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未知への旅路 ♯.2

 ギルドホームから出て町に戻るには自分自身で移動しなければならない。

 町から離れたエリアをギルドホームを建てる場所に選んだ弊害なのだろうが、俺たちにはクロスケがいる。クロスケに≪解放≫を使い元の姿のダーク・オウルに戻すことで俺たちはその背に乗り移動することができる。これにより移動時間はかなり短縮される分、他のプレイヤーよりは楽ではあった。

 まあ、不便なことには変わりないが。

 町の入り口から町の中心部へと進んでいくと、噴水のオブジェがある広場に人だかりができていた。


「何かやっているんでしょうか?」


 人だかりを傍から見てヒカルが呟いた。


「……さあ」


 セッカが背伸びをして人だかりの奥を見ようとしているみたいだが、想像以上に人の数が多かったようで遠くから見ただけでは何を目的に集まっているのか分からなかったようだ。


「……行ってみる?」


 残念そうに眼を伏せながらもセッカが俺たちに問い掛ける。


「そうだね。良いですか?」

「ん? 別にいいけど、あの人込みを掻き分けて行くのか」

「……いや、なの?」

「そうじゃないさ」


 集まっているプレイヤーを見る限り統一性など皆無。ということはなにかのギルドの集会というわけでもなさそうだ、というのが俺の抱いた感想だった。

 噂では聞いただけなのだが、最近悪質なギルドの勧誘が頻発しているらしい。既にギルドに属している俺たちには関係ないように思えるけど、実際にその現場に鉢合わせすると、勧誘しているプレイヤーを見過ごしたりしてもしなくても後味の悪いことになってしまうだろうという予感がするのだ。

 別の理由で集まっていてくれと願いながら人込みの中を進んでいくと、そこにはおおよそ町の雰囲気とは合っていない建造物が出来ていた。


「なんですか、あれ?」

「……小さな、石碑?」


 一見すると墓石のようにも見えるそれは太陽の光を反射して黒曜石独特の輝きを放っている。

 プレイヤーには読み取れない文字が刻まれているようで、その文字の羅列が何を意味しているのか、それを知ることは出来そうもない。

 しかし、あの石碑が何の意味を持って存在しているのかは直ぐに理解出来た。

 右腕に付けられている輝石の腕輪が、正確にはその輝石が仄かに発光しているからだ。


「どうやらここにいる人の目的はだいたい同じみたいだな」


 輝石の光は石碑に近づけば近づくほど強くなるらしく、腕を石碑に近づけたり離したりする度に輝石の光の強弱が変わって面白い。


「目的……ですか?」

「俺たちと一緒ってことさ」


 ここに来ているプレイヤー、特に石碑に近付いているプレイヤーは皆が話し合わせたように輝石が収められたプレートを握っている。その中には俺たちのように輝石のプレートを別の形にしているプレイヤーはまだ少ないが居ないわけでもないようだ。


「ここで輝石に効果を付与できるらしいわよ」


 俺たちがそれぞれ自分の輝石を見つめていると、後ろから声を掛けられた。

 振り返ってみるとそこには馴染みの顔があった。


「リタさん!?」

「どうしてここに?」

「皆と一緒って言いたいトコだけど、私の輝石はまだできてないのよね。だからこれは下見って感じかな」

「下見……ですか」

「そ。皆の輝石はユウ君が加工したのよね?」

「ああ。さっきな」

「ちょっとだけでいいんだけどさ、見せてくれないかな」

「良いですよ」


 ヒカルが自分のベルトポーチごと輝石のチャームを、セッカが首から外した輝石のペンダントをそれぞれリタに手渡した。

 俺も右腕から輝石の腕輪を外し手渡そうとするが、その前に、


「あ、ユウ君のはいいよ」と、断れてしまった。

「は?」

「だって、これ以上持てないもの」

「そう、みたいだな」


 左右にそれぞれチャームとペンダントを持った手を上げ、肩を竦ませるリタに俺は苦笑してしまっていた。


「で、出来はどうだ?」

「流石ユウ君だね」

「ありがとう。リタは持ってないってことは加工を誰かに頼んでいるのか?」

「まあね。マオにお願いしてるのよ。私はこんな感じのバッジにしてもらうつもり」


 リタが指で描く丸は輝石のプレートを一回りほど小さくしたくらいの大きさをしている。これならば服だろうが鞄だろうが、帽子だろうが好きな所に付けられるのだろう。


「バッジならそんなに時間掛からないんじゃないんですか?」

「かもしれないんだけど、今は忙しいんだと思うの」

「……忙しいってどうして?」

「輝石のプレートの形を加工できるって分かると皆思い思いの形に加工したいってなったのよ。それで輝石の加工をするならアクセサリを作れる人にってなってね」

「なるほど。だからマオが忙しい、か」


 俺もアクセサリを作り店を開いていたら同じ目にあっていたのだろう。そして、輝石に効果を付与するのが後回しになっていたはずだ。

 生産職としては願ったり叶ったりの状況なのかもしれないが、自分ではそれがもどかしく思えるのだから、やはり俺は店を経営したりするのには向いていないらしい。


「リタが下見に来たってことは、この大陸にある輝石に効果を付与できる場所ってのはここだけなのか?」

「違うわよ」


 誰もが来ることのできる町の中にあるだけなのかと思い訊ねてみたが、殊の外簡単に否定されてしまった。


「今のところ確認されているのは三ヶ所ね。一つ目がここで二つ目が王都のお城の中、それで三ヶ所目が確か岩山エリアにある小高い丘の頂上だったらしいわ。付与できる効果もそれぞれ別で、ここはATK上昇、お城の中がアイテムドロップ率上昇、岩山エリアが回復効果上昇みたい」

「その三ヶ所全部に石碑があったってことか」

「見比べたわけじゃないから確かなことは言えないけど、刻まれていた文字は一緒でも文章は違うみたい」

「まだ他にもあるんだろうな」

「多分ね」


 共通して石碑が置かれているのだとすれば、石碑を目印にして探し歩いてみるのもいいかもしれない。


「リタはどれを取るか決めているのか?」

「んー、正直どれもいまいちなのよね。もっと別の石碑が見つかればいいのだけど」

「確かに、な」


 輝石の効果は普通のスキルの四分の一程度しかないと分かっているからか、何を付与すればいいのか確信が持てないでいるのも事実。

 四分の一でも確実に効果が出ていると解かるものがあればいいのだが。


「ユウ君達はどうするの? ここで効果を付与するの? それとも――」

「俺は別の石碑を探してみようと思うけど、二人はどうする?」

「私もそうしたいです。リタさんが言ってた効果はあまり私に合ってないように思いますし」

「……同じく」

「ってことらしいぞ」


 俺たち三人の意見は奇しくも同じ。結局はその効果が自分に合うかどうかは実際に使ってみるしかないのだ。だからとしても直感で合わない思ったものに関しては検証しなくてもいいだろう。これも結局は自分の寄り好みってやつなのだから。


「だったらさ、良い感じの石碑が見つかったら私にも教えてくれない?」

「ああ。なにかいい感じのものがあったら知らせるよ」


 俺が快く頷くとリタは二人から渡されていたチャームとネックレスを返し、


「それじゃあ、そろそろ戻るね」

「あ、あの、これ、ありがとうございました」


 来た道を帰ろうとするリタに突然ヒカルがチャームを付け直したベルトポーチを抱え告げた。


「うんうん、すっごく似合ってるよ」


 満面の笑みでそう応え、リタは人込みの中へ混ざっていってしまった。

 残された俺たちも誰からというわけでもなく歩き出し、ゆっくりと来た道を戻り人込みから抜け出した。


「これからどこを探してみます?」


 人込みから離れるとヒカルが俺に訊ねてきた。


「どこをって聞かれてもな、心当たりなんてあるわけないし」

「……その前に、もう一つの用事を済ませよう」

「もう一つの用事って、なんだっけ」

「ギルドホーム専用の転送ポータルのことか」

「……そう。私とヒカルだけの時は移動が面倒だから」


 クロスケを使って移動できるとはいってもそれは俺が一緒にいる時に限った事。俺がいない二人だけの時は当たり前だが移動は自分の足で行わなければならない。

 激しく同意を示すように首を縦に振るヒカルを見て、俺はそのことを忘れていたことにようやく気付いた。


「えっと、確かギルド会館で購入出来るんだよね?」

「……メッセージにはそう書いてあった」

「なら、行ってみるか」


 俺たちはギルド会館を目指して歩き出した。

 ギルドホーム用の転送ポータルは便利なのだとは思うが、即座に購入をしようと言い切ることが出来なかったのには理由があった。ギルドを新設し、生産設備を新しく買い直した俺は今、俺史上最大の金欠に陥っていた。

 昔使っていた設備をそのまま移して来ても良かったと思ったのは既に一式の購入を決めた後。より上質なアイテムや装備を作るにはどうしても性能の高い設備が必要だった。これまでと似たり寄ったりのアイテムを作っていたのでは進歩が無い、と思ってしまったのだから仕方ない。必要な先行投資なのだと思うことにしても自分の所持金が一度に無くなってしまったのには如何ともし難い喪失感を与えられたものだ。

 暫らくは持ってる素材を使って節約と貯金に勤めようとした矢先に出てきたギルドポータルの話。乗り気になりきれないのは仕方ない。

 一人静かに言い訳じみたことを考えている間にギルド会館についてしまった。

 開きっぱなしのドアをくぐりギルド会館のメインホールに行くと、そこには俺たちのようにギルドポータルの購入を考えるプレイヤーの姿がちらほら見受けられた。


「ご用件はなんでしょうか?」


 受付に座るNPCが訊ねてくる。


「ギルドポータルについて聞きたいんだけど」

「え? 買わないんですか?」


 既に買うつもりになっていたのか、ヒカルが意外そうな顔をした。


「……もしかして、お金、ない?」


 さらにはセッカがズバリ核心を射抜いてきた。

 言葉を詰まらせる俺にセッカはニマっとした笑顔を向けてくるのと同時に呆れたような顔をした。


「……やっぱり」


 小さく呟くセッカは知っているのだろう。俺がギルドホームの設備、特に自分が使う工房の設備を買うのに自分の持つ資金だけで賄ったことを。

 通常ギルドの運営には所属しているメンバーから資金を募って行うものだ。例外といえばそのギルドが何らかの催し物を開催し、得た利益を運勢資金にあてる場合くらいだろう。『黒い梟』のような小規模ギルドは自分たちが持ちあった資金だけでギルドの運営したり、足りない設備を買い揃えるのだ。

 それを知っているからヒカルもセッカもギルドの金庫に自分たちが持っている所持金の半分近く入れていた。俺も同様にそうしようとも思ったが、自分一人だけが使う工房の設備を買うのに二人から集められた資金を使うのは気が引けた。だから自分の所持金の三割ほどを金庫に入れ、残った所持金で工房の設備を買い揃えた。

 だからギルドの運営資金というものに関しては殆ど手付かずで残っている。そう言う意味では金欠になったりはしていないのだ。


「……使っていいって言ったのに」

「そう、なんだけどなあ」


 やはりどこか抵抗がある。そう感じてしまうのだ。


「ま、このギルドポータルの購入にはそのお金を使わせてもらうから安心してくれよ」

「当然です」


 下から何か圧力が感じると目を向けるとそこには頬を膨らませて不機嫌そうにしているヒカルが立っていた。


「まさか、ギルドホームの設備を自腹で買っていたなんて」

「あ、いや、自腹を切ったのは工房の設備だけで、他の部屋のソファとかは集めた資金から出させて貰っているぞ」

「それも当たり前です。というか、工房の設備だってその資金から出してくれて良かったんですよ!」

「でもさ、実際それを使うのは俺一人なわけだし――」

「私たちの武器の修理やこれだって作ってくれたのはユウでしょう!」


 ベルトポーチに付けられた輝石のチャームを突き出す。


「使っているという意味なら私たちだって一緒です」

「わかった。わかったからそう怒るなって。どっちにしてもポータルを買うにはそのお金を使うしかないんだからな」


 ヒカルを宥めながら俺はカウンターに着いているNPCの方へ向き直る。

 俺たちが話し終えるのを待っていたNPCが変わらぬ調子で再び訊ねてきた。


「もう一度ご用件を窺えますか?」

「あー、と、ギルドポータルの購入はどうすればいい?」

「それでしたらこちらになります」


 NPCが見せてきたのは一つのコンソール画面。

 そこにはギルドポータルの説明と共に販売価格が記されていた。


「に、二千万っ――!!」


 見たこともないような金額に驚くヒカルの声が大きくギルド会館に木霊した。




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