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キソウチカラ ♯.12

 獣闘祭当日。


 俺たちは揃って送られてきた案内メールにて指定されているPVP大会の会場へと来ていた。


「思ってたよりも大きい会場ですねぇ」


 見上げながら呟くヒカルに釣られて見上げた先にはどこかのドームの何倍もある建物がそびえ立っていた。

 中央にはだだっ広いだけの運動場。特出すべきは周囲を囲むようにできている観客席とその中にある二面の大型モニター。おそらくはこのモニターに試合の様子が映し出されるのだろう。

 少し離れて建物の全体を見てみるとそれは歴史の教科書なんかで見た中世ローマのコロシアム。


「……いつの間に出来たんだろ?」

「なんでも領主が代々受け継いできた土地に作られたらしいね。さっきそこの看板に書かれていたよ」

「領主のって。バーニさんたち仲直りしたんですか?」

「それはちょっと違うと思うよ」

「どういうことですか?」

「だってそうだろう? 仲直りするもなにも公式には揉めてないんだからさ」


 平然と告げるムラマサにヒカルは目を丸くしセッカは納得の得た顔で頷いている。


「だからと言ってここがすんなりと借りられたとは思えないけどね」

「ははっ、お察しの通り、ここを借りるのは結構大変だったんですよ。でもこの人数のプレイヤーを戦わせる場所に使えそうな場所はここくらいしかなくて」


 人込みの間を抜けて近づいて来たバーニが苦笑交じりに告げる。


「バーニか。そうは言ってもこうして借りられているのだから凄いじゃないか」

「確かにそうなんですけどね。実は最初は町の近くにある広大な更地に特設ステージを立てる予定でした。けどこのイベントを正式に発表したところボクたちが想定していた数のだいたい五倍近くの参加者が申し込んできたんです」

「五倍!?」

「それはまた凄いものだね。最初の想定人数が百人程度だったのだろう。その五倍ってことは――」

「……五百人。パーティ数で言うと百組くらい?」

「だいぶ大雑把な数ですけど、だいたい合っていますよ」


 参加する人数によって決まるという優勝賞金の額も飛躍的に膨らんでいることだろう。

 その分優勝する確率も飛躍的に下がってきているのだろうが。


「あ、そろそろ予選のルールが発表されることですよ」

「予選ですか?」

「これだけの人数になりましたから。簡単なトーナメントをするだけでは日数がかかりすぎるので」

「それで予選をするのか」

「はい」


 バーニがそういうと会場にある二面のモニターにいつか見た顔と知らない顔が並ぶ様子が映し出された。

 一人はヘディレスというプレイヤー。もう一人は身に纏っている服装から察するにプレイヤーではないようだ。

 過度な刺繍が金糸と銀糸によって施されたドレスを纏う二十代中盤くらいの女性。ウェーブがかった長い黒髪にピンっと立った長めの猫耳。自身の姿が映像によって映し出されるなんてことは初めてなのか緊張気味の表情が見て取れた。


『あー、映っているのか? 俺が予選のルールを説明させてもらうことになったこの獣闘祭を開催している協会の主要メンバーの一人でもあるヘディレスだ。隣にいるのが近隣を収める領主の長女、ローズニクス様』

『宜しくお願いします』


 音声が届けられると集まってきているプレイヤーの多くの視線がモニターに寄せられる。


『この予選だが、各パーティの代表一名によるバトルロイヤルで行うことにする。予選の回数は六回。十人毎に行い、それぞれ二名が生き残った段階で終了となる』


 ざわざわと騒めきだすプレイヤー達の近くでどこか平然と、冷静さを保っているプレイヤーがいる。

 その違いが何なのか。注意深く探っていると再びヘディレスの声が届けられた。


『予選の組み分けはランダムに行われることになっている。この大会に参加したパーティの現在のパーティリーダーに協会名義で送信したメールに代表者の名前を記して返信してくれ。そうすれば予選の何試合になるのか、試合番号を記したメールが送られてくるはずだ』


 モニターの中のヘディレスが告げた言葉通りに各プレイヤーにメールが一通届けられた。

 記されている内容も先程の説明と違いは無い。


「予選は誰が出るんですか?」

「そうだね。予選はこのバトルロイヤルだけなのかが気になるところなんだけど」


 ヒカルの質問を聞きながらムラマサがバーニに視線を送っている。


「誰が出ても大丈夫ですよ。予選はこのバトルロイヤルだけですから」

「……そんなことを言っていいの?」

「別に大丈夫ですよ。メールにもそう記されているはずですから」

「そうなんですか?」

「ああ。バーニの言う通りだな。予選はこの一回きり、本戦に進むチャンスも一度切りってことみたいだ」


 尤もこの一文が嘘でなかった場合に限るのだが。


「嘘なんかじゃないですよ。ですから安心して代表者を選んで下さいね」

「まあ、そういうことにしておくか」

「オレが出てもいいぞ。この刀も試してみたいからな」


 そう告げるムラマサの腰には新しくなった刀が提げられている。


「私はそれでもいいですよ」

「……私も」

「ユウはどうなんだい?」

「もちろん。ムラマサに任せるよ」


 自分が打ち直した刀の性能は獣闘祭までの二日間で行ったモンスターとの戦闘や俺たち同士で行った練習である程度は把握しているつもりだがやはり実践と練習は違うものだ。

 本人が試したいと感じ、その機会が目の前にあるのならば任せるべきだろう。


「それじゃオレの名前を書いてくれるかい?」

「ああ。わかった」


 送られてきたメールにムラマサの名を記し返信すると僅か数秒でまた別のメールが送られてきた。


「オレは何番目の試合だったんだい?」

「驚くなよ。何と、一番目だ」


 可視化させたコンソールに表示されたメールを見せる。


「これは先着順とかじゃないんですよね?」

「完全なランダム抽選ですからメールを送る順番は関係ないですよ」

「ところでバーニ、予選はいつから始まるんだい?」

「ヘディレスから案内があると思いますけど、そうですね、もう直ぐとだけ言っておきます」

「随分と曖昧な答えだね」

「すいません。一応ボクは主催側なのでこれ以上はなにも言えないんです」


 曖昧な笑顔を浮かべたままバーニは仲間たちの元に戻ると言って去って行った。


「これからどうしますか?」

「出番がすぐだというのならオレはこの辺りをぶらぶらしているわけにもいかないだろうけど、皆は自由に歩き回ってきても構わないよ。それなりに見て回れる場所も多そうだからね」


 ムラマサの言う通り獣闘祭の会場となるコロシアムの近くにはNPC、プレイヤー問わず露店が出ているようだった。


「私たちは一緒にいますよ。だってムラマサさんは私たちの代表なんですから。ね、セッカちゃん」

「……うん」

「ムラマサが予選を突破したら皆で見て回ればいいさ。そうだろ?」

「はいっ」


 満面の笑みで答えるヒカルにムラマサもニヤリと笑い、


「勝てばここはユウが奢ってくれるというのだから負けられないな」

「はぁ、仕方ないな。少しだけだぞ」

「おお! 言ってみるものだね」

「……私たちも?」

「二人もだよ」


 露店を遠くから眺めつつ俺たちはヘディレスの案内を待っていた。

 参加しているプレイヤーたち全員が代表者を選別するまで十数分を要したらしく、先に代表者を選出したパーティは露店を見たり、予選の準備をしたりと思い思いのことをしている。


『待たせたな。予選の組み分けが終わったぞ。まずは第一試合に出場するプレイヤーから会場の中心に来てくれ』


 突如響き渡るヘディレスの声に誘われるようにプレイヤーの何人かが会場の中へと入って行く。

 予選第一試合に参加するプレイヤーの数よりも多く感じるのは観戦を目的にした者や参加者の仲間なんかも含まれているのだろう。


「ヒカルたちも観に来るのだろう?」

「勿論です」

「俺たちは観客席の方にいるから」

「ああ。勝ってくるからさ、見ててくれよ」


 ムラマサと別れ俺たちは参加者とは別の通路を進んでいく。



「予選第一試合の参加者こちらへ」


 一人通路を行くムラマサを待ち受けたのは運営側のプレイヤーだ。


「ここに居ればいいのかい?」

「はい。もう少しで開始されますのでここでお待ちください」


 一人、また一人と増えていく参加者らしきプレイヤーたち。その誰もが自分の腕に自信があるのだという表情をしている。

 所持している武器も千差万別。

 プレイヤー自身同様に武器も鍛え上げられているのが見て取れた。


「お待たせしました。参加者の皆さんは自分について来てください」


 案内役のプレイヤーに引き連れられ会場の中心にある正方形の戦闘場へと出たムラマサたちを待っていたのは満員の観客による歓声。

 地面を揺るがす歓声のなかを歩くムラマサたちは皆一様に驚いたように周囲を見回している。

 参加者全員が中央の広場に出た時に三度ヘディレスの姿がモニターに映し出された。


『予選バトルロイヤルのルールは単純明快。戦闘不能、あるいは戦闘場から出たプレイヤーは失格、最後まで生き残ったプレイヤーが勝ち残る、それだけだ。ちなみにこの獣闘祭全体にも言えることだが戦闘中のアイテムの使用は全面的に禁止だ。使用が発覚した場合は直ちに失格、及び以後開催される協会主催のイベントにおけるペナルティも考慮しているから、不用意な真似はしない方が賢明だ』


 ヘディレスの言葉を確認しようとムラマサはコンソールを出現させてアイテム一覧を出した。

 そこにはやはりというべきか、それとも残念ながらというべきか、特別な仕掛けは何も施されてはいない。アイテムの使用禁止はあくまでもプレイヤー自身の意思によるものということのようだ。


「どうやら、事前策を講じている人もいるようだね」


 小さく呟くムラマサの視線の先ではあらかじめ何らかの効果をもたらすアイテムを使用しているプレイヤーの姿があった。


「ま、アイテムが使えないのは戦闘中だけという話だからね」


 静かに闘志を漲らせていく。


「でも、誰でも気づけそうなことで満足しているのなら……足りないな」


 獣の如く、剣呑なムラマサの瞳が輝いた。

 戦闘場に乗る参加者の中心へと案内役だったプレイヤーとは別のプレイヤーが現れた。白と黒のボーダーの上着を着たそのプレイヤーは小さな声で何かを呟くと手のひらから四つの光を空へと打ち上げた。


「ワタシが審判を務める。先程の光球は監視カメラみたいなものだ。不正が発覚次第厳重な処分が下ることになるから注意をしてくれ」


 四方八方へと飛び回る光球はその光を弱め一瞥しただけでは見つけられないほどになってしまった。

 姿が見えなくてはいつどこからどのように監視されているか判断しにくいために、先程の審判の言葉が嘘だったとしてもそれなりの効力は発揮されそうだ。


『それでは、戦闘場の中央に試合開始のカウントダウンを出すぞ』


 モニターに映し出されるのは実際の戦闘場の中心に浮かぶ懐中時計みたいなホログラム。

 一秒ごとにその針を大きく揺らして進むそれが一周した時、ホログラムが弾け、戦闘開始が告げられたのだった。



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