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拡張するセカイ ♯.18

 不安定な足元にも関わらずヒカルはそれまでと殆ど変らずに動けている。クロスケの背に乗るセッカとカルヲは攻撃こそやり難そうだが、その反面被弾することもないようだ。俺も銃撃を行っている限り問題無くガーディアン・スフィンクスにダメージを与えることは出来ていた。

 戦場が変化するためなのか、ガーディアン・スフィンクス自体の強さはこれまで通り。俺たちが与えられるダメージもガーディアン・スフィンクスの攻撃方法も同じ何も変わららない。

 そう、同じだからこその問題が一つ残っている。ガーディアン・スフィンクスが放つ炎のブレス。

 限られた足場で思うように動けない今となっては回避することはそれまでの比では無いくらい難しくなっている。防御するためにセッカが使っていたアーツも足場がしっかりしていなければ発動しないらしく、一度ブレスから全員を守ろうと発動させても真下が白く光っただけで、障壁は発生しなかった。それでも、クロスケは俺はヒカルよりこの部屋の中を動け回れる。ギリギリで回避を成功させていたが、俺とヒカルはそのブレスをまともに受けることになった。

 瞬く間に減って行く自身のHPに冷や汗が流れたが、全体の三分の二程度で減少が止まり、すぐに持っているポーションを使用することで全快状態へと戻ることが出来た。

 ブレスは炎という形をとっているがやけどを引き起こすわけではなく、純粋に火属性のダメージを与えるというものらしい。

 俺とヒカルはガーディアン・スフィンクスの口からブレスが放たれる前に出来るだけダメージを与えようと必死になって攻撃を仕掛けた。

 ヒカルはガーディアン・スフィンクスの突進の後に出来る僅かな隙でも逃さずに、俺は銃撃を休むことなく繰り出しつづけた。カルヲはクロスケと共に攻撃と回避を繰り返し、セッカはその後ろで時折り来るブレスに俺たちが耐えられるように常に一定のHPが残る様に回復に努めてくれた。

 なんとか想像通りに戦闘を進めることが出来ていると感じる俺の目の前でガーディアン・スフィンクスの三本目のHPバーが砕け散った。


「これで……」


 絶叫を上げ、蜘蛛の巣のような地面の中心部へと落下するガーディアン・スフィンクスの翼が石へと変わる。

 まるで戦闘が終了したかのような静けさに包まれる部屋に俺たちの息遣いだけが微かに聞こえてくる。

 安心するのはまだ早いと頭では理解しているものの、この平穏は思わず気を緩めてしまいそうになる。そんな自分を鼓舞するように俺は今一度剣銃のグリップを握り締めた。

 手の平を伝い返ってくる硬い感触に俺の意識はそれこそ細い蜘蛛の糸に繋がれているかのように戦場の残り続けた。


「……来る」


 セッカが小さく呟いた。

 俺たち四人の目の前で石化していたガーディアン・スフィンクスの翼がメラメラと燃えだし始めたのだ。最後のHPバーに突入したことによる最後の変化。それがこの炎の翼なのだろう。顔を覆いたくなるような熱の奔流が巻き起こり、俺たちを襲う。

 戦闘が再開したと思ったのかクロスケは再び飛び上がった。だが真昼の砂漠や火山の火口付近を彷彿させる熱気はクロスケの飛行を妨げるらしく、ふらふらと揺らめきながらすぐに近くの地面へと着地してしまった。


「戻れ、クロスケ」


 飛べない以上クロスケにこの戦闘は無理だ。浮かぶ魔法陣に吸い込まれるように消えたクロスケを見送り俺は三人の方へと振り返った。


「やることはさっきまでと同じだ。いいな?」

「はい」

「……うん」

「分かっています」

「良し。なら――行くぞ!」


 完全に体勢を立て直したガーディアン・スフィンクスが炎の翼をはためかせ飛び上がった。

 上空に行かれたのでは皆の攻撃は届かない。それは今までと同じ、しかし、違うことが一つ現れた。突如炎の竜巻がガーディアン・スフィンクスを覆い隠し、俺の撃ち出した銃弾が本体に命中する前に蒸発してしまったのだ。

 これでは滞空しているガーディアン・スフィンクスに攻撃することはほぼ不可能となってしまったのと変わらない。何より銃弾を防いだのが炎の翼が発する熱なのだとすれば、近付くことすら困難。ましてそこから攻撃を仕掛けることなど、至難の業だとしか思えない。


「……熱い」

「わかってる」

「これでは近付きようがありませんよ」

「だから、わかってるって」


 解かっていてもどうにもならないこともあるのだと言ってしまいたくなった。けれど俺は知ったはずだ、諦めるのでは何も出来ないと。

 諦めないのであれば方法を探し続けることとなる。

 先ずは知る必要がある。近付けないほどの高熱は攻撃なのかどうか。

 上空で俺たちを見下ろしているガーディアン・スフィンクスが滑空し突撃してきた後がこちらの攻撃のチャンスとなるのはどうやら変わらないみたいだ。

 効くかどうか分からない攻撃を仲間に指示する気にはなれない、だとすれば自分で試してみるしか方法は無いのだろう。かといって闇雲に突っ込んでいくのはあまりにも無謀。やはり何か一つでも突破口のようなものが欲しい。


(それも自分で見つけるしかない、か)


 どれだけ近付くとダメージを負うのか、確かめる方法は単純、近付いて行きさえすればいい。剣形態の剣銃は撃ち出した銃弾とは違い蒸発することはない、はず。

 とにかく、HPが危険域に突入する前に距離を取ることを念頭に攻撃を仕掛けることに集中すべきだ。

 剣銃をガーディアン・スフィンクスに向けて振るう。


「――熱ッ、痛ッ」


 ガーディアン・スフィンクスに近付いて行けばいくほど蒸し返すような熱気が襲ってきた。

 みるみるうちに減少するHPは想像通りといえば想像通りなのだがこの速度は全くの予想外だった。思ったよりも速く退かなければならなくなりそうなのも気になるが、それよりも攻撃によるダメージの受け方とは違うHPの減り方の方が気になる。

 この感じは攻撃によるダメージというよりもダンジョンやエリアで受ける環境によるダメージに近い。

 攻撃出来る時間は大まかに言って十五秒。俺の総HPを鑑みてこの時間なのだとすればより軽装なヒカルはもう少し短く、より重装備のカルヲならもう少し長く、この戦闘で後方支援に主軸を置くセッカはその中間といったところか。

 常に回復し続けなければならないのだとするとその限られた時間内で最大限の攻撃を行うのが必須条件となる。


「……限界……だっ」


 ガーディアン・スフィンクスから離れるために回れ右をして駆け出した。

 俺がこの一度の攻撃で与えることのできたダメージは少ない、が無いわけではない。これを積み重ねれば倒すことが出来るということと熱気によるダメージの中でも戦えることの証明となった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 ポーションを使いHPを回復させながら俺は呼吸を整えた。

 冷たい空気が美味いと感じたのは初めてだ。


「大丈夫ですか?」

「――ふぅ。大丈夫。これなら戦える」

「それは本当ですかっ」

「ああ。ダメージは負うけど気を付けていれば問題無いと思う」

「気を付ける、ですか。解かりました」


 そう意気込むカルヲを見て俺は一つ気になることができた。NPCであるカルヲが自身のHPを確認しながらダメージコントロールするという行為は可能なのだろうか。

 俺たちプレイヤーは常に視界の左上に自身のHPバーとその下にパーティメンバーのHPバーが表示されている。俺たちはそれを見ながらの戦闘が当たり前になっていることもあって常に受ける環境ダメージにもある程度のコントロールが効くが、カルヲにまでそれを強いるのは些か強引なのかもしれない。


「なあ、カルヲはどうやって気を付けるつもりなんだ?」

「はい? それは、自分の体なのですからなんとなくでもわかる気がするのですが」

「なんとなく……か」


 俺たちが自分のHPバーを見て戦闘をコントロールするように、NPCであるカルヲも自分の体の具合を感覚で計っているということのようだ。現実にスポーツをする時は体力の残量を示すバーのようなものは当然ある訳もなく、また怪我や病気も病院に行って調べるか明らかな故障が表層に現れない限り気付けない。だから自分の感覚で計るというのは俺たちプレイヤーなんかよりも自然な行為のように思えた。

 けど、回復が間に合わない所までダメージを負うことになるかもしれないのだから、その感覚にだけ任せるのは些か無責任と言える。

 パーティのリーダーを務めている俺はカルヲも無事に戦闘の終了にまで導く責任があるのだ。何より俺たちプレイヤーの目には同じパーティと認定されているNPCのカルヲのHPバーも同様に表示されているのだから。


「セッカは回復を中心に、特にカルヲに気を配ってくれ」

「……任せて」

「カルヲも無茶はするなよ」

「解かりました」


 自分だけ特別扱いを受けているような気になったのかカルヲは若干不満そうな表情をしているが、戦闘中ということもあって追及してくることはなかった。


「それじゃあ、行くぞ。ヒカル」

「はいっ」


 HPの回復を終えた俺はヒカルと共に地面に立つガーディアン・スフィンクスへと向かって行った。

 飛び上がる前に出来るだけ多くのダメージを与えておきたい。そんな俺の気持ちを表現するようにHPが危険域に突入する前に攻撃の限りを尽くす。

 ガーディアン・スフィンクスが飛び立つ予備動作を見せたその瞬間、俺たちは一斉に距離を取り、直ちにポーションを使いHPを回復させた。


「ブレス、来ます」


 ガーディアン・スフィンクスの様子を観察していたヒカルが告げた。

 体を反らし炎を吐き出すまでの溜め時間は最初の頃より短い。炎の翼が出現していることの影響がこんなところにも現れていたとは。

 幸いにもHPの回復は間に合っていた。が、ブレスを受けたことで再び回復を強いられてしまう。

 即座にポーションを取り出し使用すると続け様に放たれようとしているガーディアン・スフィンクスの突進に構えた。

 次の瞬間、地響きが轟く。

 揺れる地面に耐えつつ俺たちは再び攻撃を仕掛けた。


「無理はするなよ。攻撃の機会はまだあるんだからな」


 わかっています、と三人はそれぞれに自分の最も攻撃がしやすい距離へと戻っていった。

 飛び上がってからのブレス攻撃、その次は突進攻撃、そして着地した場所での爪で斬り裂く攻撃。

 一連の動作が一つのルーチンとなっているのはこれまでの戦闘から理解していた。飛行の時間に限りがあり、ブレスを放つまでに溜めモーションとは別のチャージ時間が必要なのだとすればこの一連のルーチンがブレス攻撃を起点に作られているということになるのだろう。

 そうなれば俺たちが攻撃を仕掛けられる時間は想像よりも長い。熱によるダメージを回復させる必要が出てくるまではこれまで通りの攻撃を仕掛けることが出来るというわけだ。

 四方に分かれた俺たちはそれぞれ思い思いに攻撃をくりだしていく。

 一定の速度で減少を続ける俺たちのHPを横目で確認しながら武器を振るう。

 俺が自分に定めたボーダーラインは残りのHPが四割を切るまで。そのラインがHPを短時間で全回復させられる境界線だった。

 四人の攻撃はガーディアン・スフィンクスのHPをガリガリと削っていく。

 一割、二割、三割と段階を経て減少するHPバーに確かな手応えを感じながらガーディアン・スフィンクスの見せる僅かな挙動の変化に注視していた。減っているHPではガーディアン・スフィンクスのブレスを受け切れない可能性が高い。負けない為にはブレスが放たれる前に回復を終えるか、ブレス攻撃を使われる前に倒しきるしかない。

 そんなことを考えながらも残HPが五割を切ったその瞬間、ガーディアン・スフィンクスが身を反らし、大きく息を吸い込むモーションを起こした。


「下がれっ」


 ガーディアン・スフィンクスに接近しているヒカルとカルヲに向けて叫ぶ。

 熱ダメージによって減らされているHPを回復させるまでの時間とブレスが放たれるまでの時間はほぼ同等、炎の翼が出現してからというものブレスの溜め時間の方が若干短くなっている気がする。

 これでは確実にブレスを受け切れるという保証はない。

 だからといって俺がどうにか出来るわけでもなく、ただ耐えてくれ、と願う以外には何も出来ない。


「……ラージ・ヒール!」


 回復には何の役にも立てないという無力感を歯痒く感じる俺の耳に、エコーの掛かったセッカの声が聞こえてきた。

 暖かい光が四人を包む。

 その光がポーションで回復した時よりも速く減少していたHPを回復させた。


「……ちょっと、回復するの」

「わかった。この後の突進には注意しろよ」

「……ん、了解」


 セッカが使用した《ラージ・ヒール》というアーツは使用者の周囲、あるいは組んでいるパーティ全員に同時回復を行うというもの。その二つの使い分けはレイド戦などの複数のパーティが入り乱れる戦闘では使用者の周囲に、今回のように単一のパーティではパーティ全体に効果が発揮させるように使用する。

 回復量も、その効果範囲も申し分ないこのアーツをこれまでセッカが使用しなかった理由は単純、MPの消費が他のアーツよりも大きいということ。

 単体回復系のスキルやアーツは基本的に一定のMPしか消費しない。しかし《ラージ・ヒール》は回復させる対象の数によって消費するMPは肥大していく。それが今回この土壇場まで使用して来なかった理由だろう。《ラージ・ヒール》一回の使用で最大MPの殆どを消費して、その都度回復させていたのでは効率が悪いということだ。

 今回使用したのは回復が間に合わないと判断したからで、その判断は正しかった。

 あれがなければヒカルとカルヲのどちらか、あるいはその両方が戦闘不能にまで追い込まれていたかもしれないのだ。


「いけるか?」


 ポーションの瓶を加えたまま俺はヒカルとカルヲの元へと近づき問い掛けた。


「はい、助かりました」

「セッカちゃんのおかげで大丈夫ですよ」

「なら、もう一度行くぞ。おそらくこれが最後になるはずだからな」


 これまで俺たちが与えてきたダメージの量を考えると次の攻撃が最後になるのだろうと予想できた。

 滑空からの突進を回避した俺たちは気を引き締め攻撃を再開した。

 爪を避け、牙を潜り抜けて剣を振るう。

 度重なる連撃でガーディアン・スフィンクスのHPを削っていく。


「行きます。《パラライズ・エッジ》!」


 ヒカルが黄色の光を放つ短剣でガーディアン・スフィンクスの足を切り裂く。

 振り抜かれた短剣が付けた傷跡は消えることなく深々と残っている。

 先程見せた《ディゾルブ・エッジ》のように今回使用した《パラライズ・エッジ》も何かしらの状態異常を付与させる効果があるのだろう。名前からすれば麻痺の類だろうか。


「効果出ました。後は任せます」

「わかりました」


 引き攣れるように体を伸ばしたまま静止するガーディアン・スフィンクスの様子は明らかにこれまでとは違う。

 誰の目にも明らかなほどの隙を露わにするガーディアン・スフィンクスにカルヲが斬り掛かった。


「剣技・銀十字!」


 その発した言葉の通りに銀色の直剣で十字を切る。

 剥き出しになったガーディアン・スフィンクスの腹部に十字の傷が刻まれた。

 驚くべきはその威力だ。

 残っているHPの半分を一撃で削り取ってしまった。


「――っ。とどめを――お願いします」


 呼吸を荒く床に剣を突き立て膝をつくカルヲに促され、俺は蜘蛛の巣を駆け出した。

 ギラッとガーディアン・スフィンクスの瞳が鈍く光る。

 反撃が来る。そう思ったが足を止めるつもりはない。


「《インパクト・スラッシュ》!!」


 赤く光る剣銃を振るう。

 一撃が当たる毎にガーディアン・スフィンクスのHPがガクッと減少するが、それだけではまだHPが残る。

 一撃で足りないのならば二撃。二撃で足りないのならば三撃。

 俺のMPが尽きるまで何度も何度も途切れることなく剣銃を振り続けた。


「あ、やば」


 あと一歩が届かない。

 もう殆ど見えないくらいしか残っていないのにガーディアン・スフィンクスは未だ健在。炎の翼を大きく羽ばたかせ飛び上がろうとしている。

 また上空からブレスが放たれる。そんな恐怖が脳裏を過ぎるなか、一つの流星が空へと放たれた。

 パンっという風船が破裂するような音がしたかと思うと、上空で一際大きな炎の竜巻が巻き起こった。

 最後の一撃を放ったのは誰なのかと流星の来た方を見ると、セッカが野球選手顔負けのフォームで十字メイスを投げた後だった。

 炎の竜巻の中から十字メイスが落ちてくる。

 無事蜘蛛の巣型に残った地面に落下したそれを拾い上げて渡すとセッカはそれを恥ずかしそうに受け取った。


「……ありがとう」

「なんてゆーか、思いきった行動をしたもんだな」

「……そう?」

「当たらなかったらどうするつもりだったんだ?」

「……大丈夫。コントロールは抜群」

「あ、そう」


 驚き戸惑う俺の視線の先で炎の竜巻が勢いを増していく。

 天井を焼き、壁を焼き、大気を焼く。

 炎が消える兆候すら見せずに燃え続けるそれを俺は呆然と見つめ続けた。


「これ、どうなるんですか?」

「どうって、どうなるんだ?」

「私に訊かれても」

「……なんか、危なさそう」


 常に勢いを増す炎が遂に俺たちにまで襲いかかってくる。

 蜘蛛の巣状の地面を這い伝って来る炎が部屋の全てを呑みこんでいく。

 赤とオレンジで彩られた炎に包まれた部屋が白一色に変わった。

 眩しさに目を覆った次の瞬間、足下が崩れるような感覚と空間が歪むような感覚が襲ってきた。


「……元に、戻った?」

「みたいだな」


 頭に残る船酔いしたみたいな感覚に顔を顰めながらも冷静に状況を見定めた。


「っていうか、ここはどこなんですか?」


 見た限り壁も天井も床も何もかもが白一色で塗り尽くされ境目すら見えないこの部屋はどこまで続いているのかすら解からない。

 広いのか狭いのか、高いのか低いのか、狭いと感じていた俺の工房の一室のように思えるし、どこかの巨大な講堂のようにも思える。

 不思議な感覚が伝わってくる部屋の中心部に巨大な石板のようなものが降り立った。


『試練を乗り越えた者よ』


 石板から声が聞こえてくる。


『貴方達の絆の名を記すが良い』


 地面からせり上がってくるものは普段俺たちが出現させて使うコンソールを石の彫刻で作り上げたものにとてもよく似ている。

 他のギルドを作ったプレイヤーたちも同じようにこの石の彫刻で作られたコンソールにギルドの名前を打ち込んだのだろうか。


「ん? ギルド名……か」

「……どうしたの?」

「どうしたんです?」

「や、その、なんかいい案ある?」

「もしかして、何も考えていなかったんですか」

「あ、はは」


 そこから十数分、俺たちは自分達のギルドの名前を考えることになった。

 三人の名前の頭文字を合わせたものや、さも意味がありそうな英文を並べただけの名前。それに各自好きな言葉など、いくつもの候補の中から俺たちが選び出したのは、


『黒い梟』


 俺の工房の一角に置かれた止まり木にいるマスコット然とした仲間を表した名称で、意外なことにそれを決めたのは勝手に飛び出してきたリリィだった。どういった思いがあるのか解からないが、俺たちが出しあった名称の中からそれを選び、必死に俺たちを説得するリリィに根負けして決めたのだが、こうしてみると案外悪くないような気がしてくるから不思議だ。

 代表して俺がその名をコンソールに打ち込むと、鳥の翼のような紋章と一緒にその名前が石板に刻まれた。

 そして、時同じくして俺のパラメータ画面に同様の紋章が刻まれる。

 念願のギルド設立が叶った瞬間だ。



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