが作り上げたもの。


 今回剣銃を強化させようと考えた時にあの時と同じ素材でインゴットを作るつもりだったのだが、それは叶わなかった。豊富な種類の鉱石のなかに琥珀の欠片が存在していなかったためだ。


「琥珀の欠片ってアイテム知っているか?」


 俺に思い当たることが無いかと問われれば答えはこれしかない。


 マオに伝えることが出来るのもこの一点だけだろう。


「それって鉱石じゃないよね」

「そうなのか?」


 リタが不思議そうに聞いてきた言葉を受け俺は即座に聞き返していた。


 鍛冶師から採ってこいと言われたのだからそれは鉱石類だと無意識に思いこんでいたのかもしれない。よくよく思い出せば琥珀の欠片を手に入れた場所は鉱石が手に入り易い岩山エリアではなく木々が生い茂る南のエリアだった。


「確か、調合用のアイテムだったと思うよ」


 調合用と言われ俺が思い浮かべたのはポーション等を作る素材である薬草の類。


 およそ鍛冶に使うとは思えないアイテムにマオは何か考え込んでいるようだ。


「そうか、それだっ! そのアイテムが複数の鉱石を使用して作るインゴットの繋ぎの役目になってたんだっ」


 意気揚々と叫ぶマオの様子に俺とリタは驚きを隠せない。


 未知の発見に喜ぶ冒険者の如くはしゃぎ回るマオを暫らく眺め続けた。



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