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計画失敗

遠くから、小さな足音が聞こえてくる。

それは段々大きくなり、私の部屋の前で止まった。

次いで、コン、コン、と、控え目なノックの音がする。

私はのろのろと顔を上げ、扉に視線を向けた。


「プ、プリム~~? お腹、空いてないか? お父さんな、ケーキを買って来たんだ。プリム、ケーキ、好きだろう? 出てきて一緒に食べないか?」


どこか戸惑ったようなお父さんの声が、扉の向こうから響いてくる。

……ケーキ、か。

それは……食べたいかも。

昨日から何も食べていないせいで、確かにお腹も空いてるし。

……うん、いつまでもこんなふうに閉じ籠ってても仕方ないし、あんまりお父さん困らせるのも嫌だし……そろそろ出ようかな。

私はゆっくりとベッドから起き上がり、扉へ向かって歩いて行く。

そして鍵をあけ、扉を開いた。


「プ、プリム……出てきてくれたか!!」

「……別に、ケーキにつられたわけじゃないからね。……閉じこもって、ごめんなさい」

「い、いや、いいんだ! あ、あのな、プリム? プリムには長所がいっぱいあるんだ! 剣や魔法ができなくても、気にする事なんてないんだからな? な、プリム?」

「……。……うん……」

「……あ……。さ、さぁ、ケーキ、食べようか! リビングに行こう! た、たくさん買って来たからな、好きなだけ食べていいぞ!」

「……うん」


私はぎこちない笑顔を浮かべるお父さんに連れられ、リビングへと向かった。


★  ☆  ★  ☆  ★


剣と魔法をお父さんに習い始めてから、早三年。

私は十歳になった。

いつまでたっても日常生活で使う分にはちょっと便利、という程度のものしか使えない魔法は才能がないのだと早々に見限り、私は剣の訓練に重点をおいてやってきた。

お父さんが出張でいない時も、ウッドさん一家のお手伝いの合間に素振りや型の練習を毎日頑張った。

そして先日、街の闘技場で一般市民参加OKの武道大会が開かれるという話をお祖父ちゃんから聞き、そろそろ腕試しをしようと、子供の部に参加を決めた。

何故かお父さんには焦ったように『女の子は滅多に参加しない』とか『怪我したら危ない』とか言って反対されたけど、なんとか説得した。

……でも、この時に、気づくべきだったんだ。

自分の腕前が、上達していない事に。

昨日、大会に出場した私は、一回戦、七歳の男の子と戦った。

戦況はとても厳しかったけど、それでもなんとか勝てた。

でも、次の二回戦。

九歳の男の子と当たって……瞬殺された。

男の子は、呆然とする私に向かって一言、『よっわ~』と、そう言った。

その言葉に目を見開き固まった私の背中を押して、審判の男性が試合場から出るようにと促す。

ふらふらと通路を進むと、やがてお父さんの姿が見えた。

心配そうな顔をして私を見つめるお父さんに、私は呆然と『お父さん……私、弱いの?』と尋ねた。

すると途端にお父さんは複雑そうに顔を歪めた。

……それだけで、わかってしまった。

そのあとのお父さんの慰めの言葉はてんで耳に入らず、私は家に帰るとすぐに、自分の部屋に引き籠って、枕に顔を埋め、泣いたのだった。


★  ☆  ★  ☆  ★


「あ~あ……剣も魔法も、ダメだったなんて……。お父さんの子なのに、私、さいのう受けつがなかったんだね……がっかり」

「い、いや、その、な? プ、プリムは女の子なんだから、剣や魔法の才能なんて別に、受け継がなくても、な? そ、その代わり、ほら、プリムの真面目で何でも一生懸命やる性格は、お父さん譲りだぞ!?」


ケーキを口に運びながら、私がそう呟いて溜め息を吐くと、お父さんは焦ったように声を上げた。

必死に私を励まそうとしてくれているのはわかるけど、どうしても気分が浮上しない。

でも、いつまでも心配させるのも悪いし……元気、出さなくちゃ。


「……うん、そうだね……。……でも、どうしよう。剣や魔法をおぼえて自分の身をまもろうってけいかく、ダメになっちゃった……」

「……あ……。だ、大丈夫だ! プリムの事は、お父さんが守るから! だから心配いらないぞ? なっ?」

「……出張多くて、あんまり側にいないのに?」

「うっ……!! ……そ、そうだよな……出張ばかりで一緒にいてやれない俺じゃ、頼りにはならないよな……」


私がぼそりと呟くと、お父さんは一瞬固まったあと、俯いて肩を落としてしまった。

あっ!

いけない、やっちゃった。


「ち、違うよ、そんなことないよ? お父さんはたよりになるよ! あ、あんまり側にはいないけど、お父さんは、私の……こ、心の支えになってるもん!」

「……俺が、心の支え? ほ、本当か、プリム?」

「うん、もちろん本当だよ!」

「そ……そうか! あ、けど、こうして一緒にいる時は、心だけじゃなく体もちゃんと守るからな! 安心するんだぞプリム!」

「うんっ!」


……ふぅ、なんとか気を取り直してくれたみたい、良かった。

いつも私をウッドさん一家に預けてばかりで一緒にいられない事、お父さんが気にしてるのはわかってたのに、禁句言っちゃうなんて、駄目だなぁ私。

落ち込んでたせいとはいえ、気をつけなきゃ。

けど……本当に、防衛手段、どうしよう?

幸いあれから一度も何も起こってないし、あの後一時期外出禁止だったフローラ様ともすっかり前のように過ごしてるけど、この先もそうとは限らないし。

何か、新しい方法、考えなくちゃ……。

誰か、いい方法、知らないかなぁ?

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