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キソウチカラ ♯.36

 町中に火柱が上がった翌日。俺たちはヴォルフ大陸にある自分たちの拠点のログハウスで思い思いに過ごしていた。

 二日間に及ぶ獣闘祭。自分たちが参加していたということもあっての忙しさも最早過去の事。悠々自適な時間がゆっくりと流れているのだった。


「はぁ、平和だ」


 カンカンと音を立てながら消耗した装備の修繕に勤しむ俺はしみじみと呟いた。

 強敵との戦闘も楽しいと思える俺だったが、こうして一心不乱に金槌を振っているのも十二分に楽しいと思っているのだ。だからこそ、こうして自分の鍛冶炉に向かっている時間というものが案外重要だったりもするのだ。

 例え扉越しの部屋から何人もの人の話し声が聞こえてきていたとしても、静かとは言えなくても、平穏であることには変わらない。


「っと、これで完成だな」


 修繕し終えた刀を作業机の上に置く。

 そこには新品同様になった三つの武器――短剣、メイス、刀が並んでいる。

 俺の持つ剣銃も修理を終えて腰のホルダーに収まっている。


「おーい、できたぞー」

「おっそーいっ。お腹空いたー」

「作り置きのお茶菓子を食べてたんじゃないのか?」


 自室兼工房のドアを開け三本の武器を持って現れた俺を出迎えたリリィが頭の周りを忙しなく飛び回っている。


「そんなの、あの人たちが食べちゃったんだよー」

「あの人、たち?」


 リリィはギルドメンバーの事は名前で呼ぶ。俺はユウ、ヒカルはヒカル、セッカはセッカ、ムラマサはムラマサと。

 だからあの人などと呼ぶのが誰かということになるのだが。


「シシガミ? それに残りの三人も。どうしてここに?」

「自分たちはおまけですか……」

「ちょっと心外です」

「むぅ」


 自分の拠点に居るはずもない人物がいるのだからそれに関して訊ねることは自然なことだろう。ケチ臭いと言われるかもしれないが、シシガミたち四人が予備のカップでお茶を飲み作り置きしてあった菓子類まで飲み食いしているのだから、予想外な光景であったということは嘘ではない。


「ムラマサ達に誘われたのでな。こうして来たというわけだ」

「そう、なのか?」

「そうなんです」


 ヒカルが立ち上がり言い切る。


「別に迷惑とかそんなんじゃないぞ。ただ、居るとは思ってなかったってだけで」

「あれ? ユウには話してなかったのかい?」

「あ、そういえば、忘れてました」

「……うっかり」


 今日一日、工房に籠り切っていた俺の方が問題といえばそうなのだが、一言あってもいいんじゃないかとも思う。無論それでシシガミたちの来訪を断るという話でもない。そういう意味では一言あろうとなかろうと結果としてこの光景になっているということになるのだけど。


「まあ、いいけどさ」


 現状に不満がなのだから、それはそれと思うことにして、俺は机の上に置かれているカップとソーサーを横に退けた。

 そして持っている三種の武器を置いた。


「とりあえず何か不具合があれば言ってくれ。直ぐに修正するからさ」


 それぞれが武器を持ち、何回か試しに振ってみる。すると各々納得したように頷いたり、微笑んだりと、中々好評を博したようだ。


「うむ。問題ないな」

「いい感じです」

「……かんぺきに元通り」


 装備の修繕を任されたのだから元通りにしたことで問題ないとはいえ、本来の俺の俺の鍛冶は強化を基軸としてとしてやってきた。そういう意味では元通りにして返すというだけでは物足りない、何かちょっとでも強くして渡したいと思ってしまうのは生産職の性か。


「そういえばそなたらの装備の修復はユウが担っているのだったな」

「装備というか武器だけだがな。防具に関しては正直まだ胸を張れるほどじゃない」

「そうか」


 一応獣闘祭に向けて防具の強化を施しはしたものの、正直それがちゃんとした防具の強化になるとかと問われれば答えは否だ。

 どうしても本職の人に任せた時に比べると見劣りしてしまう。

 本職とは何かが違う。それは使う素材の選び方なのか、それとも強化を施すやり方なのか。強化をする人の腕前だと言われれば何も言い返すことはできなくなるのだが、その可能性も十分に有り得るということは武器の強化をいくつもしてきた俺としては理解している事実だと言わざるを得ない。


「シシガミたちの装備は自分のギルドで直したりしているのか?」


 それとも町の鍛冶屋に頼んでいるのかと、気になって思わず問いかけてしまったが、それも自分の強さの秘密に繋がることでもあり秘匿しているプレイヤーもいたことを思い出した。そういう意味ではマナー違反の質問のようにも思えるが一度出してしまった言葉を引っ込めることなど出来るはずもなく、俺はシシガミたちからの返答を微妙な表情で待つことしかできなくなっていた。


「その通りです。自分たちはギルドに所属している生産職のプレイヤーに強化と修理を専任してもらっています」


 答えてくれたのはボールスで俺は思わず言っても良かったのかと視線で問いかけていた。それにはシシガミが静かに頷き構わないと言ってくれたのだ。

 さらには餡子が、


「あ、そうです。皆さんの防具の修理がまだならわたしたちのギルドの生産職の方々にお願いしてみてはどうですか? いいですよね? シシガミさん」


 と提案してきた。


「問題ない」

「ありがとうございます。ってなわけでどうですか?」

「んー、私は遠慮しておきます」

「……私も、いい」

「どうしてですか?」


 即座に断りを入れるヒカルとセッカにリンドウは首を傾げ訊ねている。


「いつもお願いしている人がいますし、修理だけならユウが何とかできますから」

「それは本当なのですか? 今も防具は修理されていないみたいですし、正直修理をするならすぐにでもした方がいいはずですが」

「……それでも。簡単には会えなくなったとしても、やっぱりあの人にお願いしたいから」

「そう…ですか」

「ムラマサはどうするのだ?」

「オレも二人と一緒さ。申し訳ないけど今回は遠慮させてもらうよ」

「そうか」


 三人が三人断ったのだからそのギルドマスターである俺が受けるとは思っていないのだろう。一度視線で問いかけて来ただけで小さく首を横に振った俺に言葉では問いかけてくることは無かった。


「ねぇねぇ、お腹空いたってばー」

「わかった、わかった。何が食べたいんだよ?」

「ケーキっ!!」

「なんでヒカルが選ぶんだよ」

「別にいいじゃないですか。リリィちゃんもそれでいいよね」

「甘いなら何でもいいから、はやくぅ」


 いつの間にか起きてきたクロスケまでもホウと鳴き自分の分を要求してきた。


「少しだけ時間が掛かるぞ」

「出来るだけ早くお願い」

「わかった。シシガミたちはゆっくりしててくれ。皆の分も一緒に作ってくるからさ」

「良いのか?」

「この際作る量は問題じゃないから」

「だったら私がお手伝いしましょうか? こう見えて≪調理≫スキル持ちですから」


 リンドウが手を挙げて告げる。


「別に俺一人でも問題はないけど」

「手伝わせてくれ。ただ飯を食うだけでは申し訳ないのでな」


 シシガミの言葉にリンドウ以外もうんうんと頷いている。

 それを見てしまうと俺が頑固に断るのも空気を悪くすることにしかならない。


「そういうことなら、手を貸してくれるか?」

「任せてください」


 再び談笑し始める六人を余所に、俺はリンドウと並んでログハウスのキッチンへと向かった。

 廊下にでて少し歩くだけで着くその場所には俺がコツコツと買い集めてきた調理器具が並んでいて、隣に積まれた木箱には新鮮な食材が備蓄されている。

 食材の耐久度というものは装備品に比べると遥かに落ちやすく、消耗品の中でも長期間保存ができない部類に入ってしまうのだ。

 そういう意味でもここの食材はある程度保存がきく物を選んでいるとはいえど実際に購入したのは最長でも現実の時間で一週間前となっていた。


「凄い設備ですね。こう言ってはなんですけど構成員が四人のギルドの施設とは思えない充実度です」

「一つ一つが高級品とまではいかないけどな。鉄製の鍋や包丁なんかは鍛冶で俺が作れるからさ。一応まな板なんかも俺の自家製だぞ」


 俺が作れないのは大掛かりな調理台やかまどくらいで、それらは以前町に出た時に廃棄寸前の物を買い叩きそれを修理したという経緯を持つ。

 見方を変えれば全てに俺の手が入っていることもあって完全セルフスクラッチだとも思えるが、俺としたらゼロから作り上げてない時点で胸を張って自慢は出来ないと思っていた。それにこれもどうしても専門のプレイヤーに依頼した時に比べれば質が落ちてしまうのだ。

 鍋や包丁などはまだしも、大掛かりな設備はよく見れば粗が目立つ。

 かまどは火の調整が難しく、調理台も若干高さが俺に合っていない。何よりも改良を加えるくらいならいっそ専門の人に作り直して貰った方が速いと思えてしまうのだからやはり自慢できるようなことではないと感じる。


「謙遜しなくてもいいですよ。ほら、食材の目利きもいい感じですし」

「それはまあ、≪調薬≫スキルの賜物だな。薬草を見極めるのも食材を見極めるのも大した違いはないからな」

「結構違うと思いますけど」

「そうか? 薬草もある程度新鮮なものでなければ強い効果が出ることは無いし、食材だって一緒だろ。古いものはそれだけで味が落ちる。例外も無くはないけど、ここにある物は大概そういう種類のはずだ」

「確かに新鮮さが売りの物が多いですね。これなんかはその代表格です」


 リンドウが手に取ったのは瑞々しい葉物野菜。現実でいうならレタスに似た触感と味を持つそれはアイテム名を『アリーフ』値段も手頃でNPCや料理人のプレイヤーたちのすれば最もポピュラーな野菜の一つだ。


「作るのはケーキでしたよね」

「それがヒカルとリリィ、多分セッカもだけど、あいつらのリクエストだからな」

「ユウさんはお菓子作りが得意なのですか?」

「別に得意って訳じゃないさ。実際、現実では美味く作れないと思うし」

「でしたらどうして?」

「まあ、一番の理由がリリィにせがまれたってだけなんだけどさ。案外俺もそれが嫌いじゃなかったってことだろ」


 使い慣れた菓子作りの道具を並べならがそう答える。

 ここに備蓄してある食材の中で最も耐久度の減少が速いのもその菓子作りの材料となる乳製品だろう。しかし作る頻度の問題からか俺がそれを駄目にしたことは一度としてなかったのだが。


「さ、始めるぞ」


 ここからはいつも通りの手順だ。

 これまでの経験から砂糖などの調味料は目分量でも問題なくなってきている。


「流石に手慣れてますね」


 滞らない俺の手際に関心しながら次に使う道具や材料を手渡してくるリンドウも流石だと思う。余程普段から作り慣れていなければこうはいかないはずだ。

 そうしてベースとなるスポンジを型に流し入れてオーブンに入れ次に周りに塗るクリームを作り始める。


「聞いても宜しいですか?」

「何だ?」


 カシャカシャと生クリームをかき混ぜながらリンドウが話しかけてくる。


「獣闘祭の決勝です。どうして棄権なさったのですか?」


 昨日、火柱が上がりキメラ・バーサークが消失したことで俺たちとシシガミたちの合同パーティによるレイド戦は終結した。俺たちの勝利で。

 その際に得られたのは一体のモンスターにしては莫大な、それでいてレイドボスにしては少ない経験値だけでドロップアイテムの類は一つも、いや違う。一つしか落ちなかった。

 シストバーンがキメラ・バーサークになったきっかけでもあるアイテムのブローチが『狂乱のブローチ』として手に入ったのだった。二つのパーティなのに一つしか落ちなかったのは問題の火種になりかねないがこの時、俺たちはそれの所持を拒否した。曰くつきのアイテムであることを差し引いても手元には置いておきたくはない、そう思わせる性能がそれにはあったからだ。

 狂乱のブローチが持つ特異な効果は文字通りの狂暴化。それは装備者の攻撃力を高める代わりにある程度の思考を奪う効果を持つ、状態異常に分類されるそれが強制的に発動してしまうものだった。

 状態異常の種類や程度に係わらず俺はそれが発生するアイテムを装備したくはないし仲間にも付けて欲しくはない。自分のプレイスタイルによってはあまり影響を及ぼさない種類のバッドステータスならばあえて受け入れるという人もいる。しかし俺にはそれが納得できないのも事実だった。

 自分の考えを告げるとシシガミはそれを誰にも使わせないと言って受け入れてくれたのは感謝しかなかった。

 あらかたレイド戦の騒ぎが収まった時、バーニから入ったフレンド通信で告げられたのは中断されていた獣闘祭の続きをするか否かという相談だった。

 本来ならばそれは受け入れるべきことなのだろうが、俺はシシガミというプレイヤーの戦いを間近で見たことで自ら敗北を認めるという結論を出した。ムラマサたちに断りもなくそう言ったことに罪悪感を感じなかったわけではなかったが、それもヒカルたちからすれば別に問題がないということだった。ムラマサはシシガミたちと戦いたいという意思はありそうだったが、それもレイド戦で疲弊した今でなくてもいいというのが本音のようだ。

 獣闘祭の日程がもう一日残っていれば開催されていたであろう決勝戦も突発的なレイド戦と俺たちの棄権によって開催されることはなかった。

 若干尻切れトンボ感のある終わりだったが、こうして獣闘祭は終了したのだった。


「勝ち負け以前の問題だったってことさ。少なくとも俺はあんたたちに勝てる自分というものが想像できなかった。それだけだ」


 当然のように100%勝てる保証がある戦闘などはない。強引な例えばなしでもあるが今の自分でも最初期のエリアに出てくる初心者向けのモンスターですら条件が悪ければ負けることもある。それが例え確率にしては極々僅かであったとしてもだ。

 しかしそれは言い換えるならば100%負けると決まった戦闘が無いということ。今の自分からすれば明らかな格上の相手でも勝てる確率は零ではないのだ。

 それを理解していながら俺はシシガミたちとの戦闘を避けた。

 臆病風に吹かれたと罵られてもいい。それでも戦うのならば万全の状態で戦いたい、俺は自分でも気付かぬ内にそう思ってしまっていた。


「よし、焼き上がった」


 ベストな色合いに焼き上がったスポンジケーキをオーブンから取り出して粗熱を取っていると、甘い香りが調理室の中に充満した。


「俺は付け合わせの果物を切るから、リンドウはそこのクリームを塗ってくれるか?」

「その分担は逆の方がいいんじゃないんですか?」

「問題ないさ。これまで見てきた感じだとリンドウの腕も中々だからな」


 自慢気に言う訳じゃないが俺のお菓子作りの腕は低くない。無論ゲームの中の話で≪調理≫のスキルの恩恵もあっての話だが。

 少なくともゲームの中ではそれなりの経験値を誇る俺でもこの僅かな時間共に調理しただけリンドウの手際の良さと食材の調理の仕方が手慣れたものだと感じていた。俺以上だとは言いたくはないが、おそらくは俺がリンドウを上回っていると自信をもって言えるのは菓子作りに関してだけになってしまうだろう。


「これでいいですか?」

「ああ。良い感じだ」


 綺麗な焼き色の付いていたスポンジケーキが白く変わっていた。全面余す所なく塗られたクリームには塗り斑は無く、やはりリンドウの腕は俺が想像した通りだったらしい。

 真っ白いケーキが一口サイズに切られた瑞々しい果実で彩られていく。

 シンプルな外見だったそれが今では色鮮やかな数種類の果実によってカラフルな様相へと変化していた。


「先にこれを持って行ってくれるか? 皿やナイフなんかは向こうにも予備があるからそれを使ってくれればいいから」

「ユウさんはどうするのですか?」

「俺はもう少し何か作ってから行くよ」


 ケーキ作りに使用した器具類は水に浸けることで瞬時に綺麗な状態へと戻る。

 これもゲームならではの特性なのだが、洗い物の手間が省けると調理を習得しているプレイヤーに好評なのも確かだった。


「あの、私がこんなことを言うのはお門違いのような気もするのですが」

「何だ?」


 綺麗になった器具の水を拭き取りながら聞き返す。


「これだけ大きなケーキなのに足りないのですか?」

「みんな意外と大食いなんだ」


 肩を竦め満面の笑みでケーキを食べていく仲間を顔を思い浮かべてふっと顔が緩むのを感じた。

 たった今俺とリンドウが作り上げたケーキはログハウスにある一番大きな皿に盛ってちょうどいい大きさ。センチで言えば確か40センチくらいだったか。

 高さも二十センチ以上と、市販の平均的なものに比べれば些か巨大を評しても悪くない大きさなのだが、それが十分な量ではないことはこれまでの経験が物語っていた。

 ヒカルやセッカやムラマサは自分たちの食べる量をある程度は自分でセーブするということができるが、リリィとクロスケはそうではない。なんというか食欲の赴くままに俺が作った菓子類を消費してしまうのだ。その勢い足るや。あの小柄な体のどこに収まるのだろうと疑問に感じてしまうほどだった。

 無論、三人も好きなだけ食べてもいいと言うと好きなだけ食べることには変わりないのだが。

 ケーキに続けて別の菓子を作り出そうとする俺にリンドウはどこか驚いたように目を丸くし、


「それでは、これを先に持って行きますね」

「ああ、頼んだ」


 落としてしまわないようにと慎重にケーキを運ぶリンドウの後姿を見てふと思い、俺は思わずに告げていた。


「ああ、それと。決勝を棄権した理由は欲しかったものが手に入るかもしれないと解ったからなんだ」


 俺の言葉はどういう意味だと聞きたかったのだろう。リンドウが軽く振り向くと目を伏せて言葉を呑み込むようにして去って行った。

 この時、質問されていれば俺は答えていただろう。それでもいいと思ったし、リンドウたちに隠すことでもない、そう思ったから。

 だが聞かれてもいないのに答えることはしない。

 それが個人の事情であるからなおさらだ。


「さて、時間的にも足りなくなるのは確定なんだよな」


 シシガミたちが居るのは想定外だったものの、この後に来る来客の分も考えるとあのケーキだけでは足りないのは明白。お茶菓子を用意してまで出迎える相手なのかどうかは解らないが、準備しておいて損はないだろう。

 何よりここにリリィたちが居れば菓子の類は自動的に消費されてしまうのだから。


 俺が調理場から皆のいるラウンジに戻ったのは、二種類のパウンドケーキとクッキーを作り終えてからになってしまった。

 その頃には既に先に作っておいたケーキの大半は皆の腹の中に納まってしまった後だったのだが。


「遅かったねー。もうケーキ無くなるよー」

「追加を持ってきて正解だったみたいだな」


 テーブルの上と皆の顔を見回して苦笑交じりに告げる。


「こっちは全部食べるんじゃないぞ」

「へ? なんで?」

「この後に来る客の分も含まれているからだ」


 そう言って俺は切り分けていない二本のパウンドケーキと焼き立てのクッキーをテーブルに置いた。


「客? だったら俺達はこれで帰った方が良いのか?」

「いや。シシガミたちが同席しても構わないんじゃないか? ある意味シシガミたちも当事者であることは間違いないんだし」

「ふむ。もうそんな時間だったのか。話が盛り上がり過ぎて忘れてしまっていたよ」

「あ、あの。誰が来るんですか?」

「そうだな。今回の獣闘祭の開催責任者と領主候補、その人だ」


 ニヤリと笑い告げてから十数分後。ようやく俺たちのログハウスに待ち人が来たる。


「時間通りであってますよね?」

「ああ。ピッタリだ」

「お邪魔します」


 玄関のドアを開けた先にバーニとローズニクスが並んで立っていたのだった。



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