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キソウチカラ ♯.6

 戦ってみるか、というムラマサの提案に乗って俺たちはログハウスから近い森へと来ていた。

 この周辺にいるモンスターはそれほど強くない。

 連携や互いの動きを確認するという目的にはそれなりに適しているともいえる。


「何と戦うかだけどさ、任せてもいいかな?」

「俺にか?」

「ああ。オレはまだここの地理、というかモンスターの分布に詳しくないからさ。何と戦うのかはユウたちが決めた方がいいだろう」


 不用意に下手なモンスターに手を出したくはないということらしい。

 それならば、と俺はこの辺りに生息するモンスターのなかでも討伐して獲得できる皮を細工の素材としてよく狩っているトカゲ型のモンスター。森リザードを提案した。

 森リザードは強さはそれほどでもなく、素早さに特化したモンスターだ。狩るときのコツは追い込むように位置取りをする、ということ。

 戦闘時の連携の練習にするならばこれでいいはずだ。

 目的の森リザードを探して森の中を進んでいく。

 生態としては集団で生息しているのではなく各固体で木々の陰や岩陰に潜んでいることが多い。

 散り散りになって注意深く探していると不意にセッカがフレンド通信を使って告げた。


『……いたよ』


 ゆっくりと物音を立てずに集合すると、セッカが指さす先には五十センチほどのトカゲが樹の幹に張り付いているのが見えた。

 声を潜めムラマサが問いかけてくる。


「いつもはどうしているんだい?」

「普段は私とセッカちゃんが追い込んで、その先でユウが待ち伏せしてるんです」

「ユウが追い込む側じゃないのか?」

「……森リザードは速いから。私たちじゃ追い込んだ先ですり抜けられることが多かったの」

「それで俺がスピード特化の≪強化術≫を使って対応するようになったってことなんだ」

「なるほどね。それなら人数的にもオレはユウに合流した方がよさそうだな」

「いいのか?」

「勿論だとも。スピードは強化したユウ程じゃないかもしれないけどさ、オレにはこれがある」


 鞘に収められているままの刀を翳しにやりと笑って見せた。


「よし。作戦はそれでいこうか」


 狩り慣れている俺とヒカルとセッカは暗黙の了解で散り、ムラマサはこそこそと茂みの中に入っていく俺の後に続く。


「こっちは位置に着いたぞ」

『……了解』

『始めますね』

「おう」


 フレンド通信が切れると離れた場所から大きな衝撃音が聞こえてきた。

 セッカがワザと大きな音を立てて森リザードに攻撃を仕掛けたのだろう。


「そっちに行きました!」

「大丈夫だ。見えてる!」


 地面を這う影を追いかけてくるヒカルが叫ぶ。

 俺は自身にスピード強化を二重に施し、その陰の軌道を先読みして道を塞ぐために駆け出した。


「こっちは行き止まりだ!」


 剣形態の剣銃を振り抜く。

 命中はしたものの一撃で仕留めるほどの威力は込められなかったらしく、森リザードが急旋回してヒカルたちの方へと向かった。


「しまったっ」

「任せてくれ。氷よ!!」


 俺の後ろでムラマサが刀を横一文字に振り抜いた。

 左から右へ。刀が描く軌道に沿うように氷の壁が地面から伸びるように出現し森リザードは自身のスピードを殺しきれずに激突していた。


「ユウ、追撃を!」

「お、おう」


 氷の壁に森リザードが激突したのをきっかけにしたのか、元々持続時間が無かったのか、ムラマサが作り出した氷の壁は瞬く間に溶け、それが存在した証明は横一線にある濡れた後だけ。

 驚きを感じつつも俺は森リザードに止めを刺す。

 森リザードが光の粒子となって消えた後には俺たちのストレージに森蜥蜴の皮というアイテムが収納されているはずだ。


「よし。問題ないな」


 ストレージに追加された森蜥蜴の皮×2を確認し満足げに呟く。

 一つは確定してドロップする数なのはこれまでの経験からも確認済み。つまりもう一つは自分自身の運による追加ドロップだ。

 コンソールを消して周囲の安全を確かめていると、俺たちの向かいからヒカルとセッカが並んで駆け寄ってくる。

 なかでもヒカルが若干興奮気味なのはどうしてだろうか。


「ムラマサさん、凄いです! 氷を使うんですか?」

「ん? ああ、オレはまだ他にも属性が使えるぞ」

「そうなんですか!?」


 驚くヒカルを見て俺は一人納得していた。

 俺が輝石に火属性の魔法を付与するまで、俺たちのパーティは魔法らしい攻撃を行う人はいなかった。回復魔法を使うセッカや状態異常攻撃を行うヒカルも俺からすれば十分魔法らしいとは思うのだが、それでもムラマサが使用した氷壁を生み出す攻撃は二人のイメージするそれにより近しいのだろう。


「ユウは見たことがあるだろう?」

「そうだな。確か炎を使っていたような気がするけど」

「実は他にも使えるようになったんだ」


 鞘に収まったままの刀を撫でつつムラマサは言葉を続けた。


「スキルのレベルが上がるごとに使える属性の種類は増えていったのさ。今は火、水、風、雷、氷、土、種類で言えばそのくらいかな」

「そのくらいって、今確認されている属性の殆どじゃないですか」

「……使えないのは状態異常系と回復系くらい?」

「状態異常系はこの先にも使えるようになる可能性があるけど、回復系はどうだろうな?」

「……使えるようにならないの?」

「一応これはオレの攻撃手段だからさ。回復まで出来るようになるとは思えない。それに最近はレベルを上げてもそれぞれの威力が増すだけで種類が増えることは無くなっているからな」

「つまり、これ以上は使える属性が増えることは無いってことか」

「その可能性は高いだろうね。それに――」

「何だ?」

「いいや、何でもないさ。それよりも、これからどうするんだい? 別のモンスターと戦ってみるのかい」


 頭を振り被り、わざとらしく明るく振る舞うムラマサが口に出した別のモンスターという言葉。しかし、そう言われても俺はすぐに何と戦うか思い浮かばなかった。

 たった一度の森リザードとの戦いではムラマサがこれまでの俺たちの連携に問題なく参加できることを示し、同時に俺たちに新しい戦闘の組み立てパターンを提示した。しかし、この辺りに生息しているモンスターはどれも素材を獲るための、いわば量を狩ることが目的とされた雑魚モンスターだ。簡単な連携や戦闘の位置取りの練習にはなるが新しい連携を試すには弱すぎると言わざるを得ない。

 そうなると自然と候補に上がるのがこの辺りに棲むボスクラスのモンスターだ。

 黙り込んで思案する俺を見かねたようでセッカがぼそっと呟いていた。


「……一度町に行ってみない?」

「どうして?」

「……クエストにいいのがあるかも」

「ほう、クエストか。確かにやみくもに戦うモンスターを決めるよりもいいかもしれないね」


 頷くムラマサの前でセッカとヒカルがそれぞれどこの町に行くかを相談し合っている。


「ユウはどこがいいとかありますか?」

「そうだな」


 と俺も考え込むしぐさをしながら、心の中ではこのタイミングで町に行っても大丈夫なのかということばかりを考えていた。

 あの時のように突然の襲撃にあった場合、俺はどうするのか。


「ユウ?」

「……どうかした?」

「え!?」


 余程心配そうな顔をしていたのか二人が俺の顔を覗き込んできた。


「何か元気なさそうですけど」

「大丈夫、とは言えないかもな」

「……どういうこと」

「正直な話、不安があるんだ」

「不安? 二人は何か知っているかい?」

「それって、バーニさんが言ってたやつですか」

「まあな。町に言ったらまた襲われないとも限らないだろ」


 というよりもその可能性が高いと思った方がいいかもしれない。

 一度襲われたということは俺たちは確実にバーニ側だと知られているようなものだ。


「それはオレとシシガミとかいうプレイヤーとのことが原因なのか?」

「違う。どちらかと言えば俺たちの方に原因がある、と思う」

「聞いても大丈夫か?」

「というよりはムラマサにも事情は知っていてもらわないといけないだろうな」


 それから俺はバーニが作ろうとしている協会とそれに関する問題を話した。具体的には協会関係者を狙った襲撃クエストの発生と同時に運営側が発注した決闘クエスト。そして自分たちもまた一度はその襲撃にあったということを。


「なるほど、あの時の騒動はそういう理由があったのか」

「あの時?」

「オレはユウ達が数多のプレイヤーと戦っているのを見たと言っただろう」

「だから俺たちと一緒に行動するとムラマサも襲われる危険性があるんだ。ここまで黙っていたのは悪いと思う。だからってわけじゃないけどさ、嫌だったら抜けてくれても――」

「気にしないでくれ。オレがユウ達と出会わなければここでの活動はかなり制限されていただろうさ。それはオレの望むところではない。それに比べれば襲撃のターゲットになることくらいなんでもないさ。第一、オレにはユウがそのまま放っておくとも思えないんだがな」

「何とかできるならしたい、とは思う。けど、実際に問題の渦中にいるのは俺たちじゃない。騒動の端っこの方で巻き込まれているだけの俺にはどうすることもできない」

「ならば、オレたちも問題の中心へと行けばいいのではないか?」


 簡単なことだと言わんばかりにムラマサが告げた。


「ユウ達はその協会とやらを作ろうとしているプレイヤーと知り合いなのだろう。そして自分たちも襲われ、問題の解決を考えている。となれば力を貸してもいいのではないか?」

「いや、俺はその協会に入るつもりはないんだ」

「そうなんですか?」

「……そうなの?」

「前から言っているように俺は商売をする気はない。遊ぶためのゲームで何かのしがらみに捉われるようなことはことは避けたいんだ」

「ならば、友人として手伝えばいいだろう」


 意外だったというような顔を見せるヒカルとセッカの隣でムラマサがまた当然だと言った。


「まだ設立前の協会の構想を話すくらいの仲なんだろ」

「そうだけど」

「それは友人、友達というのではないのか」


 バーニが友達? まだあって間もなく、ゲームの中だけしか知らない相手なのに。


「違うのか?」

「違いません! バーニさんとは確かに会ってまだそんなに時間は経っていませんけど、私たちの友達です!」


 力いっぱい叫ぶヒカルを見て俺は戸惑うばかり。

 いや、違うな。自分が気付かなかったことをヒカルは当たり前に認識していたから驚いているだけか。


「友達なら力を貸してやりたいと思うのは自然なことだ」

「そうです。だからバーニさんを手伝ってもいいですよ」


 真っすぐ見てくるヒカルとムラマサの視線から逃れようと振り返るとセッカが同じような目をして立っていた。


「セッカも同じなのか?」

「……もちろん。バーニはみんなの友達だから」

「そうか」


 どうやら迷っていたのは俺だけだったらしい。


「いいのか? 本格的に巻き込まれるかもしれないんだぞ」

「冒険は少しばかり刺激的な方が面白いのさ」

「大丈夫です。私たちは強いですから」

「……戦う理由があるなら、戦える」


 心強い三人の言葉に、俺は次に行くべき目的地を決めた。

 バーニのギルド『果実樹』が拠点としている町、ラカンだ。

 黒翼の指輪を通じて喚び出されたクロスケの背に乗り空を翔ける。


「やっぱりこれは気持ちいいな」

「まだ二度目なのにムラマサさんは怖くないのですか?」

「昔から高い所は好きなのさ」


 他愛もない談笑を続けている間にクロスケはラカンの近くの高原へと着地した。


「もう少し飛んでいたかったかな」


 名残惜しそうに背中から降りたムラマサは優しい手つきでクロスケを撫でていた。


「クエストを確認しに行く前にバーニに会っておくか」


 魔方陣がクロスケを通り抜け、小さな梟へと姿を変えさせた。


「その前に連絡を取っておいた方がいいですよね」

「そうだな。ヒカル頼めるか?」

「いいですよ」


 バーニをフレンド登録しているのはヒカルも同じ。俺よりも人当たりの良いヒカルに任せておけば間違いはないだろう。


「……なんか変」

「町の方が騒がしいな」


 セッカとムラマサが何かを探るような目をしてラカンの町を見つめている。


「そんなっ!」


 バーニに連絡を取っていたはずのヒカルが叫んだ。


「何があった?」

「バーニさんが、襲われているみたいです」


 その言葉を聞いた瞬間、俺たちは駆け出していた。

 何が起きているのかは解らない。けれど、友達が危険に晒されているのは間違いないのだから。



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