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未知への旅路 ♯.6

 ビルの建ち並ぶ場所で石碑を探していると俺たち以外のプレイヤーも次第に集まって来ていた。

 他のプレイヤーとは何度かビルの中や外ですれ違い、ときに一喜一憂するプレイヤーたちを見て気付いたことがいくつかある。それは俺の予想通りここら一帯にあるビルの全ての部屋ごとに石碑が建てられていること。そして正解となる石碑は個人、あるいは各パーティ毎に場所が違っているということだった。

 俺がそれを知ったのは自分たち以外のプレイヤーが石碑の一つに近づき持っている輝石が反応したのを目撃した時だった。

 そこが正解なのだと思い先に来ていたプレイヤーが居なくなってから確かめてみたが、残念なことに俺の輝石に反応は表れなかった。最初はまだその事に対して何も解からずにいたが、別の石碑でも同様に別のプレイヤーたちが輝石になんらかの効果を付与していたのを見てようやく理解した。そのプレイヤーたちは四人組みのパーティで行動しているらしく、一つの石碑で四人全てが輝石に効果を付与できていた。それによりここの石碑はパーティ単位で正解を宛がわれているのだと知った。

 つまりこのエリアにある無数の石碑のうち、自分あるいは自分が所属しているパーティに対応しているのはたった一つのみ。それがどのような効果なのかはこれまで同様に確信してみなければ分からない。


「なんか、嫌がらせみたいな仕様だよな」

「そうなの?」

「だってさ、わざわざこんな風に隠さなくてもいいと思わないか?」


 それは文句というよりは疑問だった。

 頭上にいるリリィは答えなど分からないとでもいうように無軌道に飛び続けている。

 何故このような仕様にしなければならなかったのか。単純にプレイヤーを楽しませるためだけにというのにはあまりにも回りくどいように感じてしまう。大勢のプレイヤーに対して混雑しないようにとの気遣いなのだとしてもそこにハズレを混ぜる理由にはならない。


「ここにも無かったね」

「そう、だな」


 簡単に見つかるとは思っていなかったけど、こんなにも難航するとも思ってなかった。

 既に二つのビルの部屋の全てを確認し終えた俺とリリィは未だに正解の石碑を見つけられないままに三つめのビルに足を踏み入れた。


『ユウ、セッカちゃん、聞こえる? 見つけたよ!』


 三つ目のビルの最初の部屋に入ろうとしたその瞬間、パーティ全員同時に通じるフレンド通信でヒカルの声が届けられた。

 仕種だけでリリィを呼び止め、俺はその会話に集中することにした。


『……どこ?』

『最初に入ったビルから右に五個進んだとこにあるビルだよ』

『……わかった。すぐ行く』

『ユウ、聞こえてますか?』

「あ、ああ。聞こえてる。俺もすぐに行くよ」


 俺とリリィが二つのビルを探索している間にヒカルは五つのビルを探索したというのだろうか。それとも一つ一つのビルを順序立てて探索するのではなく勘で探索するビルを選んでいたのだとするならば、ヒカルの勘の鋭さには感心させられる。

 入ってきたばかりのビルからすぐに出て俺たちはヒカルが石碑を見つけたビルに向かうことにした。

 道中、十個近いビルを通り過ぎて辿り着いた件のビルの外見はまるで他のビルをそのままコピーしたかのように他の同じ箇所が見受けられた。それはここ以外のビルにも言えることだが、この付近に建てられているビルはその損傷具合から何まで同一のものが複数存在していた。何より、その形のパターンはそれほど多くないらしい。俺がここに来るまでの間に通ってきただけでもここと似た形のビルは少なくとも三つは見つけられた。


「こっち、こっちです!」


 ヒカルが待っていたのは石碑がある部屋の前ではなく、石碑があるビルの前。

 既にセッカがヒカルの隣に並んでいるのを見るとどうやらここに着くのが一番最後になったのは俺たちだったらしい。

 いち早く近付くリリィはヒカルの前に辿りつくや否や訊ねていた。


「ここなの?」

「そうだよ」

「よく見つけられたな」

「えへへ。こういうの実は得意なんです」

「……ただ運が良いだけ」

「セッカちゃん、ひどいよ」

「……ん、冗談」

「もうっ」


 じゃれあい、仲睦まじく話す二人を放っておいては何事も一向に先に進まない。この場所にある自分たちに対応した石碑は目と鼻の先だという事実に俺の気持ちは自然と焦りだしていた。


「早く案内してくれ。ここの中にあるんだろう?」


 俺たち三人のうち輝石に効果を付与したのはセッカただ一人。

 だからこそこの場所にある石碑が秘めた効果が俺かヒカルに合っていることを願っているのだ。


「いいですよ。こっちです」


 付いて来て下さいと言って、俺とセッカの前を行くヒカルは迷う気配すら無く一つの部屋を目指して歩き出した。

 真っ直ぐ進み、右に曲がり、階段を上り、更に右に曲がる。そのまま進み、ようやく突き当たりの部屋ドアの前で止まった。


「この部屋、か」

「はいっ。ドアの鍵は――」

「……壊れてる」

「なら、入るとするか」


 コンクリートの壁に備え付けられた木製のドアを開け中に入ると、そこに最早は見慣れてしまった石碑が変わらぬ様子で鎮座している。

 確かめるように右腕の輝石を石碑に近づけると、井戸の中にあった石碑の時と同じ反応が右腕の輝石に見受けられた。


「ここの石碑の効果は≪火属性≫か」

「……使えそう?」

「どうだろうな。名前だけじゃどういうものなのか分からないからな。試してみないと」


 そう言って俺は自分の輝石の一つにここの石碑の効果を付与することを決めた。

 火属性というその名の通りに俺の輝石は仄かに赤く染め上げられる。


「それで、これをどう使うかだけど」


 輝石に付与した効果を使用するにはどうするのか、それが問題だ。

 これまで俺が目にしてきた効果は全て常時発動するものばかり。使う、つまりは自分の意志で発動させたりするものの類では無かった。

 ならばどこかに使用方法などが記されているかもしれない、と探してみると案外それは簡単に見つかった。輝石に関することとして簡略化されたQ&Aに記されていたのだ。

 それによるとプレイヤーの意志で発動させる類いの効果は魔法やアーツなどと同様に意志と音声による発動スイッチがあるらしい。

 ものは試しに、と俺は輝石の一つに宿った《火属性》を発動させるキーワードを呟いた。


「《炎よ》」


 すると輝石の腕輪が付けられている方の手の中に小さな炎が灯った。オレンジ色の炎は熱過ぎるということもなく暖かく、俺の手の中でゆらゆらと揺らめいている。

 しかし、これは……攻撃にも防御にも使えそうもない。

 モンスターに投げつける投擲武器のように使おうとしても明らかにこれは威力不足。俺の剣銃が撃ち出す弾丸よりも格段に威力が低いだろうと容易く想像することができた。

 他の使い道は、と考えてみると真っ先に浮かんできたのは生産に使うことだった。ほんの僅かではあるがこの炎を出現させる時に俺のMPが減少した。これなら魔法で出した火でなければ加工することのできなかった素材の加工に使えるかもしれない。


「けど、火力不足、かな」


 どうにも弱々しい印象が拭い去れない。


「……ダメそう?」

「いや、工夫次第だろうから、俺はこれでいくことにするよ」

「……そう? なら、よかった」

「んー、私はこれじゃない方がいいかもですね。火属性なんて使い道が思い付きませんし」

「……ヒカルちゃんはそうかも」

「ヒカルはそうだろうな」


 俺とセッカの意見が重なった。


「なっ! なんかバカにされた気分」

「そんなことないぞ」

「……そんなことないよ」

「やっぱりバカに――」


 ワナワナと震えるヒカルは無視することにして、


「ここにはもう用が無いな」

「……そうだね」

「無視したっ!」

「残るはヒカルの輝石の分だけど、どうする?」


 先程輝石の使い方を調べるためにコンソール開いた時に気付いたのだが、俺たちが再ログインしてから今に至るまで、自分たちでは気付かぬ間にそれなりの時間が経過していたらしい。

 それだけ宝探しに夢中になっていたということだ。

 ここからギルドホームに戻るのに掛かる時間を考えると、新たに別の石碑を探しに行くのには若干時間が足りないのかもしれない。


「そろそろ夕方を通り越して夜になりそうだけど?」

「え? そうなんですか?」

「……あ、ほんとだ」

「なら今日はこのくらいですかねー」


 ビルの合間を抜けながら歩く俺たちにヒカルが告げた。

 どうやら夕食を食べたあとにも続きをするつもりはないということらしい。それに対して何も言わないのはセッカも同じつもりだということだろうか。

 他愛もない会話をしながら俺たちは自分のギルドホームへと戻っていった。

 平穏な道中を抜け、ギルドホームに戻ってくると程なくしてヒカルとセッカがログアウトした。

 この日、二度目の別れを経て一人になった俺はもう少しだけとログアウトしないでギルドホームの工房に篭ることにした。

 目的は輝石の《火属性》の使い方の検証。

 発動させる方法が分かった所で実際にどの程度使えるものなのかは検証しなければわからない。


「まずは持続時間かな」


 手の中に炎を灯し、コンソールの時計を見ながらそれが消えるまでの時間を計る。

 十分が経過してもなお、微かに揺らめく炎は不思議なことにいつまで経っても消える気配すら無い。これが魔法の炎の特徴なのだろうか、結局は俺が炎を消すために握り潰すまで灯り続けた。


「とりあえずはこれに使えるかどうかだな」


 俺が所持している素材の中でも比較的低い温度で加工することのできるインゴットを選び出し、俺は再び手の中に灯した炎を炉の中へと投げ入れた。

 炉の中の加燃剤に燃え移り、轟々と炎が大きくなる。

 インゴットを炉の中に入れると俺の想像通り、変形できるくらいまで軟らかくなった。

 加熱されたインゴットを炉から取り出し、試しに金槌で叩いてみたが問題無く薄い金属板へと変えることが出来た。


「いい感じだな」


 満足気に呟くといつの間にか居なくなっていたリリィが戻ってきた。


「出来たの?」

「見てたのか?」

「ううん。でも、そうなんでしょ?」

「まあな」


 リリィが当然というように訊ね、俺もまたそれに当然だと答える。


「それで何を作るの?」


 俺の手にある金属板を見てリリィが問い掛けてきた。


「何、作ろうか?」


 正直何も考えていなかった。

 《火属性》が生み出す炎が本当に使えるのかどうかを確かめるためだけにしたことだ。これから何かを成そうとは微塵も思っていなかったのだ。


「リリィは欲しいものあるか?」

「わたし?」

「ああ。これを作れるようになったのもリリィのおかげだからさ。お礼みたいなもんだと思ってくれればいいさ」


 アクセサリでも、装備品でも、日用品でも、作れるものならば何でも構わないというように訊ねてみた。


「だったらさ。わたしもそれが欲しい」


 と、リリィが指差してきたのは俺の右手にある輝石の腕輪。


「みんな同じの付けてるんだもん。わたしだけ仲間はずれは嫌だよ」

「全く同じってわけじゃないんだけどな。まあ、別にいいだろ。どんな形が良いんだ?」


 プレイヤーではないリリィには輝石はない。だから全く同じものを作ることは無理だとしても、せめて似た形の物を作ってあげたい。目の前にいるリリィは俺にそう思わせる目をしていた。

 俺の問い掛けにリリィはもう一度俺の右手にある腕輪を指差した。


「それと同じがいいな」

「ってことは腕輪、か。分かった。俺が作っている間にリリィは石を選んでおけよ」

「石?」

「輝石ってわけにはいかないけどさ、折角これに似せたものを作るんだ。リリィの腕輪にも四つの石を付けようじゃないか」

「いいの?」

「勿論。遠慮はいらないぞ」

「うん。わかった」


 満面の笑みでリリィが宝石の類が保管されている木箱に飛んでいく。

 蓋を開け、中身を物色し始めるリリィを横目に、俺は金属板を腕輪へと変えるためにもう一度炎の中へといれた。

 自分の腕輪を作った時と同じ工程を繰り返しながらも、その大きさは妖精であるリリィに合わせて小さく作る。磨き上げ光沢を宿した腕輪の形が出来たがった頃にリリィが持ってきた四つの宝石を腕輪に合うようにカットしていく。

 リリィが持ってきた四つの宝石が持つ四色はどことなく優しい色のように見える。

 それぞれの石を一つのプレートに取り付け、そのプレートを腕輪に取り付けるというこれまた自分の腕輪を作った時と同じことをして、微調整を加える。


「こんな感じでどうだ?」


 出来上がった腕輪を手に乗せ、リリィに見せる。


「うわぁ」


 感嘆の声と共に見せる笑顔に釣られ、俺も微笑いながら、


「満足か?」


 と、問い掛けていた。


「うん。満足!」

「良かった。ってか、付けてあげようか?」


 嬉しそうに腕輪を受け取ったリリィがすぐにでもそれを付けようとして難航しているのを目の当たりにして思わず言ってしまっていた。

 無言で右手を差し出してきたリリィに、俺は自分の手に返ってきた腕輪をそっと付けてあげた。

 形もサイズもデザインもばっちり。

 キラキラと輝く宝石はいつか俺の腕輪の輝石の全てに効果が備わり光が宿った暁にはあのようになるのだろうと想像することが出来た。

 思い出したように俺は自分が作ったリリィ専用の腕輪の詳細を確かめるためにコンソールを確認した。

 表示されている名前は『秘石の腕輪』性能の面でも特別なことは何も無く、プレイヤーに向けたものでもないからかパラメータを上昇させる基本性能すら存在しない。

 また、秘石と呼ばれるほど珍しい石を使った憶えは無いのだがその名称はいったいどういうことなのだろうと首を傾げていると、リリィは「ありがとう」と言って窓の外に飛び出していってしまった。その飛んでいった先を目で追うと精霊樹に停まるクロスケに秘石の腕輪を見せびらかしているようだった。

 妖精とフクロウの戯れを見守りながら、俺は静かにログアウトボタンを押して現実世界へと戻っていった。



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