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キソウチカラ ♯.34

 このレイド戦における奇妙な事というのがあるとするならば、そしてそれがキメラ・バーサークのHPの減り方だというのならば同じようにキメラ・バーサークのHPの回復速度も奇妙であり異常など言うしかない。

 モンスターの中には自己修復能力を持つものがいる。

 状態異常の回復だったり、HPの回復だったりするのがそれに該当する。

 しかしキメラ・バーサークがそれを持つとなれば面倒なことこの上ない。何よりもその回復速度がこちらの攻撃速度、与えるダメージ総量よりも上回っているのだから、このままでは勝つことができないのは明白だ。

 一応は俺が本格的には戦闘に参加していなかったという事実もあれど、残る七人のプレイヤーが与えるダメージの総量に俺一人の分だけが追加されるだけで劇的な変化が現れるとは思えない。

 それでも、俺は戦うことを選択するしかないのだった。

 ここで逃げて、負けて、諦めて、キメラ・バーサークの討伐を誰かの手に委ねるのはとても無責任な気がしてならない。

 だからこそ俺は勝つための方法を考える。

 攻撃を強力なものに変え与えるダメージを増やせばいいのだろうか。

 いや、駄目だ。

 強力な攻撃はそれを繰り出すまでに通常の攻撃よりも長い時間を要する。それが例え数秒の差であったとしても戦闘の全てをそれで行うとなれば話は別。普通は通常攻撃の中に必殺の一撃を織り交ぜるのが常、全ての攻撃を必殺の一撃にするなどという慣れないことをすれば確実に不協和音は出てきてしまう。

 勝てる保証のない相手に勝たなければならない状況では避ける必要があることだ。

 他の方法を模索する。

 出来ることは有効な攻撃属性を見つけ出すことだろう。ムラマサがいるから浮かんできた案の一つだが、これの問題は有効な攻撃が出来るのがムラマサ一人になる危険があるということ。それではレイド戦に勝てるはずがない。

 だから、俺が選んだ戦い方は・・・・・・全部だ。

 ムラマサが攻撃に載せる属性を変え、有効属性を探し、俺たちは持ち得る最大のアーツを使いダメージを重ねていく。

 そうしていくことで、二十分近い時間をかけることによりどうにかキメラ・バーサークの一本目のHPバーを消失させることができた。


「残り四本っ」


 シシガミが俺たちにまで届く大声で叫んだ。

 俺たちにとって朗報だったのは消失させたHPバーは再び再生しないということ。

 これによりキメラ・バーサークの残る四本のHPバーを削るのには着実に一本づつ消失させていけばいいのだと知ることができた。


「何だ? 手応えが変わった…だと?」


 ムラマサの戸惑う声が聞こえてくる。

 一人でキメラ・バーサークに有効な属性を探していた彼女が戸惑いを見せたということはそれが見つかったのかと期待したがどうやらそうでは無いらしい。


「どうした?」

「それが――」


 一本目のHPバーの時には効き目の薄かった属性が効くようになっているらしい。

 運良くと言えば戦いやすくなったのだが、この事実によりキメラ・バーサークの弱点属性がそのHPバーの本数により変化するということが判明した。


「ユウ、どうする?」

「今有効な属性は?」

「火属性だ」

「わかった。それならこのHPバーはさっさと押し切ろう」


 奇しくも火属性は属性攻撃の中でも一般的な部類に入る。俺たちの中ではムラマサと、程度が低いが属性を載せるだけならば俺にもできることだ。ヒカルとセッカは本来の戦い方には攻撃属性を載せる機会はないために使えないが、シシガミたちならば少なからず可能なプレイヤーもいるはずなのだ。


「シシガミ! ヤツに今の有効な属性は火だ。使えるなら攻撃に混ぜてくれ」

「相解った」


 シシガミが口を動かすのが見える。どうやら仲間に属性の事を話しているらしい。

 リンドウ、ボールス、餡子の三名はシシガミから告げられた事実に一瞬だけ嬉しそうな顔をして、すぐにまた表情を変えた。俺が言った『今の』という言葉の意味をシシガミから伝えられたのだろう。その為に喜んで良いのか悪いのか判断し兼ねるというのが本心のようだ。


「……私がみんなの回復するから」

「いいのですか?」

「……任せて」


 話す声は小さくともセッカの声はとてもよく通る。そんなセッカが言い放った一言に真っ先に反応して見せたのはシシガミのパーティで魔法をメインに使うボールスというネズミの特徴を持つ獣人族のプレイヤーだった。

 ボールスの武器は杖や魔導書ではなく錫杖。魔法を使うための武器であるからその形はあまり重要ではなく、セッカが使うメイスとの一番の違いは近接武器としての性能だろう。メイスがハンマーのような打撃武器だとするならばボールスの使う錫杖は使えて棒術くらいだろうか。その耐久度にもよるが完全に魔法を使うための武器と考えて間違いないはずだ。

 残る二人の使う武器も珍しいと言えば珍しいものだろう。

 リンドウが使っているのは刀身が細く長いレイピアと呼ばれる武器でこれは直剣を鍛錬し直して作れるものだ。武器が変われば同時にそれまで使えていたスキルが対応しなくなることもままあるが、このレイピアという武器はその傾向が顕著に表れる武器として代表格になっていてそのせいか未だ使用者があまり増加していない武器種でもあった。

 餡子が使っているのは一見するとハンマーのようにも見えるが、その実この武器種は鍛冶鎚と呼ばれる俺が鍛冶の時に使う片手サイズの金槌をそのまま巨大化させたような武器だ。他のハンマーとの違う特徴となるのはその柄の長さと鎚の部分の形。柄の長さはどこかの槍のようで鎚の形は昔からあるおもちゃのピコピコハンマーとよく似ている。無論材質はプラスチックなどではなく、金属製となっているが。


「今はこのままでもいいかもしれないが、次の段階に突入したときはどうするつもりだ? 今回は単純に運が良かっただけだろう?」


 ムラマサが俺に聞いてきた。

 その懸念は当然の事だろう。効果のある属性を探すとなれば一つの属性ごとに攻撃を当ててみる必要があり、当然その度にMPを消費してしまうことになる。

 消耗されていくMPとアイテムや武器の耐久度。勝てる、と言い切れない状況が俺たちにジリ貧という言葉を突き付ける。


「少なくともあと三回は弱点属性を探すとなれば、正直に言って大変を通り越して困難だとしか言えないな」

「わかってる。けど、今はそれしか方法が――」

「無いというのも分かっているさ。だが、弱点属性を見つけ続けられたとはしても最後まで同じことが通用するとはオレにはどうしても思えないんだ」


 モンスターの行動がHPを減らしたことにより変化することはそう珍しくない。何本ものHPバーを持つボスモンスターならばその大半が行動変化を起こすとみて間違いないだろう。

 今はまだ無茶苦茶に暴れ狂うだけだが、それがどのようになるのか想像もつかない。


「そう…だよな。アイテムも使い切る可能性もある…みたいだからな」


 俺たちの中ではHPを回復させているセッカと属性攻撃を繰り返しているムラマサが一番早くMPポーションを使い切る可能性が高く、残るのは俺とヒカル。俺は≪ブースト・ブラスター≫と≪ブースト・アタッカー≫を使い分けることでそれなりは自己回復できるが、それで十分だとは言えないのは解り切っていることだ。

 ダメージ量とMPの使用量が回復量を上回り、いずれアイテムを使わざる得なくなるのは間違いない。


「出来るだけ早く突破口を見つけ出してくれよ」


 刀身を地面と水平に構えるいつもの動きをして、刀に火属性を宿すとムラマサはキメラ・バーサーク目掛けて走り出し戦闘に加わって行った。

 四方八方からの攻撃を受けキメラ・バーサークは苦痛に叫びを上げる。

 火の属性を持った攻撃を行っているのは俺たちのパーティでは俺とムラマサ。シシガミのパーティでは驚くことに全員が攻撃を火属性のそれに置き換えられていた。

 ボールスは火の魔法、初歩的な火の弾を撃ち出すものだったが、それでも有効な攻撃には違いない。少なくないダメージをキメラ・バーサークに与えることに成功しているようだ。

 二本目のHPバーは俺の想像通りそれほど苦労なく消失させることができた。

 現段階で気を付けなければならなかったのはキメラ・バーサークの攻撃に当たらないようにするだけ。こちらの攻撃が効きやすいのだから削りきるにはそれほど時間は必要なく戦いやすかったとも感じられた。

 しかし、そんな状況も三本目のHPバーに突入したその瞬間に終わる。

 想像通りこれまで効果のあった火属性の攻撃も大したダメージを与えられなくなり、弱点となる属性が変わったことを物語っていた。


「普通のレイド戦でもこんなに面倒じゃないぞ」


 レイド戦の経験など数えるほどでしかないとはいえ、今回の戦闘はそれよりも困難であると感じていた。

 通常のレイド戦というものは戦う相手のモンスターが巨大でそのHPの総量もかなりあって、攻撃も強力で一撃をもらうだけでも戦闘不能に追い込まれかねないという、どうやら今と大して変わらない状況のようだ。


「俺たちの手札は変わってはいない。だから変えられるのはその使い方」


 そもそもダメージを与えるのに強力な攻撃でなければならないということから考え直すべきだ。

 攻撃が当たればダメージになる。それはどのような存在だろうと変わらない不文律だ。違うのはそれが多いか少ないか、容易なのか困難なのか。

 まず思い出すべきはモンスターには属性の他にも弱点が存在するということ。それは狙うべき場所であったりもするし攻撃する武器の種類であったりもする。

 何も弱点が無いように見える敵でも詳しく検証を繰り返していればいつか明確な弱点が露呈するものなのだ。

 それを纏めているウェブサイトや何かがあるのも知っているし、以前はそれを見ていたこともある。その時点で自分に必要な情報を見つけることが出来たこともあったが、今では適した情報を探すのが面倒になり見ることもなくなっていた。

 何事も自分の目と耳で確かめた方が捗るというのが俺の結論だった。

 しかしキメラ・バーサークに限ってしまえば再び検証するまでの間隔が短すぎる。その原因が残っているHPバーの本数で変化するモンスターの性質のようなものなのだから対峙しているだけのプレイヤーである俺たちにはどうすることもできないことではあるのだが。


「ムラマサたちが弱点属性を探しているみたいだけど」


 あまり捗っていないというのが実状のようだ。


「言われた通り何か見つけられればいいんだがな」


 運が良いことに俺たちが使っている武器に同じものは一つとしてない。

 一応武器系統で言えば斬撃系、打撃系、魔法専用という区分がありその枠組みで言えば同じものはあるのだが実際に使っている武器はバラバラだった。斬撃系では俺の使う剣形態の剣銃、ヒカルの使う短剣、ムラマサの使う刀、リンドウの使うレイピアがあるがこれは斬るというよりも突くことに特化した剣だ。刀身の長さから使うスキルに至るまで違いがあるからこそ別の武器と判断しても問題はない。打撃武器に関しても同じだ。セッカが使うメイスにシシガミがその手に付けている手甲、餡子が使う鍛冶鎚もそれぞれが違う攻撃手段を持っている。残るボールスの錫杖だが彼女は魔法を使うのでその武器で直接攻撃を加えることは稀で武器としてはカウントしない方がいいだろう。

 それぞれの攻撃が命中しても使うプレイヤーが違うのだから与えられるダメージも違う。仮にどれかが現時点の弱点攻撃になっているとして、その一人に任せきりにするわけにもいかないと言えばいかないのだ。

 やはり全員に効果がある何かを見つけられないと意味がないのかもしれない。

 一人思案しながら戦う俺の耳にシシガミの声が聞こえてきた。


「攻撃に集中するのもよいが、ダメージには気を付けろ、セッカの回復だけに頼っていてはいつかは追い込まれてしまうぞ」

「……回復は追いついている、よ?」

「そなたはMPが枯渇しかけているのではないのか?」

「……まだ、ポーションはあるから」

「ならば今はなるべく節約していろ。レイドボスモンスターというのは大概にして最後のHPバーに突入した瞬間にそれまで以上に変貌するものだ」

「……ん。わかった」


 セッカが素直にシシガミの言うことを聞いている。

 シシガミは暗に魔法を連発しているボールスと様々な属性を載せた斬撃を放っているムラマサにも言っているようだった。

 検証の名のもとに効果が薄い攻撃も繰り出さなければならない二人は俺の想像よりも早くMPを使い切り、その度にMPポーションを使用しているみたいだ。

 足元に投げ出される空になったポーションの空き瓶が砕け消える。

 俺は残骸が残っていないから気付かなかったこともシシガミはしっかりと把握しているらしい。あれが戦闘系ギルドの長の眼なのだと思うと頼もしい反面、自分の観察眼の未熟さに悔しさを感じていた。


「ユウ、どうにかできそうですか?」


 キメラ・バーサークから離れMPポーションを瓶を片手に近づいて来たヒカルが疲れを滲ませた目を向けてくる。

 俺になんらかの策が浮かんだことを期待しているみたいだが、生憎と名案のようなもの何も浮かんで来ない。

 無言のまま首を横に振る俺にヒカルは何も不満を言わずに笑顔を作り、


「大丈夫です。ユウなら何か必ず見つけられますから」


 そう言い切って再び戦場に戻って行ったのだ。

 俺に向けられている信頼に応えたいとは思う。しかし思っているだけでは何も現状に変化など起こるはずもない。

 自分の力の足りなさに奥歯を噛みしめる。

 何か…何かないものか。

 必要なのだ。この状況を変える、何かが。

 キメラ・バーサークを注意深く観察しながら剣銃を振るう。

 振り回される腕に合わせて反撃を繰り出していく。カウンターのような攻撃が決まる。半ば自己防衛のための行動だったが不思議と綺麗に命中していた。

 腕に斬撃による傷が刻まれる。


「そのような大振り、当たるわけなかろう」


 シシガミがキメラ・バーサークの拳に自分の拳を打ち合わせた。

 空気を振るわす衝撃を起こしながら動きを止めるキメラ・バーサークの背中にムラマサとヒカルが同時に斬りつけ、無防備になっている足にリンドウがレイピアを使い鋭い突きを放っていた。

 だが、背中の傷は即座に修復され、キメラ・バーサークの足を狙った突きはまるで鋼と打ち合ったかのように弾かれてしまっていた。


「くっ、硬い」


 手が痺れるような反動に顔を顰めながらリンドウが呟いた。


「やはりここも効果が薄いみたいだね」

「すぐに治っちゃってますよ」


 やはりというからにはヒカルとムラマサにとってはこれまでも目にした光景なのだろう。それだけに悔しそうにしながらもどこか当たり前のように感じているその表情はもはや慣れた事のようになってしまっているからようだ。


「させはせんっ」


 背中を切りつけていた二人は即座にキメラ・バーサークの近くを離れたようだが、慣れない手応えに戸惑っているリンドウは違った。次の一撃を打ち込む場所を探すためにその場で立ち止まってしまっていた。シシガミと組んで戦うほどのプレイヤーだ。普段ならばそのような迂闊な真似はしないはず、しかし実力があるが為に自分の力が全く通用しないという経験を、それこそレベルが上がり装備を強化した今となっては久しい感覚なのだろう。

 キメラ・バーサークの拳が迫ってきても動けなかったのはそのせいだ。

 そんなリンドウの前に出たのはシシガミ。

 先ほど拳を打ち合わせたのと同じように、今度もまたその拳でキメラ・バーサークの拳を打ち返していた。


「そういうこと…なのか」


 探し求めていた手掛かりが掴めた気がした。

 三本目のHPバーに突入してようやくまともにダメージを与えることができたのだ。


「見つけたぞ」


 俺は真っ先に仲間のもとに駆け寄っていた。

 シシガミはリンドウを連れて俺たちとは反対側となるキメラ・バーサークを挟んだ向かいで集合している。警戒は微塵も解いてはいないまま俺の声が聞こえるように攻撃の手を止めて静かに息を顰めているようだった。


「聞いてくれ。今の状態のキメラ・バーサークの弱点は属性でも武器でも攻撃を加える場所でもない。攻撃をするタイミングだったんだ」


 それが俺が気付いたこと。多分拳を合わせたシシガミも気づいているのかもしれないが、だとすれば俺は尚更この可能性に自信を持つことができるというものだ。

 三本目のHPバーで変化したキメラ・バーサークはある意味俺たちの攻撃を完璧に防いでいた。自己修復のスピードが俺たちの攻撃が与えるダメージを上回っているのだから効果は無かったとすら言っていいだろう。だが、それがプレイヤーに絶望を与えるのだとしても、こうして向き合うと何となくだが感じてしまうのだ。ある一つの違和感がそこにはあった。なんと言えばいいのか、プレイヤーの敵として存在しているモンスターにしては完璧過ぎる防御能力を発揮していると言ってもいいのかもしれない。それでは勝つことは出来ない。勝つことができなければゲームとしては成立していない。ゲームであるのならたとえ困難だとしても勝てないは赦されないのだ。

 だからこそ何処かに突破口があると考えられていたということも事実なのだが。

 何がともあれキメラ・バーサークにはちゃんとした倒し方が存在した。

 シシガミの拳が与えたダメージは回復することなく、減ったまま。それは俺が剣銃で斬りつけたときのダメージも同様だ。

 回復するのはカウンターのタイミングで与えた攻撃以外のダメージのみ。

 本来ならばこれを検証する必要があるのだが、今はシシガミの二度のカウンターと偶然の俺の攻撃で十分すぎる結果を得ている。

 後は皆でそれを狙って攻撃すればいいだけだ。


「だったら私が囮になって攻撃を引き出します」


 機動力に自信があるヒカルが真っ先に言った。


「私もヒカルさんと一緒に行きます。ですから攻撃はお願いしますよ」


 リンドウも自ら志願して囮役となってくれるようだ。

 双方のパーティから一人づつ囮役が居れば十分俺たちが攻撃を加える機会は作り出せるはずだ。


「……回復は任せて」

「ボールス、そなたも回復に集中するのだ」

「分かっていますよ。セッカさんだけに任せたりはしません。自分だってシシガミのパーティのヒーラーですからね」

「うむ」


 真っ先に駆け出したヒカルとリンドウを見送り、セッカとボールスは真剣な眼差しで二人の様子を窺っている。

 二人の目には囮役を買って出てくれた仲間を死なせるわけにはいかないという強い意志が込めらえているのだった。


「オレたちが攻撃の要となるんだね」

「そうだ。だからタイミングは外すなよ」

「ふっ、誰に言っているんだ」

「心配は要らないか」

「向こうだってそのようだよ」


 シシガミと餡子はそれぞれ左右に分かれ絶好の機会を待っている。

 体制を低く構えるシシガミと、その鍛冶鎚を野球のバットの様に持つ餡子は先の二人同様にその一瞬を見逃さまいと真剣な眼差しを向けているのだ。

 それから俺たちは息を殺し、その一瞬を待ち続けた。

 ヒカルとリンドウが縦横無尽に動き回り、キメラ・バーサークの攻撃を誘い出しているがそのどれもが様子見のような一撃でしかなく大きな隙を誘い出すのには難儀しているみたいだ。

 じっと待ち続ける。

 キメラ・バーサークの腕が振り回されると次の瞬間、勢いよく地面に叩きつけられたのだった。


「今だっ」


 それが誰の声だったのか。

 俺もムラマサも、シシガミもリンドウも、この場に居る誰もが待ち続けた瞬間が訪れると思わずと言った様子で声を出していた。


「待ちに待った一撃だ。この攻撃は痛いぜ」


 キメラ・バーサークの攻撃の刹那を狙って仕掛けられる全ての攻撃が光を放つ。

 四つの閃光の後に降り注ぐ二つの魔法。そして最後に加えられるもう二つの閃光がキメラ・バーサークに命中する。

 平常時に極端な防御力の上昇の反動なのか、攻撃が効くその瞬間にだけはいつも以上に防御力は低下しているようだった。

 瞬く間に減少を見せるキメラ・バーサークの三本目のHPバーがガラスが割れるような演出を伴って消失した瞬間だった。



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