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キソウチカラ ♯.33

 正規の手段ではない。そう言われたとしても直ぐにそれを信じることなど出来るはずが無かった。


『信じられはしませんか?』

「当たり前だ!」


 戦闘が進み、それぞれが自分に適した戦い方を見出し始めるようになっても俺は相も変わらず銃形態の剣銃で少し離れた場所から銃撃を行うのみ。

 それも今は自分一人にだけ聞こえるシラユキの声に反論するあまり動きを止めてしまっていた。


「合成獣化はあまりにも大きな変化だ。それが失敗作などと言われても到底信じられるわけがないだろ」

『ですがそれが真実なのです』

「だったら……成功作はなんだっていうんだ?」

『さあ? 何でしょう?』

「フザケているのか」

『まさか。私は真剣そのものですよ』


 フレンド通信では相手の姿が見えないとはいえ、この時のシラユキの表情は変わらず平然としたままなのだろう。

 聞こえてくる声の調子も淡々として平然としたままなのだからおそらく間違いないはずなのだ。


『ただ、味方ではないあなたにおいそれと話す筋合いはないと思いますが』

「それはそうだろうけどさ、説明してくれるんじゃなかったのか?」

『では一つ。あなたはアイテム製作のスキルを持っているのでしょう』


 再びその言葉に驚き息を呑む。

 俺の反応が通信越しにも伝わったようでシラユキはそれを肯定したととり言葉を続けるのだった。


『だったら知っているでしょう。どんなに優れた薬でも使い方を誤れば毒になるということを』

「…ああ」


 思わず俺は頷いていた。

 自分がポーションを作る≪調薬≫のスキルを持ち、日常的に使用しているからこそシラユキの言いたいことは間違いではないことを知っていた。

 使い方という言葉の中にはその状態に応じて的確なポーションの種類を選ぶということ以外にも使用する量やアイテム製作時に必要な薬草の種類等々、ありとあらゆる意味が含まれているようだ。

 今回に限れば使用方法か、それとも使用する量か。はたまたその両方か。

 結果としてシストバーンは合成獣『キメラ・バーサーク』とになり、シラユキはそれを失敗作と評した。


『一つ宜しいですか? これは私の勘なのですけど、あなたはこの一連の変化を正規のアイテムによってもたらされたのではないかと考えてはいませんか?』


 この一言に対しては俺はどのような反応を返せばいいのか、咄嗟にそれを判断することができずにいた。

 正規のアイテムではないアイテム。それは表と裏の市場に流通している不正規ツールを用いて作られる俗にチートと呼ばれる類の物。

 プレイヤーあるいはNPCを別の姿に変えるアイテムは俺たちが使っている『幻視薬』でも同じだと言えるかもしれない。しかし『幻視薬』はあくまでも外見だけを変えるもので、更には変わっているように見せているだけのアイテムだ。

 それもこのゲーム内で手に入れた素材からゲーム内にある道具を使って作成しているもの。

 しかし、ゲーム内であるからこそ、それはデータの一つに過ぎず、データであるが故に外部からも手が加えられる可能性があるものであった。

 キャラクターの実際の体。そしてその精神までも変貌させてしまうアイテムが正式なものとしてこのゲームに実装されているアイテムだとは思えないのが俺が何らかの不正を疑った理由でもあった。

 だが聞こえてくるシラユキの声はその可能性が不快だとでも言わんばかり。寧ろそのことに俺が気付くようにわざと語気を強めているようにすら思えるのだ。

 震える声で、俺は追及の言葉を吐き出した。


「違う証拠はあるのか?」

『証拠ですか。シシガミというプレイヤーが拾いあなたが検証を依頼したブローチにそのような情報が記されていましたか?』

「気付いていたのか」

『証拠も無いというのに疑うのですか?』

「俺が調べるように頼んだあの一つだけが何の細工も――」

『あの時点でキメラ化した唯一のプレイヤーの所持品ですよ。チートを疑うのでしたらあれが最もその可能性が高い物であると解っているのでしょう』


 シラユキの言う通りだと思った。

 今、合成獣化しているシストバーンを除けば唯一合成獣に変化したのがあのプレイヤーだ。他のプレイヤーに何もなくても合成獣化したプレイヤーには何かがあった。そう考える方が自然で、反対である可能性の方が低いくらいだ。


「だったらどうしてあんなことになっているんだよっ」


 苛立ちを堪えきれなくなって俺は叫んでいた。

 戦闘に集中しているはずの仲間の視線が一瞬だけ俺に集まると、すぐに元に戻った。俺もその視線に気付いてはいたものの、今は冷静になるように気持ちを落ち着かせる方が第一だ。


『一般的な回復アイテムでもあるポーション。それもアンデッドに使えば攻撃アイテムに変わることは知っていますね』


 溜め息を吐く。

 俺は無言でもそれを肯定だと取ったのかシラユキはそのまま話を続けるのだった。


『でしたら能力上昇アイテムを誤った方法で使用した場合どうなるのかはご存知ですか?』

「…知らない」


 俺は自分でパラメータの底上げができるスキルを有している。というよりもそれを自身の戦闘の基本にしているのだからある意味では最も縁遠いアイテムであることも間違いない。

 その為にそういう効果を持つアイテムの存在があることを知っていたが作ろうと思ったこともなかった。結果的には能力上昇系のアイテムを作らずに他のアイテム、例えばHP回復ポーションやMP回復ポーションや状態異常回復薬などばかりを作っていたために、それぞれの効果を高め種類を増やすことはできるようになっていたのだが。


『能力上昇アイテムの誤った使用方法は基本的にはありません。使えば使うだけそれぞれのアイテムにある上限値までは使用者の能力を上げることができます』

「それと合成獣化にどんな関連性があるというんだ?」

『気が早いですね。説明はまだ終わってはいません』

「あ、すまない」

『構いません。能力上昇アイテムですが使用する量は大して問題にならないのですが、今回問題となるのは使用者の種族とアイテムの組み合わせです』


 顔を見合わせて話していれば俺の頭に浮かぶ疑問符に気付いたことだろう。


『ここに居るのは獣人族ばかりですからね。出来ることはアイテムの組み合わせの検証くらいでしたが、そうですね、中々のものでしたよ』

「随分と嬉しそうな声をしているな」

『ええ。それはもう、想像以上でしたから』

「それは合成獣化のことを言っているんだろうな」

『勿論です』

「それなら失敗作っていうのは間違いなんじゃないのか?」

『いえ間違いではないですよ。ですが結果がどうであれ、私の実験にはある程度の成果を得ることができました』

「キメラ・バーサークがその成果の一つだっていうのか」

『ええ、失敗作であることに変わりはないのですけど』


 元々の目的が何であれ、あのモンスターを生み出したのは偶然でしかないということらしい。


『さて、あなたが聞きたいことは他にありますか』

「あるぞ。二つだ。まず一つ、合成獣化の条件。それと二つ目がこれから先もアンタは今回と同じようなことをするつもりはあるのかどうか」

『そうですね。二つ目の質問ですけど、ありませんよ。これ以上はする意味がありませんから』

「意味がない?」

『その通りです。重ね重ね言うようですが私はもう十分過ぎる成果を得ていますから。これ以上は必要が無いのです』

「…だから引いたってわけか」

『まあ、そう取ってもらっても構いません』


 獣闘祭の本戦の勝利の可能性を簡単に棄てた理由がそれだというのなら遺憾ながらも納得できてしまう自分がいた。

 生産職だけに通じる何かとでも言えばいいのか。自分の作ったアイテムの効果の程を確かめたい、そう思ってしまうのも無理はない。俺だってそうだ。違いがあるとすればそれを自分で試すのか他人を使って試すのかという一点のみ。

 そこが何よりも重要なのだと感じるのは俺とシラユキとの考え方の違い故なのか。


「なら一つ目だ。合成獣化の条件。それを教えてくれ」

『そうですね。秘密、にしておきましょうか』


 初めてシラユキの声のトーンが変わった。

 それまで俺を値踏みするかのようなものから、俺をからかっている時のようなものに。


『ヒントは十分に与えましたよ』

「使う人の種族と使用する能力上昇系のアイテムの種類の組み合わせ、か」

『ええ。後は使った者がプレイヤーであるか、そうではないか』


 そうだ。思い起こしてみればプレイヤーが合成獣化したときとシストバーンが合成獣化した時ではそこに明確な違いがあった。

 プレイヤーの時も全身が変貌したとはいえまだ元の面影があった。それに比べてシストバーンは一種のモンスターなのだとシステムが認識するまでに変貌を遂げている。

 同じものが起因となっているはずなのに結果は同じではない。

 そんな違いを見極めることこそシラユキの目的だったのだと、ようやく俺は納得できた。


「そもそもアンタはシストバーンをキメラ・バーサークにしても良かったのか?」


 ふと浮かんできた疑問をそのまま口に出した。

 何が、何に対して良かったのかと訊ねたのか、それは思いを口に出して初めて気づくことができたものだった。

 俺たちはローズニクスから直接次期領主になるためのクエストを受けた訳ではない。それはバーニたちが受注したものだ。俺たちはバーニからその手助けを頼まれたに過ぎない。正式にクエストとして受けた訳ではなく、いわば口約束で手を貸すと言っただけ。

 しかし、シラユキはシストバーンから直接領主に関するクエストを受けていたはずだ。その内容も同じように自身を次期領主になるように手を貸すことであるはず。それならばクエストが成功となるのはシストバーンが次期領主となった時であるはず。

 獣闘祭をすんなりと降りたのだからクエスト一つの成否には大して興味が無いのかもしれないが、曲がりなりにもこれまでにも大々的に手を貸してきたクエストが自らの手で失敗に導くようなことをプレイヤーがするのだろうか。


「なあ、そもそもアンタが受けたクエストっていうのは何だったんだ?」


 これもまた何気なく浮かんできた疑問だった。

 自分の実験に成果が出たという事実はさておき、結局のところシラユキたちは獣闘祭では他の成果を得られず、受けたであろうはずのクエストにも失敗している。

 それでは一つの成果を得るために二つの失敗を受け入れることになる。そんなことをあのシラユキというプレイヤーがするだろうか。戦ってもなく、一対一で対峙したわけでもない。このほんの僅かな時間話をしただけの関係だったとしても、俺は少しだけだがシラユキの性格というものを知った。

 知ったからこそ、シラユキがこれで納得するとは思えない。少なくとも他にもう一つは何か成果を得ているはずなのだ。


『あなたが手を貸している者たちと同じ……と言っても信じられはしないのでしょうね』

「当然だ」

『ふふっ。では一つだけ。私たちが受けたクエストは問題なくクリアとなりましたよ』


 これで何度目になるだろうか。シラユキの言葉で驚かされ返す言葉を失っていた。

 クリアしたというのならばこれまでのシラユキたちの行動は成功までの道筋を違えることなく歩んでいたということになる。

 合成獣化……はシラユキの独断だとしても、それをシストバーンにまでも使い獣闘祭というプレイヤー発信の初となるイベントを滅茶苦茶にしたことまでもそうなのだろう。


「そのクエストを出した人は随分と趣味がいいんだな」


 勿論皮肉だ。

 プレイヤーが出したクエストとは違いシラユキが受注したクエストというものは運営側が出したクエストのはず、だからこそ意地が悪いと思ってしまっているのだった。


『それには私も同感です』

「受けるだけじゃなく完遂したアンタが言うな」

『それもそうですね』


 クエストの内容を考えることは、今になってはただの邪推になってしまうことだろう。今更意味がないことだと思うのは決して間違いなどではないはずだ。

 既にクリアされてしまったクエストをクリア前に戻すことなど出来ないのが決まっているように、既に始まってしまったレイド戦を始まるまでに戻すことも出来ないのだ。

 だから今、俺がシラユキから聞いている話は過去の話に過ぎず、更に言えば直接この状況に繋がっているのは過去の結果だけでしかない。意味が有るのか無いのかという話ですらなく、ただ単純に俺が気になっていたことを知ることができたというだけ。

 キメラ・バーサークは今も変わらずにムラマサたちと戦闘を繰り広げているのだった。


『そろそろいいでしょう。あなた方の勝利を祈っていますよ』


 そう言うとシラユキからのフレンド通信は切れ、俺のもとに彼女の声が届けられることはなくなった。

 集中しなければならない。

 シラユキの話は一度頭の隅に追いやり、目の前の戦闘に。

 強化を施していたおかげで俺のMPは銃撃を続けていたに関わらず以前ほど減ってはいない。精度を欠いていたとはいえど使い慣れた武器で行う手慣れた攻撃だ。急所を捉えることは出来ずとも命中させることには成功していたらしい。

 だがそこで新たな問題が出てくる。俺の銃撃も少なからずダメージを与えることに成功していて同時に仲間たちも絶え間なく攻撃を加えているはずなのにキメラ・バーサークのHPを思ったよりも削ることができていないのだ。


「もういいのか?」


 前線から一歩下がり、呼吸を整えているシシガミが声を掛けてくる。


「あ、ああ。すまない」

「気にするな。この瞬間でなければ話を聞くことのできない相手からだったのだろう?」

「ああ。キメラ・バーサークを作り出した張本人、と言えば解るか」

「うむ。それで何が分かったのだ」

「向こうが言うにはキメラ・バーサークは失敗作らしい」

「失敗作?」

「まあな。本来は使用者の能力を上昇させるのが狙いだったらしくてさ。だからあれは能力上昇系のアイテムのアイテムの誤使用が原因の一つで、あの状態になってしまったのは元がNPCであるシストバーンだからだということみたいだ」

「成程。リバウンドとかいうヤツか。それにしては大袈裟に思えるのだが」

「…リバウンドってなんだ?」

「知らぬのか? そなたは生産スキルを持っているのだろう?」

「残念だけど、俺はああいった能力上昇系のアイテムは作ったことが無いし、使ったこともないんだ。だから何か知っているなら教えてほしい」

「うむ。そうは言っても俺も良くは知らないのだがな。何でも自分に合わないアイテムを使うと効果が反対に現れ、時には状態異常になってしまうこともあるらしい」

「その状態異常がどんなのかは?」

「ある系統が出易いらしいが、一応は完全にランダムのようだ」

「出やすい系統ってのは?」

「狂暴化。まさにバーサークだな」


 キメラ・バーサーク。その名前が答えだったとは、想像していなかったと言えば嘘になるが、変化したのがNPCだったからだろうか、なんとなくプレイヤーが掛かるような状態異常には掛からないと思ってしまっていた。

 思い起こせばこの大陸に来て疫病という状態異常に掛かったNPCを数多く目にしていたというのにもかかわらず。

 忘れていた。というか何故それに繋げることができなかったのだろうと不思議に思ってしまう。思い出してさえいれば直ぐにその名前にある単語の意味に気付けてはずなのに。


「気付いてもどうにもならないこともある」


 奥歯を嚙み自分を責めている俺にシシガミが言い放った。

 そうだ。シシガミはリバウンドという状態を知っているのなら気付いていてもおかしくはない。そうなのだとしてもこうなることを回避することも、事前に止めることも出来なかったのだ。

 成るべくして成った結果が今なのだとしたら、やはりシラユキが受けたクエストの目的は。


「まさか…獣闘祭を壊すことなのか」

「何がだ?」

「あ、いや。シラユキは自分が受けたクエストは問題なくクリアできたって言っていたんだ」

「獣闘祭を諦め、こうして雇い主がモンスター化したというのにか」

「ああ。その通りだ」

「だとすればこの状況を作り出すことが目的だったということになるのか」

「シシガミは、それに納得の出来るのか?」

「納得は出来ぬ。だが、理解は出来る」

「理解?」

「今回、運営側から出されたクエストは二つあったのだろう。獣闘祭を成功に導くものと反対に失敗に導くためのもの。そのシラユキというプレイヤーが受けたのが後者で、ローズニクスの側に就いたプレイヤー画受けたのが前者だということだ」


 同じクエストが同時に発生している事なんて言うのはことMMOでは珍しいことでもなんでもない。同時に何人ものプレイヤーが遊んでいるのだから潤滑にゲームを進めるために同時にクエストが受けられるようになっているのは当然の事。

 それに対する報酬やクエストの窓口となっているNPCに関しても同様だ。

 どれほど珍しいと銘を打ってもクエストの報酬となれば確実にそれを受けたプレイヤーの数だけこのゲーム内は存在し、NPCも他の誰かが件のクエストを受けていたとして別のプレイヤーが受けに来ればその都度同じような反応を見せるはずだ。

 緊急であれば焦っているように。それ以外でも傷を負ったNPCに薬を届けるクエストなんかがいい例だ。別の誰かがクリアすれば傷が治っているはずなのに違うプレイヤーが受けようとすればそのNPCは傷を負った状態で出現する。

 現実では有り得ない、ゲームなのだから当然と言える矛盾が確実に存在するのだ。


「つまり今回は同じ場所で発生した同じクエストが形を変えて別々のプレイヤーのもとに行ったってことかなのか」

「うむ。これまではそのようなこと気に留めもしなかったが、どうやらそういうことらしい」

「だったらおかしくないか。同じクエストだっていうなら双方ともが就くNPCは同じになるんじゃないのか? 今回は二つの陣営に分かれ、更にはキメラ・バーサークまで出現させたんだぞ。普通のクエストだとは思えないし、今ではこのクエストは発生すらしていないはずだ。でなければ同じようにクエストを受けたプレイヤーが現れてもおかしくなない。違うか?」

「あくまで可能性の話だが、おそらくこのクエストは普通のものとは違ったのだろう。個人に向けられた、と言えばいいのか、クエストが発生したのはおそらくローズニクスに就いたプレイヤーが獣闘祭を開催することを決めた時、いや正確には開催に辿り着いた時なのだろう」

「先に獣闘祭があって、クエストが後から発生した? それも個人向けのだと?」

「町に出た露店やNPCがすんなりと受け入れていたことで気付いたのだがな。おそらくこの獣闘祭はプレイヤーが主導なだけで実質その運営には運営側も力を貸しているはずだ」

「運営側も? ってことはこれは運営側が用意したイベントだっていうのか」

「違う。あくまでも発案したのはプレイヤーで、それをここまでの規模にしたのが運営側だと俺は思っている」

「だったらどうしてそれを潰すようなクエストと支援するようなクエストを――まさか、実験しているとでもいうのか」

「おそらくはその通りだろう。ARMS・ONLINE初となるプレイヤー発足のイベント。成功するにしても失敗するにしても検証すべきことは山のようにある。何より一番は本当にプレイヤーが終了まで辿り着けるかどうか、ということ」

「だから失敗させる側と成功させる側が必要だったってことなのか」

「失敗させる側のクエストが完了と見なされたのはこの現状が十分な成果となっているからだろうな。合成獣化というプレイヤーが発見したにしてはシステムが組まれ過ぎている現象も運営からもたらされていたのだとすれば納得ができる。完全な合成獣を生み出しそれが獣闘祭を攻撃する。それがクエストのクリア条件だったのだろう」


 シシガミの言葉は頷けることばかりだった。

 だが、シラユキと直接話した俺だからかもしれないが、失敗作と呼んでいた合成獣が運営にもたらされた技術だというのにはいまいち納得しかねているのだ。

 合成獣化により獣闘祭を壊すという目的なら失敗作ではなく成功作となるはず。だとすれば失敗だと判断したのは。


(もしかしてコントロールするつもりだったってことなのか)


 それならば納得できる。

 コントロールできずに町に飛び出して行ったから失敗作と呼び、それでもクエストはクリアされた。過程に自分が満足できないものがあっても結果は成功となってしまった。

 シラユキが欲していたのは与えらえた技術をコントロールする術。その為にプレイヤーとNPCの両方に同じアイテムを使用したのだということなら。


「バーニたちのクエストはどうなった?」


 ふと気になったのは成功に導く側のプレイヤーのクエストだった。

 獣闘祭をやり切るということには失敗しているが、開催には成功し、曲りなりも途中までは成功していた。失敗した原因も運営側からもたらされているとなれば、この状況になったとしてもクエストが失敗したとは限らないのではないかと思ってしまう。


「そればかりは当人に聞いてみないと解らぬことだ。だが、現状を打破しないことには失敗に終わるのは目に見えているぞ」


 俺と話をしている間にシシガミは減らされていたHPを回復し、同時にその手の光を強くしている。

 崩されていた戦闘態勢を元に戻すことができたらしい。


「そなたはどうするのだ? このまま遠距離から援護してくれるだけでも十分助かるのだが」

「いや。俺も前に出るさ。こっちの攻撃が思ったよりも効いていない原因を突き止めないといけないからな」

「そうか。こちらとの連携は問題ないな」

「任せろ、とは言えないけどさ、皆の連携を見ていたからな。大丈夫だと思う」

「そうか。では行くぞ≪猛猛進≫!!」


 シシガミの手に宿る光が全身を覆う。

 光が放つ力強さは俺の使う≪ブースト≫の比ではないが、その用途は俺と同じに見える。

 使用者の身体能力を底上げしてくれるスキルのはずだ。


「ああ。行くぜ≪ブースト・アタッカー≫!!」


 背後に浮かぶ魔方陣が消え、剣銃がその姿を剣形態へと変える。

 俺とシシガミは並んで戦闘の真っただ中へ突入して行った。



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