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動く、山 ♯.16

 炎がエクスプロージョン・フレイム・ゴーレムの核となっている珠に吸収されていくという異様な光景を目の当たりにしながらも俺は自分の得たアーツについて考えていた。

 エクスプロージョン・フレイム・ゴーレムの腕を上から打ち付けるように放った≪インパクト・スラスト≫と頭部を水平に斬り裂いた≪サークル・スラスト≫。これらのアーツは共に威力強化のアーツであることは使ってみて直ぐに気が付いた。

 それに加えてこれらのアーツが持つ特性についても何となく当てがついたのだ。

 ≪インパクト・スラスト≫は縦の斬撃に適したものになったのだろう。そして、そこにある特性としては切断という剣の属性に加えハンマーのような打撃属性のような衝撃を発生させることが出来る。

 ≪サークル・スラスト≫は横の斬撃。特性は全方位に向けた水平の攻撃という感じだろう。

 これらの特性が現れる条件というものも解った。≪インパクト・スラスト≫は縦。上から下に、もしくは下から上に向けて放った時にのみこの特性が現れるみたいだ。≪サークル・スラスト≫は言わずもがな、左右どちらからでもいいが剣を横に振るった時にのみ全方位を斬りつけることができるらしい。この時の俺は駒の軸のようにしっかりと足元を踏み締めていることからも狙って使わなければ少しばかり角度を付けて放った方がいいのだろう。

 どちらにしてもより適した攻撃手段を手に入れたということだ。


「ユウさんのダメージはどんな感じですか?」


 リンドウは俺が燃え盛るエクスプロージョン・フレイム・ゴーレムの腕を駆け上ったことを心配しているのだろう。

 確かに履いているブーツには燃えた跡のようなものがついていたが、その中の足自体には異常はない。それにダメージも≪ブースト・アタッカー≫の副次効果によって回復し始めていた。


「問題ない。リンドウこそどうなんだ? ダメージが溜まっているんじゃないのか?」

「大丈夫です。ユウさんからもらったポーションのお陰でそんなに大きいダメージにはなっていませんから」

「そうか」


 俺とリンドウは渾身の攻撃を放った後、炎を吸収し始めたエクスプロージョン・フレイム・ゴーレムから距離を取っていた。

 HPの回復を図るという狙いもあるが、何よりも突然現れたこの現象が何を意味しているのか解らないから避けているという意味合いの方が強い。

 炎を吸収することでHPを回復させようとしているのならまだしもこうして観察している限りその気配はない。それどころか、極々僅かではあるがHPを減らしているように見える。

 奇妙や異常を通り越して不気味と感じる光景は俺とリンドウに攻撃の手を止める効果を十二分に発揮していたのだ。


「さて、これからどうなるか」

「ユウさんはどう考えてます?」

「さあな。自分の勘を信じるのならば、少なくとも歓迎できるものじゃないように思えるけど」

「同感です」


 それでもこちらから攻撃を仕掛けようと思えないのはそれが空気を入れ過ぎて破裂間際の風船のように見えていたからだ。

 外部からの衝撃によって事態が悪くなると直感しただ見ていることしかできない現状に歯痒く思い警戒している俺を嘲笑うかのように状況が無慈悲にも事態を進めてしまう。

 天井を燃やしていた炎が珠に吸収されたその刹那、急激に天井の溶けていた石が冷え固まったのだ。

 溶けた石が雫となって滴り落ちる寸前といった形で止まったであろうことが見て解る天井の下、炎を吸収し尽して姿を変貌させたエクスプロージョン・フレイム・ゴーレムの双眸に消えていた光が灯った。


「随分と貧相になったもんだな」


 少しばかり顔を顰めながらゆっくりと起き上がったエクスプロージョン・フレイム・ゴーレムに向けて言い放つ。

 この時、自分の想像が外れた事よりも目の前で起きた変化に意識が向けられていた。

 変化前は体の至るところに青い炎を宿し近付くことすら躊躇ってしまうような威圧感があった。それに比べて現在のエクスプロージョン・フレイム・ゴーレムは爆炎を冠したその名前が相応しくないと思ってしまうくらいだ。炎の消えた石で出来た素の体は俺が考えていたよりも普通。ボスモンスターの風格も無く、砂漠などのエリアに出現する一般的なゴーレム種のモンスターと何ら変わらない。唯一にして最大の違いはその胸に青々と輝く炎を宿した珠があることだけ。

 試してみるまでも無くそこが弱点であることは明らか、それだけでもこれまでより何倍も戦いやすくなるだろう。

 姿を変えたエクスプロージョン・フレイム・ゴーレムが咆える。

 この咆哮を合図にして炎の吸収が始まったせいで中断されていた戦闘が再開された。

 貧相に見えてもそこはボスモンスター。エクスプロージョン・フレイム・ゴーレムの攻撃を咄嗟に回避した場所に出来た窪みが変わらぬ現実を見せつけてくる。どうやら余裕の顔をして攻撃を受けるわけにはいかないらしい。

 気を引き締め直して俺はエクスプロージョン・フレイム・ゴーレムに剣銃の切っ先を向ける。


「気を付けてください。動きが速くなっています!」


 リンドウの注意に軽く頷く。

 攻撃頻度と攻撃速度を上げたエクスプロージョン・フレイム・ゴーレムを相手にするに際して俺とリンドウは回避中心の戦闘の組み方を強いられていた。

 回避中心の戦い方を取らざる得なくなったとしても炎が消えたことによる影響はいい方向にも現れていた。偶に見せる隙を狙い剣銃を振るう回数が増えていたのだ。これまで俺たちの攻撃を遮っていたのはエクスプロージョン・フレイム・ゴーレムの全身を覆っていた炎。それが近付くだけでもこちらにダメージを発生させていて、触れるとそれ以上のダメージを与えていたのだった。それが消えたことで俺たちとしては何の懸念も無く攻撃が繰り出せるというものだ。

 無防備を晒すエクスプロージョン・フレイム・ゴーレムの胴体に剣銃の刃を叩き込む。この時にアーツを発動させなかったのは単純に大振りな一撃を叩き込むまでの余裕が無かっただけだ。

 まるで金属を斬り付けたかのような甲高い音が鳴り響く。

 通常攻撃を繰り出した時に生じた衝撃に俺は顔を顰めたのだった。


「今度はより硬くなったってことかよ」

「殆んど効いていないみたいです」


 レイピアを突き出したリンドウもまた返ってきた硬い感触に俺と似たような表情になっていた。

 攻撃すること自体は容易になったとはいえ、その攻撃によって与えられるダメージが減ってしまったということのようだ。

 これではお世辞にも戦いやすくなったとは言えない。


「それに武器の耐久度の減り方も凄いです」


 刀身の細いレイピアという武器だからこそ気付いたことだろう。よく見れば俺の剣銃の刀身も僅かながら刃毀れを起こし始めていた。


「アイツのHPが尽きるのが先か、俺たちの武器が使い物にならなくなるのが先か。まったく、嫌な根競べだな」


 などと愚痴をこぼしてもやるべきことは変わらない。

 剣銃を打ち付け、レイピアで岩盤を突く。

 一応これまでの戦闘で積み重ねたダメージがあり、エクスプロージョン・フレイム・ゴーレムに残されているHPが少ないことも相まってこのごく僅かなダメージを蓄積させていけば勝利を手にすることが出来るだろう。

 エクスプロージョン・フレイム・ゴーレムの攻撃を避けることにも慣れ、直撃を受けることはない。

 自分たちが倒される可能性が低くなり、勝利が目の前まで迫っているにしても俺とリンドウは安心することが出来ずにいた。

 むしろ勝てると見通すことが出来てからひしひしと感じ始めていたのだ。時間が無い、という事実を。

 俺たちがここに来てどれくらいの時間が経過したのだろうか。

 時計を見て判断する時間と実際にグラン・リーズと戦っている皆が感じている時間は同じのようで違う。砦が破壊されれば退避を余儀なくされ、次の砦へと戦場を変えるしかなくなる。それを目の当たりにしてしまえば討伐できずにこのイベントの終了という敗北までのタイムリミットが実感してしまうことだろう。

 グラン・リーズに登った俺たち以外のプレイヤーが何かをした、というアナウンスはまだ成されていない。障壁を取り除くことを目的にここに来ているプレイヤーが多くないという事実を差し引いてもこれはあまり良くない状況だと言わざるを得ない。

 エクスプロージョン・フレイム・ゴーレムを倒した先になんらかの吉報があると信じて戦っているが、それも長引いてしまえばあまり意味があるとも言えなくなるかもしれないのだ。

 そんな俺の焦りがリンドウにも伝わったようで、刀身が歪み始めてもなおそのレイピアを振るう手を止めはしない。その姿を目の当たりにして俺も剣銃を振るい続けているものの、必死の形相を露わにして戦うリンドウには悪いが俺にはこのまま戦って間に合うとはどうしても思えないのだ。


「何か作戦を立てないといけないんだろうけど」


 そう呟きながら戦況を分析していく。

 こちらの攻撃は問題なく届いているしエクスプロージョン・フレイム・ゴーレムの攻撃は回避することができている。

 足りないのは攻撃の威力というなんともいつも通りの状況だと思えば自嘲気味な笑みが漏れるのは致し方ないことだろう。

 そう、いつも通りと言えばいつも通りなのだ。

 モンスターに比べプレイヤーはその攻撃手段や方法を工夫しなければ大きなダメージを与えることが出来ないのが常。アーツの発動以外にも相手に適した武器や弱点とされる場所に命中させるなどその方法は数多くあるが故に、何も考えずに攻撃するのは愚策としか言い様が無いというわけだ。

 今回俺たちの武器はエクスプロージョン・フレイム・ゴーレムに対して適しているとは言えない。アーツを発動させればそれなりのダメージを与えることは出来るだろうが、若干大振りになり回避に差し障りがある。

 弱点は露出して明らかだが、それを狙った場合にどうなるのかは解ってはいない。

 危険を承知で攻撃するか、他の方法を探すかという選択に迫られているのだった。


「ユウさん…あそこを攻撃してみましょう」


 このまま千日手になること避けるべくリンドウが提案してきた。


「どうなるか解らないんだぞ」

「それでもこのまま戦うよりはいいはずです」


 そう言って俺に見せてきたのはボロボロになった刀身のレイピア。それは誰の目にも明らかなほど耐久度が減少しており、このまま使用することが困難であることは疑いようがない。

 完全に使用できなくなる前に決着をつける方法としては最も現実味があるというのは理解できる。


「やってみるしかないってことか」


 俺の持つ剣銃の刀身もかなり傷んできている。刃毀れを起こし、切っ先がごく僅かではあるが折れてしまっている。

 この先今よりもダメージを与え辛くなることは必至だった。


「次の攻撃を避けたタイミングで行くぞ」

「はいっ」


 一旦こちらから攻撃することを止めてエクスプロージョン・フレイム・ゴーレムに大振りの攻撃を繰り出してくるように動く。

 目の前をチョロチョロと動き回れてはエクスプロージョン・フレイム・ゴーレムも苛立ちを禁じ得ないだろう。これまでと同じ攻撃方法として拳を振り下ろしてくるが、それもまたこれまで通りに回避されてしまう。

 連続して地面に生成される亀裂を器用に避けながら、次なる攻撃を誘い出していく。

 そして、しばらく経った後、俺とリンドウが待ちに待った一撃が繰り出されるのだった。


「今だ、≪インパクト・スラスト≫」

「今ですっ。≪ワンズ・スピア≫」


 両手を組み思いっきり叩きつける一撃を俺とリンドウが左右に別れ回避する。

 そして前のめりになる格好で制止するエクスプロージョン・フレイム・ゴーレムの胸の珠に目掛けて俺とリンドウは同時にそれぞれの武器を突き出した。




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