拡張するセカイ ♯.16
王都にあるリスボーン地点も通例通り教会となっている。
どこからともなく聞こえてくる荘厳な音楽を聞きながら、俺は呆然と規則正しく並べられた長椅子の一つに座り、太陽の光によって七色に照らされたステンドグラスを見上げていた。
「ねえ! 来たみたいだよ-」
教会の入り口から一直線に飛んでくるリリィが両手を大きく振りながら知らせてきた。
リリィが様子を見てくると飛び出してから僅か数分のこと。俺は喚び出したクロスケを片腕に乗せ、その背中を撫でながら羽毛の感触を楽しんでいた。
ベルグとの戦闘に負け、教会送りとなった俺のステータスにはデスペナルティというものが架せられた。HPとMPその他あらゆるパラメータの一時的な減少。それらの有効時間は視界にあるHPバーの上にデカデカと表示されている時計が示している。その時計が示す時間はこの一秒ごとに減って行き、いつかはゼロになる。そのゼロになった時が本当の意味での俺の復帰の瞬間だった。
「聞いてるのー?」
俺の返事を待たずに頭の上を飛び回るリリィが言った。
分かった、と言おうとして視線を頭の上のリリィに移すと、その後ろの方にある常に開けられた教会の入り口から見知った顔が四つ現れた。
心配そうな顔をして近付いてくるヒカルとセッカに反してベルグは「どうだ? すっきりしただろ」と言いたげな表情だった。
ヒカルやセッカのように心配しろとまでは言わないが、俺を教会送りにした張本人であるベルグがさも良いことをしたという顔をしているのは少し気に入らない。
なにより、ベルグが視線だけで告げたその言葉は少しばかりだが当たっているのだ。ベルグとの戦闘が切っ掛けになったのかどうか定かではないが、戦闘をする前より今は気が晴れているのだ。だから当たっているだけに腹立たしい。というか、悔しい。
そんな思いを気付かれまいと平静を装い告げる。
「遅かったな」
並んで置かれている教会の椅子に座る俺の所まで来た三人の後ろでカルヲが物珍しそうに教会の中を見渡していた。
「遅かったな、じゃないですよ。心配したんですからね。ベルグにも言ったんですけど、あんな無茶これっきりにしてくださいね」
「別段無茶じゃなかっただろ。なあ?」
俺の知らない間にどんなやり取りがなされたのか解からないが、ベルグがヒカルの怒りを買ったのは確かなようだ。それで言い合いにでもなったのかもしれない。だけど、この様子を見る限り勝ったのはヒカルの方なのだろう。
俺に助け船を求めるように問い掛けてくるが、この際だ、少しばかり意地悪してやろうという気分になってきた。
まるで聞こえていないという顔をしながらベルグの声を無視して「……大丈夫?」と聞いてくるセッカの方を向いた。
「大丈夫だ。それに、デスペナもあと十分くらいで解けるはずから先にやることやっておこうと思う」
「……やること?」
「ああ。俺たちがこの騒動に首を突っ込むきっかけにもなったことでもあり、俺が躓いた最初の地点でもあることだ」
未だ重く感じる体で立ち上がり、告げる。
「ギルドを作ろう」
今度こそ、と胸の中で付け加える。
教会で皆を待っている間、俺はずっと考えていた。気持ちを新たにしたところで直面している問題は解決していない。ならば一つづつでも解決するには、本当に少しでも前進する為にはどうするべきか。
そして思い至ったのは全てをやり直すということだった。
それはセーブデータをリセットして最初からやり直すということなんかじゃない。失敗した所からもう一度正解を目指すということ。
ここは現実でもあるがゲームだ。全く同じ場所に戻ることの出来ない、オートセーブがされているようなものであっても、同じことをもう一度試すこと自体が出来ないわけではない。
気付いてしまえば単純な事だった。ミスをしたことがあるのなら次からはそのミスをしないように気を付ければいいだけ。やり直すチャンスがあるというのならもう一度チャレンジしてみればいいだけなのだ。
ベルグの言葉を借りるなら俺は負けることを嫌がって怖がっていた。だから負けた後にももう一度挑めるという単純なことを忘れていた。負けがゲームオーバーとイコールじゃないのだと、本当の終わりは自分が諦めた時なのだと、癪ながらベルグとの戦闘で気付かされたのだ。
「ってなわけで、少し寄り道するけどいいか?」
晴れ晴れとした顔をしているであろう俺を見てヒカルとセッカはなんだか嬉しそうな顔をしている。そして、
「勿論ですよ」
「……ギルドを作ろうって言いだしたのは私たちの方」
はにかみながらそう答えてくれた。
残るは俺が立ち上げようとしているギルドには直接関係の無い二人だが、どういうわけかベルグはなんだか納得したような顔で腕を組み、
「お前がしたいことなら俺が口を出すことじゃないさ」
と言ってきた。
そうなると残る問題はカルヲだけなのだが、そのカルヲ自身がギルドというものをどのように解釈しているのか分かり様がない。
一度聞いてみる必要があるとは思っていたことだ。これはいい機会なのかもしれない。
「カルヲ、俺の話を聞いてくれるか?」
「ギルドというのは私たちで言うところの騎士団のようなものなのでしょう」
「え?」
「ベルグさんから聞きました。それに、もしユウさんがギルドを作りたいと言い出した時は何よりもそれを優先させてやって欲しいと」
「何?」
慌てて振り返る。するとベルグが恥ずかしそうに顔を背けた。
全く。俺はベルグの予想通りに動いているってことか。
呆れでものも言えないとはこのことだろう。何から何までベルグの想像していた通りに事が進み、未だ俺がその手の平の中だとしても、今だけは敢えてそれに乗せられておこうと思ってしまったのだから。
「ですから、ユウさんのしたいようにして下さって大丈夫です。私たちの依頼はその後にしっかりと取り組んで下さるのですよね?」
「ああ。約束する」
「ならば、私には文句などありません。出来るだけ早くその用事を済ませてしまいましょう」
「あ、ああ」
正直、拍子抜けな思いだった。
皆を待っている間ずっとどのように説得するのかということばかり考えていたというのに、これではただの一人相撲ではないか。
戸惑う俺にヒカルが言った。
「先ずはギルド会館に行きましょう」
「そうだな」
教会を出て王都の中を進んでいくと見覚えのある建物が見えてきた。そこは今日も多くのプレイヤーで賑わっている。
これで二度目となるギルド会館に俺たちは並んで足を踏み入れた。
ギルド会館の中にいるプレイヤーは俺が最初に来た頃とは少し違っているように見えた。あの時はギルドを立ち上げようとしている人ばかりで溢れていたが、今ではそうではない目的でここにいる人も大勢見受けられた。
今はギルド会館を訪れている人は三通りに分けられるのだろう。既にギルドを作った人とこれからギルドを作る人、そして、設立したギルドに新たな人員を求め勧誘する人。
見た所一番多いのは勧誘する人のようだ。今は街頭のティッシュ配りのようになもので強引な勧誘は出てきていないがこのまま飽和状態になればいつかは強引な勧誘というものが出てくるのではないか。そうなればいつかは何かしらの規制がなされるのだろう。
ぼんやりとそんなことを考えながら俺は受付へと歩を進ませた。ギルドメンバーの勧誘など今の俺には関係のないこと。俺はこれから自分のギルドを立ち上げようとしているのだから。
人と人の隙間を抜けるように進んでいると不意に俺を呼び止める声がした。
「……ユウくん」
声のする方へ振り返ってみるとそこには俺たちと一緒に騎士団と戦ったメンバーの一人、リタが立っていた。
いつも明るく、俺に生産の切っ掛けを与えてくれたその人が今は目を伏せ、俯き、どことなく弱々しく見える。それはまるで俺の知るリタではなくなってしまったかのようだ。
「どうしてここに?」
「ユウくんを待ってたんだよ」
「待ってたって俺をか? いつ来るかも分からないのに?」
「まあ、ね」
「何で?」
「その……一度謝りたくて」
真摯な表情で俺の、俺たちの前に立つリタは深く頭を下げた。
「ごめんなさい」
突然頭を下げるその意味が分からず呆然とする俺の横で慌てふためくヒカルが両手をパタパタと振り回している。
「え? あ、あの、頭を上げてください」
「ダメだよ、ヒカルちゃん。皆に赦してもらうまでは」
「……許すって……何を?」
「私も一緒に騎士団と戦ったのにその人の依頼を断ったりして。だからユウくん達の方に話が来たんだよね? それが原因でユウくん達がギルドを作るのを遅らせちゃったんだよね? なのに――」
言葉を詰まらせるリタに掛ける言葉を俺は見つけらていない。何故なら俺は今のいままでそのようなことを考えてもすらいなかったから。
ギルドを立ち上げようとここに来るまでに時間が掛かったのは単純に俺の問題。ヒカルとセッカはそれに何も言わず付き合ってくれていたたけに過ぎないのだ。
決してリタのせいなどではない。それはヒカルも解かっているようでフォローしようと必死に言葉をかけている。
「許します。許しますから、頭を上げてください。お願いですからー」
「……でも……まだユウくんが」
「ユウ!」
「……ユウ」
「あ、ああ。ってか、別に怒ってもないし、許すもなにもないと思うけど」
「ユウ!!」
「わかった。わかった。許すよ。これでいいか?」
迫りくるヒカルの迫力に負けて俺は許すと言ってしまっていた。
なんだろう? やっぱりヒカルの雰囲気、変わった?
「ありがとう」
「というか、リタは何を謝りたかったんだ?」
訳が分からないというように大袈裟に首を傾げてみせた。
謝った理由をたったいまリタが口に出したのは解かるが、実の所それは完全な的外れだとしか言いようがない。だからこそリタが謝る意味が分からない。そんな風に思う俺の疑問に答えるように一人一線を引いていたベルグが言い放った。
「言ってたじゃないかカルヲの依頼を断ったことにだって。それにユウに連絡も入れずに自分達のギルドを作ったことに対する引け目もあるんじゃないか?」
「その通りよ」
「や、それこそ気にしなくてもいいんじゃないか? カルヲの依頼を受ける受けないも、ギルドの設立だって自分がどうしたいかの方が大事だろ。俺の意見なんてこの際関係なくないか?」
「関係なくなんてないよ。パイルと私が、ううん、私は自分の利益を優先して商会ギルドの立ち上げを優先したんだもの。そのせいでユウくんのギルド設立の邪魔をしたんだから」
「邪魔って、何かしたのか?」
「何か、って私が依頼を断ったからユウくん達の元に話が来てそれで今までギルドを作れなかったんじゃないの?」
「あー、それは違うぞ。ギルドを作らなかったのは、確かにカルヲの依頼を受けて色々してたからだけど、元々俺たちにもこの依頼を持ち掛けるつもりだったんだよ。そうだよな?」
「はい。私共はあの時戦闘に加わったすべての人、つまりは貴方がた五人に話をする様に命じられていました」
「それに今だってその依頼の途中だけどさ、こうしてギルドを設立しようとここにきているんだよ」
クエストの途中で別のことを進めるというのはリタにとってはあまりしないことなのだろう。だから俺がここに来たのはそのクエストが終わったから、終わるまでは他のことが出来なかったそう考えてしまっているのかもしれない。けれど実際はこの依頼はクエストでもなんでもない。今は良い呼び方は思い浮かばないが、これがMMORPGではない普通のRPGで言えばストーリーにのみたいなもののように俺には思える。
「ギルドを作らなかった理由は、そうだな――」
「こいつのスランプだったんだ」
「なっ!?」
言うにこと欠いてスランプと言うか。
平然と言ってのけるベルグを睨むとまるで暖簾に腕押しというように涼しい顔で受け流している。
「だから気にしなくていいんだよ。経緯はどうであれ俺はこうしてギルドを作るためにここに来たんだから。それに、案外回り道も悪くないって思ったところだったしな」
誤魔化すように取り繕った言葉を並べる俺がいった回り道が何なのか、それはここにいるリタ以外の人は皆、カルヲまでもが気付いていることだろう。だからそのような言い回しをする俺を見てにやにやとした含み笑いを殺しているのだから。
「ねえ、ユウくんはスランプだったの?」
遂に堪え切れなくなったのか、カルヲを除く三人が吹きだした。
「え、な、何? 何なの?」
驚いて三人の顔を見るリタを見て、更に三人が腹を抱えて笑いだした。
「そのことにはもう触れるな」
「う、うん」
納得したようには見えないが、これ以上は触れて欲しくないという俺の気持ちを察してくれたようでリタは頷いてくれた。
ヒカルとセッカはリタが察したことを察し、笑うことを辞めたがベルグだけは空気を読まず今も笑い続けている。
俺は空気を変えるためにも話の矛先を自分から逸らすことにした。
「そういえば、リタの作ったっていう商会ギルドはどうなったんだ? 上手くいきそうなのか?」
「それは大丈夫。パイルが張り切っているし、参加してくれる生産職のプレイヤーもだんだん増えてきているんだから」
俺が聞いたままで商会ギルドが作られているのだとすれば、それは案外面白そうなものになっているのかもしれない。
いつかは自分もそのギルドの活動ってヤツを覗いてみたい。今ではそう思えるようにもなっていた。
「それに、名前もちゃんとあるんだよ」
「名前? ああ、確かにいつまでの商業ギルドなんてんじゃ変だもんな」
「……それじゃギルドの名前じゃなくて種類」
「だな」
「だったら教えてくださいよ。リタさん達のギルドの名前」
「いいよ。私たちのギルドはね『フレンド・アベニュー』って言うのよ」
「いい名前ですね」
「でしょー。これでも必死に考えたんだから」
「リタが決めたのか?」
「そうだよー。パイルなんてそのまま商会ギルドでいいだろっていうんだもん」
「えー、そんなの可愛くないですよ」
「だよね。何度言っても解かり易さ重視だって聞かないもんだから勝手に登録しちゃった」
「しちゃった、って、いいのか、それで」
「いいんじゃない?」
あっけらかんと言ってのけるリタはようやくいつもの調子に戻ってきたみたいだった。
「そろそろ受付が空いたんじゃないか?」
リタと話している間に受け付け付近にいた人が減ってきたらしく、一人二人受付にいるNPCの顔がここからでも見通すことができた。
「んじゃ、俺たちは行くわ」
「うん。頑張ってね」
「おう」
心につっかえていた物を取り払うことの出来たリタは晴れやかな顔で俺たちを送りだしてくれた。
リタに別れを告げ俺たちは受付へと進む。
すると大して待つこともなく俺たちの順番がやってきた。
「ご用件は何ですか?」
受付のNPCが事務的な応対をしてきた。
「ギルドを作りたいんだ」
「ギルド設立ですね。少々お待ち下さい」
一度受付の奥へと引っ込んでいったNPCに代わり見覚えのある顔のNPCが書類が挟まったファイル片手にこちらに近づいてくる、
「お待ちしておりました。ユウ様、ヒカル様、セッカ様でよろしいですね?」
俺たち三人の名前を呼ぶその人は騎士団襲撃の際、一人果敢にも騎士団に応対してみせたNPCだった。
「諸々の手続きは済ませてあります。これらの中からギルドクエストを受注してください」
「ギルドクエスト?」
「はい。これをクリアすれば十分な実力があると認められギルドが正式に設立となります」
リタの言っていた頑張ってねはこういうことか、とようやく意味が分かった。
NPCが見せてきたラインナップには三種類のクエストが載っていた。一定数のアイテムを集めてくるもの。同じ種類のモンスターを一定数倒してくるというもの。そして、指定したボスモンスターを倒すもの。そのどれもがそれなりの難度を誇っているようで、確かにこれらをクリアすれば実力があると認められるのは納得だ。
「どれにする?」
「そうですね」
「……アイテム収集は時間が掛かるから論外」
「だな」
「でしたらモンスターの複数討伐クエも時間が掛かりますよね」
「残るはボスモンスター討伐か」
一番難しそうなやつが残ったものだ。
確かに他の二種に比べると時間はかからないだろうが、その分難度は跳ね上がる。
「これにしましょう」
「……これにしよう」
異口同音。ヒカルとセッカが同じクエストを指差した。
「いいのか?」
「大丈夫です」
「……私たちなら問題ない」
二人の口から力強い返事が返ってきた。
ここまで自信あり気に言われれば、俺が無理そうだなんて言ってはいられない。
「このクエストにします」
ボスモンスター討伐クエストを指しながら受付のNPCに告げた。
「了解しました。参加メンバーはユウ様、ヒカル様、セッカ様だけで宜しかったでしょうか? ギルドクエストに参加しなければ創設メンバーには含まれませんが」
「構わない。俺はお前等のギルドに入る気は無いからな」
心底興味がないというように淡々とした口調でベルグがNPCに答えたそれを俺たちの総意と取ったのかNPCは手続きを進めようと持っているペンで机に置かれている書類に何かを書きこもうとした。
「では。参加は三名で――」
「ちょっと待ってください」
「何でしょう? 騎士団団長、カルヲ様」
「私もそのクエストとやらに参加させてもらえないでしょうか?」
書類に書き込もうとするNPCの手を止めたカルヲが思いもがけないことを言い出した。
「どういうことですか?」
「彼らがギルドというものを設立出来なかった原因は私共にあるのは明白です。それに彼らには私共の依頼を受けてもらっているのです。そのせいで設立の邪魔になっていることも」
それはリタとの話で関係ない、ということになったのではないか、という俺の視線を受けて一度こちらを見たが、再び受付のNPCの方へ向き直り、話を続けた。
「ですから、私には彼らに力を貸す義務があるのです」
きっぱりと言い切るカルヲには何かしらの違和感を感じた。その違和感を探るような視線を送る俺にべるぐが近付き、小声で告げた。
「さっき自分で言ってただろ。早くその用事を済ませようって。大方早く自分の依頼の方に取りかかって欲しいんだろうさ」
思わず成る程と頷いてしまった。
俺が先にギルドを作ると決めた以上、下手に自分の方を優先させるように説得するよりも先に終わらせてしまえば変な軋轢を生む心配もなく、全身全霊をかけて挑んでくれると判断したのだろう。
やはり騎士団団長とでも言うべきか、その強かな姿勢は俺にも見習うべきものがある。
「わかりました」
漠然とカルヲとNPCのやり取りを見守っていたが、結局NPCの方が折れるという結果で収まりそうだ。
「では、ユウ様、ヒカル様、セッカ様、それにカルヲ様。こちらの扉から進んで下さい」
NPCが指し示したのは受付の奥に聳える仰々しい扉。
壁に直接彫られたレリーフか何かだと思い気にも留めなかったそこがゆっくりと口を開けた。
「行きましょう」
ベルグを一人ギルド会館のメインホールに残し、俺たちは扉の奥へ進んでいった。
扉の奥は階段になっていて、壁に掛けられた松明が風もないのに炎を揺らしている。
俺たち四人が階段に足をかけたその瞬間、受付へと繋がっていた扉は独りでに閉じてしまった。これで俺たちがここから出るにはクエストを遂げるしか方法は無くなったということ。
言葉を発することもなく俺たちは階段を折り続ける。
一段一段、足を踏み外してしまわないように気を配り、降りていくとようやく別の扉が見えてきた。
その扉にはノブのような物も取ってのようなものもない。どうやって開ければいいのかと扉の前で悩んでいると、この扉も中心から左右に分かれ入り口を作り出した。
入り口を通り抜けるとそこは広大な空間が広がっていた。
壁と天井には正体不明の光源。
それは俺がこれまで屋内でボスモンスターと戦ったことのある部屋にもあった仕掛けだった。
俺たちの後ろで扉が閉まる。
出口が失われたその時に、地面から巨大な石像が競り上がってきた。
獅子の身体に鳥の羽。人の顔を持つその巨像は歴史の教科書にも載っているスフィンクスそのもの。
スフィンクスの全身が現れた瞬間、ギルド会館の地下にある部屋に声が響いた。
『お前達が試練を受けし者か?』
土色の巨像はいつしか全身を血の通った生身のように変化させている。
大きく開かれた口からはまた別の台詞が発せられた。
『問う。お前達には資格があるか?』
スフィンクスの翼が大きく広げられた。
巻き起こる砂埃の奥で、スフィンクスが飛び上がるのが見える。
戦闘開始を告げる咆哮が、地面を大きく揺らした。