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キソウチカラ ♯.19

(ユウパーティってなんだ?)


 俺たちのパーティが第一試合の勝利を収めたことを声高々に宣言する審判の言葉に首を傾げつつ、俺のもとへ近づいてくる仲間に手を振った。

 俺のとはいうがそれは単純に俺が戦っていた場所がこの戦闘場の出入り口に一番近いだけであって、それが別の誰かならば俺がその誰かの元へと歩き出していたはずだ。

 審判を務めているプレイヤーからいつまでも戦闘場にいては次の試合が始められないと視線だけで告げられると、俺は仲間との合流を後回しにしてそそくさと戦闘場を降りコロシアムの中へと入っていった。


「さて、ここで待っていればいいだろうな」


 できるだけ出入り口の近くにと、通路を抜けた先で壁にもたれるように待っていると、程なくして知らない顔のプレイヤー集団がぞろぞろと通り過ぎた。


(あれは……揃いのアクセサリかなんかか?)


 目の前を通り過ぎる片方のパーティの外着に同じ形状をしたブローチのようなものが付けられているのが気になり目を凝らしたが、一瞬しか観察できなかったこともあってその名称も効果も解らず仕舞いだった。


「ユウ! ここにいたのか」

「一人で先に行くなんて、探したんですよ」

「……待っててくれればよかったのに」


 パーティが通り過ぎてから数分、ようやく仲間が現れたかと思うと、その後ろにはたった今戦っていた相手パーティの生き残りの二人がいた。

 どこか照れくさそうな顔をしているのはウォーアックスを持っているプレイヤーで、反対に落ち込んで見えるのが長剣を装備しているプレイヤーの片割れだった。

 落ち込むその理由が敗北にあるのかと思い触れずにいようと心に決めたその時、俺は長剣を持つプレイヤーの手にあるアイテムに目を奪われた。


「いきなりで悪いけどさ、それは呪われた(カースド)アイテムだよな?」


 初めて会い、会話すらしたことのない俺が長剣を持つプレイヤーの手にあるアイテムを指さしそう告げてきたことに驚いたのだろう。

 長剣を持つプレイヤーは一瞬戸惑いの表情を見せた後、深く息を吐き出して「そうだ」と答えていた。


「モーレイ! 何故そのような物を!」

「あ、いや…その……使えると思ったんだよ。これは装備者の速度を上げてくれるし、デメリットは状態異常に対する耐性が無くなるってだけだったから。すまない、ラウンチ」


 モーレイの説明を聞いて納得していたのはなぜかヒカルで、ラウンチと呼ばれたウォーアックスを装備しているプレイヤーは暫く思案した素振りを見せると、


「…そうか」


 とだけ呟いていた。

 自身に不利な効果があるアイテムを装備していたこと責めようとして踏み止まった。そう思わせる表情をしているが、それに関しては俺も僅かながら同意をせざるをえない。

 プレイヤー同士の戦闘がメインとなる今回のイベントではそれが全くの悪手ではない。状態異常というのはそれだけプレイヤーには効きにくいというのが常識となっているからだ。そういう意味では俺たちのパーティと当たったことは彼らにとっては不運だったとしか言いようがない。

 効きにくいとされている状態異常を戦術の基盤とし、同時にそれと相対することになってしまったのだから。


「それにしても、よく見抜いたな。あなたはそれと同じものをどこかで目にしたことがあったのですか?」

「いや。俺はこう見えても生産が趣味でさ。色々とスキルを覚えているんだよ」


 それが何のスキルなのかまでは説明する必要はないが、この話題の口火を切った本人としてはここで誤魔化すのも違うだろう。

 折衷案として自分も生産ができるということだけを話し、そこからはラウンチ自身の想像力に委ねるとしよう。


「おせっかいだと思うけどさ、そのデメリットを相殺できるようになるまではそれを使うのは止めておいた方がいいと思う」

「…わかってる。暫くこのアイテムは使わない。でも、外すのはちょっと待って欲しい」

「どうしてだ?」


 未だ未練があるのかとラウンチが厳しい視線を向けると、モーレイは静かに首を振り、


「これを外すのはスキッドの見てるところにしたいんだ」


 スキッドというのが長剣を持つもう一人のプレイヤーなのだろう。共に戦う相方だからこそ、何か思うことがあったのかもしれない。それを払拭させるためにもその様を見せたいと思っているらしい。ラウンチもモーレイの気持ちを汲んだようで、それ以上何も言うことなく優しく肩を叩くだけに終えていた。

 ラウンチとモーレイと並んで廊下を歩いていくと辿り着いた丁字路で立ち止まる。

 全員が誰が告げたという訳でもなくここで別れることになるのだろうことを感じ取っていた。


「お二人はこれからどうするんですか?」


 何となく沈黙が気まずく感じ始めた頃、ヒカルが率先して口火を切った。


「おれたちはビスマギアとスキッドを迎えに行ってから表にある出店を見て回ることにするよ」

「あれ? 本戦の続きは見ないんですか?」

「そうだなぁ。見てみたい気はするんだけどね」

「こればっかりはみんなと相談してみないと」


 負けたから、自分たちが進むはずだった戦いの行方は見たくないとでも思っているのかと思えば、見た感じそういう訳ではないらしい。

 敗北者特有の悲壮感など微塵もなく、あるのはただ残念だったという感想のみ。

 彼らがあくまで一回の戦闘の勝ち負けとしてのみ捉えていることが伝わってくる。


(これが本来の獣闘祭の姿なのかもな)


 俺たちのように領主うんぬんは関係なく、純粋なイベント事として参加しているのだろう。どちらが正しい姿なのか、俺には決めることができずにいた。


「みなさんはどうするんだ? おれたちと一緒にで店を見て回るのか?」

「いや、オレたちは次があるからね。二戦目も見ておきたいんだけど……残念、呼び出しだ」


 肩を窄め、告げるムラマサの手元が何かの操作をしているように忙しなく動く。

 多分さっき届いたバーニからのメールの中身を確かめているのだろう。


「何があったのかは聞かないことにするよ」

「ああ、それがいい」

「それじゃ、おれたちはここで」


 手を振り去っていくラウンチとモーレイを見送って、俺たちは彼らが進んだのとは反対方向の通路を歩き出した。

 コツコツと足音が反響するなか、俺はバーニから来たメールを読むことにした。

 件名は『至急』内容は『来てから話します』と『十二番目の部屋で待っています』の二文だけ。

 いまいちどころか全く訳のわからないメールだが、それを無視できる程の材料を持ってはいない。仕方なくこうして次の試合の観戦を諦め、バーニがいる場所に向かっているのだった。


「っと、通り過ぎるところだった」


 いくつも同じ形のドアが並んでいるのがいけないんだ。

 一つ二つと数えながら歩いていたとしてもこうもずっと同じ物を見ていては間違えそうになる。せめて見て解るドアプレートくらい取り付けておいて欲しいものだ。


「……ここであってるの?」

「数え間違ってなければあっていると思うけど」


 いまいち自信がない。


「ここで間違いないと思いますよ。私も数えてましたから、ここでいいはずです」


 自信のない俺に助け船を出したのはヒカルだった。


「そっか。よし。行こう」


 ヒカルの言葉に背中を押され、俺は目の前の扉を開けた。

 ガチャッという音と共に開かれたドアの先で待っていたのは俺たちを呼び出した張本人、そして大人の姿をしたローズニクスだった。


「お待ちしていました」

「オレたちを呼んだのは貴女だったんですか?」

「いえ…」

「皆さんを呼んだのはボクです」


 勧められるまま椅子に座る俺たちを見るバーニの視線は少しだけ不機嫌そうに見えるのは何故だろうか。


「単刀直入に聞くけどさ、俺たちを呼び出した用事ってなんなんだ? できれば次の試合を見ていたかったんだけど」

「皆さんに勝ち上がって貰うためにも是非そうして欲しいのですが、それよりも言っておかなければならないことがあるんです」

「何だ?」

「まず一つ。この前に渡したタリスマンはまだ持っていますか?」

「ああ。これだろ?」


 そう言いながらストレージから取り出したのは鳥の羽根のようなレリーフが刻まれた円形の金属板。その端に赤い紐が付けれれているのはそれが元来身に付ける物である証拠だ。

 このタリスマンは本戦が始まる前にバーニから渡されていたものだがこれは獣闘祭の参加証同様に何の効果も無い代物だった。

 その為にわざわざ装備するまでもないと思ったが、バーニはそれが気に入らなかったらしい。


「これは何なんだ? わざわざ俺たちを呼びつけた原因がこれなんだ。ただの飾りってわけじゃないんだろ」

「それは(わたくし)に協力している証なのです」


 ローズニクスが自分の懐から取り出したのは俺たちが渡されていたものと同じレリーフが刻まれた首飾り。

 宝石の類が一切施されていないそれからは領主の一族が持つには地味過ぎる印象を受けた。


「それは?」

「私個人の紋章です」

「ローズニクスさん個人のですか?」

「はい。今回の領主の跡継ぎに関してどちらの勢力に属しているかを示すための紋章なのです」


 ローズニクスの言葉を耳にして思い出したのは戦闘場を出て皆を待つ間に見かけた次の試合に出るであろうプレイヤーたち。揃いのアクセサリの類だと思っていたそれはおそらくこのタリスマンと同じようなものなのだろう。

 そして俺の記憶通りならばその意匠が鳥の羽根ではなかったことからローズニクス側に協力しているプレイヤーではないはずだ。パーティで揃いのアイテムを持っているだけという可能性もあるが、この獣闘祭に参加しているプレイヤーだということを考えるとその可能性は低いと見て問題ないはずだ。


「だからそれを常に見える場所に付けておいて欲しかったのですけど」

「わかった。次から気を付けるよ」


 説明を聞いていなかったのではなく、聞いていたことを忘れていたと言えばどんな顔をするのだろう。一瞬そう告げてみたいという悪戯心に駆られたが俺がそれを告げる前に、乱暴に扉が開かれ、知らない顔が飛び込んできた。


「ここにいるのか!」


 声を荒げる男が後ろにぞろぞろと人数を引き連れている。それがプレイヤーなのかNPCなのかが気になり目を凝らしてみると割と直ぐ簡単に判別することができた。俺の持つタリスマンと同じ意味を持つブローチを付けているのがプレイヤー。付けてはおらず声を荒げた男の近くにいるのがNPC。


「叔父上、いきなり不躾ではありませんか」

「ローズニクス。お前はまだそんな恰好でいるのか?」

「私がどのような恰好をしようと関係のないことでしょう」


 ローズニクスが叔父上を呼ぶ人物は一人しかいない。同じ椅子を巡って争っているシストバーン、その人だ。

 本来のローズニクスの姿を知る俺は勝手にシストバーンも同じ動物の特徴がある獣人族だとばかり思っていたがどうやら違うらしい。

 ローズニクスは小型犬を彷彿とさせるがシストバーンは犬ですらない。猿、いやゴリラか。


「ふん、口だけは達者だな」

「それで、何の用なんですか? まさか私に会いに来たなんてことはないのでしょう」

「当然だ。儂が用があるのはそこのお前だ」


 シストバーンが指さしたのはムラマサ。

 何の用だと言うように首を傾げてみせるとシストバーンは不満を前面に押し出して、


「お前、儂の下につけ」


 と言ってきた。

 上から告げられるシストバーンの言葉をムラマサは平然とした顔で無視している。

 ムラマサが先ほどから目を閉じ黙り込んでいるのはシストバーンの態度が気に入らないからのようだ。それに対しては俺も同感なのであえて追及することはしないでおこう。


「どうした? さっさと解りましたと言ったらどうなんだ」


 自分が断られることなど微塵も考えていないのだろう。シストバーンはすぐに帰ってこないムラマサの返事を苛立たしそうに足を鳴らしている。


「おいっ」


 シストバーンの後ろにいるNPCが無視を続けるムラマサに掴みかかろうとして空振りしていた。

 所謂摺り足で移動したムラマサは涼しい顔をしているが、体制を崩し前のめりになっているNPCは顔を赤くしてプルプルと震えている。


「ったく何をやっておるんだ。まあいい、用は済んだ。行くぞ」


 返事を聞かぬまま振り返り部屋から出て行こうとするシストバーンに続き歩き出すプレイヤーたちとNPC。

 今度はNPCの一人がドアを開け、それをシストバーンが潜る。

 ぞろぞろと出て行くシストバーン一行を見送っていると全員が出てすぐに扉は再び勢いよく開かれた。


「何故付いてこない!」


 ムラマサが来ていないことが信じられなかったのかシストバーンが怒鳴り込んできた。


「なんとか言ったらどうなんだ!」


 このまま無視をしていてもシストバーンは出て行かないと思ったのだろう。ムラマサはあからさまなため息を吐き、


「オレはあんたについて行くつもりはない」


 きっぱりと告げていた。


「な、正気か? お前はここで儂を敵に回すというのか」


 ムラマサが断ることはしないと思っていたのは他のNPC達も同様だったらしくそれぞれの顔に動揺が広がっていく。

 中には俺たちを心配しているような声も聞こえたがそれも他の者の罵倒する声によって簡単にかき消されてしまっていた。


「静まれ。お前、それがどういう意味か解って言っているのだろうな」

「ああ。何度だって言ってやるさ。オレはあんたの下に付くつもりは毛頭ない」


 これ以上は何も言うことは無いというようにムラマサが再び目を瞑る。


「残念ですが叔父上、彼らは既に私に協力してくれると明言しているのです。その証拠に、ほら」


 すっと机を見るように促す。

 これまでも机の上に置かれたままになっていたタリスマンがこの時初めて目に入ったかのようにシストバーンは驚いた顔をしている。

 シストバーン陣営のプレイヤーは俺たちが付く側を変えることもあるだろうと気にも留めていなかったのだが、NPCたちはそうではない。だというのにここまで気付いていなかったのはやはり自分が信じられないことは認識できないでいたのだろう。


「いいだろう。これからはお前達は敵ということだ」


 捨て台詞を残し去っていくシストバーンを見送って、俺たちは疲れた顔をして椅子に浅く腰かけた。


「何か疲れました」

「……疲れた」

「そうですね」


 怠そうに呟いたヒカルとセッカを首肯するローズニクスも同様に疲れた声を出している。


「確認しますけど、皆さんはローズニクスさんに力を貸してくれるということでいいんですね?」

「そう…だな。シストバーンとかいう人よりはまともそうだからな」


 俺の言葉に苦笑を浮かべるローズニクスはちょっと言い難そうな顔をして言葉を選び話し出した。


「叔父上は有能な人でした。ただ、領主の跡継ぎ問題で私の名前が浮上したことで様子が変わってしまったのです」

「どうしてですか?」

「おそらく自分が確実に跡を継げるという自信がなかったのでしょう」

「……でも、これまでの実績があったんだよね?」

「その実績が問題だったのです」

「問題?」

「あなた方プレイヤーを無視した上に自身の領地を発展させることに執着するあまり他を疎かにしてしまったことでそれまでにない貧富の差が生まれてしまったのです」

「それまでにってことは、これまでもあったんだろう? 今更問題視するほどではないんじゃないのかい?」

「それは、そうなんですが。叔父上がその地位に座ったことでそれが増したというか、なんというか」


 納得できないものがあると感じるのはローズニクスだからこそ、か。


「それはローズニクスが領主になった時にどうにかすればいいことだ。違うか?」

「あ、いえ、そうですね」

「では、この次はそれを付けて戦ってくださいね」


 頷き俺たちはそれぞれタリスマンを装備した。

 これで話は終わり。そう思ったその時、三度乱暴にドアが開かれた。

 またシストバーンが来たのかと思ったがどうやらそういう訳ではないらしい。その腰に俺たちの持つタリスマンと同じものがぶら下がっているのが見えた。

 

「大変です!」

「どうかしたのですか?」

「戦闘場に来てください。直接見てもらった方が早いと思うんです」


 バーニとローズニクスを引き連れ俺たちは足早に部屋から飛び出した。



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