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キソウチカラ ♯.10

 騒動が収まった町にはNPCと今回の騒動に関係していないプレイヤーが戻り始めていた。

 プレイヤーが中心の騒動だったからだろうか、建物には傷らしい傷はついておらず元の状態のまま、戦闘を繰り広げていたプレイヤーが去ってしまえば綺麗なものだった。


「皆さん、お疲れ様でした。おかげさまでどうにかこの場は収めることができました」


 町の入り口付近で俺たちを待ち受けていたバーニに連れられやってきたのは、この町にあるギルド会館。遠く離れた中央大陸グラゴニスにある町ウィザースターにあるそれとよく似た内装の建物は不意に懐かしさを醸し出していた。

 そこではバーニの他の協会に属するギルドのギルドマスターたちはおらず、バーニ一人対俺たち四人という図式でテーブルに着くこととなった。


「まずは報告をしてもらってもいいですか?」

「そうだね。ではオレから話そうか」

「よろしくお願いします」


 ムラマサが舞台で起きた出来事を話し始める。

 最初に戦ったフードを被ったプレイヤーたち。そして続くフリックとホワイトホールとの戦闘のこと。なかでもバーニの興味を引いたのはやはり、というべきか二人のプレイヤーとの会話の内容だった。

 フリックたちの目的。そしてそれを企てている領主という存在。

 俺たちとしたら驚愕の事実だったこともバーニにとってはすでに知っていることだったのか、驚く素振り一つ見せたりはしない。

 平坦とした様子に俺の方が驚かされたほどだ。


「よく解りました。領主と彼らに対してはこちらでもよく対処を考慮しますので安心してください」


 ムラマサが一通りの説明を終えるとバーニは開口一番に話を打ち切った。

 まるでこれ以上は追及してくれるなと言わんばかりの態度に僅かな猜疑心を抱いたが、今はそれを気にするべきではないだろう。

 それよりも、俺たちに向けて差し出された一枚の羊皮紙のアイテムの方が重要なのだとバーニは視線だけで訴えていた。


「それはなんですか?」

「……何が書かれているの?」


 隣に並んで座るヒカルとセッカの質問に答えるべく俺は羊皮紙に触れてそこに記されている情報を表示させた。


「それは二日後に開催が決定した獣闘祭の案内書です」


 記されているのは以前にもバーニから聞いた参加資格及び参加費のこと。そして新たな情報として開催日とその際の大まかなルールがあった。

 獣闘祭のルールは基本的なPVPの時のルールと共通しているものの多いが、その中でも一つだけ特出したものがある。

『如何なるアイテムでも戦闘中は使用禁止』

 戦闘の長期化とプレイヤー個人の資金による耐久力の差を消すためとも考えられるがその真意はどこにあるのか。以前ならすんなりと受け入れられていたはずのそれが、今はどうしても疑いを持って勘繰ってしまう。


「このタイミングでこれを配布したとして、参加者はバーニたちの思惑通りに集まるのか?」

「それは大丈夫だと信じましょう。ここで戦うプレイヤーはそんなにやわじゃないと。それに協会はあのくらいの揺さぶりには動じないという宣伝にもなりますから」

「宣伝…か」

「不満ですか?」

「いや、不満というかさ。俺にはバーニがどうしてそこまで強気で出られるのかが分からないだけだ」


 分からない。

 その一言が今の俺の胸の内を表す事実であり真実だった。

 バーニの真意もフリックたちの真意も分からず、さらには領主とやらの目的の先にあるものもわからない。

 分からない尽くしの現状に心の中には不安が徐々に広がっていく。

 ここで手を引きたい。そう思ってしまうほどに。


「どうして、と言われると…そうですね、多分確信があるからでしょうか」

「確信とはなんだい?」

「簡単です。長い間このために準備をしてきましたから。ボクたちは」


 自信があるのだとバーニは笑った。


「ユウたちも参加してくれるのでしょう?」

「まあな。そのつもりだ」

「ではこれを渡しておきます」


 そう言ってバーニが取り出したのは同じデザインの紋章が刻まれた金属プレートが四つ。


「これは参加者の証です」


 刻まれている紋章はバーニが作ろうとしている協会のシンボルマークと同じ。

 参加者の証だというように、このアイテムに効果は無く、また新しく付与することも出来ないようだ。

 このプレートは完全に獣闘祭にのみ対応したアイテムという位置づけであり、別の使い道を探すと単純にインゴット化するしかないようだが、プレートの材質は鉄であり、一枚一枚の大きさも小さい。一つのインゴットにするのにはおそらくプレートが十枚近く必要になるはずだ。


「参加費は当日に徴収する予定ですので用意しておいてくださいね」


 わかったと頷き、俺は机の上に置かれた参加者の証を一つ手に取り自身のストレージへと収めた。

 続いて三人も参加者の証を手に入れるとそれを見計らったようにバーニが立ち上がり、


「詳しい説明は後ほど。騒動を収めるのに協力してくれたとはいえ、皆さんを他の参加者よりも贔屓するわけにはいきませんから」


 バーニの晴れやかな笑顔はこれまでなら頼もしく感じたことだろう。しかし、今はそれが不穏なものに思えてならない。

 表に出さないように、と必死に隠している俺の戸惑いを感じているのは今はまだ俺の仲間であるヒカルとセッカ、それと妙なところで勘の鋭いムラマサくらいなものだ。それなりに付き合いが出来たとはいえ、まだ関係性の浅いバーニが気付くはずがない。


「了承した。今は先んじて参加することを認めてもらっただけでも満足するとしようじゃないか」


 ムラマサがその言葉を向けた先がバーニではなく俺のような気がする。

 何を思っていたとしても今は黙っておくべき。ムラマサ言葉と視線がそう物語っていた。


「他には何かありますか?」

「いや。大丈夫だ」


 この瞬間に残されていたバーニに問いかけるチャンスはムラマサの一言で消えてなくなった。けれど、それは俺が応対していても同じだったと思う。

 投げかける言葉は思いつかず、また返ってきてほしい言葉も分かってはいないのだから。


「これから皆さんは何をするつもりなんですか?」


 俺たちをドアの方へと案内しながらバーニが問いかけてきた。


「どうするって、何も考えてないけど」

「でしたらこの町を見て回ってはどうですか? 結構楽しいと思いますよ」

「それはまた別の機会にだな」

「どうしてです?」

「やるべきことがオレたちには残っているからさ」


 きっぱり言い切るムラマサに目を丸くするバーニを残し扉は閉ざされた。

 ギルド会館を出た俺たちはそのまま町の外へと向かい、クロスケに乗り自分たちのログハウスへと戻ることにした。

 道中クロスケの背に乗りながら受けたムラマサの提案はこれから先に関すること。

 その中でもムラマサが早急になさねばならないと考えていたのは自分たちの能力の底上げだった。それは単純なキャラクターのレベルだけではない。装備からスキルまで出来ることはなんでもしようとのことだった。

 ムラマサがそう思ったのはフリックと戦ったのがきっかけだったらしい。

 二人掛かりでも軽くあしらわれてしまったと感じているムラマサは自分の力不足を痛感したと言っていた。それに関しては俺も全く同感だ。ムラマサほど強くないと思っていてもあそこまで何もできないとは思っていなかった。こちらの人数と武器の性質からヒカルとセッカを下げたけど、それも今では悪手だったとすら思う。

 冷静に戦況と戦力を分析できるようになるにはまだまだ経験が足りないようだ。


「まずはスキルを見直してみようか」


 ログハウスの一階にある共有スペースで四人ものプレイヤーがコンソールを出現させる様は中々目にするものではない。

 真剣にスキルを見直していくと俺にも出来ることはありそうだ。


「どうですか? 何かいい考え浮かびましたか?」

「ヒカルはどうなんだ?」

「私は今の状態異常付加のスキルを強化してみようと思います。もう少しで新しい状態異常攻撃を覚えられそうなので」

「新しいって、今使っているのは毒と麻痺だっけ?」

「はい、そうです。ディゾルブが毒でパラライズが麻痺ですね。それで、新しく覚えられそうなのがスリーピィとスロゥってなってます」


 二つ新たなアーツの冠詞がヒカルの口から伝えられると、ムラマサは犯人を見つけた名探偵のような顔つきになって、


「名前から察するにスリーピィが眠り付与、スロゥが速度低下かな」


 と言った。それに対してヒカルは静かに「正解です」と告げ、続けて、


「あの、どっちのほうが使えると思いますか?」

「そうだね。ヒカルが一人で戦うつもりなら眠りの方がいいと思うよ」

「皆で戦うなら?」

「速度低下だね」


 一人で戦う時は相手を行動不能に追い込むのは自身の安全にも繋がること、眠りはモンスターに対峙する時はかなり強力な状態異常付与となり得る。だからこそ俺がヒカルの立場でも同じ選択をするだろう。そして、皆と戦う時にはもう一つの選択肢を選ぶ。これもムラマサと同意見だった。多人数で戦う時、自分の身の安全を確保する手段は一人の時に比べて数多く存在する。

 なによりもこれから俺たちが行うPVPではモンスターには効く状態異常でもプレイヤーには効かないという状況が発生する可能性は高い。

 眠りなどという直接戦闘不能になるような状態異常はプレイヤーには効かないというのが大概なのだ。眠りの状態異常がプレイヤーに効くかどうかを検証することも可能だが、それを検証するくらいならもう一つの選択肢を選びその精度を上げた方が身になるというものなのかもしれない。


「それで、セッカはどうしたいんだい?」


 ヒカルの強化の方向性は定まったのだと判断したらしく、ムラマサがヒカルの隣で黙々とコンソールを操作しているセッカに問いかけていた。


「……私のやることは決まってるから」

「ということは支援を伸ばすことにしたのかい?」

「……うん。アイテムが使えないなら回復魔法を使える方が有利だから」

「でも…なんかずるくないですか? 皆が回復できないのに私たちだけって――」

「それは心配ないだろうさ」

「どうしてですか?」

「皆なんらかの回復手段は用意してくるだろうってことだろ?」

「その通り。今回のPVP大会に参加しようとするなら当然初心者ではない、少なくとも中級者以上のプレイヤーがほとんどになるだろう。だったら少しくらいはスキルポイントに余裕があるはずだ。余裕があるなら回復魔法スキルくらいは入手してくるはずさ」


 ムラマサの言葉にヒカルは思案したような顔になり呟いた。


「それなら私たちも習得した方がいいんでしょうか?」

「んー、セッカという回復役がいる以上慣れないスキルを入手する必要はないと思う」

「同感だね。アイテムが使えない以上、MPは有限だからね。回復スキルでMPの自然回復速度を上げることは出来ても即座に回復できるようなものはないのだから、オレたちは攻撃と防御に専念したほうがいいと思うよ」

「……回復は任せて欲しい」

「ああ」


 力強く言い放つセッカに俺は解ったと頷いた。


「安心して。セッカちゃんは私たちが守るからね」

「……うん。頼りにしてる」

「ところで、聞いてもいいかな?」

「……何?」

「セッカはどんな風に強化することにしたんだい? 回復と一言で言ってもいろんな種類があるからね」


 この状況で俺が思い浮かべるのは回復量の増大、それか戦闘に差し支える状態異常の解消。

 素早く効果の程が現れるものとするなら後者だろうか。


「……私が選んだのは状態異常回復と継続回復、だよ」


 セッカの口から告げられた一つは俺の予想通りだったがもう一つは初耳だ。といってもその名称からどのようなものなのかはある程度予測できたが。


「……大きなダメージには向かないけど、戦闘中に負う軽いダメージなら何とかできるみたいだし、継続回復なら戦闘が始まって直ぐに使えるのもいいともう。それにダメージを負うたびに私が回復するのを待つ時間を短縮できるよね」

「凄いっ。セッカちゃんが二つ覚えるなら私も両方覚えることにする」

「……いいの?」

「まあ、効く効かないは別にして、攻撃のバリエーションが増えるのはいいことだと思うぞ」

「ユウはどう思いますか?」

「俺か? そうだな。ムラマサの言うことは解るし、ヒカルがやる気になっているのもいいと思うぞ。それに、効果がないと分かっていてもそれを即座に見極めるのは難しいだろ。特に他の状態異常攻撃も織り交ぜるつもりならな」

「それなら頑張りますっ」


 笑顔を浮かべ手を握り合う二人を見て苦笑しているムラマサは顎に手を当て何かを考え込んでいるようだった。


「どうかしたのか?」

「いや、自分はどうしようかと思ってね」

「ムラマサは何か伸ばしたいスキルあるのか?」

「オレの場合は伸ばしたいというのとはちょっと違うんだ」


 そう言ってムラマサは自身のコンソールを可視モードへと変え俺に見せてきた。


「オレのスキルは強化分岐のタイミングになっているんだ」


 コンソール上に表示されているムラマサの所持スキル≪刀≫。それから二つの矢印が別の項目へと伸びていた。



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