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未知への旅路 ♯.14

 昨日、俺たちは村長の家の座敷へと戻って来たトビアに案内されて用意された家屋へと向かった。

 この家も村の他の建造物と同様の木造で、内装は三人分の寝床と簡易な机と椅子。

 そこで俺たちは眠るのではなく、ログアウトして現実へと帰っていった。


 そして今日。学校を終え二人と約束した時間に間に合うようにログインしてきた俺は昨日と同じ村の家の中に現れた。


「二人は、まだか」


 すぐにコンソールを確認したがヒカルとセッカの名前の欄は暗い色のまま。それは二人がまだこちらに来ていないことを表していた。

 ずっと家の中にいてもすることがない。一人でもできることを考えて村の探索にでも行こうかと家から出てすぐのことだ。俺はラクゥに呼び止めれた。


「ふう、やっと出てきたか」

「どうしてここに?」

「きみを待ってた」

「はあ!?」

「ふむ。照れたりはしないんだな」

「当たり前だろ」

「そうか。当たり前か」

「で、本当に何の用なんだ?」


 俺を待っていたというのなら村長と昨日の続きの話をするためだろうか。しかしまだ二人が来ていないというのに俺一人が話をしに行くわけにもいかないだろう。


「用とまではいかないのだがな。一度わたしの口からも礼を言っておきたくてな」

「一度って、昨日も言ってただろ」

「別にいいじゃないか。何度言っても足りないくらいなのだからさ」


 嬉しそうに笑うラクゥは心底村に蔓延していた疫病が収まったことを喜んでいるようだ。

 それが分かるからこそ、俺はラクゥの礼を素直に受け入れていた。


「あ、そうだ。礼というなら俺にこの村を案内してくれないか?」

「この村を」

「ああ。昨日はゆっくり見て回る暇なんてなかったからな。ダメか?」


 多種族を受け入れない村だとしても今の状況ならそれなりに自由に歩き回れるはずだ。一日時間を置いたおかげもあってか俺の好奇心は元のように戻ってきていた。

 よくよく考えれば入れないはずの村にいるというのはそれだけでも珍しいことなのではないか。

 そう考えるとこの機にいろいろ見て回りたいと思い始めていたのだった。


「駄目じゃないとも。いいぞ、どこから案内しようか?」

「そうだな。出来れば薬草とかを売っている店を案内してくれると嬉しいかな」


 使ったポーションをそのまま補充できるとは思っていない。

 そもそも俺が使っているのは店売りのものではなく自分で作ったもの。だから欲しいのは作り出すための素材の方だ。

 村の周りにはそれなりに自生していたからそう難しいことを言ったつもりはなかったのだが、どういうわけかラクゥは困ったという顔を向けてきた。


「どうかしたか?」

「すまないがこの村には店というものはないんだ」

「どういうことだ?」

「それは直接見てもらった方が早いだろう。ご所望の村の案内も兼ねて教えることにするよ」


 そうして俺とラクゥは並んで村の探索へと歩き出した。

 現実時間での一日はゲームでは数日に相当する。

 ラクゥの言っていたやっとの意味を俺は村の様子を見ることで理解した。


「もうすっかり元気になったみたいだな」

「ええ。お陰様で。本当に――」

「それはもういいから」


 ゲームのNPCだとしても、例え『劣化ソーマ』を使ったとしても完全回復は一朝一夕には行われない。それは製作者たる俺が一番よく知っていることだ。

 それなのに村人は皆元気に生活を営んでいる。

 つまりはそれだけ長い時間が経ったということ。


「それで、店がないってのはどういうことなんだ?」


 俺が知りたいのはそのことだ。

 人が暮らすコミュニティとして金品の流通がないというのはどうしても信じられないことだった。


「ユウはこの村の住人が何人くらいいると思う?」

「何人って、俺が会ったというか話したことがあるのは四人だけなんだぞ」

「そうだったな」


 『劣化ソーマ』を作っていた時はがむしゃらに調薬を繰り返していた上に運搬も任せっきりだった。だから疫病にかかっていた人の実際の人数を知ることはなかったし、かからなかった人の数を知る機会もなかった。


「今はだいたい百人ほどが暮らしているんだ」

「ってことは、その八割近くがかかっていたのか」


 改めて大事だったのだと思い知らされた。


「もし、治らなかったら。わたしたちの村はそこで終わっていたかもしれない」


 村が終わる。

 その一言は俺が思うよりも遥かに重い言葉なのだろう。

 深刻そうにするラクゥに向け俺はワザとらしいほど明るく問いかけた。


「それで、住人の数がなんなんだ?」

「あ、ああ。そうだったな。その百人が皆どういう風に生活をしているか分かるか」

「どういう風って、普通は何か仕事してるもんだろ」

「その仕事がなんなのかってことだよ」


 仕事と問われ俺は村の住人の様子を窺ってみた。

 子供はむじゃきに遊び、大人はそれぞれ別々の場所に向かいながらも村の中にいるのは同じだ。


「ああ。なるほど」


 この村の大人の仕事といえば農作業。

 畑を耕したり、果物を育てたり、家畜を育てたりと、言ってしまえばこの村は完全な自給自足で賄っているのだ。


「もちろん村の中だけで補えないものはある。そのために他の村や町と交易はしているけどさ、ことこの村の中に限ってしまえばお金というものは必要ないんだ。ここで作ったものは村のみんなのもの。食べ物であろうと何だろうとな」


 俺とは価値観が違う。そう感じながらも一つの村が一つの家族のように生活していること自体はそう悪いとは思えない。

 こういうものがあってもいいのかもしれないと思わせる温かさがこの村の空気からは感じ取れた。


「でもお金が要らないというわけじゃないんだな」

「まあ、他の村との交易にはお金を使った方が楽だからね」

「だったら俺がその交易の時と同じレートで分けてもらうことはできるのか」

「それはたぶん大丈夫だと思うけど」


 ならば素材を扱っている人のもとに案内してくれ。 そう言おうとした矢先だ。俺たちに宛がわれていた家からヒカルとセッカが出てきたのが見えた。

 俺の視線を追ってラクゥも気づいたらしく、クスッと笑うと、


「どっちにしても取引は次の機会だな。三人が揃ったら連れてくるように村長に言われてるんだ」


 そのまま俺とラクゥはログインしてきたヒカルとセッカと合流し再び村長の家に向かった。

 村長の家につくと昨日と同じトビアが俺たちを迎えた。昨日と違うのはその隣に狐耳の獣人シャーリが立っていたこと。

 何の用があるのだろうとラクゥに尋ねてみると、どうやら俺たちを迎える役割にトビアやラクゥと一緒に就いたということだった。

 どうして三人もと思ったが、どうやらそれは俺たちの人数に合わせたからのようで、俺たち一人に対し一人専属の案内が付くということで話がまとまったらしい。

 でなければ村人の多くが一目会いたい話をしてみたいと思っている為に強引に押しかけて来ることにもなりかねないのだと言っていた。それでは俺たちは碌に活動ができなくなってしまう、と村長の計らってくれたのだとラクゥに言われ知った。

 村長の家の座敷に先日と同じ席順で座った俺たちにクマデスはおもむろに話し出した。


「さて、先日の続きの話だったの」

「そう…ですね。他種族が暮らす場所についてですが――」

「それに関してはここに纏めてさせてあるからの」


 見てくれと昨日と同じ机に、昨日と同じ大きい地図が広げられた。

 昨日とは違うのはそこにいくつかのピンが突き刺さっていること。


「ここが他の種族も一緒に暮らす村や町がある場所だの」


 地図上ではここからそう遠くない場所に三つほどピンが突き刺さっていた。

 俺たちが次に向かうのはそのうちの一つになるのかとそのピンをじっと見ているとクマデスが、


「なかでもおすすめはココとココかの」


 俺が注目していたのとは別の場所、この村からは比較的遠い場所を指さした。

 それに対してヒカルが俺が思っていたのと同じことを問いかけていた。


「どうしてですか? この三つの方が近いと思うんですけど」

「別に行きたいなら止めないけどさ、お前たちもそこに行って入れないなんてのは嫌だろ」

「シャーリ、だっけか。それはどういうことか教えてくれるか?」

「この大陸ではそなたらが思っている以上に他種族に対する偏見が強いということだの」

「村長……」


 隠し立てしないその一言にラクゥとトビアが揃って顔を顰めた。


「そなたらはこれまで中央大陸から出たことは無かったらしいの」

「えっと、それは、そう、ですけど」

「……だめ、なの?」

「駄目ではない。だが中央大陸以外では他種族というものは珍しいもので少なからず偏見もあるということは覚えておいた方がいいの」


 ゲームで偏見などあるのだろうか、あるのだとすればどんな目的で作ったのだろう。そう考えている俺にトビアが言ってきた。


「私もあなた方以外の他種族の人を無条件に受け入れることはできないと思います。そしてそれはおそらく他の村でも同じかと」


 となれば俺たちがこの大陸で活動するのはかなり制限があるということだった。

 俺とセッカはまだ種族切り替えのチャンスを残しているが、ヒカルはすでに魔人族になってしまっている。何より、別の大陸に行くたびに種族を変えなければならないのだとしたらそれは確実に面倒であり、不可能だと言わざる得ない。

 しかし、それでゲームとして成り立つのだろうか。

 どの大陸を拠点としていようともプレイヤーはどんな種族だって分け隔てなく接することができるだろう。元が同じ人間という種なのだからそれは難しい話ではないはずだ。中にはPKのような人もいるだろうが、それは個人が問題なのであって種族が問題なのではないのだから。

 けれど、実際にここで生活を営んでいるのはプレイヤーではなくNPCのほう。街にある各種の店や施設を運営しているのもNPCたちだ。つまりは彼らに拒否されては俺たちは何もできないなんてこともありえるのだ。


「ではこの二つは比較的偏見のない場所なのですね」

「そうだの。以前はそうでもなかったのだがの、最近はどういうわけかその傾向が強いらしいの」


 となればそこがプレイヤーたちの活動の拠点となっている可能性が高いということ。

 確かに俺たちが向かうのならばそこほど適した場所はないのだろう。

 安全と確実性を求めるのならば他の選択肢はなくなったと考えるべきだ。


「不満かの」

「え!?」

「そなたの顔に書いてあるんだの。もっと自由に歩き回りたいとの」


 まったくクマデスの言う通りだ。

 せかっく別の大陸にまで来ているのだ。出来ることなら自分の思うように見て回りたい、それが俺の本音だった。

 何と答えていいのか決めかねている俺にクマデスが問いかけてくる。


「何か目的があるのかの?」

「村長どういう意味ですか」

「なにの、中央大陸で活動しているものがわざわざこちらに出向いてくるのには何か理由があるのかと思っての。どうだ、話してみないかの。儂らが力になれるかもしれんぞ」


 別の目的。

 それはこの大陸での安全な拠点が見つかってからの事だと思っていたことだ。

 ここで敢えて何もないと嘘を吐いて誤魔化すということもできるのだろうけど一度得た信頼をつまらない嘘で損ないたくはない。

 話すかどうかをヒカルとセッカに確認するために振り返ってみたが、返って来たのは俺に任せるという意思のこもった視線だけ。

 俺のしたことに文句は言わないという信頼に応えるのもまた俺の役目。そう考えて俺はクマデスやラクゥ、トビアとシャーリ、ここにいる人たちにも話すことを決めた。


「俺たちがこの大陸に来た理由は二つです。一つは昨日も話した船の護衛なんですが、その目的はお金です」

「ほう、金かの」

「俺たちには欲しいものがありまして、それを買うにはかなりの大金が必要なんです」

「それは具体的に幾らなんだ?」

「二千万。あ、一応少しは貯えがあるから千五百くらいにはなったのか?」

「どうでしょう? 例のアイテムは私たちがいなくても売られることになっていますけど、その金額はギルドホームに帰ってみないことには」

「……一番の高値で売ってくれることにはなってる」

「なら今はそれを考えないことにするか。どのみちそんな金額を持ち歩いていないからな。こっちで買うなら全額必要だってことになるんだろ」


 ギルドホームにある貯えたお金はその金庫に預けてある。それはそのまま取り出すためにはギルドホームに行かないといけないということになり、帰れないいま帰るために購入するのならばその金額はあてにできないということだった。


「ってなわけで、俺たちはお金を稼ぐクエストのためにこちらに来たんですけど」

「海に落ちたというわけだの」

「それでそのクエストも失敗になりました」

「ではもう一つの目的とはなにかの?」

「それは――」


 自分の右腕にある輝石の腕輪を見せた。


「これに関係しているものです」

「その腕輪は何なんだ?」


 俺の横からラクゥが顔を出して聞いてきた。


「詳しい説明は省くけど、ここに石が四つ嵌まっているだろ」

「ああ。一つだけ色がついているな」

「この大陸ではもう一つを色付けられるはずなんです」

「どうするんだ? 絵具を塗ればいいのか?」

「いや、石碑っていうのを探している。たぶんこのくらいの石で表面に文字が彫られていると思うんだけど」


 中央大陸で見たものを思い浮かべながら告げると、クマデスたちは揃って知らないというような顔をした。


「石碑はそれぞれの大陸の色んな所にあるはずなんです」

「なるほどの。それを探すためにも大陸を自由に歩き回りたいということだの」

「……そう」

「となれば、これらの村に直接行くのでは駄目なようだの」

「いや、どっちにしても拠点は見つけたいと思っていましたし、まずはそこに向かってみようかと」

「しかしそれでは何の解決にもならないだろ」


 慌ててフォローしようとした俺にシャーリが鋭く言い放った。


「それはそうなんだけど、今は方法がないから」

「方法ならあるんだがの」

「はい?」


 諦めるしかない。そう思っていた俺にクマデスがさらりと告げた。


「この村には昔から伝わっている秘薬があるんだの」

「秘薬、ですか?」

「まあの。例の疫病には効果がないうえに儂らには使い道がなかったものなんだがの、今のそなたらなら使えるかもしれないの」

「今の私たちなら?」

「……どういうこと?」

「まあ、全ては実物を見てからだの。トビアよ、ちょいと蔵まで行って取ってきては貰えんかの」

「わかりました」


 さっと忍者のように素早く座敷を出て行ったビアがすぐに戻ってきた。


「これですか?」

「そうだの」


 相変わらず早い。

 俺は人知れずその速さに感銘を受けているとトビアが一つの細い陶器の壺を机の上の地図の隣に置いた。


「これは『幻視薬』といっても幻を見るための薬ではなく、幻を見せるための薬だの」

「幻を見せる?」

「そうだの。具体的には他の種族になった自分の姿を見せることができるんだの」



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