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動く、山 ♯.2

 俺たちにある選択肢は二つ。

 ギルドホームのあるグラゴニス大陸と、ログハウスのあるヴォルフ大陸だ。

 残る二つの大陸は拠点も無い上に足を踏み入れたことも無いことからも除外した。


「多数決を取ろう。参加する戦闘はどちらの大陸のものにするか、挙手を願おう」


 ムラマサが主導となって行われたそれの結果、俺たちが参加することになったのはヴォルフ大陸での戦闘だった。

 理由としてはグラゴニス大陸に出現する四皇よりもヴォルフ大陸に出現する四皇の方が戦ってみたいと思わせたからだ。

 二つの四皇の違いは公式のイベントページの画像を見た限りまず目立つのは色。グラゴニス大陸の四皇が茶色い鱗をしているのに比べ、ヴォルフ大陸のそれは若干緑色が強かったのだ。残る二つ、魔人族のプレイヤーとNPCが活動するオルクス大陸では灰色の、人族のプレイヤーとNPCが活動するジェイル大陸では赤い指し色のある黒が四皇の体色となっていた。

 後は爪や角、それに鱗の形がそれぞれの大陸ごとに異なっているようだ。

 四皇の違いを別にして、俺たちがヴォルフ大陸を選んだのはこの大陸ではまだ輝石の効果を得ていないという事実があったからだ。

 以前に比べて輝石の場所と効果が発見されているお陰で俺たちがイベントが始まる前に輝石に自分好みの輝石の効果を宿らせられる確率はぐっと上がっていた。

 そんな事情もあって、俺たちはイベントが始まるまでの時間の内の一日を輝石の効果探しに充てることにしたのだった。

 普段ならば自分の足で探すことを優先する俺もこの時ばかりは背に腹は代えられないとムラマサが用意したリストにある中から選んだのだ。それでもその中に当初から狙い通りの種類の効果があったこともそれほどリストに嫌悪感を抱かなかった理由だろう。

 四人の目的地がバラバラになってしまったのは仕様がない事。

 俺がヴォルフ大陸の遺跡地区に足を延ばしたように、ムラマサが海へ、ヒカルは森、セッカが山へと見事に散り散りになってしまったのだった。


「ここの何処かに、石碑があるんだよな?」


 遺跡といってもそれは青々とした苔に覆われた石造りの建造物が並ぶだけで、既に荒れ果てたと言っても過言ではない。

 基本的にエリアにある石などのオブジェクトは破壊不能に設定されているのだからここまで荒廃した理由はプレイヤーの手によるものではないことは解る。つまりは最初からこのように作られている場所ということだ。


「あるんじゃないの? そのつもりでここに来たんだよね」


 声は俺の外着にあるフードの中から聞こえてきた。


「まあ、正確な場所なんかは解ってないんだけどね」

「ふーん。それじゃここを適当に探し回るつもりなの?」

「一応石碑がある場所のスクショは持ってきてるからそれを頼りに探すつもりなんだけど…」


 そう言って俺はコンソールにムラマサから貰った画像を表示させた。

 そこには見慣れた石碑とその周りに少数のプレイヤー、そして天高く成長した木々と周りを苔で覆われた石がまるで目印のように鎮座しているのだが。


「どこも似たような景色じゃないの?」


 リリィの言う通り、画像にある景色と実際にこうして自分の目で見ている景色に表立った違いは無い。

 ここにも画像にも木々は天高く聳え、地面には乱雑に形の違う苔の生えた石が転がっている。

 一応苔の生えた石の形を目印にして探すことはできなくもなさそうなのだが、元々どこに何があるのか解らない遺跡という場所なのだ。予め何かの検討を付けて歩を進めるということはできそうもなかった。


「とりあえず見た限りは近くに石碑は無さそうだし、奥に進むとするさ」

「どの方向に?」

「そうだな、最初は真っすぐ行こうか」


 リリィを引き攣れ俺は歩き出した。

 出来れば上空から石碑を探して欲しいと思ったのが目を凝らすと木々の枝に留まっているのは鳥のような非戦闘モンスターではなく、弓や魔法のような遠距離攻撃を主とするプレイヤーが戦うモンスターの一種であることに気が付いた。

 それらを相手にした場合プレイヤーの方が先制を取れることが多いと聞いていたのはどうやら間違いではないらしい。近距離攻撃の届かないモンスターは自分の周りにある一定の範囲内に飛来物、矢や魔法のようなものが近寄ることによってアクティブ化される。近距離戦専用の手段しか持たないプレイヤーが上空から一方的に攻撃されないようにとのことらしいが、俺がここでリリィに探索を頼むとリリィがその範囲に入り込んでしまう危険性があるということになる。

 リリィだってむやみやたらに攻撃を受けたくはないはずなので無防備にその迂闊にもモンスターの警戒範囲内にに入ることは無いと思うが、必要のない藪を突っつくような行為は控えるべきだ。


「近くにはモンスターの気配はない、けど」

「上にはいるんだよね」

「気付いていたのか」

「バカにしてる?」

「してない、してない。というか感心しているんだよ」


 リリィの飛行高度がモンスターの警戒範囲に入ってしまわないように気を配りながらも俺はリリィと軽口を叩き合いながら歩いて行く。

 もちろん、近くに石碑はないものかと探すことを忘れずに、さらには手掛かりにないそうな画像と同じ景色も探しながら。

 全く同一の景色を探そうとすればそれはあのスクショを撮影したプレイヤーと同じ場所に立たなければならない。だから俺はあの画像にあったまだ手掛かりになりそうな部分を選び出していた。それが苔の生えた石の形、それと地面に見受けられた苔の生え方。この二つともがゲーム上の演出によるものならば時間が経ったとしても変わっている可能性は低い。

 だからこうしてキョロキョロと辺りに視線を配りながら歩いているのだ。


「ここまで奥では無かったよな」


 もう何度目かになる画像と実際の景色を見比べるという行為の結果、俺はそう結論付けた。

 遺跡は奥に行けば行くほど緑の割合が減り、今もなお機能しているとすら思われる建造物が並んでいる。おそらくこの機能していると感じられる遺跡を進むことである種のダンジョンのような場所に繋がっていることだろう。

 その先にはダンジョン専用のモンスターにドロップアイテム。延いては隠された財宝。既に誰かが攻略している可能性は大いに存在しているが、ダンジョンにあるアイテムは一定の期間で自動的に補充されるようになっているし、道中見つけられるアイテムなんかは大概ランダムで出現するものが決められているというのが常だ。それ故に全ての種類のアイテムを揃えようとしたり、狙っているアイテムを手に入れようとすれば何度も同じダンジョンに挑むことになるのだった。


「それにダンジョンがあるなら俺が一人無断で挑むのは良くないことだよな」


 ソロを気取っていた時ならばたとえHPを全損したとしても自分の責任でダンジョンに乗り込んでいたことだろう。それが例え次のイベントの為の準備の一環としてここにきているのだとしても。

 軽挙妄動と言われればそれまでだが、一人で行動し自分のことにしか責任を持たなくていい状況では残念なことにそれがまかり通ってしまうのだ。

 そんな俺が仲間のことを考えこうしてダンジョンに入ることを躊躇するようになるとは。

 我がことながら中々どうして変わったものだと感心してしまうほどだ。


「どっちにしても引き返すでいいんだよねー」

「ああ。そうなるな」

「だったらさ、早く行こうよー。この辺ってなんだかザワザワするんだよ」

「ザワザワ?」


 それがこの先にあるダンジョンに対する感覚ならばいいのだが、別の何かに対する警鐘なのだとするとあまりいい兆候ではない気がする。


「わかった。さっさと元の場所に戻ろう。それで次は、そうだな右の方にでも行くか」


 リリィが警戒する何かに出くわす前にと俺たちはさっさと遺跡の入口まで戻って行った。

 どうにかなのか当然なのか俺たちはその何かに遭遇することもなく元の場所に戻り、それから今度は先に言っていた通り右の道を進むことにした。

 方角が違えば当然日の当たり方が違う。だから苔の生え方にも違いが出てくるのではないかと期待したのだが、残念なことに俺の目論見は泡沫に消えた。


「ここまで似たような景色をしてるとは。製作者、楽をしたな」


 これまで前方に進み戻ってきて今度は右方に歩き出したのだが、これまでの道中で気付いたことがあった。それは俺が目印にして探している苔の生えた石の形が十数パターンしかないということだ。

 見覚えのある石の形だなと思い、画像の石と見比べてみたがそこに映っていた物とは違う。もしかしてただの勘違いなのかとも思ったが、それは暫く進んだ後に置かれていた石を見て間違いだと解った。まったく同一の石がそこに置かれていたのだ。

 石の形が同一ならば、地面にある苔の生え方までも同一である可能性が高い。

 それでは画像を手掛かりにしていること自体無意味になってしまう。

 確率は高くは無いが石碑が無いだけで同一の形をした石と地面の苔の生え方が重なっているパターンの場所が複数存在することになるからだ。


「まあ、遺跡は一本道のようだし、いつかは見つけられるはずだけど」


 正直、数を打てば当たるという方法は趣味ではない。

 決め打ちをすることが好きという訳ではないのだが、無駄足が嫌いなのは何も俺に限ったことではないだろう。

 だから俺は無駄足にならなければいいと願いながら歩くのだった。

 それに加え道中一度として戦闘も無かったという訳でもなかったのだ。木の上にモンスターがいるのだから当然だと判断すべきか、地面を歩いていても石の陰や草の陰から飛び出してくる類のモンスターも少なくはないのだ。

 俺が戦ったのは『ロック・ゴブリン』という岩で出来た鎧を纏ったゴブリン種が一番多く、次いで『サンド・ウルフ』という毛皮に砂を纏わせたオオカミ種のモンスター。どちらも岩山や砂漠地帯ではよく出現することからそう珍しい種ではないのだが、このような苔と木々と人工的な石で溢れた遺跡では若干場違い感があると言わざるを得ない。

 フィールドの状況が出現したモンスターに影響するというのがこのゲームでの常識だ。それならばここで出現するモンスターの冠詞は『ロック』や『サンド』ではなく、苔を示す英単語である『モス』や木々を表す『ウッド』あるいは遺跡を意味する『ルーインズ』が適しているはずだ。

 ルーインズが先にあるダンジョン内のモンスターだけに限られているとしても、残る二つが冠されていなかった理由にはならない。

 一応、地面のは砂があり、苔の生えているものが石であることから全く相応しくないというわけではないのだが。


「こっちもハズレかなぁ」


 俺の頭くらいの高さで飛び回るリリィが告げる。

 右の道を選んで進んでから再びある地点で俺たちは歩みを止めた。

 それはこの先にダンジョンがあるという感覚がリリィに訪れたからであり、先程と同様の間隔に苛まれていたからでもあったのだ。

 多くは無いが少なくも無い数の戦闘を経て俺はここに至るまで二本ものHPポーションを使用してしまっていた。

 それほど強くはない、最初にはそう思われたモンスター――ロック・ゴブリンとサンド・ウルフが相手だったというのに俺は何度か攻撃を受けただけで少なくはないダメージを負ってしまっていた。普段ならば≪ブースト・アタッカー≫を使用してHPの自然回復速度を速めて待つのだが、この時はポーションを使用して即座に回復させた方がいいと判断したのだった。

 理由としては次なるモンスターの襲撃に備えるためというのが一番で、二番目は単純に時間の短縮。


「最後は左で、それが正解の可能性が最も高い、か」


 こういうもので最後まで正解を引けないのは全くをもって遺憾でしかない。

 ベストは最初の選択で正解を引き、恙なく物事を進められることだと考えている俺からすればやはり面倒以外の何物でもないのだ。


「それにしても他の人は何をしてるんだろうねー」


 リリィが言う他の人がムラマサたちではないことは明白だ。今リリィの視線の先には俺と同じようにこの場所に輝石の効果を求め石碑を捜し歩いているプレイヤーがいるのだから。


「どういう意味だ?」

「だって、この先にその石碑ってのがあるんでしょ? だったら戻ってきてる人の顔は嬉しそうにしてるもんじゃないの?」

「そういえば、そうだな」


 石碑の近くに強力なモンスターが出るという話はムラマサから聞いていない。

 今日に限って新しくボスモンスターの類が追加されたなどということは無いはずで、それならばあのように浮かない顔をしている理由が説明できないのだ。

 何よりなんらかのモンスターがいてそのせいで輝石の効果取得を諦めたのだとすれば、戦闘に負けてHPを全損させている確率の方が高いのだ。それがまるで戦闘を行ってきた素振りが無く、それこそ空振りだったと言わんばかりに落胆して歩いている姿というのは妙な話だった。


「けど、ま、行ってみればわかるだろ」

「それはそうなんだけどさー」

「何か心配でもあるのか?」

「んー別にー」


 いまいちはっきりしないリリィを問い詰めても無駄なのはこれまでの付き合いで理解している。

 結局のところ自分の足で向かい石碑の有無を確認しなければならないのだからと、リリィの妙な様子を頭の片隅に置き、歩く速度を速めたのだった。

 そして二回のロック・ゴブリンとの戦闘を経て俺は左側の最奥とでも呼ぶべき場所へと辿り着いていた。

 ここがそれまでとは違うのは奥にダンジョンがある気配がないということと最奥に足を踏み入れた途端大粒の雨が降り始めたことだ。

 このゲームで天候に左右されるという経験は畑で薬草類を育てている経験上他のプレイヤーよりは多いとと自負しているが、それでもこのように突然の大雨に振られるなんてことは稀だった。

 普段雨のような天候が平時と違うエリアというものはそのエリアに足を踏み入れた時点で違うもので、現実のように突発的な雨に降られるなんてことは空が暗くなり始めることでプレイヤーに知らせている節があった。

 普段使わないから傘のようなアイテムはストレージには無く、俺は外着のフードを被って雨をやり過ごそうとして、リリィは濡れることを嫌がったのか俺の服の中へと潜り込んできた。


「この先にダンジョンがあるはずだけど…どうやら違うみたいだな」


 ふと俺は今自分が経っている場所があの画像にあった場所に酷似していることに気が付いた。同じような場所が他にもないという確証はない。だが確実に同じ場所であるということは目の前に見えてきた一つの石碑が物語っていた。

 鏡のように磨かれた真っ平らな石碑が雨に濡れ独特の雰囲気を醸し出している。

 怪しくもあり神秘的でもあるそれを発見したことで俺は目的を果たしているはずなのに、どういう訳かいまいち実感というものが沸いてこない。

 石碑の前で立ち尽くし、どうしてなのかと考えるていると気が付いた。

 石碑に秘められているはずの輝石の効果がコンソールに表示されてこないのだ。

 これではただのオブジェクトを発見しただけに過ぎない。

 困惑と落胆に塗れながらも俺は先程すれ違った名も知らぬプレイヤーたちの顔を思い出していた。

 おそらく彼らもこの石碑を見つけていたのだろう。だが、見つけただけで輝石の効果を得ることはできなかった。

 何か特別な条件があるなどと聞いてはいない。そもそも輝石の効果というものは石碑を見つけるという一点だけが試練であり、見つけられた場合は誰にでも分け隔てなくその効果を与えるもののはずだ。

 だからこそ俺は腑に落ちないという顔をして石碑を見ていたのだ。


「形も雰囲気も本物だとは思うけど」


 石碑に触れ、何かスイッチのようなものが無いか探す。石碑本体に加えその周りに至るまで。探せる場所であれば全て探した。

 大粒の雨に打たれながら。

 しかし結果は芳しくない。スイッチのようなものは見当たらず、当然輝石に新しい効果を与えることはできずにいる。


「何が足りない? どうすればこれは動かせる?」


 服の中にいるリリィに問いかけるでもなく、俺は自問自答を繰り返した。

 ここで使用できるようなアイテム、スキル、思いつく全てを行ってみても何も変化は訪れない。

 先程戻って行ったプレイヤーたちのように自分も諦めるべきなのか。

 逡巡する二つの気持ちが俺のなかを駆け巡る。諦めるべきというものと、もう少し粘るべきというもの。そのどちらに従うべきか、迷っている間に事態は思わぬ転機を迎えた。


「きゃっ」


 視界を奪う閃光と、聴力を奪う轟音。

 雷鳴が黒い雲の中に走ったかと思うと目の前に、そう目の前の石碑に雷が落ちたのだ。

 咄嗟に目を自分の腕で庇い、後ろに跳んだ。

 それが何かの攻撃ならば回避したことは正しいと胸を張って言える。だが、雷となればそれは単純な自然現象。いや、ここはゲームなのだから何かの演出だと考えるべきか。


「…そうか、演出か!」


 まさに雷鳴といったような閃きが脳裏を過った。

 これが演出なのだとしたら次に何かが起こるはず。そして、この状況で起こることと言えば、


「一つしかない」


 石碑に変化が起こった。

 黒い鏡面でしかなかったそれに赤々と燃えるような文字が刻まれている。

 それが何なのか俺は知っていた。例え何が書かれているか分からなくとも俺はそれを何度もこの目で見てきたのだから。


「必要だったのは待つことだったのか」


 画像を撮った前にここを訪れたプレイヤーはおそらくその撮影の準備の為に時間を要したのだろう。だから気付かぬ間に石碑に文字が刻まれ輝石に効果を与えることができるようになったのだろう。気になるのは画像では雨が降っている様子が映されていないこと。その理由は画像を撮ったプレイヤーに聞く以外俺が知ることは無いのだろう。そして俺が先程すれ違ったプレイヤーは文字が刻まれる前にこの場から立ち去ってしまった。だから残念そうに戻るしかなかった。

 それ故にここでプレイヤーに求められたのは時間。つまりは忍耐。

 可能性でしかない思いつきに納得して俺は文字が刻まれた石碑に手をかざすと今度は問題なくコンソールが出現しこの石碑に秘められた輝石の効果がそこに表示されたのだ。


『雷属性』――所持者に雷の耐性と初歩的な魔法を習得させる。


 俺が選んだのは最初の輝石の効果と同じ種類のものだ。

 火属性の効果は俺の鍛冶や細工に幅を与え、また俺の攻撃に熱と火を与えた。それがアーツを呼び覚ますまで行かなかったのは残念でしかたないが、それでも火に弱いモンスターにはそれまで以上のダメージを与えることができ戦闘にも生かすことはできた。

 戦闘に使えるというのは副次的なものと感じるのは俺の中心が生産職のプレイヤーであるが故だろう。

 輝石の腕輪がある方の腕を石碑にかざし続けること数十秒。

 四つの輝石の一つに新たなる光が宿った瞬間だった。


「終わったの?」


 リリィが首元から頭を出し問いかけてくる。俺は黄色い光が灯った輝石がはめられた腕輪を見せながらい否が応でも高まっていく感情を隠しつつ答える。


「まあ、何とかな。これからこの効果を試してみないとなんとも言えないけど、当初の目的は果たせたってことでいいと思う」

「そっかー」


 服の中から飛び出してくるリリィは嬉しそうにする俺の周りを飛び回る。

 いつの間にか雨は止み、空を覆っていた黒い雲は消え去り雲一つない青空が広がっていた。

 そして石碑の文字が消える。

 まるで役目を果たしたと言わんばかりの反応に苦笑してしまうが、それもまたゲームらしいと感じるのだから俺も俺で大概だ。


「さあ、戻るぞ。輝石の効果を試したいからな」


 相も変わらず俺の頭の上を飛び回っているリリィに一声かけてから俺は歩き出した。

 いつかはこの場所ではない同じ遺跡の奥にあるダンジョンに挑戦する日が来るかもしれないと思いながら。




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