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キソウチカラ ♯.8

「ユウたちは町の外からの攻撃の対処をお願いできますか?」


 バーニが頭を下げた。

 俺たちは自分たちの指揮下にいない、その事実を他の四人のギルドマスターに見せつけるためにも指示ではなく提案という形をとったのだろう。


「町の中は自分たちでどうにかして見せます。けれど、町の外にまでこれ以上の人員は用意できないというのがボクたちの現状なんです。だから――」

「わかった。任せろ」

「……私たちが行く」

「攻撃している人たちがどこから魔法を使っているのか解っているんですよね?」


 ヒカルが部屋に入ってきたプレイヤーに問いかけている。

 頷くプレイヤーにヒカルは言葉を続けた。


「教えてください。そこは私たちがどうにかしますから」


 言い切るヒカルをそのプレイヤーはどこか信じられないという顔をしていた。しかし、バーニたちギルドマスターの面々が真剣な目をして頷いたのを見るとすんなりと教えてくれた。

 そのプレイヤー曰く魔法を使うのは揃いのローブを着ている二つほどのパーティということらしい。使用する魔法も揃えているのか火属性中心でこの町の建物に向かって放っているのは火球ばかりだという話だった。

 魔法を使うプレイヤーとのPVP戦の経験は数えるほど。パーティという集団を相手にするのは初めてだと言ってもいい。だからといって無謀な突撃には思えないのも事実だった。もし仮にこの攻撃がこちらを傷つける意図があったとするならば威力がお粗末すぎる。

 もし揺動のためだけの攻撃だとすればそれほどレベルが高いプレイヤーが選出されたとは思えないからだ。

 意を決し、神殿の部屋から出て行こうとする俺をバーニが呼び止める。


「ちょっと待ってください。これを付けて行ってくれませんか?」


 そう言って取り出したのは盾と剣と弓のレリーフが彫られたブローチだった。


「これはボク達の協会のシンボルマークです。上着の見えるところにつけておけば味方側からの攻撃は来ないはずです」

「だが、敵側からすれば自分は標的の一人だと宣言しているようなものじゃないのかい?」

「その通りです。けど」

「いいさ」

「ユウ?」

「どうせ戦いになれば誰が敵かなんて丸分かりなんだ。味方側からの攻撃が来ないだけで随分と楽になると思えばいい。そうだろ? ムラマサ」

「一理ある、か」

「これを付けて行けばいいんですね?」

「……これでいい?」


 ヒカルとセッカがそれぞれ上着の首元にブローチを取り付けている。本来の役目とは違う箇所に取り付けられたそれはどこかの学校の襟章のようにきらめいているように見えた。


「オレ達も付けようか」

「そうだな」


 二人と同じように上着の襟にブローチを取り付けた。


「ありがとうございます」


 深々と頭を下げるバーニの肩を軽く二度叩き、俺たちは今度こそ部屋を飛び出していった。


「こっちは通れそうもないな」

「それに攻撃が来る方向とは反対ですよ」

「だったら裏口を使った方がいいだろうな」

「……そんなもの、あるの?」

「ここは神殿なんだ。抜け道の一つや二つあるってものさ」


 ニヤリと笑うムラマサに続いて俺たちは人の居ない方へと歩を進めえう。

 薄暗い神殿の中では僅かに漏れる外の光が案内板となり割と簡単に普段使われていないだろう裏口を見つけることができた。

 錆びて重い扉を開けるとそこは神殿の裏側であり町の暗い路地裏に面していた。


「ここからならばそう遠くないはずだ。急ぐぞ」


 いつの間に背中から刀を取り出していたのか、ムラマサが腰に下げられた刀に触れながら言った。

 駆け出したムラマサに続き俺たちも走り出す。

 建物を挟んだ向こうの表通りでは今も戦闘が繰り広げられているはずだ。

 武器がぶつかり合う音を耳にしながら俺たちは町の中心から遠く外れた区画へと向かう。


「この先のはずです」


 そこは何かの舞台なのだろう。

 備え付けの椅子が扇状に広がり、その中心部には数段せり上がった舞台がありそこにプレイヤーの報告にあった揃いのローブを着た複数のプレイヤーがぶつぶつと何かを呟きながら手を天高く掲げていた。

 見つからないように物陰に身を隠し声を潜め話し合う。


「あれのようだね」

「……どうするの?」

「それは、リーダーが決めることさ。そうだろう?」

「俺とヒカルが正面。ムラマサとセッカは回り込んであいつらが逃げ出すのを妨害してくれ」

「……わかった」

「了解だ」

「ヒカルもそれでいいよな?」

「いいですけど……あの、私でいいんですか? ムラマサさんの方が強いと思うんですけど」


 横目で顔色を窺うヒカルの視線に気付いたのかムラマサがぽつりと呟いた。


「この場合はヒカルの方がいいとオレも思う。ヒカルの機動力はオレより優れてるし、魔法をメインで使うプレイヤーと戦うときは立ち止まらない方がいいからさ」

「どういうことです?」

「狙いを付けられない方が安全だということさ」


 魔法は近接攻撃よりも高威力なものが多いが、その殆どは放ってからの軌道修正はできない。

 ムラマサ曰く一点で立ち止まり魔法を打ち合うような戦闘にでもならない限り、絶えず動き回れる方がダメージを受ける危険性が低いということのようだ。


「ムラマサさんは魔法を使うプレイヤーとの対人戦の経験があるんですか?」

「まあ、それなりにね。その経験から言わせてもらうと正面から突っ込むのならオレやセッカよりもヒカルとユウの方が適任だということなんだ」

「そういうことなら…解りました。頑張ってみます」

「そんなに気負う必要はないさ。どうしてもやばい時はユウが何とかするんだろう?」

「え!?」


 フードを被っているプレイヤーの動向を観察しながら話半分で聞いていたところを突然話を振られ戸惑ってしまった。


「あ、ああ。大丈夫だ。よく言うだろ当たらなければ平気だってさ」

「……ユウ」

「私たちの話、聞いていなかったんですね」

「いや、聞いていたぞ。一応」

「はあ、別にいいです。なんか楽になりましたから」

「そうか?」


 肩の力が抜けたなら何よりだ。普段の力が出せればヒカルは間違いなく強いんだからな。


「なんか、自分の手柄、みたいな顔してますけど、違いますからね」

「お、おお。解ってるって。それよりも次の攻撃の後に突撃するぞ」

「あれ? 今すぐじゃなくていいんですか?」

「町の防御力ならあと一回の攻撃くらいなんともないだろうさ。それに攻撃の後は大きな隙ができやすいからな。大事なのは町の防衛もそうだけど、確実にあいつらを倒すことなんだ。俺たちが負けた場合あいつらの攻撃は止まらない。そうなると町で戦うバーニたちの手助けにはならないんだからさ」


 負けられない。

 そういう意味では舞台の上で魔法を使うプレイヤーと俺たちでは意識の差があるのかもしれない。その差が致命的な違いになることもあるのだと感じつつ、それがプラスの方向に働くようにと祈った。

 プレイヤーの手の前に浮かぶ魔方陣から一斉に火球が飛んでいく。


「ヒカル、行くぞ」

「はいっ!」


 時間差で火球を撃ち出せばいいものを一度の威力を重視したのか油断しているのか、あのプレイヤーたちは同時に魔法を使っていた。

 そのせいでこうして奇襲を受けるのだ。


「な、何だ、お前ら!」


 慌てて手を向けてくるが発動の予兆すらない魔法と剣では攻撃に移るまでの速度に明確な違いがある。

 剣銃の刃がその身を切り裂くのが早く、最前列に並んでいたプレイヤーに明確なダメージを与えた。


「ぐっ」

「後ろからも来たぞ。各自迎撃を」


 フードの中の顔にははっきりとした焦りの表情が浮かんでいる。


「遅い!」


 初撃を受けてよろめいたプレイヤーに振り返り様の斬撃を叩き込む。

 魔法使いをイメージしているプレイヤーだからだろうか、その防御力は平均的な近接戦闘を主に置いたプレイヤーよりも低いようで俺が想定していたよりも大きいダメージを与えることができた。

 剣銃を構え直す俺とは少し離れた場所でヒカルが透明な刀身を持つ短剣を使い戦っているのが見える。

 さらに後方ではムラマサが流れるような動きで刀を振るい、セッカが珍しくもメイスで奮闘しているようだ。

 それにしても、と思ってしまう。

 この魔法を使うプレイや―たちのフードの下の顔は明らかに獣人族のそれだ。以前見た種族の説明を思い出す限り、獣人族は魔法を主に使う種族ではなかったはずだ。それを承知の上で選択したのだろうが、それにしては戦闘の組み立て方が雑だ。

 まるで今回の襲撃のためだけに(あつら)えた魔法を無理やり使えるようにしたという印象が拭えない。

 現に俺たちは全くと言っていいほどダメージを負わずしてローブを纏ったプレイヤーたちを圧倒してしまっている。

 勝つことは出来ないと分かりきっているにもかかわらず、ローブを纏ったプレイヤーたちは死に物狂いで向かってきている。


「どうして……」


 小さなヒカルの呟きが聞こえる。

 ヒカルもいまの俺と同じように戸惑っているのだろう。

 どうしてここまでするのか、それが分からずに。

 それでも、向かってくるというのならば戦わなければならない。諦めないというのならば、倒さなければならない。

 一人、また一人とフードを纏ったプレイヤーはHPを全損させて消えていった。

 こうして辺りに静寂が訪れるとムラマサとセッカが舞台の反対側から現れた。


「これで全員のようだな」

「そう…だな」


 剣銃を握ったまま俺は立ち尽くしている。

 どうにも腑に落ちないでいる俺にムラマサがいつもの様子で話しかけてきた。


「どうしたんだい? 浮かない顔じゃないか」


 何と答えればいいのか迷っている俺に代わりヒカルが顔を顰めて答えた。


「だって変ですよ。この人たちは本当にあの襲撃者の仲間なんですか?」

「それは間違いないさ。でなければ町に攻撃を仕掛ける理由なんてないはずだからな」


 ムラマサの言う通りだ。

 現時点で町に攻撃をする必要性があるのは協会に敵対している人たちだけ。それ故に間違いはないだろうという判断に関しては俺も疑ってはいない。

 疑問を抱いたのはプレイヤーたちの技能に関してだ。

 使っていた魔法の威力は一級品。だがそれを扱うプレイヤーの腕が低すぎる。

 その相反する事実が戦闘を終えてもなお俺に疑問として残ったのだった。


「おいおい、魔法が止んだと思ったらなんでやられてるんだよ」


 だるそうな口調で現れたのは見知らぬプレイヤー。

 獅子のような鬣と鋭い牙を持つプレイヤーが挑発的な笑みを浮かべ辺りを見渡しながら首を鳴らしている。


「オマエラの仕業でいいんだよな」

「君は誰なんだい?」

「俺か? 俺はフリック」


 剣呑な視線が俺たちを射抜く。


「オマエラの敵だァ」


 その動きはこれまで相対していたローブを纏ったプレイヤーたちとは雲泥の差がある。

 背中に担がれていた巨大な鉄板を彷彿とさせる無機質の鉄の塊そのものの大剣が風を切り、大地を裂いた。


「くっ、いきなりかっ!」

「ヒカルとセッカは下がれ。この相手に二人の武器は不利だ」

「解りました」

「……援護はするから」

「頼んだ」


 後方に下がる二人を庇うように俺とムラマサが前に出る。

 フリックも誰が自分と戦えるのか、剣を交える前から見定めていたのだろう。下がる二人を追おうとはせずに、持っている大剣を肩に担いで俺たちを待ち構えていた。


「準備は出来たかよォ」

「ふっ。待っていてくれたのかい? 君は案外いい奴なのかもしれないね」

「ジョーダン!」


 ムラマサの刀とフリックの大剣が激突する。

 武器の強度は現実には準じない。だから太さの違う刀身同士がぶつかったとしても片方が折れるということはない。せいぜい耐久度が落ちるくらいだろうか。

 などと冷静に分析できているのは激しさを増す攻防に俺は目を奪われているからだ。

 自分が入り込める隙を探して緊張感は保っているものの、あの中に入って行ける自信は無い。


「どうしたァ、これだけかァ!」

「まだまだっ!」


 一段と剣同士の激突はその激しさを増した。

 突風が吹き荒び、生じた衝撃が削れた舞台の欠片を宙へと舞い上げる。

 余力を残しつつも全力で剣を振るい合っているのだろう。ムラマサとフリックは微かに笑っているように見えた。


「オマエも来いよ」


 そう言い放ったフリックは剣がぶつかる衝撃に弾かれ下がったその刹那に足元の小石を俺の元へと蹴りやった。

 攻撃力などまるでないその小石が俺にはナイフを投げられたように感じ、フリックに言われたように思えたのだ。何故、戦わないのか、と。

 それは先に剣を交えていたムラマサも同じだった。

 目だけで言ってくる。

 お前も来い、と。


「…行くぞ!」


 そうして俺は自慢の剣銃を構えて戦闘に参加していった。



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