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キソウチカラ ♯.28

 突然の乱入者とも取れる二名の出現に俺たちだけではなく、観客すら言葉を失くしていた。

 それもそのはず。この獣闘祭の行方を見届けてきた人にとってこの光景は想像もしていなかったものであり、同時にそれまで抱いていた疑問の答えでもあったからだ。

 二度の試合で変わるパーティメンバー。あらかじめ定められていたプレイヤーしか参加できないはずのこのイベントで起こるはずの無いその現象が、不正扱いされなかったその理由がこれだった。

 とはいえすぐに全てを理解できる程の知識があるわけもなく、俺は平静を装うので精一杯なのだが。


「行きなさい。ヘリオス、ザムルズ」


 ホワイトホールの指示のもと影から現れた二名が攻撃を仕掛けてくる。ついでにフリックとアピスまでもが同時に攻めてくるのだ。ホワイトホールも含めれば数の上では完全に有利に立たれたわけだが、どういう訳かホワイトホールが攻めてくる気配はない。

 魔法使いのプレイヤーだから前線に出てこないのはまだ理解できるが、その魔導書を畳み仕舞っているのはどういうわけなのか。

 そんなことを考える余裕を与えられるわけもなく、俺たちは向かってくる四人の対処に追われることとなる。

 その際、こちらが戦う人員にばらつきが出てくるのは自然に起こりうることだろう。

 フリックはムラマサと、アピスがヒカルとセッカと戦い、そして俺はヘリオスとザムルズと対峙することになる。

 ムラマサがフリックと戦うのは以前の戦いの続きという意味合いが強いのだろう。そしてヒカルとセッカが二人でアピスと戦うことになったのは、単純に二人の前にアピスが立ち塞がったから。同様に俺にヘリオスとザムルズが来たのは残っていたのが俺だけという不本意な事実と、その二人から俺が一番近い場所にいたという極めて単純な現実があるからだった。

 いつホワイトホールが戦闘に参加してくるかに気を配りながら戦うのは殊の外、神経を使わされる。

 それでいてザムルズが何も変哲のない長剣を、ヘリオスが大鎌を使いほぼ同時に攻撃してくるから戦い辛い事この上ない。

 リーチの違う二つの武器は俺に対して回避を難しくするのに一役買っているのだった。


「それにしても、こいつらがアンデッドだってのか…」


 感心したように呟く俺は目の前の二人との戦いに集中しきれていなかった。

 初めて目にするエリアに出てくるモンスターではないアンデッドはその外見も相まってプレイヤーと間違いそうになる。事実ホワイトホールが喚び出すのを見るまではプレイヤーだと思っていたのだ。何より、アンデッドを喚び出せるスキルがあるとは知らなかった。そしてそれを使うプレイヤーがいることも。

 自分だってクロスケを喚び出すスキルやリリィという妖精を喚び出せる指輪を持っているにも拘らず気付けなかったのには俺の想像力が足りないと言われればそれまで。

 再び、それにしてもと目の前のヘリオスとザムルズに視線を送る。

 以前、というか今日。二回戦で目にしたこの二人の戦いぶりが生き生きとしていると思えたのが原因だったのかもしれない。そのせいで俺はこの二人がプレイヤーではないとは思えなかったのだ。

 しかし、こうして目の前に立つと嫌でも思い知らされる。

 ヘリオスとザムルズの目は暗く光が灯っていないように見える。そしてしばらく回避に集中して観察を続けた結果この二人の動きに不自然さという物を感じるようになっていた。

 人工的、といえばいいのだろうか。

 予め定められた動きしかしていない、あの二人の動きが俺にはそういう風に見えるのだ。


「だからといって、現状は変わらないんだけどな」


 自嘲気味に呟く。

 動きに規則性があるとはいっても、それは無限にも近いパターンの中に酷似したものがあるというだけで必ずこういう動きを繰り返すという保証はなく、基本的にはプレイヤーと対峙している時と変わらない。

 それでいてモンスターとは違う行動を見せてくるのだからタチが悪い。

 これなら同じアンデッドモンスターでも以前、セッカと出会った時に戦った奴の方がまだ戦いやすかった。


「っと、そんな愚痴を言っても仕方ないか」


 相手はモンスターなのだとしても、二対一ということには変わりない。

 大鎌の攻撃は横に広く、直剣の攻撃はザムルズの攻撃方法が刺突に特化しているためか点の攻撃となっている。

 唯一の救いは縦の攻撃が無い事か。

 大鎌の攻撃は下がることで回避できるが、直剣の攻撃は横にしか回避するのがベスト。

 二種の攻撃を繰り出す相手、というのはこれまでも何度か戦った経験はあるが、その時は必ずと言っていいほど苦労させられた。

 いつまでも銃形態で戦うには近接型のこのアンデッドたちが相手では難しくなってきた。

 スキルのお陰でMPだけは全快状態のまま保てているが、HPは徐々に削られつつある。現状を打開するためにも、俺は、


「≪ブースト・アタッカー≫!」


 自身の強化を変更した。

 アーツの副次効果により徐々にHPは回復していく。

 そして、剣形態へと変化させた剣銃で直剣と刺突を受け止める。

 防御に成功した。などと浮かれる暇は無く、俺は続けざまに襲い掛かる大鎌の一撃を回避した。

 近接戦となり、剣銃と直剣、剣銃と大鎌が激突する。

 この手に返ってくる衝撃は不自然なほど軽い。それが強化の賜物かとも思ったが実際はそうではないのだろう。アンデッドという存在の、それもプレイヤーに使役されている存在の攻撃だから軽い、そう感じてしまうのだ。

 かといってその威力は申し分ない。これまでも回避と防御に成功していなければ少なくないダメージを負わされていたはずだ。だが、それでもだ。受けた攻撃が軽いと感じられたからだろうか、俺はこのアンデッドたちが繰り出す攻撃に対して脅威というものを初めて対峙した時ほど感じてはいない。

 剣銃で受け止め、全身を使って回避し、その合間を縫って繰り出す反撃が相手を捉える。

 アンデッドだからか痛みを受けているというようには見えないものの、数字の上では着実にダメージを蓄積させている。

 これはゲームだ。実際の命の奪い合いではない。だから必ずしも致命的な傷を与える必要は無く、同時に小さなダメージでも積み重なれば相手に勝つことは出来るようになっている。

 つまり、俺がアンデッドに勝つ為には一撃で葬る必要はないということだ。


「押し切るっ」


 兎にも角にも現時点でこの試合において二体のアンデッドが脅威であることは間違いない。どうにか対処しなければならないとして、現実問題それができるのは俺だけだということも同様だ。

 意を決してしまえば気になってくるのは仲間の動向。

 ムラマサがその刃を交えているフリックはとても愉しそうに笑っているのに対し、ムラマサはというと、苦笑いを浮かべているようだ。フリックが大剣を木の枝のように軽々と振り回し歓喜の声を上げている様子はまさに狂人。特に戦闘狂と呼べる存在そのものだった。それにも刀一本でどうにか対処できているのだからやはりムラマサは頼りになる、と思う。

 次いでヒカルとセッカが戦っているアピスは相も変わらず無口なままだった。武器を持たず、また格闘戦を仕掛けるでもない。例えるのなら純粋な暴力がそこに居る。そう感じてしまう程に動作らしい動作が見られないのだ。

 適当に腕を振り回すだけが攻撃と化し、その全身を覆う堅殻な鎧が立っているだけで防御となる。

 お世辞のも重い攻撃とは言えないヒカルの攻撃ならばまだしもメイスによる攻撃が主となるセッカの攻撃にも微動だにしないのだからアピスの防御力は相当なものなのだろう。

 ただ、まあ、アピスの攻撃もそこまで速いということもなく、攻撃が当たらないためにそこまで敗北色は濃くないようだ。無論ヒカルとセッカが今すぐに勝てるという感じでもなさそうだが。


「余所見とは余裕そうですね」


 俺がムラマサたちの方を見ていたことに気付いたのかホワイトホールが口元を歪めて笑いながら言ってきた。そしてその声に反応するかのようにヘリオスとザムルズがそれぞれの武器を俺に向けて振り下ろしてきたのだった。


「当たるかよっ」


 大鎌を回避し、直剣を剣銃で受け止める。

 直剣をいなして地面へと叩きつけると、俺は大鎌を振るうヘリオスに向かって走り出した。

 二体のアンデッドの内、先に倒すのならばリーチの長い武器を使うヘリオスの方。それがこの短い戦闘時間の中で俺の出した結論だった。

 小さなダメージでも倒しきれるということは分かっているが、時間と手間を考えると少ない手数で倒せるほうがいいのは歴然とした事実。故に大きなダメージを与えられる時には的確な攻撃を叩き込んだ方がいい。


「≪インパクト・スラッシュ≫!!」


 剣先を赤く発光させた斬撃がヘリオスの体に大きな傷跡を刻み込む。

 無論一撃で倒しきれるとは思っていなかったがヘリオスの頭上に浮かぶHPバーは俺の想像以上に減少している。

 アンデッドだから防御力がプレイヤーよりも低いのだろうか。それならば何故、二回戦にまで勝ち抜いてきたプレイヤーがそれに気づかなかったのかという疑問が浮かんでくるが、その答えは次の瞬間に解ることになる。

 大きな傷を刻まれたにもかかわらずヘリオスは全くダメージ無しというように平然として見せているのだ。これではHPバーが減少していても回復する何らかの手段があると思ってしまっても無理はない。それに加え、ザムルズがダメージを受けたヘリオスをカバーするかのようにすかさず攻撃を加えてくるのだ。

 熟練のプレイヤーを彷彿とさせる連携を目の当たりにすればこの二人がアンデッドだとは夢にも思わなかったのだろう。

 現実と認識に齟齬があれば戦闘に影響が現れるのも自然なこと。

 それだけが原因という訳ではないのだろうが、これが前の試合でホワイトホールたちに勝てなかった理由の一つとなっているはずだ。


「もう一回、≪インパクト・スラッシュ≫!」


 長剣の切っ先を伸ばしてくるザムルズを蹴りやり、俺は二度目のアーツをヘリオスへと叩き込んだ。それでヘリオスのHPの残りが半分を切る。

 もう一、二回アーツを使った攻撃をクリーンヒットさせればヘリオスを倒すことが出来る。そう思った俺に現実を思い出させたのはザムルズが起き上がり乱暴に直剣を叩きつけてきたのと、その奥でホワイトホールが今もなお余裕の表情を浮かべているという光景だった。

 確かに倒されようとしているのはホワイトホールが喚び出したアンデッドの一体に過ぎない。元々の戦力という意味では全くと言っていいほど影響がないままなのだ。

 それでも俺からすれば相手の戦力の一端を削ることができたという事実には変わらず、喜ばしいことには変わりはないはずだが。


「これには驚きですね」

「驚き、だと?」


 心底感心したと様子で告げるホワイトホールに聞き返す。


「ええ。貴方はヘリオスとザムルズに勝てないと思ってましたから」

「それは…俺を舐めすぎなんじゃないか?」

「確かに。そのようですね。しかし――」


 二体のアンデッドを喚び出してから腰から下げられたままになっている魔導書を手に取り、再びペラペラとページを捲っていく。


「まだ警戒するほどではないですね」


 魔導書のページを捲る手が停まったその瞬間、二体のアンデッドであるヘリオスとザムルズが武器を棄て俺を捕まえようと手を伸ばしてきた。

 ヘリオスとザムルズの動きに警戒を怠っていなかったからどうにか捕まることは避けられたが、それまでにもない程速い動きを見せる二体に虚を突かれてしまったのも事実。反撃のタイミングを逃してしまったのがいい証拠だろう。


「さて、そろそろでしょうか――≪アンデッド・ボム≫」


 開かれたままの魔導書が光を放つと二体のアンデッド、ヘリオスとザムルズが動きを止めた。そしてその全身に異様な紋様を浮かばせたのだ。

 何が起こった?

 突然の変化に一瞬、足を止めた俺の脳裏に過ったのはたった今ホワイトホールが口にした言葉。

 このゲームのアーツ発動条件が音声発生であることが多いのが幸いしたと言えばいいのか。俺に僅かながらのヒントが与えられたのだった。

 ホワイトホールの言葉のヒントを考えている暇もなく、ヘリオスとザムルズの体に浮かぶ紋様の光が強くなっていく。それが合図となっているのか、それともただの臨界点だったのか、光が最大限に強くなるその刹那に俺は叫ぶ、


「皆っ、逃げろ!」


 そして、次の瞬間、目に見える世界が閃光に包まれる。


 ヘリオスとザムルズが爆散した。



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